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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
105/190

Kneel A Craze/Feel A Blaze 5

 エイブラハムは自らの足音と、白銀の太刀から聞こえる歩を進める度に巻かれるギアの音だけが響く真っ直ぐな暗い通路をただ進んでいた。

 ストロムブラードと接触という目的を果たす事は出来たが、あの老人が裏で手を引いてないという事はあの襲撃の首謀者は別の人間であり、アンジェの身の安全を考えるのならば殺さない理由はない。

 出番を待ちかねるようにぎらつく白銀の太刀を見やりながら、エイブラハムは一向に尻尾を掴ませない進行者(ファシリテーター)という役者について思考をめぐらせる。


 進行者(ファシリテーター)は歩兵以外の戦力を重視して、なおかつトレンツ・コルデーロやグレン・ストロムブラードの扱い難い人材を使っていた。

 人身掌握と個々を生かすやり方において最高峰の実力を誇る、謀略者(フィクサー)ですら登用をやめたコルデーロを使っていた事実がエイブラハムを疑惑から解き放とうとしない。


 もしコルデーロのサルファー・エッジを戦力して重視していたのならば、ソレを撃破された今、ここに留まる理由も吹聴者(ジバー)にこのアジトの情報を漏洩させる必要もなかったはずなのだ。


 そして配役のあるの精鋭でしか詳細まで開くことが出来ないファイル形式で保存されていたはずの施設見取り図。

 誘き寄せられているのをエイブラハムは理解していたが、ナイトメアズ・シャドウを得る為にしては得る為の作戦にしては随分とずさんな物に感じていた。

 すぐ熱くなり周りが見えなくなるコルデーロに、対機動兵器戦において戦力になりえない屍食者(スカヴェンジャー)、装備の足りない歩兵達。

 まるで捨て駒でしかないようなそれらの扱いをエイブラハムが糾弾する事はないが、その理解できない思想に気味の悪さを感じていた。


 そしてふと違う考えがエイブラハムの脳裏をよぎり出す。

 もし進行者(ファシリテーター)の目的がナイトメアズ・シャドウを手に入れる事ではなく、ナイトメアズ・シャドウの撃破だとしたら。


 しかし、それでは全ての過程が破綻してしまう。

 ナイトメアズ・シャドウという最新鋭にして最速の機動兵器を恐れるのは理解出来る。だが歩兵ではなく機動兵器等のその他の戦力を重視しているのだとしたらシャドウを撃破してしまう理由も、曲がりなりにもワンオフ機であるサルファー・エッジを捨て駒にする意味もなく、何より量産型の機動兵器が一向に現れる様子のない現状がこの組織の戦力の層の薄さを物語っている。

 何よりアンジェリカからエイブラハムを離すのは、演目(プログラム)終末劇(ラストステージ)の筋書き通りだったとストロムブラードは言っていた。


 しかしエイブラハムが知っている演目(プログラム)終末劇(ラストステージ)は、復讐者(アヴェンジャー)、ウィリアム・ロスチャイルドを最高の形で葬るための演目であり、エピローグなどなかったはずなのだ。

 これ以上は不毛か、とエイブラハムは頭を振って取り留めのない思索を放棄する。

 ただ思考を放棄するというのは人間として終わっているが、有用性のない思考で判断を鈍らせる方が愚かである。


 どちらにせよ、対峙すればどちらかが葬られるまで戦うしかないのだ。

 そう嘆息したエイブラハムは改めて自分のひどい有様に苦笑してしまう。

 純白だったロングコートは酸と返り血によって赤黒く染まり、胸につけていた端末はもはや見る影もない。

 どうやって連絡を取るべきか、とエイブラハムは脳裏に白銀の髪の少女、そして裏切り、裏切らせてしまった女をよぎらせる。

 エイブラハムは家族や仲間に裏切られたメリッサを守る素振りを見せながら、アンジェリカを守る為に彼女を利用しているのだ。


 自分達の状況を理解させるように尋問に応じたのは。

 アンジェリカが寝室で安静にしているにも関らず、イーノス達を家に入れさせたのは。

 イーノスの言葉がメリッサを傷つけると理解していながらも止めなかったのは。

 全てはアンジェリカのために怒ってくれた優しい彼女を手中に収めるためだった。


 面倒見も器量も良いメリッサはアンジェリカの良い姉となり、母となり、アンジェリカにとっての命の使い道となるだろう。

 そうして2人は支え合いながら生きていけるだろう。


 たとえ、そこに自分が居なくても。

 それでも、まだエイブラハムには2人に未練があった。

 義務でも責任でもない、ただ共に在りたいとという未練が。

 そしてまだ自らの終わりを見つけられていない、という未練が。


「必ず、帰りますから」


 屍食者(スカヴェンジャー)と相対した部屋とは比べ物にならない広さのアリーナ状の室内に佇む、見覚えのある男とかつて焦がれた赤を赤い双眸で捉えながらエイブラハムはそう呟いた。

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