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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
150/190

Lostchild/Wrathchild 1

 ウィリアム・ロスチャイルド。機動兵器殺し(ジャイアントキリング)を成し遂げた最強の傭兵にして、多くの野盗(バンディット)を生み出した悪意の根源。

 そして回答者(アンサラー)という世界の答えであり、人類種の天敵である何もかもが不明の黒髪の男。

 しかしその特殊なルーツとは裏腹に、ウィリアム・ロスチャイルドという人間は単純な構造で出来ている。


 吐き出す言葉の多くは皮肉だが、条件にあった人間達を無条件に守ろうとする性質。自らの常識の中での地道で確実なやり方を好む仕事振り。

 それらはウィリアム・ロスチャイルドの単純さを象徴し、招き入れ、降りかかる困難はその銃口が吐き出した戦火によって沈んでいた。


 単純だからこそ厳しく区別し、愚かだからこそ疑り深く観察し、嘘をつけないからこそ強くあり続けた。


 戦後処理と現場検証を終えたウィリアムは、あてがわれた客室のソファで静かに目を閉じていた。

 ライダースを羽織ったままの右手は肘掛に頬杖を付き、ハンドキャノンなどの携帯を許可された装備は全てテーブルに並べられている。

 パワーアシストとバイクを駆使し、誰1人死なせることのないように求められた戦いと掛けられた期待。そして何より炸裂装甲エクスプロッシブアーマーで荒らされた街道の現場検証は、ウィリアムの体に深い疲労を残していた。


 ほとんどが有色の人々で構成されるコロニーLibertalia(リベルタリア)防衛部隊は逃げるのは得意だが、団体戦を基本とした戦争を苦手としており、全ての負担をウィリアムが背負う事になったのだから無理もないだろう。

 それでもまだ休む事は出来ないようだ、とウィリアムは背後の気配にため息を堪える。

 少女達を守る事を望むのであれば、ようやく誘い出せた獲物を逃す事は出来ないのだから。


「遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ」


 後頭部に感じる硬質な合金の感触、自分という存在を正確に見くびっているだろう気配。

 まるで綴書者(テラー)のようなやり口に不愉快さを感じない訳ではないが、権謀術数に疎い自分にはこれ以上の策はなかったウィリアムは理解していた。

 後は最後まで演じきるまでだ 、とウィリアムはさりげなくジャケットの袖に隠していた端末に触れてゆっくりと目を開いた。


 ガス雲の向こうで輝く、輪郭すら怪しい満月。

 それを映し出すガラス窓に映し出されたのは1人の女。

 後ろで1つに纏められた灰髪、どこか強い意志を感じさせる灰色の双眸、カジュアルダウンしたスーツスタイルを纏うスレンダーな体躯。


 その女は、サーシャと呼ばれていた亜里沙の世話役だった。


「待ちわびたのはこちらよ。ずっと会いたかったわ、復讐者(アヴェンジャー)

「それには同意だよ、謀略者(フィクサー)――いや、ナターシャ・コチェトフ」

「気安く呼ばないでちょうだい、虫唾が走るわ」


 取り付く島もないナターシャの言葉に、ウィリアムはわざとらしく肩を竦める。


 ウィリアムを逃がさないためにローレライに宛てた参謀としての勧誘。

 ローレライが住人達を傷付けないと理解した上での、утешение(ウテシェニエ)の指揮権譲渡。

 リベルタリア家の信頼が厚く、誰よりも近くでウィリアムを監視できる存在。


 そんな人間など、考えれば1人しか居なかった。


「頭は回らないと聞いていたけど、実際はそれなりのようね。才能もセンスも感じないけれど、答えに辿り着けただけ大したものだわ」

「お褒めに預かり光栄だよ。あの子に何もするなと命令してくれたお礼と正解の見返りといっては何だけど、出来ればこのまま死んでくれ」


 却下という事なのか、背後から放たれた弾丸をウィリアムは咄嗟に首を傾ける事で回避する。

 その弾丸が元々当てるつもりもなかったとはいえ、ウィリアムの異常な危機察知能力にナターシャは舌を巻く。


 腹心の1人である刀傷者(セイバー)人鳳(ジンフォウ)(カク)が殺された事で油断はしていないつもりだった。

 ウィリアムの紛い物(ディスオルタナティヴ)の性能を正確に把握しているつもりだった。

 あらゆる手段を講じてこれ以上ないタイミングで接触をしたつもりだった。


 しかし実際は迎え撃たれたとあれば、これ以上のアドバンテージを失う訳にはいかないとナターシャはゆっくりと口を開いた。


「あの売女はこの手で殺すために生かしていただけ――それより、オレフ・エフレーモフ、知っているわね?」

「知らないな」


 耳音で鳴る銃声と弾丸に吹き飛ばされた毛先にウィリアムは眉をしかめる。


 いちいち覚えてられるか。

 おそらく過去に殺した人間であろうその名前にそう胸中で毒づきながら、これからしなければならない会話にウィリアムは溜息をつく。

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