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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
134/190

Shake The Fake/Wake The Snake 2

「あたしには、少なくともミセス・アロースミスがローレライ・ロスチャイルドに裏切りを指示したとは思えません」

「根拠は?」

「ウィリアム・ロスチャイルドは企業壊滅戦で裏切った人間達を皆殺しにしました。そんな野獣を近くに置いていたアロースミスが、彼を刺激するような真似をするとは思えません」

「僕もそう思っていた。だが誰よりも彼の近くに居たローレライ・ロスチャイルドは彼を裏切り、僕達に銃口を向けてきた。アロースミスの女達を手放しで信用する事はもう出来ないよ――話は見えてきた、とは言えないけどおかげで現状の把握は出来た。彼とは後日しっかりと話をして今後の事を決める事にするよ」


 だからアリスももう休みなさい、とフェルナンドはアリスに微笑みかける。

 ローズマリーがウィリアムをつけるまで命の保障すらされていなかった旅をしてきた義妹。決して楽ではなかった道のりを考えれば、亜里沙が労われるのは当然だった。


 しかし亜里沙はおずおずと問い掛ける。


「あの、お母さんは?」

「チーロ母さんは未だに部屋に引きこもったままだよ、食事を摂ってくれてるからいいけど心配だね」


 どこか心配そうなフェルナンドの言葉に、亜里沙は吐き出しそうになった言葉を堪えるように顔を強張らせる。

 母さんの名前はチーロではなく千尋だ。そう言ったところで、その新たな名前を選んだのは他ならぬ母なのだから。


 亜里沙はどこか諦めたように乱暴に頭を下げて執務室を後にする。

 向かうの私室でも、母の部屋でもなく、ウィリアムに貸し与えられた客室だ。


 本来なのであれば役目を果たして無事に帰った事を報告すべきなのだろうが、亜里沙には母と会話が出来ない事を理解していた。

 チーロ・リベルタリアは、パトリック・リベルタリアが殺されるのを眼前で見ていたのだ。

 утешениеの襲撃は防衛部隊でさえ捕捉出来ないほどに鮮やかな速攻撃であり、亜里沙が代わりに刃を振って守っていたチーロが戦える訳がなかった。

 だからこそコロニーの誰もが、それこそパトリックの息子であるフェルナンドでさえ、チーロを慰めていた。

 だというのにチーロはその日からずっと部屋に引きこもり、亜里沙の出立の日でさえ顔を見せる事もなかった。


 でも1人は慣れっこだ、と亜里沙は自嘲するような笑みを浮かべる。

 公務をせわしなくこなしていたパトリック。次期後継者であり、臨時の指導者となったフェルナンド。その2人について回っていたチーロ。

 歪でありながらも3人は家族として共に在り、そこに亜里沙の居場所など存在しない。

 特別美しい訳でも、何かに優れている訳でもない自分がリベルタリアに貢献できるとすれば、それは命を張る事くらいなのだから。


 暗くなってきた思考を切り離すように、亜里沙は脳裏で疼いていた1つの考えに視点を中てる。

 それはローレライ・ロスチャイルドは裏切ったのではなく、最初から敵だったのではないかというものだ。


 謀略者(フィクサー)は人身掌握に優れた参謀の女、それがウィリアム・ロスチャイルドという最強の傭兵を放っておくだろうか。

 それを裏付けるようにウィリアム・ロスチャイルドはローレライ・ロスチャイルドと自ら望んで結婚した訳ではなく、意識を失っている間にしていた(・・・・)と言っていた。暴力を振るう事を躊躇いはしないが、依頼人の亜里沙の為に駆けずり回る事が出来る傭兵。ローレライ・ロスチャイルドはその男に情を抱かせてしまえば、捨てられる心配は無いと踏んだのだろうか。

 そして最強の傭兵を手中に収め、仕事を厳選させて膨大な依頼料を得る妻という立場に居るローレライ・ロスチャイルドという女。


 なら何故、敵に回りその傭兵を手放すような真似をしたのか。


 母であるローズマリー・アロースミスはその事実に気付き、娘の動向を探り出す為に今回の提案を亜里沙にしたのだろうか。

 アロースミス家が首脳を務めていたコロニーBIG-Cは企業によって滅ぼされたが、多くの歩兵を持つ大規模なコロニーがそんなに簡単に滅ぼされる筈が無い。


 しかし企業の参謀であるローレライ・ロスチャイルドが内部から手引きをすれば、それらを瓦解させるのは容易いだろう。

 コロニーBIG-Cが滅ぼされた経緯を知らないアリサは癖のある茶髪を指でいじりながら、なおも解決されない1つの疑問を思い浮かべる。


 何故野盗(バンディット)утешение(ウテシェニエ)は死者を出さず、コロニーを滅ぼそうとはしないのだろうか。

 浮かび続ける疑問に答えは出ないものの、亜里沙の胸中で生まれたローラへの疑惑はとどまる事を知らない。



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