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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
103/190

Kneel A Craze/Feel A Blaze 3

「どうせなら可愛らしい生き物を作って欲しいものです」


 撃ち抜かんと放ったスローイングナイフを、大きな羽の高速移動で回避する巨鳥を見やりながら、エイブラハムは毒づく。

 白銀の太刀をちらつかせ、飛び道具で牽制しても出してこない、存在している事以外何も知らない切り札。

 それが脅威である事は事実だが、それに恐怖して動けなくなる事は最も避けるべき悪手である。


 何があってもエイブラハムが生き残れるよう、ミリセントが刷り込んだ言葉に従いエイブラハムは白銀の太刀を自らの頭上に投げる。

 エイブラハムは巨鳥の向かって左の翼に左手に握っているライフルの弾丸を放ち、向かって右の翼に右手に取ったスローイングナイフを投げ付け、駄目押しとばかりに落ちてきた白銀の太刀の柄を右手で掴み、エイブラハムは一気に距離を詰めた。


 前進すれば翼は穿たれ、後退するにはライフルの弾丸は速い。もし他の回避方法を取ったとしても行動パターンが掴める。

 しかし、エイブラハムと同じくオルタナティヴ処置により高速化した戦闘思考を持つヴェズルフェルニルは、切り札を切る事でその状況を回避する。

 ヴェズルフェルニルはより回避何度が高いライフルの弾丸に向かって、甲高い声と共に何かを吐き出す。


 巨鳥の真下付近まで距離を詰めていたエイブラハムはライフルの弾丸を退け、飛散するソレを飛び退る事で回避する。


「酸!?」


 地面に転々と小さなクレーターを作ったソレにエイブラハムは驚愕しながらも、スローイングナイフを回避して追撃を掛けてくるヴェズルフェルニルをライフルの弾丸で牽制する。

 企業支給のエイブラハムのトレンチコートがいくら防弾防刃性が高いとはいっても、化学兵器じみたソレにまでは同じ効果は期待出来ない。

 しかし、それは同時にそんな物を期待せず、踏み込んで斬り捨ててしまえばいいという事でもある。


 展開に時間が掛かるが車両程度ならば斬り捨てられる電磁刃(プラズマブレード)を使うことなく、巨鳥を両断する方法は既にエイブラハムの脳裏で燻っていた。


「可愛い娘が待ってるんです。すぐに終わらせましょう」


 そう言ってエイブラハムはライフルの弾丸をばら撒きながら、一際大きい岩陰に隠れて岩肌の露出する壁に白銀の太刀を突き刺して自由になった右手をトレンチコートの右袖から引き抜く。


 チャンスは1回きり、しかし失敗をしなければいいだけだ。

 そうエイブラハムが胸中で呟いた瞬間、甲高い泣き声と共に巨鳥がエイブラハムをロックオンする。

 常人よりも遥かに出来の良いエイブラハムの目が巨鳥の切り札を捉えた瞬間、エイブラハムは血染めのロングコートをヴェズルフェルニルの顔を覆うように投げ付ける。


 吐き出された酸はロングコートに大きな穴を開け、ただの残骸と化したロングコートを首を振るようにヴェズルフェルニルは嘴で払いのける。

 しかしそれはオルタナティヴの体を持ち、シャドウという超高速の機動兵器を操り刹那の間に死をばら撒くエイブラハムに対しては決定的な悪手でしかない。


 ヴェズルフェルニルの下に潜り込んだエイブラハムは、その巨大な体躯を見上げるように白銀の太刀を構え、そのまま持てる全力で突き上げた。


 そして甲高い不愉快な断末魔が室内を染め上げる。


 エイブラハムはそれによる不愉快さを隠そうともせず、無慈悲に白銀の太刀を振るってヴェズルフェルニルの体を岩肌に叩きつける。

 ガルムとは違う液体が巨鳥の体から染み出し、そしてソレが自らの体を溶かしていく苦痛に断末魔を挙げる事を止めないヴェズルフェルニルの頭部を白銀の太刀で刺し貫きエイブラハムは絶命させる事で黙らせた。


「まったく、手痛い出費です」


 胸部に付属された端末も何もかもを溶かされたロングコートの残骸を見やりながら、エイブラハムは毒づく。

 マップデータは頭に入ってるからいいものの、買い戻す事が出来ないデータ達にエイブラハムは思いを馳せる。

 しかし、命には代えられないのだ。


 気を取り直してエイブラハムはライフルの弾丸すら溶かす酸にも負けず、刃こぼれも反った様子もない白銀の太刀をヴェズルフェルニルの死体から引き抜く。


紛い物(ディスオルタナティヴ)、結局お前は期待はずれだった。やはり実験は失敗だ」

「他に言うことはないんですか?」


 作品が撃破されたにも関わらず淡々と自らに毒を吐くストロムブラードに、エイブラハムは呆れの感情を多分に含ませた声でそう吐き捨てる。


「敗者の言葉に価値はない。それも失敗作に負けたとあれば、な」

「そうですか、なら早く終わらせてしまいましょう」


 自らの嘲りの感情以上に、自嘲の色を滲ませたストロムブラードの言葉にエイブラハムは、老人の痩せ細った首に白銀の太刀の刃を当て、与えられた流儀に則った終わりを告げる。


「グレン・ストロムブラード、さようなら」


 煌めいた銀光は赤い飛沫を上げ、1つの命を終わらせた。



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