Please Baby Burn/Please Reighny Turn 2
再起動が終了し、シアングリーンのマシンアイを煌々と光らせながら剥離した影は、青い光を放つマシンを飾る纏わりつく悪夢の影と対峙する。
プライマル・シナーはそのコックピットが半壊しつつあるナイトメアズ・シャドウを破壊すべき敵として認識し、スプリット・シャドウはレーザーマシンガンの光弾をばら撒きながら大型スラスターを吹かして一気に距離を詰める。
その敵対者を青がかる視界で捉えながらアンジェリカはつまらなそうに嘆息をつき、最低限の機動で回避し足元に転がるコンテナの残骸をスプリット・シャドウへと蹴り飛ばす。
カタログスペック通りの速度で迫っていたスプリット・シャドウは突如現れた遮蔽物を粒子の刃で斬り捨て、かろうじて回避する。
ナイトメアズ・シャドウはマシンガンを追撃とばかりに撃ち放ち、スプリット・シャドウは無様であっても最適な回避行動を取るが光弾は容赦なく白い装甲を穿ち削っていく。
悪辣な銃撃から逃れるようにスプリット・シャドウは円を描くような軌道で柱の裏へと逃げて行くが、ナイトメアズ・シャドウはその円を両断するように直線に駆けて行きスプリット・シャドウの眼前へと飛び出す。
柱の影から現れたシャドウにスプリット・シャドウは自らの装甲と同色の弾頭を射出し、それがナイトメアズ・シャドウに搭載されている物と同じ発光弾と断定したアンジェはその発光弾ごとスプリット・シャドウをレアメタルの足で蹴り飛ばす。
弱すぎる、遅すぎる、無様すぎる。
生身であらゆる兵器と渡り合い、強力な力を持ちながらも振り回される事はなく、必要と在らば命を懸けるエイブラハムの記憶を受け継いだアンジェリカには、スプリット・シャドウの戦闘は鈍重であり単調だった。
しかしそれはエイブラハムの記憶であり、アンジェの物ではない。
前部のシートに身を預けていたエイブラハムの遺体が回し蹴りの慣性に抗うことなく、内壁に頭を強く打ち付ける。
「おとーさん!」
アンジェリカはその体をシートに引き戻そうとシートから身を乗り出すが、その一瞬が超高速戦闘をしている両者にとっては大きな隙だった。
青い視界に青白い粒子の刃を捕らえた瞬間アンジェリカは回避行動を取ったが、スプリット・シャドウのレーザーブレードはナイトメアズ・シャドウのマシンガンを切り裂いた。
爆破するマシンガンを悪あがきのようにスプリット・シャドウへ投げ付けながら、ナイトメアズ・シャドウは回避機動を取り続ける。
アンジェリカは振り回されていた。
エイブラハムの記憶にある機動兵器戦は後部シートに座る少女に配慮をしたものであり、前部シートに死体を傷つけないようにするものではなかった。
それを見誤ったアンジェリカは少ない武装の1つを失ってしまった。
スプリット・シャドウに最適化されただけのプライマル・シナーとは違い、アンジェリカはナイトメアズ・シャドウの使いこなす事が可能だが牽制用の武器がない事態は良いものとは言えなかった。
ふとアンジェリカは完膚なきまでに破壊されたカーマイン・センテンスに視線をやるが、こちらの思考を読まれていたかのように2丁のライフルは破壊されていた。
エイブラハムとカーマイン・センテンスとの戦いでコンテナは全て破壊されており、都合よく武装が得られるとは考えがたい。
振るわれた粒子の刃を白い装甲に覆われた合金の腕を前蹴りでいなす事で回避しながら、アンジェリカは思索する。
瓦礫を蹴り飛ばし続けた所で得られる成果はたかが知れており、牽制にもなりはしないだろう。
父ならどうしただろうか。
70人は居たであろう歩兵と3体の生体兵器を傷1つ負わずに葬り、機転を利かせて鳥形生体兵器の特殊武装を看破し、ワンオフ機の武装1つを生身で破壊して見せた父なら。
光弾の牽制を柱を盾にして回避しながら、アンジェリカは窮地を脱する為にエイブラハムの映像を探る。
レジスタンスに拿捕される前までは傷1つ負うことなく全てを解決し見せていたエイブラハムが、追い詰められていた局面。
電磁刃を展開した白銀の太刀を構えて、エイブラハムは赤い機動兵器という圧倒的な戦力と相対しながらこう考えていた。
二の太刀を振るえない以上、求めるものは一撃必殺。
求めるのは絶対的な勝利。
1つの狂いも許されない数式のように、それでいて答えに辿り着くのが必然であるように。
この場合の電磁刃の役割を担うのがレーザーブレード。エイブラハムはウィリアム・ロスチャイルドのような負けない戦闘よりも、勝機を引き寄せる戦闘を得意としていた。
その2つの事実があればアンジェリカには十分だった。




