Death Rider/Curse Sider 4
「クソ女ァァァァッッ!」
咄嗟に人鳳は地面に転がる紫の装甲片を蹴り上げるも、爆風は容赦なく人鳳の強化処置を施された体を吹き飛ばす。
地面に打ち付けられ止まる呼吸、鉄塊などが手にした紫の装甲を強打する感触、弱者に味合わせてきた屈辱、優秀な戦士である刀傷者が知らない苦痛。
口の中には鉄の味が広がり、機動兵器の装甲ですら切り裂ける左手の柳葉刀は半ばから歪み、再起動を要していた意識が視界を取り戻す。
「……ざけ……やがって」
霧散しつつある爆音に恨み言を溶かし、人鳳は震える中指のない両手をついて立ち上がる。
大規模な爆破により家屋は倒壊し、爆風に巻き上げられた砂塵はコロニーLibertaliaの街道を包む。
自らが復讐する側に回らされた皮肉のような状況、中に置いても人鳳・郭の刀傷者としての意識は敵対者を探し続ける。
暗雲に包まれたような視界を切り裂くように突き出された歪んだ柳葉刀。
壊殺者、屍食者、終焉者。その3人と演習を繰り返してきた人鳳にとっては武器破壊など大した問題ではない。悪逆無道と刻まれた柳葉刀を使いこなす為に作り変えた体は無手であっても強力な戦力となり、壊殺者であるジョエル・マイヨルガ以外に敗北することは少なかった。
しかし、それらの状況と違う現状に刀傷者は戸惑っていた。
ヴァイオレット・ヴァーヴァリアンの残骸を背後するように誘導され、目を逸らすために投げつけたハンドグレネード、金髪の参謀の裏切りを見越した上で炸裂装甲が発動されない場合を配慮していたであろう大型ライフルへの銃撃。
その結果、人鳳の体と武器は破損し、視界は完全に殺されてしまった。
バイクから降りて相対したから正面から戦うとでも思ったのか。
ハンドキャノンだけが武装などと誰が言ったのか。
いつから自らが有利な側に立っていると勘違いしていたのか。
相手は処置を受けていない状態で壊殺者を殺害し、処置を受けた後に殲滅者のクリムゾン・ネイルを撃破し、電磁刃を使わずに自身と引き分けに導き続けた終焉者のオリジナルなのだ。
得体の知れない恐怖。回答者という綴書者の妄言としか思えなかったその存在に、人鳳はかつて感じたことのないソレを感じていた。
それでも、まだ負けたわけではない。
演目:終末劇の資料によれば復讐者の左目の有効範囲は有視界内のみであり、視界を殺されているのはお互い同じなのだから。
しかし罵声を飛ばしたくなる衝動を堪え、牽制の構えを解かない人鳳の視界の端に緑がちらつく。
ヴァイオレット・ヴァーヴァリアンのマシンアイよりも淡い緑、ソレの正体に気付くよりも早く戦士としての意識が人鳳に回避行動を取らせた。
そして響き渡る冗談のような銃声。
舞い上がる砂塵を掻き分けるように推進する弾丸が人鳳の歪んだ柳葉刀を穿ち、その衝撃は柳葉刀を破壊するだけでは治まらず、フレームが収められた左腕が救い上げられるように跳ね上げられる。
「見えねえんじゃなかったのかよ!?」
思わず怒声を上げながら人鳳は緑から逃れるように、移動を始める。
武器を失った左手を砂塵の中へ突き出しながら遮蔽物を探すも、進行方向を知られているかのように左手を掠める弾丸に人鳳は方向転換を余儀なくされる。
一方的な銃撃をされている以上、人鳳は足を止めることは出来ず、武器を失った事で軽くなった左手の違和感に戸惑いながら思考する。
重火器はおろか、人鳳は2振りの柳葉刀以外の武装など持っておらず、その1振りを既に失なわれた。
そして敵対者の場所を特定し、距離を詰めなければ人鳳に勝利はない。
ようやく見つけた壁を背にして、人鳳は右手の柳葉刀を構え敵対者の銃撃を待ち構える。
砂塵のみが見える不明瞭な世界で、人鳳は薬莢が捨てられるような軽い金属音を聞いた。
ウィリアムのメイン兵装であるハンドキャノンは時代遅れのリボルバー式であり、装弾数は限りなく少ない。
弾丸を撃ち切らせてから斬り殺す。
限りなくシンプル、策とも言えない行動方針に復讐者とかした人鳳は身を委ねてただその時を待つ。敵対者と相対し斬り捨てる、人鳳にとっては以外何も必要ないのだ。
そして砂塵が薄れ始めたその時、2発の銃声と共にハンドキャノンから弾丸が放たれる。




