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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
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Tread The Flood/Dread The Blood 1

 華美でありながら、下品さを感じさせないセンス。美しい造詣と品性を持つ調度品に囲まれた、屋敷の主の人柄を感じさせる応接間。

 フレアとヴァインの模様が走るカーペット、柔らかくも座りづらい事はない美しいベロアのソファ、そして彫刻を施されたテーブルには貴重品であるはずの紅茶が用意されていた。


 それらを嫌味なく輝かせるコロニーOdeon(オデオン)にある屋敷で少女はため息をつく。

 センス良く、それでいて美しく飾られたそこが落ち着かなくてしょうがないのだ。


 母にとって運命的であり、少女にとっても抗いようがないという意味で運命的だった出会いで手に入れた立場。

 生活レベルを一気に引き上げてくれたその立場ですら、手に入れられないだろう高級な調度品達に少女は参っていた。なんでもないように出された紅茶ですら、1級品と分かってしまえば無理もないだろう。


 押し付けられた責任と自制心がせめぎ合いを始めた頃、装飾が施された扉が開かれる。

 現れたのは見目麗しい金髪碧眼の貴婦人。

 調度品の数々に負けないどころか、纏う装飾品の1つ1つすら霞む美しさ湛えた女は少女を視界に捉えて柔らかな笑みを浮かべた。


「お初にお目にかかります、リベルタリア様。交渉屋アロースミスの主、ローズマリー・アロースミスと申します」


 恭しく頭を垂れた貴人というに相応しい風貌の女の態度に少女は慌てて立ち上がろうとするも、ソレを手で制されそのままソファに腰を落ち着ける。


「あ、アリス・リベルタリアと申します。今回はどうぞよろしくお願いします」


 貴婦人のオーラに圧されながらもアリスと名乗った少女はコロニーを出る前に練習した通りの挨拶をする。


 違うのだ、あまりにも違うのだ。


 やわらかな光を返す背中まで伸ばされた金髪。透き通るような青い双眸。1つ1つが高級なものであることは理解できるが、嫌味なくそれらを着こなして見せる貴婦人。

 それに比べ癖のある肩に届く程度の暗い茶髪、暗いブラウンの双眸。ルックスよりも丈夫さを追求した襟に端末を仕込まれた、長丈のくすんだカーキのフード付きミリタリージャケットにブラックのカーゴパンツという無骨な自分の装い。何もかもがあまりにも違うアロースミスの当主であるローズマリーに、アリスは精神的に圧されていた。


「そんなに畏まらないでくださいませ。コロニーLibertalia(リベルタリア)の急成長振りは皆が褒め称えていますわ」


 そいつらはどこのどいつだ。


 喉まで出掛かった言葉を飲み下し、アリスはぎこちない笑みを浮かべる。

 少女がここに来た目的は観光でも異文化交流でもなく、交渉の依頼なのだ。


「早速ですが、今回の依頼をお聞かせ願えますか?」

「は、はい。今回あたし達、コロニーLibertaliaがお願いしたいのは野盗(バンディット)との和平交渉です」


 アリスを代表者として送り出したコロニーLibertaliaは峡谷という自然の要害に囲まれ、有色無色問わずあらゆる移民を受け入れ作られた新興コロニーであり、その地盤はまだ完成していないどころか崩されてしまった。そのため武力での対抗は難しく、交渉屋アロースミスに依頼を出す事となり、アリスが遠路遥々寄越されたのだ。


「防衛戦力はいかほどで?」

「コロニーLibertalia(リベルタリア)首脳であるパトリック・リベルタリアが襲撃の際に殺害されてしまい、正直専守防衛も厳しいです」


 アリスは自らが転送した仕様書を表示する端末に目を通し思索にふけるローズマリーを見やりながら、義父を喪い泣き崩れていた母の事を思う。

 アリスは世の中に翻弄され続けた移民の子供だった。

 血の繋がった父と兄は紛争の中で消息不明となり、母と2人支えあいながらも必死に生きて来たが女親子が何の力も持たず生きるにはこの世は非情すぎた。


 少なかった資金がついに底をつき、母が体を売ろうとするのを必死に止めていたその時母とその男は出会った。

 パトリック・リベルタリア。

 有色無色問わず弱者の為のコロニーを興し、人々の為に生きることを誓い自由への先導者を名乗ったその男はアリスの母を見初めて自らの家に迎えた。

 幼い頃に生き別れた黒髪の父と兄を未だ忘れる事が出来ないアリスを置き去りにして、母はその男に夢中になり気づけば自らのあらゆる物が変わっていった。

 それでもパトリックが母を大事にし、母もそんな義父を愛している事を理解して居るアリスは、2人と優しく優秀な義兄の邪魔をしないように、それでいてコロニー首脳の娘としてみっともない振る舞いはしないよう気を付けながら生きていた。


 暗いブラウンの髪と瞳を持つ母と娘、灰の髪と瞳を持つ義父と義兄。

 たとえ歪な形だったとしても、あの日までは上手くいっていたのだ。

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