Loving Closer/Coming Crawler 6
赤いマシンアイが捉えたカーマイン・センテンスの戦闘機動をディスプレイで確認し、エイブラハムは背筋を凍りつかせる。
攻撃は? 装甲の薄いナイトメアズ・シャドウでは、良くて相打ち悪くて犬死だ。
防御は? 腕の武装が破壊されてしまえば、対抗手段を持たないシャドウでソレをやるのは命取りだ。
回避は? 機体性能の差を0にするほどの力量差があるカーマイン・センテンスと、自動捕捉の機能が付いた無数の銃口から逃げるのは不可能だ。
複数思考が挙げる手段をことごとく却下しながらも、エイブラハムが手段を選択しようとしたその時カーマイン・センテンスの握るライフルがグレネードキャノンへ弾丸を吐き出した。
何をしているのか。エイブラハムが状況を飲み込めない間にもカーマイン・センテンスは一気に銃火器群との距離を詰め、端からライフルで穿ち、4本の足で踏み潰していく。
2つ目のグレネードキャノンが破壊された音でエイブラハムはようやく我に返り、柱の影を滑るようにして銃火器群との距離を詰める。
エイブラハムの脳裏によぎるのは演目:終末劇の始まりだった。
殲滅者ミリセント・フリップは復讐者との戦闘を邪魔され、彼との再戦を望み復讐者を献体として企業に提供した。
そこから始まる復讐劇によりミリセントは命を落とす事になったが、ミリセントは復讐者と再戦を果たすという望みは叶えられた。
その事実を知っているエイブラハムは偽者とは言えミリセントに戦うべき強者と認められたような気がして気分が高揚し、それを察知したアンジェリカによって苛立たしげに蹴られるシートの衝撃に苦笑を浮かべた。
乱雑でかつ悪辣な動きで銃火器群を引き付けながらそれらの数を減らしていくカーマイン・センテンスに翻弄されているガトリングをシャドウはレアメタルの足で踏み潰し、こちらに反応し始めるそれらを青白い粒子の刃で斬り捨てていく。
最悪と呼ばれた赤の殲滅者が撃ち抜き、最強と呼ばれるはずだった黒の代行者、終焉者が斬り捨てる。
圧倒的な暴力に銃火器群はなす術もなく鉄塊となり果てていく。
「これでおしまい、クランクアップでしたっけ?」
カーマイン・センテンスのライフルの弾丸がコンテナを撃ち抜き、シャドウが最後のグレネードキャノンの砲身を切り裂き、轟音が場を支配する。
「ふざけやがって……AIになってまで使い物になんねえのかよ、クソ女ァッ!」
爆炎に照らされた両者を見ながら、シューマンが怒りに震える拳をキャットウォークの手摺りに叩きつけながら怒鳴る。
貴重な砲弾を使ってまで援護をしてやったというのに自らの赤はそれに応える所か、それらを撃破すべき影と共に破壊してしまった。
生前からそうだった。
自らの最高傑作を眼下に見やりながら、シューマンは胸中で毒づく。
ミリセントはほぼ完成に近い試作段階のクリムゾン・ネイルを撃破されかけ、2度目には一度も露見した事のないウィークポイントを看破され撃破された。
そんな殲滅者が企業最高峰の実力を持った機動兵器乗りである事実に、シューマンは嘲笑を浮かべた。
自らの知識と技術を詰め込み、醸造し、洗練された作品を使ってレアメタルを使わなければ動作も出来ない作り手のリアリティのない設計の元作られたオリジナル・ホワイトやナイトメアズ・シャドウはおろか、歩兵でしかない復讐者ですら勝てない人間が企業最高峰などとはおこがましい。
そう考えたヤニック・シューマンは回収されたミリセントの記憶から自分の赤にふさわしい記憶を抽出してAIを作成し、企業は進行者としての役割を果たすことでその計画に加担した。
多数の人間の記憶を掛け合わせた終焉者は失敗作であり、1から作り上げた破壊者クロム・ヒステリアと吹聴者グルーミー・セルフィッシュは最適以上の成果を挙げる事はなかった。
それゆえに期待していたAIに裏切られた進行者は進行の妨げに憤怒していた。
しかし、そんな事を知らない赤と影は同色のマシンアイでお互いを視界に捉える。
「もう邪魔者は居ません。ダンスのお相手、受けていただきますよ」
エイブラハムがそう言うなりカーマイン・センテンスは黄色の装甲に覆われたサルファー・エッジのライフルと真っ赤なサイトを持つライフルをナイトメアズ・シャドウへ向け、シャドウは猛禽の嘴のようなマシンガンと夜鴉の黒羽に写る月光のような光を放つブレードを構える。
コンテナから銃身をせり出す焼かれたガトリングの砲身が落ちたその時、両者が動いた。
赤の宣告は下され、影は悪夢を率いて疾駆する。
青白い粒子の光弾をカーマイン・センテンスがコンテナの残骸を黄色の装甲を纏うライフルで吹き飛ばして消滅させ、合金の弾丸の合間を縫うようにシャドウは距離を詰めていく。
マシンガンの光弾を全て防がれている訳ではないが、致命的な物だけはどれだけ不様でも回避する赤の戦闘センスに舌を巻きながら、エイブラハムは必殺の一撃を刻むべく青白い炎を放ちながら駆ける。
高速の影を操りながらエイブラハムの脳裏によぎるのは愛した女との過去。
AIがオルタナティヴで作られた肉体に定着するのに時間が掛かったエイブラハムの世話をし、生き残る為の術を教え、挙句機動兵器の扱いまで教えられた日々。
彼女の傍から離れる事だけが辛かった幸せだった日々。
殲滅者の名を関する女に美しいと褒められた赤い瞳が、その幻影を間近に捉えたその時ソレはナイトメアズ・シャドウが切り裂いたグレネードキャノンの砲身をシャドウに向かって蹴り上げた。




