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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
107/190

Loving Closer/Coming Crawler 2

「僕が進行者(ファシリテーター)としての役目を遂行する代わりに、企業は僕の赤を完成させた。企業から出て行く際にあなたが乗っていたナイトメアズ・シャドウの戦闘のデータも、殲滅者(アナイアレイター)の記憶から抽出した記憶から組んだ思考ルーチンを落とし込んだAIもインストール済みです」


 シューマンのその言葉が新鮮な懐古という不思議な感傷に浸っていたエイブラハムを現実に引きずり出す。

 無意識に意識内のアクセルが1段階踏み込まれたのをエイブラハムは、自然と右手が触れていた白銀の太刀の冷たい柄の感触に気付かされた。


「最強を誇っていたオリジナル・ホワイトは復讐者(アヴェンジャー)に撃破された。紛い物(ディスオルタナティヴ)、僕の赤が最強であること証明する為に死んでもらいます。あなたさえいなければナイトメアズ・シャドウなど鉄の棺にすぎない」

「それがどうした、クソッタレ」


 自然と出てきたスラングに戸惑うこともなく、エイブラハムの感情は憤怒に支配されていく。

 エイブラハムをキャットウォークから見下ろす男は、殲滅者(アナイアレイター)の記憶から抽出した記憶から組んだ思考ルーチンを落とし込んだAIもインストール済みだ。確かにそう言っていた。

 それは望む限り最上級の強者と戦い、その中での自らの死を望んだミリセントを冒涜したという事だ。


 許してはいけない、生かしておくわけにはいかない。

 不快感に支配されていたエイブラハムの胸中は静かで、それでいてなおかつ灼熱の怒りが満ちていく。


「私の生まれなど、どうでもいい。しかし、ミリセントの死を冒涜する事と、あの子に手を出す事を許すわけにはいかない」


 ミリセント・フリップの傍らに居続ける事を選び、アンジェを守り抜くと誓ったのは誰でもない、自らなのだ。

 クロム・ヒステリアでも、ジョエル・マイヨルガでも、ウィリアム・ロスチャイルドでも・アドルフ・レッドフィールドでもない、エイブラハム・イグナイテッドなのだ。


 ミリセントというたった1人の女を愛し、その女に形の違う愛情を返され。

 アンジェという何もかもを奪われた少女を名を与え、生きるよすがを与えられ。

 レティという唯一の家族の裏切りに心を折られた女を抱きしめ、家族の在り方を教えられた。

 この感情と記憶は誰の物でもない、誰にもくれてやりはしない。


 それらはエイブラハム・イグナイテッドだけのものなのだ。


「ミリセントの望まぬ生も、アンジェの悪夢も私が終わらせましょう」


 思えば、ずっと自分は間違え続けてきたのだとエイブラハムは深く息を吸う。

 命の意味を与えてくれたミリセントに縋り続け、その傍らに在ろうと追い縋り続けた。

 エイブラハムはそうすべきではなかったのだ。

 エイブラハムは、ミリセントの帰る場所であれば良かったのだ。

 縋りついて共に在るのではなく、ミリセントが必要とした時に傍らに寄り添えばそれで良かったのだ。

 しかしエイブラハムは間違いを犯し、ミリセントはこの世を去った。


 ならばこそ、だからこそ、エイブラハムに出来る事はった1つだけ。

 彼女の命の答えを侮辱する偽りの朱を破壊して、この悪夢を終焉に導く事。


 |比類なき白《Disaltanative》ではなく、|ただのまがい物《This Altanative》だった自分が少女達に報いるには、この悪夢を終わらせる以外ないのだから。

 欠けた破片を集めるように、こぼれたミルクをカップに戻すように、エイブラハムは意識内のアクセルをフルまで踏み込む。


 対復讐者級戦闘態勢、終ぞ使われる事がなかったクロム・ヒステリアの最大警戒態勢に移行した意識が神経をジリジリと焼け付くような痛みに犯されていく。


「足掻けばいい、紛い物(ディスオルタナティヴ)


 発露する終焉者(クローザー)の殺気に怯えるも、シューマンは退く必要はないと自らに言い聞かせる。

 最強と言われていたオリジナル・ホワイトは搭載したAIごと復讐者に撃破された今、最悪と呼ばれた機動兵器乗りである殲滅者(アナイアレイター)のAIを搭載したカーマイン・センテンスを越える機動兵器など存在しないのだから。

 高揚する進行者ファシリテーターの意識に呼応するように、赤のマシンアイが光を灯す。


進行者(ファシリテーター)、カーマイン・センテンス。進行を開始する」


 そのシューマンの言葉と同時に、赤と白は弾かれたように行動を開始する。

 赤は白を殲滅せんと弾丸をばら撒き、白は偽りの赤を終わらせんとその時を待つ。

 等間隔に立てられた柱に隠れながらエイブラハムがライフルとスローイングナイフで応戦するも、大幅に異なる口径の弾丸に吹き飛ばされ、当たっても装甲を抉る程度のそれが必殺の物になりえない事は明らかだった。



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