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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
132/190

Domesticate To Insanity/Demonstrate To Sanctity 6

 フードを引き剥がす暴風に揉まれながら亜里沙は、自らが把握しているものとは大きく違う現状について思索する。


 交渉役であるローレライ・ロスチャイルドがコロニーLibertaliaに辿り着いていない。

 交渉役の女が途中で何かに巻き込まれ、身動きの取れない状況へ追いやられた可能性もあるが、依頼人でしかない上に自分勝手な行動により危機に瀕した自らを助けに来た傭兵が戦う手段を持たない妻を1人で送り出すとは思えず、アリサはその考えを破棄する。


 そしてこのタイミングで現れた謀略者(フィクサー)という女。

 亜里沙が答えの出ない問答を繰り返す間に、2人を乗せたくすんだ銀色のバイクが戦場と化したLibertaliaへ突入する。


 かつては皮肉のような白を誇っていた不揃いの薄汚れたパワードスーツを纏う野盗(バンディット)、そして追い詰められつつあるコロニー防衛部隊。

 争いの匂いと炎を巻き上げるそこへウィリアムは、ハンドルから離した左手でガンホルダーからハンドキャノンを抜き出して弾丸を放つ。

 放たれた弾丸はライフルを構える野盗のヘルメットごと頭部を吹き飛ばし、黒ずんだ赤い水溜りを割れたアスファルトへ広げていく。


「いつ見ても不愉快だな、お前ら」


 そう呟いたウィリアムは自らに銃口を向ける野盗達の後方でロケットランチャーを構える男へハンドキャノンの弾を放つ。

 支えを失ったロケットランチャーは砲口を下に向け、吐き出された砲弾は野盗を巻き込みながら爆散する。

 熱波と破片を避けるように旋回するバイクはコロニー防衛部隊を置いて、より悪辣な襲撃を受けている地区へと向かう。


 先ほどの突出した部隊を除けば慎重かつ狡猾な布陣、実力者でなければ前線に出る意思さえ折られる悪辣な布陣。


「やってくれるじゃないか」


 吐き気を催すほどに不愉快な白の軍勢を視界に捉えながら、ウィリアムはバイカーズバッグに手を入れてハンドグレネードを取り出す。

 自らの足に軽く当たっているバイカーズバッグに生身で入れられていたソレを見た亜里沙は驚愕に目を見開くが、ウィリアムはそれに気付かずピンを抜いたハンドグレネードを敵部隊の中心に投げた。


 いつも通りだ、早く終わらせよう。

 轟音と共に訪れた衝撃波と飛び散る破片に晒されるソレに、胸中で吐き捨てたウィリアムは無慈悲にハンドキャノンを撃ち放つ。

 予定調和の戦闘、訪れる決定付けられた終わり。

 そんな敵の小隊を壊滅させながら進むウィリアムと亜里沙の前に、轟音と砂塵を撒き散らしながら1台の車両が割り込み、開かれた側面のハッチから女と男が顔を出した。


 ウィリアムは突如現れたその女に目を奪われ、その視線を受け止めた女は金糸のように美しい髪を手でなびかせ、不適な笑みを浮かべて口を開いた。


「お久しぶりですわね。ウィル」

「……そうなるね、ローラ」


 耳栓を外す亜里沙は自らの耳に届いたその言葉に驚愕し、言葉を失ってしまう。


 黒いナポレオンジャケット、フリルがあしらわれた白いシャツ、黒い細身のボトム、そして使い込まれた風合いを持つレザーグローブという装いを嫌味なく着こなすローズマリー・アロースミスと同様に美しい金髪の女。

 2人の前に突如現れ、不適な笑みを浮かべながらも殺意を孕ませた目線を亜里沙にぶつけてくるその女は間違いなく、交渉役として送り込んでいたはずのローレライ・アロースミスだった。


「しかし、随分と遅かったんですのね。小娘とのタンデムはそんなに楽しくて?」

「刺激的な日々だった事は否定しないよ、今だってこんなにもスリリングだ」

「――ッ! 随分と回る口ですこと、()()()甲斐があったというものですわ」


 ローレライは棘のある言葉をウィリアムに吐き捨てながら、亜里沙を睨む視線を強める。

 しかし亜里沙はその視線に負ける事なく、暗いブラウンの瞳で睨み返す。


 裏切られた。縋るしかなかったLibertaliaも、伴侶であるはずのウィリアムもその女は裏切ったのだ。

 憤りに思わず歯を食い縛る亜里沙を嘲笑うように口角を歪めたローレライは、事も無げにウィリアム達に背を向けながら言う。


「ウィリアム・ロスチャイルドが来たとあれば、この戦力では勝ち目はありませんわね。1度引き上げますわよ」

「いやだね、こんな上等な獲物放って置けるかよ」


 ローレライの傍らに居る灰髪の白いジャケットを羽織る男が、その決定に良しとせず前に出ようとする。

 しかしローレライはバイカーズグローブに包まれた華奢な手を、男を制するように伸ばした。


「邪魔すんじゃねえよ」

刀傷者(セイバー)、あなたこそわたくしの策の邪魔をしていましてよ」

「俺が負けるとでも?」


 邪魔をされた上に実力を安く買われていると感じた刀傷者(セイバー)と呼ばれた男――人鳳(ジンフォウ)(カク)は、金属のラインが肘から本来中指が在るはずのそこまで走る腕を突き出しながら地を這うような低い声で吐き捨てる。


「たとえ勝てたとしても、これ以上の損害を被る事も今後に影響を及ぼすような事も認められませんわ。あなたのつまらないプライドに付き合う気はなくてよ」


 そのローレライの言葉に郭は大きな舌打ちを1つこぼして、ウィリアム達に背を向けて車両の奥へと消えていく。

 しかしそのまま消え去ろうとする2人の瀬を睨みつけていた亜里沙は、腰に付けたグルカナイフの柄を握りながら吐き捨てる。


「逃がすとでも思うわけ? 彼の強さはあなたが1番知ってるはずだけど」

「もちろんですわ。そしてあなた方が何を優先しなければないのかも存じておりますの、早くしなければ間に合いませんよ?」


 美しい笑みと共に告げられたローレライの言葉に、亜里沙は悔しげに歯噛みする。

 辺りに散らばる死体のほとんどが野盗(バンディット)の死体であるとはいえ、コロニー側の防衛戦力が負傷者が居ないとは言い切れない。

 リベルタリア家の人間である亜里沙が負傷者を見捨ててしまえば、今度こそ収拾の付かない事になるのは言うまでもないのだから。


「ではウィルにリベルタリアのお嬢様、ごきげんよう」


 そう言って恭しく礼をして車両に消えたローレライを、亜里沙とウィリアムはただ見送る事しか出来なかった。

 亜里沙は瞳を憤怒を、ウィリアムは空虚な無感情をそれぞれの瞳に湛えながら。

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