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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
165/190

Save Your Soul/Crave Your Whole 5

「最強の傭兵の傍らには最高の参謀を、それがわたくしのルールですの」

「最強と最高、か」


 敵わないわけだ、とフェルナンドは嘆息を漏らした。

 ロープで吊るされた絶命した質量、すっかり色の変わった義母の顔、垂れ流された糞尿による異臭。

 父の後を追った義母を誰にも感づかれないように葬った事は、ローレライにも誰にも想像出来ない修羅場だろう。


 だがフェルナンドが不意に視線を向けた参謀の少女は退屈そうにインカムを外し、プラチナブロンドの毛先をいじっている。その尊大な様が、ローレライを、より最高の参謀らしく演出するようだった。


「義母様は可哀想な方だったんです。最愛の夫と息子を亡くされて、傷心に浸る間もなく放浪を続けるも娘に何度も危ない橋を渡らせてしまった。そして義母様が運命を感じた父は向こう見ずな理想家。傷を舐め合うどころか、保障されていたはずの義母と義妹の安全も危うくなっていたんです。許される事ではありませんが、Libertaliaを、仮初めの安寧を得るにはこれ以外の方法はなかったようでしょう」


 最後まで責任を持って欲しかったが、とフェルナンドは言外に付け足す。

 不安に駆られて愚かな選択を提案したチーロ、妻と人々の安寧と多くの命を天秤に掛けたパトリック。


 その両方が等しく愚かで、哀れなほどに醜かった。


「わたくしの目的は真相を知り、後の憂いを断つ事。そんな事はどうでも良くてよ」

「どうでもいい、か。恵まれた君達には分からないだろうね。同胞達を守る為に同胞達を裏切る苦しみなんてさ」

「ええ、分かりませんわ。アリス様を利用する事でウィルを繋ぎとめようとした、あなたような卑怯なだけの愚か者の事など」


 自暴自棄なフェルナンドの言葉に、ローレライは興味を失ったどころか、どこまで呆れさせてくれるのかとばかりに嘆息交じりに吐き捨てる。


「ならどうしろと言うんだ!? 父が死んだ以上僕はここから離れられない、見ず知らずの子供に大役を任せるわけには行かない! 多くの人々を守るには最強の切り札が必要だった! なら他に方法なんてないじゃないか!」

「見くびらないで下さいまし。あの方は分別つけずに全てをお救いになりますわ。それこそ報酬を吊り上げて依頼を減らさなけれれば、傷を癒す暇もないほどに」


 嘲りの言葉に激昂したフェルナンドにローレライは厳しい眼光を突きつける。


 両親に押し付けられた罪を清算できないまま苦しんでいた事には同情できる。

 罪の呵責に苛まれながらも結果的にLibertaliaを存続させた腕は認めてやってもいい。

 だが傷つき苦しみながらも弱者のために引き金を引き続けたウィリアムを、卑怯なやり口で利用しようとしたフェルナンドを、ローレライは許してやる訳にはいかなかった。


 ウィリアムをローレライと出会わせ、ウィリアムを戦いへと誘い続けるアドルフとの約束。


 まるで呪いのように付き纏うソレは、約束した本人(アドルフ)の意思とは関係なく、ウィリアムを傷付けているのだから。


「だからこそもう一度だけ言わせていただきますわ。あなたは何てことのない、卑怯なだけの愚か者ですわ」


 話は終わりだと、ローレライはソファから立ち上がって窓の外へと視線をやる。

 戦火だけが浮かび上がる窓ガラス。そこに映し出された扉の向こうに感じていた気配が遠ざかって行くのを感じながら。

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