Loving Closer/Coming Crawler 3
ならば、とエイブラハムは腰に付けられた白銀の太刀を見やるがまだ早いとその考えを保留する。
エイブラハム以外の歩兵を知らないがために歩兵という存在を舐め切っているシューマンと、相手を弄び尽くした挙句殺すというミリセント。企業の尖兵らしい思考を持ったカーマイン・センテンスに、白銀の太刀の電磁刃が有効なのは明らかだ。しかし1度使ってしまえば充電に時間が掛かってしまう以上最後の手段にせざるを得ない。
エイブラハムはフルアクセルによってリミッターの切れた豪腕でスローイングナイフを機動兵器の弱点、脚部の間接部に投げ付けるが新たに足された装甲がソレを阻む。
深々と装甲に突き刺さるもダメージには直結しなかったナイフに舌打ちを1つ漏らし、エイブラハムは柱の影を移動していく。
企業離反前に見たミリセントの死亡通知に書かれていた復讐者がやってのけた、装甲を削りきりシャフトを破壊するという荒業は復讐者が所持するハンドキャノンがあったからこそ出来た所業であり、レジスタンスに与えられた粗悪なライフルで真似る事は不可能である。
結局のところエイブラハムは、生身でカーマイン・センテンスの懐に飛び込むしかないのだ。
「勝負といきましょう」
脳裏に浮かんでは消える映像の中で、エイブラハムは復讐者対試験段階のクリムゾン・ネイルを駆るミリセントの映像を引きずり出す。
どれだけ原始的な戦い方ではあっても、そのやり方の有用性は復讐者が証明済みだ。
足りない物はあるが、そこは復讐者にはない自らの肉体でフォローする事とし、エイブラハムは自らを見失ったカーマイン・センテンスにライフルを投げ付ける。
回転しながらも強かに胸部を打つライフルにカーマイン・センテンスが気付くも、時は既に遅く粗悪な作りのライフルのマガジンにオルタナティヴで作られた腕で投げられたスローイングナイフが突き刺さりライフルの破片と内包する弾丸をばら撒きながら爆散する。
エイブラハムはクリムゾン・ネイルにライフルを投げ付け、それをハンドキャノンで爆破するという復讐者のやり方を模倣したが、それは奇しくもクリムゾン・ネイルが撃破された時と同じく、一時的にとはいえカーマイン・センテンスのマシンアイを殺す事に成功する。
装甲を穿ったライフルの残骸が挙げる煙によって視野が狭くなったカーマイン・センテンスに、エイブラハムは白銀の太刀を鞘から抜きながら一気に駆け寄る。
指先でダイヤルを回された白銀の太刀はヴァインの装飾を展開し、やがて煌々と光を放ち始める。
二の太刀を振るえない以上、求めるものは一撃必殺。
カーマイン・センテンスと隣接する柱を卓越した脚力で蹴り、エイブラハムは電磁刃を展開した白銀の太刀を上段に構えて飛び掛る。
「シッ!」
細く吐いた息と共にエイブラハムは枝のように展開され電磁の刃を纏う白銀の太刀を振り抜くも、エイブラハムも、エイブラハムの中の復讐者の断片も知らない殲滅者行動によってそれが阻害される。
マシンアイの一時的に殺されたカーマイン・センテンスが腕部を無茶苦茶に振り回し、飛び掛ったエイブラハムを偶然にも壁へ叩きつけたのだ。
振り抜かれた白銀の太刀によって右腕部に装備されていたライフルを破壊出来たものの、壁に叩きつけられた際に損傷した肉体に嘆息をつく。
こんなにも辛かったのか。
苦痛の飲み込まれそうになりながらも、自らが壁に叩きつけたガルムを思い出しエイブラハムは自嘲するような笑みを浮かべる。
白銀の太刀はエネルギーを使い果たして展開前に戻り、ライフルは爆破し、スローイングナイフは壁に叩き付けられた際に全て破損してしまった。
元々少なかった切り札を全て切った結果がこれだ。
ヒューヒューと音を立て始めた呼吸に気管支がやられた事をエイブラハムは悟る。
血の一滴から体中に走る神経まで全てがオルタナティヴで作られたものとはいえ、機動兵器の豪腕で叩き付けられて生きているだけでも奇跡なのだ。




