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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
142/190

Death Rider/Curse Sider 3

「お前ら、本当にどうかしてるよ」

「ありがとうよ! 最高の褒め言葉だ!」


 未だ燃え盛る紫の機動兵器を背景に軽口を叩きながらも止まる様子のない、人鳳の柳葉刀の剣閃が輝くそこへ、ウィリアムは腰に1つだけ付けていたハンドグレネードを弾くようにして投げ込む。


「てめえ!?」


 自殺行為としか思えないウィリアムの行為に相打ちなどという終わりを望んでいない人鳳は、両腕の柳葉刀をクロスさせてハンドグレネードを上空へと打ち上げる。


 気でも狂ったか。


 謀略者(フィクサー)から与えられた情報とは違う復讐者(アヴェンジャー)の行動に、人鳳は訝しげに眉を顰めながら胸中で毒づく。

 気に入りはしないが自らが唯一信頼する参謀、謀略者(フィクサー)

 その彼女があらゆる手段を使ってでも集めた情報はでは、どれだけ無様で姑息で悪辣であっても勝利をもぎ取り、敵対者に死だけを残していく傭兵。それが復讐者であるウィリアム・ロスチャイルドであるはずなのだ。

 傭兵にとっての勝利は依頼を果たして生還し報酬を得ることであり、相打ち覚悟で敵対者を葬ることではない。


 この程度で殺せるとでも思ったのだろうか、この程度に奴らは殺されたというのだろうか。

  ヴァイオレット・ヴァーヴァリアンは武装とルックスこそ量産機と変わらない機動兵器ではあるが、内部は謀略者企業から連れて来た腕利きであるも野心のなさから日の当たらない場所に居た優秀な技術者達により改修されていた。


 ソレを容易く撃破して見せた復讐者を高く評価し、そして人鳳は同時に呆れ果てていた。

 臆病風に吹かれているとしか思えない回避が中心の交戦、自棄になったとかしか思えない自滅覚悟のハンドグレネード、そして見え透いた思惑。


 くだらない、と溜息をつきながら人鳳は遥か上空で炸裂するハンドグレネードの破裂音を聞きながら、次に訪れるであろう隙だらけの腹部に放たれる弾丸の弾道から逃れるよう姿勢を変える。


 途端に冷めていく精神。


 刀傷者(セイバー)は焦がれていた。壊殺者(ブレイカー)殲滅者(アナイアレイター)を殺害するにまで到った殺し合いに、企業が自分達と同じようにオルタナティヴで武装を与えた復讐者(アヴェンジャー)との殺し合いを。

 しかしウィリアムは牽制と回避、そして自爆覚悟の相打ちを狙った攻撃以外をしてこない。


 期待外れた。


 結局のところ復讐者が他者と同じ弱者でしかなく、弱者が生きている理由などこの世には存在しない。

 もう終わりにしよう、と悪逆無道を謳う柳葉刀を構えた人鳳は奇妙な状況に困惑してしまう。


 響き渡る冗談のような銃声、重厚な金属を穿つ硬質な音。

 続けて灰色の瞳で捕えた光景に、人鳳はさらに困惑してしまう。

 頭を抱えて空中へ身を投げ出す復讐者(アヴェンジャー)、防弾盾に身を隠すコロニーLibertalia(リベルタリア)防衛部隊。


 効率良くそして自らの欲を満たす為に、眼前の敵だけを屠るように生まれ変わった刀傷者(セイバー)である人鳳には理解できないその光景。強者から逃避するしかない弱者が這いずるその醜い光景。


 そして振り返る人鳳の視界に写ったのはハンドキャノンの弾丸に穿たれ爆散せんとしている超大型ライフル、装甲の隙間から光を放つヴァイオレット・ヴァーヴァリアンの残骸、そして誰にも見えないように口角を上げて端末を操作する金髪の女。


 搭載したものの以後有色の人間を飼養、生産する施設としてコロニーLibertaliaを再利用する為に使われなかった炸裂装甲エクスプロッシブアーマー、商品を傷つけてはならないと厳禁された殺害、不可解な理由で撤退させられた戦線。


 金の為に傭兵に腰を振った売女が、その遠くから眺めて嘲笑を浮かべていたのだ。

 頭の回るというのは理解していた。だが、頭が回るだけの女だと誤解していた。


 しかし考えてみれば人鳳には分かるはずだったのだ。


 もし金の為に家族とコロニーを捨てられる女が自らの分け前を減らす邪魔者をどうするか、自らの力では葬れない敵ではないだけの男をどう消すのか。

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