And For All Justice/End For All Injustice 6
野盗の車両の大半をウィリアムに撃破、もしくは運転手を殺されコロニーLibertaliaに鹵獲されるという憂き目に遭っており戦力差は既に僅差のものとなっている。
その醜い戦場に最後の彩を飾るべく、ローレライはフリルシャツの胸元に指を這わす。
生地越しに感じるのはアロースミスのエンブレムを象ったネックレス。
弱者をただ救い続けるという高貴なる者の義務の証であり、ただ1人の男のために全てを投げ打つと決めた覚悟の証。
「ご覧なさい。これがわたくしが手に入れた力、そしてそれを導き、描き出した答えですわ」
記憶が商品価値を失ったため、眼球が残された死体が転がるLibertaliaの街並みを見下ろしながら、ローレライはインカムに手を伸ばした。
暴力を躊躇ってはならない責任、弱者をただ救い続けるという高潔な精神。それらを捨て置いてなお美しく均整の取れた体は、復讐者の傍らに在り続けるという決意を強く表わしているようであった。
『狙撃部隊、狙撃ポイントに着きました』
かつて敗北した戦いの再現のような状況に、ローレライは美しくも酷薄な笑みを浮かべる。
あの時とは違いあらゆる利はこちらにあり、敗北の理由など1つもありはしない。
胸元に輝く黄金のフレアのネックレス、想い人から与えられた家宝に一瞥をくれてローレライは戦場を蹂躙せんとフェルナンドにオペラグラスを押し付けた。
「Ready――」
無感情に放たれた号令と共に、ローラは使い込まれた風合いのレザーグローブに包まれた右手を上げ、その気配を背後に感じながらフェルナンドは豪奢なオペラグラスを通して戦場を見やる。
「――Aim――」
複数のロケットランチャーとライフルが眼下に広がる野盗達に向けられ、それに気付いた一部の野盗達は恐慌の中、どこかへ逃れようと足掻くも装甲車と部隊による包囲は誰1人として逃がそうとはしない。
「――Fire」
いとも簡単に放たれた殺害を命じる宣告と共にローラの右手が振り下ろされ、いくつもの砲口が銃火を吐き出す。
放たれた銃火に目を焼かれそうになったフェルナンドは慌ててオペラグラスから目を離すも、凄惨な光景はフェルナンドの目を離そうとはしない。
炸裂するロケットは野盗達を肉片へと変え、平静を保つことが出来なかった生き残りは周りに位置する味方に構わず引き金を引き物言わぬ死体だけが増えていく。
正しく描かれた地獄のような光景にフェルナンドは眉をしかめるも、ソレを作り出したにも関わらず平然としているローレライの様子に嘆息する。
覚悟が違うということなのだろうか。
臨時とは言えコロニーの首脳であるフェルナンド、そして滅ぼされたコロニーの首脳の1人娘であったローレライ。
その両者の間には掻い潜って来た死線の数という圧倒的な差が存在しており、元はコロニーを滅ぼされた移民でしかないフェルナンドは劣等感を誤魔化すように灰色の髪をかき上げた。
「さて、指揮権をお返しいたしますわ」
「戦いはまだ終わっていませんよ?」
「終わったも同然ですわ。あれを」
訝しむようなフェルナンドの言葉に、ローレライはつまらない問答に付き合わされた不快感を隠そうともせず窓を指差す。
眼下に繰り広げられる殺戮の向こう、夜闇にその姿を埋めたコロニーLibertaliaの守りの1つである峡谷に青白い光を発した。
「粒子砲!? あそこには傭兵殿がいらっしゃるのでは!?」
「ええ、もう終わったようですわね。防衛部隊には引き続き野盗の殲滅を」
煌々と輝く粒子の青白い光に慌てふためくフェルナンドの手からオペラグラスを取り上げ、ローレライは金糸で縁取られたポケットにしまう。
粒子砲、リベルタリア邸の機動兵器級の装甲技術を生かした外壁でさえ燃やしてみせた、機動兵器や戦闘車両に搭載される破壊兵器。
それが自らの夫に向けられているであろう状況においても、淑女然とした態度を崩そうとしないローレライに困惑を隠すことが出来ない。
「奥方様は心配ではないのですか!?」
「リベルタリア卿はわたくしに何を心配しろと仰りますの?」
「傭兵殿のことです! あの人が峡谷で、あんな兵器を向けられているんですよ!?」
思わず語気を荒めてしまうフェルナンドに嘆息しながら、ローレライは自宅のソファよりもいくつかグレードの下がるソファに腰を掛けた。
「ウィルは必ず戻る、そうわたくしに仰いましたわ。心配をしていない訳ではありませんが、それ以上にわたくしはウィルを信じていますの」
戦いは終わったも同然だ、というローラの言葉を理解できぬまま、当然のように放たれたローラのウィリアムへの信頼を表わす言葉にフェルナンドは苛立たしげに頭を掻く。
コロニーLibertaliaは誰でも受け入れるという主義主張のおかげで宣戦布告、あるいは武力行使がされるまで攻撃も出来ず、略奪などの目的で他者への攻撃をすることもなく専守防衛のみに専念していた。そのため敵の姿が消えるという明らかな結果が見えない限り戦闘の終わりすら分からないほどに戦慣れしておらず、フェルナンドは発狂しそうな精神を深呼吸することで必死に押さえつける。
しかし次に告げられた一言によって、その努力は水泡に帰してしまった。
「では答え合わせといきましょう――内通者殿?」




