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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
146/190

Through The Fire/Draw The Liar 2

「どうにも、ダメだな。あんな顔をさせたかった訳じゃないんだけど」


 小さな背を見送り、困ったとばかりに肩を落としたウィリアムは、構えていたハンドキャノンをガンホルダーに収める。

 アドルフの言葉はまだウィリアムの中で生きており、まだ子供である亜里沙は守るべき対象でしかない。

 ウィリアムは任務のためとはいえ、そんな亜里沙を傷付けたくはなかったのだ。


「でしたら、わたくしにお任せを」

「ゴメン、任せていいかい?」


 そう言って右目を覗きこんでくるローレライに、ウィリアムは詫びるように肩を竦める。

 BIG-C撤退戦を含め、女性を怒らせてろくな目に遭った事のないウィリアムには、もはやこの状況に手を出せるほどの賢さはなかった。


「こういう事は女同士で話すのが一番ですわ――リベルタリア卿、まことに失礼かと存じますが、アリスお嬢様のお部屋へ伺う許可をいただいてもよろしくて?」

「許可なんて出来るわけないでしょう。傭兵殿を信用していないわけではありませんが、あなたまで信用できるほど平和ボケもしていません」


 ローレライのあつかましいとも居える言葉に、フェルナンドはあきれ果てたように吐き捨てる。

 ようやく武装解除してくれた傭兵とその妻がコロニーの為に危険に身を投じていたのだとしても、曲がりなりにも敵側の参謀であった事実がフェルナンドを含めたLibertaliaの人々にローレライを信用させないでいた。


 しかしローレライは立てた人差し指を突きつけた当然のように続ける。


「でしたら武装したコロニーの方をつけてくださらなくて?」

「……僕達に恩人であるあなたを監視しろと?」

「そのような建前は不要でしてよ。どちらにせよわたくしに監視をつける必要もあるのでしょう? それに、リベルタリア卿は彼とお話しなければならない事もあるはずですわ――何よりこれはわたくしの夫の失態である以上、妻であるわたくしが責任を取るべき妻ことであり、これは1つのアフターケアでしてよ」


 矢継ぎ早に並べられたローレライの言葉に、フェルナンドは面倒な事になったとばかりに額に手を当てる。

 フェルナンドがウィリアムと戦後処理をしなければならない事は事実であり、せめてLibertaliaが仮初めの日常を取り戻すまで最強の傭兵と最悪の参謀を遠ざけて置きたいのも事実。


 その両方が叶うローレライのアイディアを却下する事は、フェルナンドには出来なかった。


「レギナはミセス・ロスチャイルドから武器を没収、サーシャは武装してレギナと一緒にミセス・ロスチャイルドについてくれ」

「かしこまりました。ですが、私1人で十分かと」


 嘆息混じりのフェルナンドの言葉に、サーシャはあからさまに不服だと眉間に皺を寄せる。

 自衛のための実力と頭脳を持っている自分と違い、企業や人買いから逃げ続けていた亜里沙やレギナに戦う力はない。

 亜里沙を利用する事でローレライの目的を探る。その理解は出来るが納得が出来ないフェルナンドの考えを支持するには、リスクが高すぎるのだ。

 しかし信用していた傭兵まで疑わなければならないフェルナンドに、もはや余裕などなかった。


「レギナが心配なのは分かるけど、君と一緒に居る方が安全なはずだ。面倒を掛けて悪いけど義妹達を頼むよ」

「……かしこまりました。その代わり、防衛部隊の装備の一時貸与を申請します」

「許可します。誰かサーシャにライフルとボディアーマーを」


 不承不承といったサーシャの返事に安堵したフェルナンドは、そう言って女性の防衛部隊員に装備の貸与を命じる。

 ウィリアムというイレギュラーを覗けば戦力の層が薄いLibertaliaは戦力の大半をウィリアムの監視に割かなければならないため、ローレライの監視のために割く戦力は少数で優秀で、その上で誰よりも信用出来る人物でなければならなかったのだ。


 そして銃の扱い方を知っており、亜里沙の世話役としての成果を出しているサーシャ以上の適役は居なかったのだ。


「随分と信用していただけているようで、大変嬉しゅうございますわ」

「黙れ売女(ハーロット)――レギナ、その女から銃を取り上げたら私の後ろに居なさい。あなたもお嬢様も私が守るから」


 笑みと共に皮肉を吐いたローレライを睨みつけ、サーシャはシャツの上から着たボディアーマーをベルトを引く事で固定する。

 吐き捨てた悪態のせいでレギナは肩をビクリと震わせてしまうも、フェルナンド同様、サーシャにも言葉を選んでいられるほどの余裕はなかった。


 サーシャを除いた誰もが気付けなかったのだ。


 走り去る亜里沙の背を見詰める双眸の碧眼に灯された、底知れぬ憤怒の色に。

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