【6】
俺は九尾の狐が現れた、とたんに施行を戦闘モードに移行させた。まあ、俗にいう集中しているということだ。すらりと、右手に剣、左手に刀を持ち鞘から抜きはらう
『ほう、ここに人が来るのはいつ以来だろう』
やはり、特殊クエストだけあって、九尾の狐には高度なAIが搭載されているようだ。目を見ればわかる、確かな意思を持った目をして俺を見ている。俺はいつでも攻撃できるように力を入れた。
『まあ、待て。すぐに戦うというのも風情がない。少し話そうではないか』
「は?」
なにこいつ。戦闘系のクエストなのに、話すって、何?
『我としても、話し相手が欲しかった』
「はぁ」
俺はとても曖昧な感じの声を出してしまった。そこで、疑問に思う。この九尾の狐は本当にAIなのかと。
「なあ」
『うん? なんだ』
「あんたAIだよな?」
『まあ、そうだな。しかし、普通のAIとはちと違う』
「どういう風に違うんだ?」
『我は他のNPCなどのAIと違って独立して動けるようになっている』
「どういうことだ?」
『つまりは、独自の感性なども持っておって、システムにはあまり縛られないということだ』
「へぇ~」
『なんだ。驚かないのか?』
「いや、驚いているけど、そういうのもいてもいいんじゃないかと思って」
『くくくっ。面白いやつだな。ふつうはシステムにあまり縛られないといったところで、おびえるんだがな』
「なぜ、怯えるんだ? あんた、こんなにも綺麗じゃないか?」
そこで九尾の狐は目を少しだけ見開いたのが分かる。何に驚いたんだろう。
『本当に面白い女だ』
「いや、俺男だから」
『なに!?』
「え!? ほんとに気づいてなかったのか!? あんたシステム側だろ!?」
九尾の狐は何かを見るような仕草で俺を見ると、頷いた。
『本当に男なんだな』
「あんた、何を見たんだ?」
さっきの仕草が関係しているのは確かなはず。だって、それをして男だって言ったから。
『我にはプレイヤーのステータスなどを見る権限が与えられている。その権限でステータスを見たのだ』
「え? マジ?」
『ああ。まあ普段はその権限でクエストを行うか選別するためのものだがな』
「へー、クエストのための権限か」
『まあ、そういうことだ。それでは、クエストを始めるか?』
「話はいいのか?」
『我としては十分だ』
「それじゃあ、頼む」
俺が頼むと雰囲気を変えてきた。それに伴って、俺の意識も変わる。
『この地に降臨せし旅人スノウよ。我にその力を示し、認めせてみよ!』
その瞬間、九尾の狐の頭上にHPバーが五段現れた。しかも、一つがとても長い。これ、削り取るってどんな奴だろう。
そんなことを考えながら、俺は【ダブルスラッシュ】を仕掛けていく。俺の剣と刀が九尾の狐の前足当たる瞬間、何かに阻まれた。それは九本の尾っぽのうちの一つだ。
「固い!」
そうとてつもなく固いのだ。まるで、破壊不能というかのように。
俺は急いでその場を飛び去った。俺が飛び去ったところに九尾の巨大な前足が振るわれた。急がなかったら、あの前足で飛ばされていた。
俺はすぐさま九尾との距離を詰める。振るわれた前足や尻尾をかいくぐり、やつの腹にパワースラッシュをお見舞いする。すると、HPゲージがわずかに削れた。それはわずか一パーセントぐらいだ。これじゃあ、倒すまでにいつまでかかるかわからない。とりあえず、弱点はないか探してみる。
俺は奴の攻撃を紙一重で躱しながら、攻撃をありとあらゆる場所にしていく。その中で、偶然にもあたった、首への攻撃が一番聞いた。どうやらそこが弱点のようだ。
「せいらっ!」
突き出してきた前足をジャンプし避けると、それを足場とし、首へと肉薄する。
「【パワースラッシュ】!」
今度は声でアーツ名を言い、発動させる。今、俺の持っているアーツの中で一番威力のあるアーツだ。
パワースラッシュが当たって、目に見えてHPが減る。しかし、その減少幅も微々たるものだ。あまり無駄な攻撃はできない。武器の耐久値が持たないからだ。それに、外したら、攻撃を食らう。そうすればたぶん俺のHPなんて一撃だろうし。
俺は終わりの見えない戦いをしていった。
――――――――――――――――
やっとの思いで、一段目を削った。しかし、すでに、俺の武器は崩壊寸前の状態。次の攻撃で壊れるだろう。MPはまだ八割方残っている。STは一割以下。これはアーツを連発したからだ。攻撃は当たってないのでHPは満タン。しかし、結構やばい状態だ。
一段目を削ったところで九尾の奴に変化が訪れた。尻尾をこちらに向けたと思ったら、八本の尻尾から八属性の魔法を撃ってきたのだ。
「【アースシールド】!」
俺は土属性の初期魔法にある、アースシールドを張って、横にとんだ。アースシールドは一瞬しか持たなかったが、それでも俺の避ける時間は稼いだ。
しかし、まずい。相手の遠距離攻撃までされたら、近づけない。
そこにまたもや、魔法攻撃。俺は横に走りながら、かろうじて避けていく。
「【サンダーバレット】!」
よけながらも雷属性の初期魔法を奴の首に当てていく。奴の魔法耐性はどれも同じような感じなので俺の得意な魔法を当てていく。ちょっとずつ九尾のHPを削っていくが全然ペースが足りない。たぶんステータスが圧倒時なんだろう。
ついにMPが切れた。これでは打つ手がない。とそこに水属性の魔法攻撃が。
「しまっ!」
よけきれない。俺はぼろぼろの剣と刀とで防御した。パリンッっと武器が砕ける音。攻撃は武器を壊して俺に当たる。
「ぐあっ!」
俺は何メートルか吹っ飛ばされながらも、態勢を立て直して着地した。どうやら、武器のおかげでダメージがだいぶ軽減されたようだ。しかし、もはや、かろうじて残っている程度のHPだ。
「くそっ。ここまでか」
諦めかけてそこにアナウンスが響いた。
HP、MP、STの規定値以下を確認
クールタイムの完了を確認。
スキル【蒼海の天剣】の使用条件を満たしました。
【蒼海の天剣】? あの使用条件がとっても難しいスキルか?
いったいどんな効果か戸惑いを覚えていると、どこからか声が聞こえてきた。
『この地に降りし、冒険者よ。広大な蒼海さえ切り裂き、己が運命さえも切り裂くことを願いますか?』
「……願う」
『なら、そのための剣を授けましょう』
スキル【蒼海の天剣】発動。
スキルが発動すると目の前に光り輝く大剣が現れる。それと同時にスキル情報が頭の流れるこんでくる。
スキル【蒼海の天剣】は一度発動すると、一週間以上のクールタイムが必要になる。そのクールタイム中の自身の戦闘をシステムが解析して、その解析結果が次のスキル発動時にアップするステータスを決める。さらに、そこにスキルレベルが関係してくるから、アップ数はものすごくなる。しかし、今は戦闘を少ししかしていないし、スキルレベルも最低レベルだ。でも、最初の一回はアップ数が決まっている。三倍だ。これによって、俺のステータスはギフトと合わせて、十二倍に及ぶ。
しかも、効果はステータスアップだけじゃない、【蒼海の加護】という効果も合わさる。これは一定以下のダメージを無効化して、さらには異常状態を無効化する優れものだ。
もちろんデメリットもある。スキル使用時は魔法やアーツは使用不可。使用時間は十分程度しかなく、スキル解除するとステータスが一定時間著しく下がってしまう。
しかし、今の状態なら戦える可能性は十分におる。俺は大剣を手に取る。すると、大剣から俺に向かって青いオーラが来た。これが【蒼海の加護】だ。
「行くぞ」
俺が大剣を構えると、九尾の奴も身構える。
集中すると周りの景色がゆっくりに感じてきた。そして、地面を蹴って一気に九尾に近づく。奴は魔法と尻尾を使い俺を迎撃してくる。俺は大剣で弾いたり、よけたりして一気に距離を縮めた。
「おっらっ!」
俺は九尾の足に一線。すると奴のHPゲージの一本のうち三十パーセントが削れた。ステータスアップと剣の性能が凄いのだ。そこに、前足攻撃。よけてから弱点である首へととんだ。首へと攻撃すると、六十パーセントが削れる。そして、俺は一撃も奴の攻撃を食らわず、どんどん奴のHPを削っていく。九尾の奴も二段削れると、口から、青い炎をはいて攻撃していく、これは結構やばかった。なんせ範囲が広いのなんの。それでも、俺はスローに感じる世界の中で戦い続けた。
――――――――――――――――――
「これで、終わりだ!」
九尾の最後のHPバーが俺の一撃によってなくなる。
奴が地面に倒れて、戦闘が終わった。それと同時にスキルの発動も終わって、俺は座り込む。
『ふむ、我が倒されるとは』
「いやー、俺も倒せるとは思わなかったよ」
『普通は無理じゃな』
「へ? どういうこと?」
『我のクエストは難易度としては最高難易度を誇るのだ』
「は? なんで、そんなクエスト地がこんな最初の街の近くに?」
『それは、普通は入れないからだ。この神社は結界によって守られている。だから、我が選んだものしか感じられないし、入ることもできないんだ』
「じゃあ、俺は……」
『ああ、我が選んだ。おもしろそうだったからな』
「面白そうって……」
倒せたからいいのもの、初日にやることじゃない。
『まあ、そう呆れるな。我はお前を認める』
九尾の狐がそう告げるとシステムアナウンスが降ってきた。
『緊急特別クエスト【九尾の狐に自身が力を示せ】をクリアしました』
システムアナウンスがされると膨大な経験値が贈られてきた。
『では我からも贈り物をしよう』
一瞬九尾の狐が淡く光った。
『贈り物は本殿の中にあるから入ってみるといい』
「あ、ああ」
俺は立ちあがって、本殿へと向かい扉を開けた。するとそこには一振りの刀が浮いていた。柄から刀身までが漆黒になっている。それはすべての光を吸い込むような黒さだ。俺はそれを手に取ってみる。すると、まるでいつも持っていたかのように手に馴染んだ。
俺は効果を見る。
銘称【魔剣 インフィニティ・ロード・Lv1】
効果・【進化の魔剣】戦闘によって無限に進化する魔剣。その力は倒した魔物によって変わる。(武器事体にレベルを追加してレベルによって性能・銘称などが変わる)
なんかすごい効果なんだけど。今はまだ弱いけどいつまでも使える武器じゃね。
『贈り物は気に入ってくれたかな?』
「ん? ああ。でもいいのか? こんな物もらっても?」
『面白いやつだ。普通は惜しげもなくもらうものだというのに。まあ、もらってくれ』
「まあ、そこまで言うのなら」
俺は装備画面を出して、魔剣を装備した。すると腰に新たな重みが加わる。
「ふーん。思っていたより軽いんだな」
『それはそうだ。まだ、力が弱いからな』
「力が強くなるとどうなるんだ?」
『その魔剣は使い手によって性能が変わる。だから、お前の使いやすい力を持つだろう』
「そりゃ、良い剣だわ」
『それと、もう一つお前に託したいものがある』
「へ?」
九尾の狐は突然光り出したと思ったら、その光は奴の鼻先に集まっていく。そして、光は俺のもとへとやってきた。俺が両手を出すとそこへ降りるように収まる。光が収まるとそこにいたのは――
「……狐?」
そう狐だった。九尾の狐と同じ金色の体毛を持っている。しかし、若干違うところもあった。尻尾が一本だったり、身体に赤いラインがいくつも入っていたりするところとかなり小さいところだ。大きさは俺の腕にすっぽり入ってしまうぐらい小さい。
「なあ、この子は?」
『我の子とも言ってもいい存在だ』
「は? ちょっと待て、お前の子供?」
『そうだ。その子をお前に託したい』
「なぜに?」
『お前に託した方がその子とってもいい影響を与えると思ったからだ』
「はぁ。俺に拒否権は?」
『あるにはあるが、あまり拒否してもらいたくはないな』
「……わかったよ」
俺はちょっと考えて託されることにした。
『ありがとう。ではその子が起きたら、契約をおこなってくれ。あと、街へ戻れる転移陣を鳥居の前に起動しておく。それで帰るといい』
「おう、こっちこそありがとな。また会いに来るから」
『楽しみにしている』
九尾の狐はだんだんと薄くなりやがては消えていった。九尾が消えるとほぼ同時に、腕の中で眠っていた子狐が瞼を開ける。
『くぅ?』
「よう、おはようさん」
『くぅ?』
どうやら、あなたは誰と言っているみたいだ。ここは自己紹介と状況説明をしておくか。
「俺はスノウ。お前の母親か? そいつからお前を託されたんだ」
『くぅ』
少し周りを見てから、状況を確認したようだ。
『くぅぅ』
親と離れて寂しそうな声を出した。この子も高度はAIを搭載しているようだ。まあ、そんなの関係なく、接するがな。
「あいつは、お前のことを考えて俺に託したんだ。そんな悲しそうな顔をしていると、あいつも悲しむぞ」
俺はなるべく優しいトーンで子狐に話しかける。
『くぅ!』
九尾のことを話したら、その意志を理解したのか、急に元気になった。
「よし、元気が出たな。えっと、契約をしてくれって言ってたな。どうやって契約するんだ?」
すると、子狐が俺の腕から飛び降りて俺の方を向いた。
『くぅ! くぅ!』
「えっと、触れってことか?」
『くぅ!』
子狐はしきりにうなずく。俺はしゃがみながら右手を子狐の鼻先に持っていく。すると、目の前にシステムウインドウが現れた。
【九尾の子と契約をしますか? 契約する場合は契約すると唱えてください。しない場合契約しないと唱えてください。(この説明文はスキル【調教】を持っている場合のみ現れます)】
俺は初めから決めていた方を言う。
「契約する」
『くぅ!』
俺と共に声を上げた子狐。すると俺の右手の甲と子狐の右前脚に文様が現れる。それはまるでツタのような文様だった。どうやら、この文様は契約の証らしい。証が現れると新たなシステムウィンドウが。
【契約獣の名前を決めてください。ただし、一度決めると後から変えられません(文様は後から変えられます)】
「うーん。名前か。えっとじゃあ、モミジでどうだ?」
『くぅ!』
俺が名前を言うと嬉しそうに頷いた。
【契約獣【モミジ】と契約を終えました】
システムウィンドウが契約を終えたことを押してくれた。
「じゃあ、契約も済んだことだし、街に戻るか?」
『くぅ!』
俺が立ち上がるとモミジは器用に俺の頭の上に上ってきた。どうやら、そこを定位置に決めたらしい。
外へ出ると辺りはもう真っ暗だった。時刻を見てみるともう七時半だ。
「やばっ!」
もう夕食の時間を過ぎている。さっさと戻らねば。
俺は九尾の奴が設けてくれた転移陣に乗って街へと戻り、急いでログアウトした。始まりの街の中ではどこでもログアウトできるのだ。
――――――――――――――――
ログアウトした俺は急いで下へと下りた。水紀が待っていると思ったからだ。しかし、水紀はいなかった。しかも、下りてきた様子がない。
「水紀の奴、まだゲームをやっているのか?」
俺は残り物でチャーハンを作って待っていたが、いつまでたっても下りてくる様子がない。さっきまで、ゲームをやっていた俺に言えるわけがないが、いくらなんでもやりすぎだ。しょうがない先に食べて、水紀の分はラップをかけておく。
そのまま、家事を済ませて、風呂も済ませても、なかなか水紀は下りてこなかった。試しに部屋を覗いてみたが、パンタシアをかぶったままだった。俺はしょうがなく寝ることにした。
今回はちょっと長くなりました。