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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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In To The Deep Unknown/Brew The Cheep A Known 4

「ローラは私と、あなたにはあちらの車両のシートを開放しますわ。ゆっくり休んでおきなさい」

「……了解、明朝には出ますのでよろしくお願いします」


 もはや断る事も出来ないのだろう。

 引き続く護衛任務にアドルフは手の平のネックレスを見つめ、ローレライはどこか満足げに微笑んでいた。


 ローズマリーはその光景を背にして、自身とローレライに割り当てられた車両へと歩いていく。

 透き通る青い双眸が捉えるのはBIG-Cとは大きく違う、Ceasterのお世辞にも整っているとは言えない光景。

 疲労の中であってもまだ働きをみせるその頭脳は、現状の懸念に思考を走らせていく。


 バイクがあるとはいえ、2人の旅は短いものとはないだろう。

 ローレライという旅慣れしていない娘が居る以上、どの物資も出来るだけ多く用意しなければならない。


 彼には面倒を押し付けてしまう。


 思わずため息をついてしまったその時、ローズマリーは車両の周りに数人の男女が集まっている事に気付く。

 その表情は一様に険しい物だった。


「ミセス・アロースミス、本気なんですか?」

「何がですの?」


 おもむろに投げ掛けられた問い掛けに、ローズマリーは真っ向から問い返す。

 言いたい事が分からない訳ではないが、話の主導権を握るにはこれが1番手っ取り早いのだ。


「あの傭兵とお嬢様を一緒に行かせるという事です!」

「あら、聞いてましたのね」

「……今回の戦いも、あの傭兵の入れ知恵によってあの結果に導かれたと聞きました」

「そうですわね。BIG-Cの男達だけで戦わせていたら、どのような結果になったのか。考えたくもありませんわ」

「私はそうは思えません。奴が、奴こそが、企業の手先なのではありませんか? タイミングが良すぎる到着に、防衛部隊と我々の分断、突然現れた急襲者。その全てに説明がつきます」

「もしそうだとして彼が我々に銃口を向けない理由は? バイクを欲したのだとしても、わざわざ危険な戦場に訪れた理由は? そもそもなぜ私の娘が生きてここに居られるのか? その全てに説明がつきませんわ」


 納得がいかないとばかりに食い下がってくる非戦闘員の男に、ローズマリーは肩を竦めながら問い掛け返す。

 平気でフレンドリーファイアをする企業の機動兵器。

 平気で傭兵を囮にしようとするBIG-C。

 その2つの脅威が混在する戦場にあの傭兵が戻ってくる理由などない。

 バイクが欲しいだけならローレライを殺して、逃げればいいだけなのだから。


 想像していなかった答えに男は言葉を詰まらせ、その分かりやすい戸惑いにローズマリーは思わず嘆息してしまう。


 確かにアロースミスはBIG-Cの人々のために尽力してきた。

 かつてコロニーに傭兵が居る事に抵抗がある人々のために、アロースミス家が所有する家にアドルフを住まわせた。

 その傭兵を監視をすると同時に、BIG-Cの子供達に影響を与えないように教育を施した。

 誰よりも傷つく事を運命付けられた傭兵を、その生き方以外を知らない少年をただ疑い続けた。


 だがアドルフと自身らで生き残らせた人々の無様な光景に、自身らの行いは間違いだったのではと思ってしまったのだ。

 しかし、そう思うからこそローズマリーはアドルフを頼るほかなかった。


 策謀に疎く、愚直に相手を信用してしまうBIG-Cの人々には、普通の傭兵は裏切られてしまうリスクが高過ぎる。


 報酬さえ出せば紛争地帯から逃げてきた移民の子供達の子守がてら、それを狙う人身売買のビジネスの営む組織の殲滅までした傭兵。

 裏切りさえしなければ決して裏切らない傭兵、アドルフをかつて雇ったのはそういう理由からだったのだから。


「この際ですので先に言っておきましょう。彼を雇っているのはアロースミス家であって、BIG-Cではありませんわ。報酬を用意したのはアロースミス、彼に随行するのもアロースミス、そして全てのリスクを負うのもアロースミス。企業に対しての銀の弾丸が存在しない以上、私達は確実な手段だけを行使していかなければなりませんの。それが今回は彼に頼り、縋るだけだったということ。それだけですわ」


 そう言いながらローズマリーはアンチマテリアルライフルを、両手で胸の高さまで持ち上げる。

 眼帯の男のハンドキャノンを意識して改良を加えたライフル、そのグリップに刻印されたアロースミスのエンブレム。


 お前らに口を出す権利はない。


 そう言わんばかりに見せ付けられた金色のフレアに、BIG-Cの生き残り達はすごすごと引き下がらざるを得ない。

 事実彼らはアドルフに全てを押し付け、その結果に憤慨していただけなのだから。


 やがて返す言葉もない彼らは散り散りに去っていき、そこに残されたのは彼らを論破したローズマリーと、何も言えないままその光景を眺めていたローレライだけだった。


「お入りなさいローラ、少ないですが紅茶を持ってきましたの。久しぶりに私が淹れて差し上げますわ」


 咎めるでもないローズマリーの誘いに、ローレライは扉が開かれた車両へと入る。

 決して小さくはないキャンピングカー。

 簡素なシート、全てを遮断するように張られたスモーク、そして最低限のローズマリーの私物。

 今は亡きアロースミス邸とは程遠いそれらに視線をやりながら、ローレライは近くのシートへと腰を掛ける。


「しかし余所者を嫌がるという点ではどのコロニーも変わりませんのね、勉強になりましたわ」


 ライフルを棚に置いたローズマリーは、ティーポットへとお湯を注ぎながらどこか面白そうに言う。

 避難できただけマシなのだが、事実BIG-Cの車両群が居るのはCeasterの隅だった。


 やがてローレライの前に暖かい紅茶が入った金属製のカップが置かれる。

 アロースミス邸で使っていた流麗なデザインとは程遠い、無骨なデザイン。


 しかしそこから立ち上る品の良い香りに、ローレライは凝り固まっていた物がほぐれていくのを感じた。

 その紅茶はBIG-Cの特産の品であり、ただただとても貴重な物だった。

 この時代の汚染された空気の中でほぼ全ての植物が枯れ果て、かろうじて育ったとしてもそれはただの毒でしかなかった。

 だがBIG-Cは旧時代の遺産である有機プラントをコロニー内に有しており、それによって野菜から紅茶などの生産していたのだ。

 BIG-Cはそれを利用して食料を自給自足し、余った物をチャールズの妹であるメアリー・アロースミスの商会を介して余所へ販売していた。


 アドルフが合成アルコールを買っていたように、合成品ではない品物は貴重であり、その恩恵に縋ってBIG-Cは豊かな生活を送れていたのだ。

 しかし今回の企業の襲撃によって、豊かなコロニーが狙われるというかつてないケースが生まれてしまった。


 経済、人口、世界は大きく変わるだろう。

 何かしらの分野で突出したコロニーが私兵集団の殲滅の対象になる。


 今回のケースはそう言うことなのだから。

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