表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
159/190

And For All Justice/End For All Injustice 5

「16の時に初めて指揮を執り、そして敗走させられましたわ」


 不愉快だとばかりに返されたローレライの答えに、フェルナンドは思わず顔を顰めてしまう。

 世界中の誰もが勝てぬと諦めて服従していた企業を壊滅させたのは、見目麗しい16歳の少女。義妹同様に家族を企業に殺されたフェルナンドだからこそ、どうにも信じられなかったのだ。


 夫であるウィリアム・ロスチャイルドと比べ、ローレライ・ロスチャイルドの情報は多く世間に出回っている。

 だが情報が多いからこそ、誰もがローレライという存在に懐疑的な視線を向けていた。


 コロニーBIG-Cという裕福なコロニーの令嬢でありながら、血生臭い戦争の指揮を執っていた。

 実の母が立ち上げた交渉屋に勤めるでもなく、夫の傭兵家業を傍らで支え続けた。

 見た目の可憐さとは裏腹なその在り方は、ローレライを拒絶のベールで覆い隠していたのだ。


 そしてそのベールの隙間を垣間見る事になったフェルナンドだからこそ、その異様さに違和感を感じてしまう。


 最強の傭兵をその色香で誑かした拝金主義の売女。その噂とは程遠い、愛しい男のために汚名を背負っているようなローレライの献身さに。


「その昔あの方――ウィルがわたくしのコロニーの護衛を受けた際、ウィルはその強さを恐れた人々にコロニーを追われましたの。命を懸けて救った人々に、傷が癒えぬまま追い出されましたの」


 インスタントメッセージで街道の反対に回り込んだ部隊へ待機を命令しながら、ローレライはほとんどの人間達が知らないウィリアムの過去を語り始める。


 まだウィリアムに生まれ持った両目があった頃、まだ自分が幼く愚かだった頃。

 傷口から血が滲む体でウィリアムはBIG-Cを放逐され、そのままCrossingで殲滅者(アナイアレイター)、ミリセント・フリップと対峙した。

 類稀なる実力でウィリアムはその戦いで生き残り、類稀なる強さのせいで復讐者(アヴェンジャー)として見初められてしまった。


 ローレライにとって不幸中の幸いではあるが、ウィリアムにとってもそうだったのか、ローレライは確かめる事が出来なかった。


「わたしくは力を求めましたわ。どれだけ狡猾であっても望む答えへの道を導き出し、戦場を思うままに塗り潰し、ただウィルの傍らに居るための力を。無責任にあの方に縋るだけの人々の手を振り払い、ウィルを無自覚な殺意から守る力を」

「無自覚な殺意って」

「覚えがないとは言わせませんわよ。先のわたくしとの戦闘、先ほどの発言。その全てがウィルを危険に晒すもの。誰もが彼を便利な兵器として扱うしかないのなら、わたくしが彼を守ればいい。あの方はわたしくだけのものなのですから」


 心外だとばかりのフェルナンドの言葉を、ローレライは反論は許さないとばかりに切り捨てる。

 亜里沙とレギナを除いた全員が、排他的な感情を持ちながらもウィリアムの戦力に全ての期待を掛けていたのだから。


 だからこそローラは依頼を厳選し高額な報酬を要求して、人々のウィリアムのイメージを弱者のための英雄から拝金主義の傭兵へと変えたのだ。


『指揮官殿、全部隊が持ち場に着きました』


 端末越しに告げられたスタンバイに偽りはなく、端末に表示された部隊の位置は街道の両端を塞ぐように待機していた。

 囮となっていた装甲車と小隊は牽制をしつつ本隊と合流しており、懸念は誘い込み切れなかったコロニーの外に待機していた野盗の中隊のみであった。


「よろしくてよ。では後列部隊は誘い込みきれなかった敵部隊の牽制に向かい、挟撃する両部隊は装甲車を盾にしながら挟撃を開始。敵が高威力兵器を保持していますので、後詰の部隊はそちらの撃墜に全力を注いでくださいまし」

「外の部隊への戦力が少なすぎはしませんか?」

「そんなことはありませんわ。謀略者(フィクサー)が死亡した以上、あれは組織などという上等なものではなくただの烏合の衆。街道の中隊のいくつかが壊滅すれば、蜘蛛の子を散らすように消えていきますわ」


 口々に告げられる了解を聞きながら、ローレライはフェルナンドの問い掛けに視線もやらずに答える。

 大儀がないどころか自らの命が危ういと理解させてしまえば、半ば自棄となって襲撃を掛けてきた野盗達は我先にと逃げ出すだろう。そんな事も理解していないのかとローレライは嘆息し、ナポレオンジャケットのポケットからフレアの装飾が施された金色のオペラグラスを取り出して窓へと歩み寄る。


 砂埃で薄汚れた防弾ガラス1枚で隔てられた外の世界で当然のように行われている殺戮、燃やされ倒壊する家屋、そしてひび割れたアスファルトに転がる夥しい数の死体達。それらは正しくこの世界の在りようを顕わしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ