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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
113/190

Please Baby Burn/Please Reighny Turn 1

 ずるり、と力強くも美しい手が力なく落ちていく。

 アンジェリカの青い双眸が捉えたのは端子に繋がれ右目から血を流す父、今確かに絶命した愛しい父だった。


 ナイトメアズ・シャドウに内蔵された申し訳程度の記憶媒体に流し込まれるデータを脈動を感じながら、アンジェリカはエイブラハムの体に縋りつく。

 出会った時にも着ていたカッターシャツはあの時とは違いエイブラハムの血で濡れ、父が褒めてくれたインナーと同じ色の瞳を持つ目の片方は端子によって潰されていた。


 代行者(プレイヤー)に敗北はないと言っていたではないか。


 震えだす体とは裏腹に灼熱に焦がされるように荒れる心中で、アンジェリカは曖昧な"声"に怒鳴りつけるが"声"は応えようとしない。


 1人は嫌だ。


 アンジェはそう願い、縋りつく。だが自信の傍らに寄り添い続け、文字通り命を懸けて守ってくれた父は死んだ。


 誰が殺した?


 怒りの業火が吹き上がる心中でそう呟き、ナイトメアズ・シャドウからの遮断していたデータをアンジェリカは受け入れる。

 火花を上げて触れればそのまま崩壊しそうな6脚の機動兵器と、キャットウォークの上で狂喜乱舞する男の姿を赤いマシンアイが捉える。


「やっぱりだ、やっぱり僕の赤が最強なんだ!」


 焦点の合わない灰色の瞳を爛々と輝かせながら、シューマンの声にアンジェリカは苛立ちを抱く。

 初めて抱えた憎しみに戸惑いながらも、アンジェリカがナイトメアズ・シャドウの操縦権を代行者(プレイヤー)から自らへ移行したその時、岩肌がむき出しなった施設の天井に青白い粒子の花が咲く。


『敵性戦力、急速接近』


 罅割れたマシンボイスがそう告げ、落下していく天井の破片に目をやると混じる不可解な白が目に付いた。

 その白は着地すると同時に胸部を真っ二つにされ、かろうじて形だけを保っていたカーマイン・センテンスを青白い粒子の刃で切り刻む。

 バラバラにされた赤い蜘蛛の死体が爆破し、アリーナ状の施設を轟音を挙げながら揺らす。


「なんだよ、お前」


 アンジェの脳に直接送られ投影される映像(ヴィジョン)に映るシューマンが、怒りに震える声でそう呟く。

 姿をあらわした白は自身のサイズに合わない武装を無理やり装備したオリジナル・ホワイトとは違うものであり、企業の機動兵器を全て網羅しはずの進行者ファシリテーターですら知らないソレ。

 それでも手に握った端末の情報はその機体に乗せられたAIを、かつて破壊されたはずのオリジナル・ホワイトに乗せられていたプライマル・シナーだと告げていた。


「僕の進行にお前のような奴は居ない! なんなんだよ、お前!」


 ナイトメアズ・シャドウを除けば最新の機動兵器は自らの最高傑作であるカーマイン・センテンスであり、それ以降も以前も作られた記憶のないその白にシューマンは怒鳴り声を挙げる。

 しかし白はその声を意にも介さぬように、それでいて気に障る塵芥を排除しようと猛禽の嘴ような銃火器をキャットウォークに向ける。


「ふざけるなよ、糞がァッ!」


 シューマンの怒鳴り声に応じるように、かろうじて形を保っていた設置型の銃器達が白に砲口を向け始める。


「進行にない事ばかりしやがって! くたばれクソッタ――」


 どう見ても銃撃など出来るとは思えない銃火器群に発射指令を出そうとしたシューマンは、放たれた青白い粒子の光に飲み込まれ蒸発する。

 呆気ないほどの死。

 エイブラハムがアンジェリカを守る為に殺して来たそれらとも比べ物にならないほど、あっさりと消え去ってしまった命から意識を外したアンジェリカは白を睨みつける。


 先鋭的で鋭角なデザインの白い機体、その頭部にシアングリーンの色を灯すマシンアイ、そして見覚えのあるレーザーマシンガンに、レーザーブレードに、発光弾に、高出力スラスター。

 それは紛れもなく、ナイトメアズ・シャドウだった。


『近距離戦機動特化型機動兵器、スプリット・シャドウと断定。AIプライマル・シナー再起動(リブート)開始を確認。再起動後の戦闘は避けられません』


 待ってやるとでも言ってるつもりなのだろうか。

 マシンボイスに告げられた言葉に心が急速に冷却されていくのをアンジェは感じる。

 愛すべき父を奪った咎人を奪い、あまつさえ父の模倣をするスプリット・シャドウと呼ばれた白。


 許すわけには、いきませんよね。


 バリトンの声で囁かれた父の言葉がアンジェリカの脳裏によぎる。

 その通り、許すわけにはいかないのだ。


『1人で戦われるおつもりですか?』


 冗談ではない、とアンジェリカは接続されたケーブルでAIに否と返す。

 父が居る。何もない自らに名前を与え、日々与えられていた苦痛から開放し、生き方を教えてくれた父が。


 だから、とアンジェは願い、そして求める。

 エイブラハムの刀捌きを、エイブラハムの戦いの軌跡を、何も求めず命を懸けて自らを守り抜いたエイブラハムの生き様を。


『承認。ユリウスシステム起動(ウェイクアップ)代行者(プレイヤー)エイブラハムのデータを再生。データ再構成(リライト)――"演目(プログラム):断罪者(パニッシャー)"開幕(オープン)


 無機質なマシンボイスがそう告げた瞬間、膨大なデータがアンジェリカの脳へと殺到する。

 かつてない脳への負荷に歯を食い縛りながら、アンジェリカは流れ込む膨大な情報を高速で取捨選択する。

 クロム・ヒステリアを捨て、ジョエル・マイヨルガを捨て、ウィリアム・ロスチャイルドを捨て、アドルフ・レッドフィールドを捨て、それらの先にある”答え”を、エイブラハム・イグナイテッドを作り上げるように。


 ――幸せになりなさい、アンジェ


 今際の際に父が遺した言葉を脳裏にリフレインさせながら、アンジェリカは父の影を作り上げる。

 父となってくれた彼が愛してくれた、この生を愛してみせるから、と。絶対に幸せになるから、と。


 その瞬間、赤みがかっていたマシンアイからのヴィジョンが青に変わり、全てが書き換えられていくような、脳を焼かれているような感覚と共に現れる解放感が訪れる。

 アンジェリカを縛り付けていた束縛感が消え、父が自らに向けてくれた愛情の暖かみがが広がっていく。


『グ…ド…ック、断罪者(パニッシャー)


 そう言いながらナイトメア・ソウトと名づけられたAIは、生まれるべくして生まれた断罪者(パニッシャー)の幸運を願いながら消滅していった。

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