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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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In To The Deep Unknown/Brew The Cheep A Known 1

 炎が燃えていた。

 その炎はとても大きく、悪辣なほどに全てを燃やしていく。

 コロニーBIG-Cを、道半ばで逝ってしまった人々を、人々の生きた証を灰燼に変えていきながら。


 人々の命を糧に燃えるその炎が小さな灯りにしか見えないほど遠くまで来た頃、アドルフは荒野にバイクを停めた。

 目に映る炎とは裏腹なほどに冷たい渇いた荒野の風をその身に受けながら、アドルフは端末で現在位置を確認する。


 幸運にも2人が逃げてきた方角はコロニーCeaster(ケステル)の方であった。

 都合が良い、とアドルフが深いため息をついていると、後ろに乗っていたローレライはバイクから降りる。

 纏っているスーツは炎や煙の汚れに穢され、風に煽られ続けた金髪は見るも無残なほどに乱れていた。


 やがてローレライは俯いたままアドルフの前に立ち、その頬をなんの前触れもなく叩く。


「……何故教えてくださらなかったんですの?」

「教えただろ? ローラ嬢ちゃんが呆気に取られて反応が遅れた事にまで責任は取れないよ」


 皮膚を打つ渇いた音、頬に感じる熱い痛み。

 それらに顔色1つ変えずにアドルフは淡々と言って見せた。

 もう仕事はここまでだと、付き合ってやるのはここまでだと言うかのように。


「ですが! あんな事になるというのでしたら!」

「油断するなと忠告もしたつもりだし、あの状況をローラ嬢ちゃんが理解するのにあれだけ時間が掛かったんだ。どっちが先でも結果は同じだったよ。大体あの状況を覆せる方法はなかったし、悪いけど俺にとって依頼人(アロースミス)以外どうでもいいんだ」


 再度打ち鳴らされる乾いた皮膚を打つ音、華奢な手に感じる痛みを伴う痺れ。

 それらにローレライは無意識にもう1発、眼帯の男を叩いてしまった事を理解した。

 理性的な部分では"お兄さん"にだって限界はありその中で自分を助けてくれた、決して全員を見殺しにしたかった訳ではない事くらい分かっていた。


 しかし感情的な部分がアドルフの言葉尻を捕まえて、負の感情からローレライを離さない。


 見放した、切り捨てた、見殺しにした。


 指先が冷え、胃が重くなり、足元が覚束なくなってくるような感覚に襲われる。

 紛れもなく眼帯の男はローレライを救った。

 分かりきったその事柄を胸中で繰り返すも、ローレライがアドルフに向けている感情はあまりにも歪だった。

 そんなローレライとは裏腹に、アドルフは文句1つ言うことなくローレライのビンタを受け入れた。

 その事実がローレライを更に負の思考へと落とし込んでいく。


 無理矢理依頼を押し付けて、勝手に期待を押し付けて、失敗すればそれを責めて。


 それはかつてのBIG-C、"お兄さん"を追い出した大人達と何も変わらない。

 気付かされてしまった醜い感情に鼻の奥がツンと痛くなり、ローレライはもう涙を我慢していることはできなかった。

 先に逃がした非戦闘員、残してきてしまった防衛部隊、離れ離れになってしまった両親。


 果たして彼らは無事なのだろうか。


 しかしいち早く逃げ出した自分達が、かろうじて空爆から逃れられた事実がそれを否定しようとする。


 未熟な自分が指揮を執ったのが悪かったのだろうか。

 恥も外聞もなく逃げてくれと請えば良かったのだろうか。

 目からは涙が溢れ出し、胸中にはもはや叶わないIFが湧き出す。


「……ごめん、俺の言い方が悪かった。頼むから、泣かないでくれよ」


 悔恨するように紡がれた言葉に導かれるように、ローレライは俯いていた顔を上げる。

 アドルフは悲痛な表情を浮かべ、その表情にローレライの脳裏に過去がフラッシュバックする。

 私兵集団の最初の襲撃、BIG-C防衛戦。知っている人間達の死体が転がっていた街道。

 その紛れもない地獄でローレライに手を握っていたのは、同じ言葉を掛けたのは当時は両目があった黒髪の傭兵だった。

 1人でBIG-Cを救う為に戦い、傷ついたまま放逐されたただ1人の傭兵だった。


「ごめん、なさい……!」


 嗚咽と共に言葉を吐き出しながら、ローレライはアドルフの体に縋りつく。

 樹脂が織り込まれたライダースジャケットからは特有の香りと、こびり付いた硝煙の香りがし、潜り抜けてきた死線の数を感じさせた。


 そしてアドルフは泣くじゃくるローレライの頭を黙って撫でていた。

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