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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
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Kneel A Craze/Feel A Blaze 1

 純白のロングコートを初めとした企業支給の戦闘服に身を包んだエイブラハムは、岩肌が剥き出しとなった暗い施設内を侵攻していく。

 ロングコートの胸元にはアタッチメントでつけられた端末がライトとなって行く道を照らし、そして敵を呼び寄せていた。


 エイブラハムの予想通り、侵攻ルートには企業残党の私兵が配置され、その道すがらには眼球のない死体が転がっていた。

 訝しむように眉間に皺を寄せたエイブラハムは背後にスローイングナイフを投擲し、重いものが地面に叩きつけられる音を聞きながら考える。

 記憶の販売を担っていた企業が消えた現在、記憶は金になるようなものではなく、余計な殺戮は面倒ごとを招き寄せる撒き餌となりかねない。

 その危険を冒してまで、わざわざ殺人を犯してまで記憶を奪う必要があったのか。


「詳細な地図を作る事で私達の行動を制限した、という事でしょうか」


 誰に言うでもなく呟いたエイブラハムは、飛来するハンドグレネードを白銀の太刀で打ち返す。

 直後に起きた爆風は一房だけ編まれた白髪を揺らし、残党達を高熱の中に飲み込んでいく。

 通常であれば耐える事が出来る矮小な暴力、だというのに企業残党の私兵達はエイブラハムの一挙一動に合わせるように死んでいった。


 比類なき白(ディスオルタナティヴ)と称された終焉者(クローザー)に対する恐れもあるだろうが、1番の死因はパワードスーツ等の装備の欠如によるものだった。

 企業に機動兵器という強大な戦力があるが人間を形のまま殺害するのが難しく、主戦力は膨大な数を抱える歩兵となっていた。そのため映像として残る事を想定されたエイブラハム達精鋭は別として、企業の私兵達は全身をパワードスーツで包んでいる。

 そしてスタンドプレイヤーであり、ミリセントという優秀な機動兵器乗りの傍らに居続けたエイブラハムだからこそ、装備の整った歩兵の有用性を理解しておりこの状況を敵対者の限界と判断した。


 歩兵以外の有用性のある戦力の保持。

 思索の末に導き出された答えに嘆息をつきながら、ロケットランチャーを構えていた歩兵の額をスローイングナイフで深々と穿つ。

 純白のパワードスーツは圧倒的な暴力の象徴であり、企業の私兵達の大半を占める退色した弱者を守る為の鎧なのだ。少なくともエイブラハムは灰色でない企業関係者は自分とアンジェリカしか知らない。


 その事から企業残党は拠点としているコロニーS.O.D.の詳細なデータを知るために殺戮を始め、コロニーの住人の抵抗により装備を欠如する事となり、母体である企業を失ったために補給も行えないままStrangerの迎撃をしなければならなくなったと想定できた。

 力を失い倒れていくその私兵の体によって、標的をエイブラハムか前衛部隊に変えられてしまったロケットは暴力的な程の光と音を放ちながらそれらを吹き飛ばす。


 爆風によって乱れる白髪を手ぐしでととのえながらエイブラハムは思索を再開する。

 企業が所有している歩兵以外の戦力は機動兵器と生体兵器であり、その両方はとても貴重なものとされていた。

 ナイトメアズ・シャドウを含めたワンオフ機が全体の2割を占める機動兵器は数が少なく、生体兵器に関しては元の素体自体が貴重。そういったものを理解した上で、歩兵の装備が蔑ろにされているこの組織。


 敵の目的はナイトメアズ・シャドウとアンジェリカだ。


「それでも、風は私に吹いているようですね」


 エイブラハムはそう呟き、背後から高速で迫る物体を半身になって回避する。

 すれ違ったそれは装甲のような鱗を纏い、自然物ではない合金の爪を持った4足の動物。

 紛れもなくそれは屍食者(スカヴェンジャー)の作品にして主戦力であるガルムだった。


 舞い込んで来たチャンスに思わず上がる口角を隠そうともせず、エイブラハムはそのまま駆け抜けていく生体兵器を追い掛けて走り出す。

 企業残党は突然現れた生体兵器とそれを追い掛けて走り出したエイブラハムの行動に驚愕しながらも、銃を構えて果敢にも立ち向かおうとする。しかし誰1人不足なく、知覚すら出来ない速度の一刀のもとに斬り捨てられていった。


 斬殺された死体から溢れ出す血潮がベルベットのカーペットのように光沢と鮮やかな赤を床に広げ始めた頃、生体兵器とエイブラハムは開けた場所に飛び出した。


 長方形状のそこには戦いの時を待ち侘びる幾多の命と、エイブラハムが探していた男が居た。先へ続く扉はその男の背後に隠されてしまったが、エイブラハムには最初にしなければならない事があった。


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