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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
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Shake The Fake/Wake The Snake 5

 Libertaliaの守りの要であり、天然の要害である峡谷。

 まるで迷路のようなその作りに可能性を感じたパトリック・リベルタリアは、平地である最深部までの道のりを踏破してコロニーLibertaliaを興した。

 しかしそれは峡谷の大半を知らないという事でもあり、その怠慢が今回の悲劇をもたらした。


 峡谷内の洞窟を利用して作られた旧時代の施設。薄汚れた施設の1室で、金髪の女と灰髪の男が粗悪な椅子に腰を下ろして対面していた。

 女は美しい金髪を指でいじり退屈そうな面持ちを浮かべ、男は中指のない金属のラインが走る腕を組みながらその女を睨みつけ、やがて口を開いた。


「一応聞いておくが、どうしてあんなことやらかしやがった?」

「あんなこと……何かありましたの?」

「とぼけてんじゃねえよ。俺の部下の手をふっ飛ばしやがったろ」


 参謀の女――ローレライ・ロスチャイルドの舐めきった態度に、特殊な腕を持つ男は苛立たしげに舌打ちを響かせる。

 事の発端は刀傷者(セイバー)――人鳳(ジンフォウ)(カク)の耳に届いた乾いた銃声と男の奇声だった。


 施設内に侵入者が現れたか、あるいは血気盛んな部下達による反乱か。

 そのどちらもが"頼りない参謀"に対して起こされてもおかしくはなく、事実ウィリアム・ロスチャイルドがLibertaliaに辿り着くまで、人鳳(ジンフォウ)を含めた誰もが制限されていた出撃に不満を持っていた。

 そして人鳳(ジンフォウ)が現場に駆けつけてみれば、そこには血で赤く染まる手を握りながら床に蹲る部下と、ハンドガンを握りそれをつまらなそうに見下ろしていたローレライがそこに居たのだ。


「ああ、それの事ですの。それがどうかなさいまして?」


 張本人である参謀の悪びれもしない態度に、人鳳(ジンフォウ)苛立ったように指が1本足りない右手で髪をかきむしる。

 企業を壊滅に導いたその参謀が優秀なのは認めていたが、その目の前の相手ですら見ていないような態度が人鳳(ジンフォウ)にはどうにも気に食わなかったのだ。


「何があったか知らねえけど、こっちはあんたがあいつの手を吹っ飛ばした理由が知りてえんだよ。意味わかんねえまま被害が増えたんじゃたまったもんじゃねえ」

「簡単ですわ。わたくしに触れようとしたから、それだけですわ」

「……あぁ?」


 戦力が足りないからという理由で撤退を指示したはずの参謀が戦力を減らしたその理由に、人鳳(ジンフォウ)は眉間に皺を寄せて不機嫌そうな声を挙げるもローレライはそれに取り合わず淡々と告げる。


淑女(レディ)の肌に無断で触れようとするなど、紳士の振る舞いではありませんわ。躾けのなっていない駄犬にはおしおきが必要でしょう?」

「ふざけんじゃねえぞクソ女、触られんのが嫌ならそう書いた札でもぶら下げとけボケ」


 滔々と続けられた言葉に人鳳(ジンフォウ)は暴言を返し、やってられるかとばかりに用意していた合成アルコールを一気に煽る。


「まあ、なんて乱暴な言葉ですの。品性の欠片も感じませんわ」

「ほざいてろ、金の為に傭兵にケツを振った売女が」


 瞬間、黒い合金で作られたハンドガンと、人鳳(ジンフォウ)の腕から開くように展開された合金の刃が交差する。

 漆黒の銃口は鉛の弾丸を吐き出し、拳の先から伸びるように展開された刃は弾丸を弾き飛ばす。


 銃声と金属音が響いた後、硝煙が広がる室内で睨み合う両者。

 人鳳(ジンフォウ)が右手に握ったまま刃を展開した為に真っ二つに切断された、合成アルコールのボトルが床に安っぽい匂いを広げていく。


「大した早撃ち(クイックドロー)だ、これも復讐者(アヴェンジャー)仕込みってわけか」

「ええ、これだけはあの方以上ですの――それで、何かお言葉は?」


 明確な殺意が交差し、場が膠着する。

 ローラと企業の役割持ちである刀傷者(セイバー)である人鳳(ジンフォウ)の実力差は果てしないものではあるが、黒い銃口は人鳳(ジンフォウ)の眉間を狙い続けていた。


「分かった分かった。今回は不問にしておいてやる、これで満足か?」

「……紳士ではない殿方に望んだのが間違いでしたわ。精々、足を引っ張らないでくださりませんよう」


 そう言って闘争の空気が霧散する部屋を出て行こうとするローレライの背中を睨みつけながら、人鳳(ジンフォウ)は右腕に展開していた刃を戻し溜め息をつく。


「待てよ、布陣も何も聞いてねえぞ?」

「データは先ほど転送しましたわ。歩兵から機動兵器ヴァイオレット・ヴァーヴァリアンの配置から進行まで全てマーカーを入れてありましてよ」


 それでもまだ不満か、と言わんばかりに不機嫌そうに面持ちを浮かべるローレライに、人鳳(ジンフォウ)はそれ以上に不機嫌そうな面持ちと共に舌打ちをして口を開く。


「だったら最初から送りやがれよ、面倒くせえ女だな」

「とことん、ですのね。今度こそ失礼させていただきますわ。少しはそちらがお招きになった参謀を信頼なさいな」


 呆れ果てたと言わんばかりに嘆息したローレライは今度こそ部屋から出て行き、人鳳(ジンフォウ)は背を向けた女の背を、右手と同じく中指の無い左手で追い払いながら見送る。

 新しい合成アルコールのボトルを手に取りながら、人鳳(ジンフォウ)は端末に送られたデータを展開する。


 ワンオフ機であるヴァイオレット・ヴァーヴァリアンと、野盗(バンディット)утешение(ウテシェニエ)で最強の歩兵である刀傷者(セイバー)を中心とした布陣。

 コロニーLibertalia(リベルタリア)の面々はこの布陣を見て、復讐者(アヴェンジャー)を真っ先にヴァイオレット・ヴァーヴァリアンへと差し向けるだろう。


 真の切り札が何かも知らずに。


「ようやくだ。待ちかねたぜ、復讐者(アヴェンジャー)


 そう口角を上げて呟いた人鳳(ジンフォウ)の両腕に、合金の刃が重厚な音を立てて展開される。

 悪逆無道と刻まれたその対の刃は、その時を待ちかねるようにギラリと輝いた。

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