And For All Justice/End For All Injustice 3
「……これでよろしいので?」
「ええ。曳光弾と車両の提供、感謝いたしますわ」
リベルタリア邸の執務室にてフェルナンド・リベルタリアは、ソファに腰を掛けて細い指先で金髪の毛先を弄ぶローレライ・ロスチャイルドにそう問い掛けた。
утешениеが保持する最後の機動兵器をウィリアムが他所へ連れ出したとは言え、コロニーLibertaliaの防衛戦力は既に疲弊しており牽制程度しか出来ておらず、状況はいいものとは決して言えなかった。
「企業を壊滅させた参謀としてお聞かせ願いたいのですが、奥方様ならこの状況をどうされますか?」
「どうもこうもありませんわ。あのような布陣とも言えないただの行軍に、策を弄する必要がどこにありますの?」
「ですが、我々の防衛戦力は既に疲弊しています」
「野盗のパワードスーツは以前と違い欠損ばかりの代物であり、先の戦いで数の利は完全に覆えったはず。戦力の疲弊を気にするのであればならば、すぐに行動を始めるべきではなくて?」
企業が壊滅してから数年、元私兵達のパワードスーツは経年劣化や戦闘による消耗でほとんどが完全な形を保っているものは極少数となった。
今となっては多く流通していパワーアシスト機構をもったボディアーマー程度の代物。そんな過去の遺物に怯えているフェルナンド達に、ローレライは失望からため息をついてしまった。
「そうやってグズグズしてあの方が帰って来るのを待ってるおつもりですの? わたくしはそういうのが一番嫌いなんですのよ」
「ですが、傭兵殿はその為に――」
「だからこそ、あの方はたった1人で機動兵器の相手をされていましてよ。誰よりも過酷な状況で戦っているあの方が仕事をこなしていないと、リベルタリア卿そう仰るつもりですの?」
細く整った眉根を寄せ、青い相貌でフェルナンドの目を射抜くように見つめながらローラは反論を許さないとばかりにそう言う。
刀傷者との戦闘の際に、大きな街道で発動させたヴァイオレット・ヴァーヴァリアンの炸裂装甲でさえ被害を出している以上、防衛戦力が展開されているコロニーLibertaliaでアズライト・キャヴァリアを撃破する訳にはいかず、ウィリアムを峡谷へと遠ざけてしまう結果となった。
ローレライの知る限りでは現在コロニーLibertaliaを襲撃している野盗達が最後の戦力であるはずだが、アズライト・キャヴァリアのように秘匿されていた戦力が他にもあるかもしれない。
そんな過酷な戦いに単独で挑み、その上撃破後には援軍に来ると言ったウィリアムを疑い、そしてまだ酷使しようとしているフェルナンドの思惑を容認する事はローレライには出来なかった。
「もう結構ですわ。指揮系統をわたくしに譲渡なさい」
「何をバカなことを。つい数時間前まで敵であったあなたに部隊を任せるとでも?」
「ならばどうぞお好きに――面倒ですのでこの際はっきり言っておきますわ。わたくしはこのコロニーがどうなろうと、ましてやあなたやあの小娘がどうなろうとどうでもよくてよ」
突然発せられたローレライの言葉に、フェルナンドは背筋に氷柱を差し込まれたかのように下がっていく体温を感じる。
それほどまでにローレライの言葉は多目的傭兵屋アヴェンジャーの意義を覆し、なおかつ評判通りの排他的なものだった。
「この依頼が失敗してお母様や世間のあの方への評価が落ちるのならば、ようやくわたくしはあの方を戦いから遠ざけて2人で平穏に暮らしていけますの。願ったりですわ」
「傭兵殿がそれを望んでいるとでも?」
「ではあの方が戦い続けることを望んでいると仰るおつもりですの? 謀略者に騙されてあの方を雇った割には、随分と買ってくださっていますのね」
呆れ果てたと言わんばかりに言われたローレライの皮肉に、フェルナンドは歯噛みして俯いてしまう。
フェルナンド達、コロニーLibertaliaの人間達が後手に回り続けている間にも、傭兵とその妻が危険でありながらも効果的な手を打っていたのは事実なのだ。
「……この戦いにおける指揮権をローレライ・ロスチャイルド氏に譲渡いたします」
「すぐにお返しいたしますわ。データをこちらに転送した後に、全部隊への通信を開いていただけて?」
観念して大きな溜息をついたフェルナンドは端末を操作して、リアルタイムで部隊の所在が分かるマップデータと指揮官権限を持った通信のパスをローレライに転送しする。
ローレライはプラチナブロンドの髪を耳に掛け、ジャケットのポケットから取り出したインカムを耳に付ける。
インカムとの無線通信を接続した端末はパスを使って隊長達をコールし、ローレライは咳払いをして口を開いた。




