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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
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Death Rider/Curse Sider 5

 気付くより早く反応する体に抗うことなく、人鳳は身を低くして一気に距離を詰め始める。


 3発目。ジャンプすることで回避された弾丸はひび割れたアスファルトを穿つ。

 4発目。回避し切れなかった弾丸は肩の肉を抉り取っていくが、人鳳は速度を落とそうとはしない。

 5発目。咄嗟に首を傾けることで回避するも頬の肉が抉られ、人鳳は血飛沫の軌跡を残しながら走り続け、そして止んだ銃声に笑みを浮かべる。


 砂塵が晴れつつある人鳳は緑色の眼でこちらを捉え続けるウィリアムを視界に捉える。


 企業の精鋭達が殺す事が出来なかった最上級の獲物。誰よりも強くあるという念願を叶える存在が、そこで命を刈取られるのを待っている。


「くたばれ、復讐者(アヴェンジャー)ァッ!」


 速度を殺さないまま右腕を突き出しながら跳躍する人鳳、その命を刈取らんとする番を失った柳葉刀。

 悪逆無道というに相応しい殺人が行われようとしたその時、緑色の瞳を持った傭兵はあきれ果てた表情を浮かべて口を開く。


「お前、バカだろ?」


 途端に鳩尾を重金属で打ち付けられる苦痛が人鳳を襲う。

 砂塵が完全に晴れず不明瞭になっていたウィリアムの手にはハンドキャノンが握られており、その銃口は人鳳の鳩尾を捉えていた。


 弾丸は使い尽くさせたはずだ、と人鳳が信じられないとばかりにウィリアムの左手に視線をやる。

 ハンドキャノンを握っていない右手には、信号拳銃が握られていた。

 それは致死性こそないものの、傭兵であるウィリアムが持つ連絡手段の1つだった。


 1発の銃声は信号弾のもので、信号は殺された視界によって無効化されていた。

 しかしその事に気付いても遅い。

 復讐者の回答たる銃口は、その命を捕えているのだから。


淑女(レディ)を待たせてるんだ。紳士(ヤロウ)なら、分かるよな?」


 そして無慈悲に引かれる引き金。

 鉄色の銃口から吐き出された弾丸は人鳳の腹部を吹き飛ばし、内臓や血飛沫をぶちまける。


 砂塵が晴れると共に凄惨な死を演出する赤が顕わとなり、地面へと崩れ落ちていく敵対者だった死体を一瞥したウィリアムは未だ呆れの色が残る溜息をつく。


 圧倒的で一方的な殺し、戦いの中で実力者同士てあっても生まれる格差。

 それに圧倒されてしまったコロニーLibertaliaと野盗утешениеは、ただ1人の例外を除いて動くことも出来ずただ立ち尽くしていた。


 道を埋める瓦礫を避けるように粗悪なバイクで駆け出した金髪の女、その手には黒いハンドガンが握られている。

 参謀が直接戦場に乗り込むという前代未聞な状況に野盗達は戸惑うも、金髪を靡かせての女に続いて走り出す。

 空薬莢を地面に捨ててハンドキャノンに弾丸を装填し、ウィリアムは先頭を切る自らの妻とソレに続く野盗達を捉える。


「まだ終われない、か」


 緑がかる視界、映し出される敵の配置と弾道シミュレーター。

 描かれた弾道をなぞるように撃ち放つ弾丸、頭を、体を、バイクを、武装を撃ち抜かれて赤い死に染まっていく野盗達。

 1つの狂いも許されない数式のように。しかし答えに辿り着くのが必然であるように。

 ただ自らが思い描く勝利に向けて駒を進めるだけの戦闘。


 それはただそうある事が正しいように死を撒き散らしていく。


 先頭を走る金髪の女との距離が重火器が用いられる戦場であれば0と言える距離と鳴ったその時、ウィリアムの端末の着信を告げるシグナルが鳴る。

 ウィリアムはライダースジャケットの袖を捲くり、リストバンドを引きずり出してその表面を叩く。

 リストバンドから頭を出していた複数の杭はへし折られ大地に突き刺さる紫の足に突き刺さり、体を固定したウィリアムは両手両足のパワーアシストをフルで稼動させる。

 そしてウィリアムに向かってきていたバイクは瓦礫にスロープのように傾いていた瓦礫を駆け抜け、それに搭乗していた金髪の女はバイクを捨てウィリアムの方へ飛び出す。


 アンカーで体を固定したウィリアムは、パワーアシストの利いた右腕を金髪の女――ローレライへ差し出す。

 差し出された右手は使い込まれた風合いのレザーグローブを纏う手を掴み、そして懐へ一気に引きずり込んだ。

 新たに理解できない状況へ叩きこまれた野盗達は、懸命にウィリアムへと進み続けるも、それが死へ向かっているだけだと言う事に気付きもしない。


 乗り捨てられ上空へ投げ出された粗悪なバイク、それをハンドキャノンの弾丸が撃ち抜き引火し爆破する液体燃料に巻き込まれる野盗達。

 同じような手で翻弄される学習せず、爆散するバイクに身を穿たれ焦がされていく野盗達に、ウィリアムは深いため息をつく。


「お疲れ様、大したファンファーレだったよ。仕事の方は?」

「十全と言ったところですわね。野盗(バンディット)の布陣に関しては各個撃破しやすいよう、少数に小分けしましたの。それでウィルの方はいかがでして?」

「上出来だ、おかげで助かったよ。すまないけど俺の端末でフェルナンド・リベルタリアをコールしてくれないか?」


 視界の悪い戦場で役に立たない左眼を有効活用できるようにローレライが提案したのは、左眼に反応するナノマシンをハンドグレネードで散布し、イニシアチブを取り続けるという策。

 散布されたナノマシンは空気中に浮遊し続け、敵対者が見えなくともナノマシンによって敵対者の所在をウィリアムに教えていた。


 左眼を酷使する事がウィリアムの命を削っていることなのだとローレライは理解していたが、左目を使わざるを得ない状況まで追い詰められてしまったのであれば多少のリスクを背負ってでもウィリアムの生存率の高い策を取る。それがローレライの決めたやり方だった。


 ローレライの白魚のような指で操作された端末は、リベルタリア邸でその時を待っていたフェルナンド・リベルタリアの端末に接続される。


「こちら傭兵。リベルタリア卿、敵の布陣は各個撃破しやすい少数部隊に分けられている。援護はする、あとはやっちまってくれ」

『了解、感謝しますよ』


 脅威となっていた機動兵器の撃破、オルタナティヴで手を加えられた野盗の大隊長の殺害、敵参謀の寝返り。

 その一部始終を見ていた、そしてフェルナンドの突撃命令を受けたコロニーLibertaliaの防衛部隊は上げられた士気に比例するような怒涛の突撃を開始する。

 かつて栄華を誇っていた時代の革命のように躍動する命達、それに続こうとバイクに跨るウィリアムの腕を引くローレライの白く細い指。

 その華奢な指はジャケットのポケットから細長い布を取り出し、緑色の瞳とそれを囲む傷跡を覆うように布を巻いていく。


「相変わらず無茶ばかりされますのね」

「相変わらず君に面倒ばかり掛けてしまっているね」

「まったくですわ。わたくしのことも、もう少し考えてくださってもよろしいんじゃなくて?」

「それを痛感しているよ、愛想が尽きたかい?」

「それだけはありませんわ――さて、これで完成ですわ。わたくし達も行くとしましょう。ソレが我々の義務ノブレス・オブリージュですわ」


 そう言って自らの指定席だとばかりに、自らの後ろのシートに座り込んだローレライに苦笑を浮かべてウィリアムはワイヤーを切り離してシートに跨った。

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