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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
169/190

Liberation Avenger/Gradation Surrender 1

 上等な紅いベロア調のソファに腰を掛ける男が居た。

 黒を基調にした一目で分かるほど上等なスーツ、白いカッターシャツをそこへ繋ぎ止めるような黒のネクタイ、そして金糸でフレアのエンブレムが刺繍された黒い眼帯。そしてそれを隠すように白髪交じりの黒髪を伸ばした男。ウィリアム・ロスチャイルドが端末に表示された、信頼出来る筋から購入した情報を眺めていた。


 オレフ・エフレーモフ。ウィリアムとそう歳の変わらない、旧リヴァプールのスラムを拠点としていた組合所属の傭兵。コロニーKzyl(クズル)の出身で企業との結びつきが強い一家の長男。

 以前より親交があったコチェトフ家のナターシャ・コチェトフと婚約するも、企業は優秀な参謀である彼女を手放す事を拒否。秘密裏に優秀な私兵でエフレーモフを囲い、傭兵を続けることで両家の格差が埋まるように誤解させた。

 そして企業に家族を人質に取られていたエフレーモフを葬るタイミングを探り続け、やがてターゲットもろとも全員が死亡した。

 当事者達を含め誰もが真相を知らないまま、復讐者(アヴェンジャー)によって悲劇の幕を引き摺り下ろされることとなったのだ。


「救われないな、本当に」


 彼女達の掲げるутешение(なぐさめ)の言葉は誰のためのものだったのだろうか。


 端末をローテーブルへと置き、そう呟いたウィリアムはソファに背を預ける。上等なソファのクッションは優しくウィリアムの身を受け止めるも、その身を沈ませるようなことはしない。


 コロニーLibertalia(リベルタリア)奪還戦から幾月かが経った。

 コロニーLibertaliaは信頼していた内部の人間、リベルタリア家の世話役の女――ナターシャ・コチェトフに裏切られたという傷跡を抱えながらも復興の道を歩み始めた。

 リベルタリア家が人々を裏切っていたという過去を隠して。


 傷ついた体を労わる余裕もなくウィリアムとローレライは荷物を纏め、コロニーOdeon(オデオン)のアロースミス家から派遣された労働者達に荷物を預け、旧リヴァプールを永遠に去ることとなった。


 多目的傭兵屋アヴェンジャーを廃業することを決めたのだ。

 ウィリアムは自分の体に限界を感じ、ローレライはそんな彼にただ頼るだけの惰弱な人々に愛想を尽かして。


 そして2人はローズマリーにかねてより提案されていた交渉屋アロースミスへの所属を決め、コロニーOdeonへと渡った。

 ウィリアムは引退を騙し騙し先延ばしにしていたライアンの後釜に、ローレライは元々席が空いていた交渉役(ネゴシエーター)として。

 ローズマリーは愛娘と義息が同じコロニーに移り住んだことを喜び、ローレライはウィリアムが傭兵業を廃業したことを喜んだが、その決断は喜ばしいことだけを生み出したわけではなかった。


 ウィリアムに組織を壊滅された人買いの組織や、野盗(バンディット)達が交渉屋アロースミスを襲撃するようになったのだ。


 異色の左目、ハンドキャノン、アンチマテリアルライフル、クワイエティズム・ヴァニッシャー。

 体に負担を強いる全ての武装の使用を禁じられたウィリアムは、新調したハンドガンとライフルでその全てを退けた。いとも容易く退けてしまった。

 異常性と言い換えられる戦闘能力は新たな諍いを招き、ウィリアムは引き金を引き続けて血生臭い勝利を手繰り寄せる。


 それでもアロースミスの女傑達はそんなウィリアムを受け入れ、その傍らに在り続けた。


 美しくも歪んだローレライの側面をまじまじと見せられ、自分の運命をウィリアムが改めて受け入れたその頃、、その運命を変えようとする少女達がアロースミス邸を訪れた。


「ウィル! 仕事おわったよー!」


 交渉屋アロースミスが保持する最大の戦力であるウィリアムの待機場所と決められた部屋の扉が乱暴に開かれ、茶色の髪をなびかせた小柄な少女が、その勢いを殺すことなくソファに座るウィリアムへと飛びつく。

 人間1人の慣性が生み出した衝撃と、さりげなく鳩尾に入った少女の華奢な肩にウィリアムは苦悶の表情を隠すように苦笑を浮かべた。


「お疲れ様、アリサ。ローラはどうしてる?」

「知らないけど、多分そろそろ――」

「廊下を走ってはいけないと何回言わせますの!? それになぜあなたは人の夫に抱きついてますの!?」

「そ、そうですよ……お嬢、様……」

「んー……勢い?」


 肩で息をしながらも声を張り上げるローレライ、息絶え絶えと言った様子のレギナ。亜里沙はそんな2人に何でもないように返す。

 あれから亜里沙は自らの願望を叶えることを考えた。

 ローラに向けられたあの方の傍らに居るに値しない存在、その言葉を覆させるためにアリサはウィリアムの傍らに居るに値する存在になることを決めた。

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