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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
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Death Rider/Curse Sider 1

 コロニーLibertalia(リベルタリア)の中央の街道で、ウィリアムは停めたバイクのシートに腰を掛けて展開されている野盗(バンディット)утешение(ウテシェニエ)の部隊をただ眺めていた。


 包囲は突然、その上で迅速に行われた。


 流石は謀略者(フィクサー)の指揮下にあった組織というべきか、流石は企業を葬った参謀の策というべきか。

 そんなフェルナンド・リベルタリアの独り言を聞きながら、ウィリアムはたった1人で出撃した。

 フェルナンドを含めたLibertalia首脳陣は全ての防衛戦力を専守防衛にあて、事実上、主力の撃破をウィリアム1人に投げ出したのだ。

 その結果Libertaliaの防衛部隊は進軍する事も出来ずに、状況を静観する以外の術を失ってしまう。

 そうなってしまえば前線に出て戦えるのは、リベルタリア家に雇われながらも独自に戦闘行為を行えるをウィリアムだけだった


 それすらも想定内だ、とウィリアムはベルトに付けた特殊なハンドグレネードに触れる。

 守ってきた誰もが縋りつき、恐れる暴力の執行者。

 自分の存在を正しく理解しているウィリアムには、防衛部隊ですら守らなければならないフェルナンドを責める事は出来なかった。


 そろそろか、とウィリアムが遥か遠くに見える紫色の巨体を睨みつけたその時、端末がシグナルを鳴らして着信を告げる。

 デニムボトムのポケットから端末を取り出したウィリアムは、深いため息をつきながら着信に応じた。


『――える!? ロスチャイルドさ――』

「聞こえているよアリサ、もうシェルターに避難したのかい?」

『そんな事より1人で出撃したって本当なの!?』


 安否を気遣う問い掛けすら無視する亜里沙に感心すべきか、戦闘には一切関っていないはずの亜里沙に戦況が伝わっているLibertaliaの情報管理体制に呆れるべきか。

 どうにも無謀が過ぎるご令嬢に肩を竦めながら、質問に答えてやる事にする。

 納得するまで彼女が引いてくれないのは、言うまでもない事実なのだから。


「1人って言っても周りには防衛部隊が居るし、俺は1人じゃないと戦えない。何の心配も要らないよ」

『そんな訳ないでしょ! 待ってて、今すぐ武器庫の装備を持って――』

「アリサ」


 それはダメだ、とウィリアムは亜里沙の言葉を遮る。

 コロニー首脳の末子であり、ローズマリー・アロースミスを除いて唯一ウィリアム・ロスチャイルドを制御できる存在。そんな利用価値しかない亜里沙が戦場に出てくれば、утешениеは亜里沙の奪取に全力を尽くし、Libertaliaはいらぬ出血を強いられてしまう。


 そうなってしまえば亜里沙が非難を受け、下手をすれば損失補填として売り払われてしまうかもしれない。

 傷ついてもまだ立ち上がり、家族のために命懸けの旅路を1人で進んだ亜里沙。

 守られるべき少女が傷つけるのを、アドルフの約束が許さなかった。


「心配してくれた事は純粋に嬉しいよ。でも膠着状態の戦場に出てくる事がアリサのやるべき事なのかい? 俺にはそうは思えないね」


 実感の篭もったウィリアムの言葉に亜里沙は返す言葉もなく黙り込む。

 スラムでの自分の失態がどれだけのものなのか、ソレが理解できないほど亜里沙は愚かではなかった。


「もう1度言うけど、俺は俺のやるべき事をやる。俺を信じてくれ。君も誰も傷付けさせないから」

『……待ってるから、必ず戻るって約束して』

「約束するよ。必ず戻る、君も誰も傷付けさせやしない――それに、どうやら俺の依頼主のご令嬢にはまだ世話役以外にもお目付け役が必要なようだからね。世話役の彼女にしっかり報告しなければ」


 諭すような言葉に付け足されたいたずらめいた響きに、亜里沙は思わずクスリと笑みをこぼしてしまう。

 装甲車すら1人で葬ったウィリアムの手腕は疑いようもないものであり、そんな最強の傭兵が自分の事を想ってくれるのは悪くない気分だったのだ。


 ようやく納得してくれたその様子にウィリアムは安堵し、ゆっくりと動き始めた紫の巨体にハンドキャノンを取り出す。

 戦いは始まっていた。ただ、お互いが訪れるべき時を待っていただけ。

 そして時が訪れた以上、戦いを止めることはもう出来ない。


「行ってくる。いい子にしてるんだよ、アリサ」

『行ってらっしゃい。約束破ったらローズさんにある事ない事言うからね、ウィル』


 日常を示唆する言葉を入れたのが良かったのか、すんなりと切る事が出来た通信。

 最後に付け加えられた自分の名前に口角を歪めながら、ウィリアムは端末が続けざまに伝えてくる着信に応じる。


『ごきげんよう、ウィル。今日はあの小娘とご一緒ではないんですのね』

「やあローラ。女と子供が戦場に居るなんてとてもじゃないけど耐えられなくてね。俺が教わった社交界のルールじゃ女性には優しくしないといけない、ってのがあってさ」


 灰色の中で一際目立つ金髪を視界に捉えながら、ウィリアムはハンドキャノンのハンマーを起こす。

 薄汚れた紫の巨体は既に街道へと侵入しており、互いが互いを射程内に収めるのも時間の問題だ。


『あら、随分とフェミニストなんですのね。奥様もさぞお喜びでしょう』

「そう思ってくれてるといいんだけどね――さて、楽しいおしゃべりはここまでだ。精々派手にやらせてもらおうか」

『あら、この盤上のマスターはわたくしですのよ? 最終手を打つのはわたくしですわ』


 久しく聞いたことのなかったローレライの機嫌の悪そうな声に肩を竦めながら、ウィリアムは欲しかった情報を得られた事とその内容に安堵する。

 それが分かりさえすればウィリアムの仕事はソレを撃破し、掛けられている期待に応える。それだけだ。


『ヴァイオレット・ヴァーヴァリアン、スタンバイ』


 そう言いながらローレライはレザーグローブを嵌めた右手を突き出し、前進を命じられた紫の機動兵器は緑色のマシンアイを爛々と輝かせながらウィリアムへと迫る。

 量産機のカーキの色やくすんだ灰色とは違う紫色、まごう事なきワンオフ機である筈のソレにウィリアムは訝しげに眉をしかめる。

 クリムゾン・ネイルやオリジナル・ホワイトのようなワンオフ機とは違うフォルム、それでいて何度も対峙し撃破してきたそのフォルム。


 舐められているのだろうか。


 鎌首をもたげる違和感と訪れた幸運にウィリアムは溜息をこぼし、両手足のパワーアシストをアクティブにする。


『1局お付き合いいただきますわ。わたくし、勝てる戦いは大好きですの』

「気が合うね、俺もそうさ!」


 そう叫んだウィリアムはライダースジャケットのパワーアシストをアクティブにして、引き金を引くことで悪辣なほどの銃火を解き放った。

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