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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
109/190

Loving Closer/Coming Crawler 4

「まさかライフルの1つを破壊されるとは思いませんでしたよ。流石は終焉者(クローザー)というところでしょうか」


 力なく床に倒れ伏すエイブラハムには遥か上空になってしまったキャットウォークからシューマンが面白そうに言う。


「ハッキリ言って、あなたを甘く見ていました。屍食者(スカヴェンジャー)にあれだけの時間を掛けるのだからカーマイン・センテンスに掛かれば一瞬だ、とね」


 楽しそうに語り続けるシューマンの声の裏で、重厚な金属の稼動音がエイブラハムとの距離をゆっくりと詰め始める。

 エイブラハムが目を開けば、そこには愛した赤とは似て非なる光を放つ赤があった。


 お前じゃない、自らが望んだ赤はソレではない。


 震える腕でエイブラハムは白銀の太刀をその赤へ突きつける。


「おや、往生際の悪い。あなたの切り札は既に見切りました、もう一度その電磁刃(プラズマブレード)を展開されたとしても僕の赤に負けはありません」


 その嘲りの言葉に心まで折られてはなるまいと、白銀の太刀を握り直した右腕に激痛が走る。

 オルタナティヴは人の外見から離れていくほどにその性能を向上していく技術であり、終焉者(クローザー)という役割の関係上見た目と性能の両方を取ったエイブラハム程度では限界があった。


 しかし、それでも終われないのだ。

 この終わりはあの子達を放ってまで迎える価値はない。

 この終わりは誰も幸せにはしない。

 この終わりでは、ミリセントに顔向けできない。


 腰から外した鞘を杖代わりにして、エイブラハムはゆっくりと立ち上がる。

 1つ1つが常人であれば意識を保つ事すら不可能であろう激痛を受け入れながら、白銀の太刀を片手で正眼に構える。


「どうやら紛い物はあなただったようですね。もう終わりにしましょう。あなたは終焉者(クローザー)であり紛い物(ディスオルタナティヴ)でしたが、それだけの話です。こういう時はなんて言えばいいんでしょうね? そうだ、クランクアップなんてどうでしょう――クランクアップだ、消えろ紛い物(ディスオルタナティヴ)


 ペラペラと楽しそうに紡がれたと同時に巨大なライフルのトリガーが引かれそうになったその時、アリーナ状の施設の壁が青白い光によって吹き飛ばされる。

 カーマイン・センテンスはいち早くそれに反応し、そちらへ銃口を向ける。だが赤い軌跡を残す高速の影を捉える事は出来ず、影は高速で移動していた運動エネルギーを逃がす事なくレアメタル製の足でカーマイン・センテンスは後ろ回し蹴りを叩き込まれてしまう。


 吹き飛ばされ、地面を転がされたカーマイン・センテンスは受けた衝撃によってAIの一時的にフリーズしたのか、そのまま動きを止めてしまった。

 そして敵対する赤を気に掛ける様子もなく影――ナイトメアズ・シャドウの背部からコンテナのようなコックピットがせり出してハッチが開く。


 そこから覗き込んでくる顔はエイブラハムが会いたいと願うと同時に、自らが身を置く戦いから遠ざけたいと思っていた存在だった。


「アン、ジェ……」


 回復を始めたエイブラハムの声帯は愛しい名前を紡ぐ。

 何故ここに居るのか、どうしてそんなに自分の体に負担を掛ける真似をするのか。


 エイブラハムの胸中に湧き出ては消えていく問い掛けに気づく様子もなく、ナイトメアズ・シャドウは白銀の太刀を鞘に戻したエイブラハムの前に跪いてコックピットからワイヤーを垂らした。

 最大限に踏み込まれた意識内のアクセルによって緩和されているのにも拘らず、その身を焼く激痛に耐えながらワイヤーによってエイブラハムはコックピットまで引きずり上げられていく。

 そしてコックピットで相対した2人の姿は散々なものだった。


 エイブラハムは無事なところを探すほうが難しいほどに傷つき、純白だったロングコートは血で染め上げられていた。

 アンジェリカももここに来るまでに大分無茶をしたらしく、トラッカージャケットから覗く白い腕にはあざが出来ていた。


「どうして、こんな無茶をしたのですか?」


 自身の数え始めたらキリのない症状を無視して問い掛けられたエイブラハムに、アンジェリカは不満げに口を尖らせて小さな指でエイブラハムの左胸を指す。

 今でこそそこには何もないが屍食者(スカヴェンジャー)との戦闘の前、そこにはトレンチコートにアタッチメントで付けられていた端末があった。


 つまりアンジェはエイブラハムの端末にアクセスを掛け続け、怪鳥によって破壊され接続が途切れたエイブラハムを追ってここに来たという事である。


「……ちゃんと寝てなきゃダメじゃないですか」


 あまりにも場違いな言葉を吐き出した自分に苦笑を浮かべつつ、それがアンジェリカとシャドウを繋ぐネットワーク形成の応用である事を知らないエイブラハムは娘の優秀さに舌を巻いた。

 しかし、エイブラハムが自身の無力さからアンジェリカをまた戦いに巻き込んでしまったのは紛れもない事実である。


「メリッサの元へ帰って欲しい、と言っても聞いてくれませんよね?」


 その問い掛けに既に接続されているアンジェはケーブルを揺らしながら迷わず頷き、ナイトメアズ・シャドウの操作を代行者(プレイヤー)に移行したモードに変更する。

 コックピット内に走るラインに赤い光が灯り、たった2回の戦闘で最強の切り札になってしまったナイトメアズ・シャドウに嘆息を漏らす。


 それでもシューマンはエイブラハムとナイトメアズ・シャドウを一網打尽に出来るこのチャンスを見逃すとは考えられず、いつまでも逃げ続ける事も出来ないだろう。


「力を、貸してくれますか?」


 情けない事だと理解しながらもエイブラハムは、真っ直ぐアンジェリカの青い双眸を覗き込んでそう懇願する。

 戦いを避ける事はもう不可能であり、なによりエイブラハムは愛しの赤を冒涜する偽りの赤から目を背ける事は出来なかった。

 アンジェはその願いに答えるように接続されたケーブルを介して、AIを呼び出す。


『戦闘システム、スタンバイ。ようこそ(ウェルカム)代行者(プレイヤー)エイブラハム』


 マシンボイスがコックピット内に響くと同時に、閉じられ格納されるコックピットの揺れでアンジェが転ばないように、後部シートにアンジェを座らせてからエイブラハムは自らに割り当てられたシートに座る。


「早く終わらせてしまいましょう。早く帰らなければメリッサのお言葉を聞き終える頃には昼食時になってしまいます」

『イエス・サー。交戦(コンバット)開始(オープン)。グッドラック、代行者(プレイヤー)


 そして、エイブラハムの終末劇(ラストステージ)の幕が開けた。

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