And For All Justice/End For All Injustice 2
「アリサ、これが兄代わりとして最後に出来る事だ」
あの頃から変わらず子供に甘い自らに苦笑を浮かべながら、ウィリアムは指示された峡谷を視認してバイカーズバッグから信号拳銃を取り出す。
蛇行運転も何もせず、ただ真っ直ぐに後を追ってくるアズライト・キャヴァリアへウィリアムはろくな狙いも付けず信号拳銃の引き金を引く。
藍色の装甲に届くよりも早く炸裂した照明弾は眩光でアズライト・キャヴァリアのマシンアイを焼き、ウィリアムは眩光を背中に受けながら峡谷へとバイクを滑り込ませる。
自らが通り過ぎた狭い峡谷を、アズライト・キャヴァリアが大口径のライフルで切り開いていくのを背後に感じながら、ウィリアムはシグナルによって着信を告げる端末を指で弾いた。
『ポイントへの到着を確認。5分後に曳光弾を射出、以降は場所とタイミングをランダムに射出させますわ』
「よろしく頼むよ。ところでキャタピラタイプの機動兵器との交戦経験は?」
『ありますわ、企業壊滅戦で同じくワンオフ機を』
「流石だ。その時はどうやった?」
『あの時は地雷原に誘い込んで、武器破壊による内部機関への誘爆によって撃破しましたわ。ですが武器を切り離す機構がヴァイオレット・ヴァーヴァリアンに付けられていましたので、その手はおそらく通用しませんわ』
「いつも通りやるしかないってわけか。了解、ありがとう」
『どうか、お気をつけて』
「ああ、さっさと終わらせてそっちの援軍に行くよ」
通信を終え、段々と広くなっていく峡谷を駆け抜けるウィリアムの頭上を何かが通過する。その気配に咄嗟にバイクにブレーキを掛けたウィリアムの進行方向に、大質量の弾丸が地面に着弾する音と衝撃が広がる。
「やっとやる気になったってのかい?」
追って来るだけで攻撃をしてこなかった騎士の名を持つ藍色の機動兵器に、ウィリアムは毒づきながらハンドキャノンの銃口を向ける。
予定通り射出された曳光弾に照らされた藍色の機動兵器は黄色のマシンアイウィリアムを捉え、胴体下部に付けられた外部スピーカーにノイズが走る。
『復讐者、貴様がいるという事はナターシャ様はお亡くなりになられたということですね』
「そういう事になるな。くだらない馴れ合いに巻き込まれるなんて、本当に最悪だよ」
粗悪な外部スピーカーから発される硬質な若い女の声、悲しみと怒りを滲ませながらヨルダノヴァとナターシャに呼ばれていた女にウィリアムは吐き捨てるようにしてそう返す。
弱者が弱者の仇を討つために、更なる弱者を利用する。
くだらないが真理であるソレにウィリアムは嘆息し、アズライト・キャヴァリアの外部スピーカーからは噛み締められた歯の軋む音の後に女の声で言葉が紡がれる。
『ナターシャ様、謀略者に代わって貴様を殺させていただきます。そしてあの方の意思を私が継いでみせる』
「やってみればいい。宣言通り、遊んでやるよ」
あまり時間は掛けられないけどな、そう付け足してウィリアムは緑色の瞳で敵対者の姿を捉えて頭痛と共に訪れた情報の中で、自らに向けられた宣戦布告を確かに聞いた。
『崩壊者、アズライト・キャヴァリア。あの方に代わって復讐を成就する』
敵対者が動くよりも早く、ウィリアムは引き金を引いて夜闇へとバイクを走らせて消えていった。




