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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
139/190

Shake The Fake/Wake The Snake 7

「まあいいわ。レギナが安心して暮らせるように頑張ってね、"ウィル兄さん"」

「やってやるさ、アリサもリジーもこれからの生活の事だけを考えていればいい」


 意趣返しのような呼び方にもウィリアムは肩を竦めただけのウィリアムに嘆息しながら、亜里沙は不幸中の幸いに感謝する。

 フェルナンドがどこまで考えていたのか、サーシャがどうして交渉屋アロースミスの事をどうして知っていたのかは分からないが、ウィリアムとの関係はコロニーLibertalia(リベルタリア)を守るだろう。


 コロニーLibertalia(リベルタリア)と敵対すると言う事は、ウィリアム・ロスチャイルドと敵対する事でもある。

 事実がそうでなくても、そう思わせられたのならそれだけで十分なのだから。


 どうやら一生敵いそうにない、と亜里沙は癖のある毛先を指先でいじる。

 少なくとも交渉屋の女主人だけは、娘の裏切り以外の全てを見通していたのだから。


「そういえば、お義兄様となんか話したんでしょ? 何話してたの?」


 知りたがりな性分から来る亜里沙の問い掛けに、ウィリアムはいつもの苦笑とは違う引きつった笑みを浮かべる。


 この日、朝1番にウィリアムはコロニーLibertaliaリベルタリアの首脳代理である、フェルナンド・リベルタリアと朝食を兼ねた面会をしていた。

 話す内容は任期やギャラを含めた依頼の確認、バイク等の管理や物資の支給に関して。

 それらに関しては話をつけておかなければトラブルを起こしかねない事であり、ウィリアムは交渉屋サイドの見解、バイクの管理に関してと用意して欲しい武装を告げた。

 丁寧に調理されたであろう朝食を全て食べ終え、ウィリアムが席を立とうとしたその時、フェルナンドのパンに食事用のナイフが突き立てられる。

 フェルナンドの顔に浮かべられた笑みは当人の顔と同じく整ったものだったが、目だけは怒らせてしまった際の交渉屋の女主人と同じ色を灯していた。

 そして一家の大黒柱となった、ウィリアムとそう歳の変わらない男は笑みを崩さないまま言った。


 どうか、義妹をよろしく。


 絶対そうは思っていないだろうウィリアムの顔は引きつるも、ウィリアムはその男の義妹を思うが故の牽制に笑みがこぼれてしまいそうだった。

 父を失って一家を支える事になってしまった長男、その重責はなかなかのものだろう。


 あの子を何かに巻き込む事だけはしませんよ、それだけはご安心を。


 フェルナンドの気持ちをウィリアムが理解する事は出来ないが、義理の弟を想う記憶が脳にまだ残っているウィリアムはそう誠意を持って応えるしかなかった。


「ギャラと経費は交渉屋にもらってるとか、徹甲弾を用意して欲しいとか、そんな内容だよ」

「ふーん」


 1部を切り離した事実を告げられた亜里沙は興味を失ったようにソファーに横になる。

 普段は世話役のサーシャによってそんな事は許されないが、その世話役は他所で別の仕事をしており亜里沙は束の間の自由を謳歌していた。


「あまり気を抜いているといつかボロが出るんじゃないのか?」

「それ気にして肩肘張ってる方がむりー、あたしが人前に出る事とかあまりないし大丈夫ー」


 完全に気が抜け言葉すら間延びしている亜里沙を見やりながらウィリアムは言う。

 あの時、泣き出してしまった少女がこうしていられる状況。

 ウィリアムがここに留まる時間はもうあまり残っていないが、少女が笑っていられるよう戦う事は出来る。


 約束を果たすよ。


 脳裏に燻ぶる義兄の面影にそう告げながら、侍女の気配を感じたウィリアムは亜里沙にこの事態を告げるかどうか悩み、そしてやめた。

 失敗による損失は取り返せるものではないが、適度な失敗は成長におけるスパイスなのだから。


「お嬢様! はしたないですよ!」

「いいじゃん、サーシャみたいな事言わないでよ。それにレギナだって変わらないわよ」


 亜里沙の反論にレギナは自分の状況に気付いたようにハッとする。

 胸元に預けた頭、腰に回した両腕。それらはとてもではないが、婚前の娘が憧れているだけの男にしていい事ではなかった。


 レギナの説教はその力を失い、ウィリアムは困ったように頬をかく。

 そして絶対零度の声が室内に響き渡り、その時が訪れた。


「それで、私がなんですか?」


 大声を出したわけではない、周りが意図的に息を殺しているわけでもない。

 ただ亜里沙の生存本能が危機をそう察知させたのだ。


「予定よりも大分早くなってしまいましたが、講義のお時間とさせていただきましょう――レギナ、あなたはゆっくりとしてなさい。私はお嬢様とお先にお暇させていただくわ」

「え、ちょ、まっ!」

「ありがとうございます、サーシャさん。お嬢様、それではごゆっくりとー」


 暴れる主人を平然と肩に担いだ世話役は部屋を出て行き、ウィリアムの腰に縋り付いたままレギナはその2人を笑顔で見送る。

 依頼人は自らの護衛の名前を叫ぶが、護衛は淹れ直された紅茶の匂いを楽しむ事でソレを無視し、そしてウィリアムはしみじみと呟いた。


「愛されてるねえ」

「はい、皆お嬢様が大好きです」


 年頃の娘、それもコロニー首脳の娘とは思えない亜里沙の断末魔を聞きながら、2人は穏やかな時間を過ごした。

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