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【3】

 七月二十二日、朝の八時。我が家のリビングでは水紀がそわそわしながら朝食のトーストを食べていた。てか、そわそわしすぎ、さっきから、一口食べては時計を見ている。


「水紀、落ち着けって。どうせ一時には始まるんだろ?」

「わかっているんだけど、それまで、待てないよー」

「時間は誰にとっても同じだ」

「うー……あ、そうだ。お昼は早めにして」

「? いいけど、なんでだ?」

「早く食べていろいろ設定したいから」

「ああ、わかったよ」


 ISOはサービス開始三十分前にはプレイヤー設定ができる。水紀はその時間のために昼食を早くし


「ありがとう。そういえば、あたしのプレイヤーネームは【アクア】かそれに近いものにするから、インしたら、連絡して」

「ん、わかった」

     ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 昼食は簡単にそうめんにした。食べた時刻は十一時五十分ごろ。いつもよりちょっと早めだ。

 水紀はさっさと食べると、食器を片付けて、部屋へと向かった。その時に残したのが「じゃ、後でね、お兄ちゃん」だった。おい、もうちょっと、ゆっくりしようぜ。

 そういう俺も、さっさと自分の部屋に持っている辺り、ISOを楽しみにしているのだろう。

 俺はパンタシアをかぶって、ベッドに横になる。ついで、こめかみのあたりにある指紋認識に指をあてる。


「ロック解除」

『指紋認証、網膜認証、および音声コマンドを認識しました。ロックを解除します』


 ロックが解除されて、インストールされているゲームの選択が可能となった。ただ、このパンタシアにインストールされているのはISOだけだが。


「【インフィニットスカイ・オンライン、ダイブ・スタート】!」


 俺の音声コマンドを受け付けて、俺の意識は一気に仮想世界に行く。


『ようこそ、インフィニットスカイ・オンラインへ』


 機械的な声が俺に仮想世界に来たことを教えてくれる。


『まず最初にプレイヤーの名前を入力してください』


 機械的な声に促されるままに、目の前に現れた半透明なホロキーボードを叩く。

 仮想世界でのホロキーボードの扱いは久しぶりだったが、身体が覚えているのか、難なく打ち込むことができた。俺はいつも柚樹の名前からもじった、【SUNOUスノウ】と打つ。今回もそれで行くことにした。


『次にギフトの進呈します』


 ランダムのギフトは何が出るかその瞬間までわからない。さて、何が出ることやら。


『ギフト【蒼穹の主】を進呈します』


 お、なんかかっこいいのが出た。しかし、能力はこの時点では見えないようだ。


『最後にスキルを選択してください。選択できるのは十個までです』

「スキルか」


 俺は一言つぶやき目の前に現れたスキルの選択欄を眺める。初期スキルばかりとは言え、其れでもかなりの数がある。みんなこれに迷うんだよな。

 スキルをスクロールしようとしたところで気づく。選択画面の一番上にあるランダムという文字を。


「ランダムか。なんか面白そうだし、挑戦してこそ真のゲーマー」


 俺は一瞬思考し、すぐさま指をランダムのボタンへと置いた。すると、注意書きみたいなものがあらわれる。


―――――――ランダムにすると、レアなスキルを得ることができるかもしれませんが、スキル構成がよくない場合があります。それでもよろしいですか?


 ふむ、これはゲームをやる人にとってはかなり重要な選択になるかもしれない。なんせスキル構成でまるまるプレイスタイルが変わってしまうかもしれないからだ。それでも、俺はランダムがいい。俺は構わずOKボタンを押す。


『ランダムに決定しました。スキル内容はゲーム内で確かめてください。それでは、ゲームに転送します。あなたが蒼穹をかける力を得らんことを願います』


そして、開ける風景。俺は大きく開けた広場の噴水前に立っていた。周りには続々と転送されてくる人たち。この人たちがプレイヤーなのだろう。プレイヤーは【始まりの街】にある四つの大広場に五千人ずつ転送される。これだけの広さにプレイヤー数、水紀たちを見つけるのは大変だな。っと、そこに、ピロロンという音が鳴った。どうやら、誰かからメールが入ったようだ。メインメニューウィンドウを開いて、メール画面を呼び出す。


「なんだこれ?」


―――――――運営チームより

『称号プレゼントのメール』:あなたは全プレイヤー中最初のログインプレイヤーになりました。その敬意をたたえ、称号【先導者】を進呈します。


―――――――運営チームより

『称号プレゼントのメール』:あなたは全プレイヤー中最初のスキルランダム決定者になりました。よってその敬意をたたえ、称号【スキル先駆者パイオニア】を進呈します。


―――――――運営チームより

『称号プレゼントのメール』:あなたは全プレイヤー中最初のシークレットレアスキルホルダーになりました。よってその敬意をたたえ、称号【忘却の天命】と進呈します。


―――――――運営チームより

『称号プレゼントのメール』:あなたはシークレットレアギフトの保持者になりました。よってその敬意をたたえ、称号【蒼穹の継承者】を進呈します。


―――――――運営チームより

『蒼穹のギフトのメール』:あなたはシークレットレアギフト【蒼穹の主】に選ばれました。そのお祝いの品をお送りします。

―――『蒼穹の主・専用装備(現在開封不可)』が贈られてきました。

―――『蒼穹の主・専用スキル・アーツ』の取得が可能になりました。


「なんかすごいな。まあ、後で考えるとして、後のメールは?」


―――――――アクアより

『ついた~?』;あたしは、今、北の広場の噴水の前にいるよ。お姉ちゃんにも同じメール送ったから、こっちにこれば合流できると思うよ!


水紀からだった。しかし、どうやって俺のプレイヤーネームを割り出したんだ? てか、メールするの早っ!


「しっかし、俺は今どこにいるんだ? ……まあ、マップを見ればいいか」


 俺は開きっぱなしだったメニューウィンドウからこの街のマップを出す。幸い、最初の街だけあってマップは細かいところまで、表示されていた。これがフィールドやダンジョン、ほかの街になると自分でマッピングしないといけないんだろう。幸いにも俺は東の広場にいたようで、広場は大通りでつながっている。

 水紀のいる北の大広場を目指して俺は進んでいく。道中はいろんな店などがあって飽きなかった。

 北広場に来た俺は噴水の前を探す。このゲームの容姿は自分の写真をもとにランダムで生成されるため、どんな容姿でもその人物の面影が残る。今回の場合はかなりそれが多いだろう。噴水前で待っていたのはピンク色の髪をツインテールにしている幼い感じの美少女と、長くウェーブした金髪を持つ美女だ。


「みず……おーい、アクアー」


 俺は二人に近づきながら声をかけた。二人とも同時にこちらを向いて、一度目を見開いた。なぜ?アクアともう一人――頭上のネームを見ると【ラブリ】と書いてあった、それが姉さんのプレイヤーネームなのだろう――がこちらへ走ってくる。


「どうしたの、お兄ちゃん!?」

「何が?」

「お兄ちゃん、物凄い美人さんになっているよ!?」

「何言ってんの? いくら俺が女顔だからって美人になるわけないじゃん」

「ほんとだって!?」

「じゃあ、見てみる?」


 そこで姉さんがなぜか手鏡を持っていた。


「なぜ、鏡が?」

「ああ、これは最初にプレイヤー全員のアイテムボックスにあるの。このゲーム容姿がランダムで決まるでしょ? だから、最初に自分の容姿を確認するためなの」

「ああ、なるほど」

「で、自分の容姿を見てみて?」

「う、うん」


 俺はちょっとびくつきながら姉さんから手鏡を受け取った。それを裏返して、鏡の部分で自分のかを見る。


「な……んだこれ?」


 俺は鏡を見て絶句した。なぜなら、鏡に映っていたのは見事な美少女だったからだ。白銀に輝く髪を腰まで伸ばし、大きくクリっとした金色の瞳が光っている。慌てて自分の体を見てみる。身体は全体的に丸みを帯び、きめの細かい白い肌になっていた。背は普段と同じぐらいだが、若干低くなっている。気にはてなかったが声も普段よりかなり高くなっている。まあ、普段がちょっと低めのハスキーボイスぐらいだから、こんなもんかと思っていたが。


「ほら、見事に可愛い女の子でしょ?」


 姉さんが誇らしげに言ってきた。どうやら、あの写真を送ってきたところから、予想済みだったようだ。やっぱり、使うんじゃなかった。

 そこで、俺は気づいてしまった。容姿が女なら、本当に女になってしまったのではないかと。俺は慌てて、こめかみを二度軽くたたき、メニューウィンドウを出した。そこから、ステータス画面を出して自身の性別を確認する。


「ふぅ」


 俺は画面を見て安堵のため息を出した。そこにははっきりと男と書かれていた。


「どうしたのお兄ちゃん?」


水紀が突然メニューを出した俺に疑問を寄せてきた。


「いや、性別まで女に変わってたらどうしようと思ったんだけど、男だったわ」

「へぇー、こんな容姿してても男だって認識されたんだ」

「らしいな。けど、姉さん。こうなることわかってただろ?」

「あ、ばれた?」


 俺が姉さんに問い詰めると、簡単にはいた。しかもあっけらかんとする顔で。


「そのつもりで、あの写真送ってきたんだろ?」

「うん!」

「あの写真?」


 姉さんはとってもいいスマイルで答えた。水紀のことはこの際無視だ。


「でも、なんで最初にあった時、驚いたんだ?」

「いや、まさかここまでうまくいくなんて思ってなくてね」


 面白半分でやるなよ。


「まあ、いいけど」

「え、良いの?」

「ああ、なっちゃったものは仕方ないから、このままプレイするよ。ただ、変なロールはしないからな」

「じゃあ、ゲーム内はお姉ちゃんって呼ぶね!」


 水紀が突然変なことを言ってきた。これでも俺は性別上は男なのだから。


「なんでだ?」

「だって、この容姿でお兄ちゃんはおかしいでしょ?」

「別に俺はおかしいとは思わないぞ」

「あたしはおかしいの! だから、ゲーム内はスノウお姉ちゃん!」

「じゃあ、あたしはスノウちゃんって呼ぼうかしら?」


 水紀に乗って姉さんまで調子に乗ってきた。やめてくれ。


「ちゃんはいらないんじゃないか?」

「いいの、いいの」


 こっちの要望には応えてくれなさそうだ。これは俺が折れなきゃならないようだ。


「はぁ、わかったよ」

「うん。じゃあ、フレンド登録しようか?」

「そうだね、スノウお姉ちゃんしよ?」

「はいはい」


 俺は水紀改めアクアとラブリ姉さんとフレンド登録した。フレンド登録のいい点は専用のメールやチャットが出来たり、その人物がどこにいるかを教えてくれたりするところにある。ただ、変な人物とフレンド登録すると、厄介なので信用できる人物としかしない方がよいようだ。


「それで、スノウお姉ちゃんはどんなスキルにしたの?」

「俺? 俺はランダムにしたぞ」

「「は?」」

「え?」


 俺は二人の反応がおかしくて、なんかやばいことをしてしまったような気がした。


「スノウちゃん、もう一回言って?」

「だから、スキルはランダムにしたって言ったんだけど?」

「バカ! スノウお姉ちゃんのバカ」

「は? え?」


 なぜかアクアに罵倒された。なぜに?


「スノウちゃん。良いこと? このゲームではスキルが命なの。それをランダムに設定するってことはバカか無謀者のやることなの」

「そうだよ。もし外れてたら、まともにプレイできないんだよ!」

「そうは言っても、もう決めちゃったし」


 姉さんとアクアに散々に言われながらも、どうにか言い訳をする。


「まあ、決めてしまったものはしょうがないわ。どんなスキルが出たか見せて?」

「あ、う、うん」


 俺はメニューウィンドウをもう一度出して、スキル画面を出した。何気に俺もスキルを見るのは初めてだ。


「「ッ!?」」


 二人にスキルを見せるとその表情は驚きに満ちた。ついでに俺も見てみる。そのスキルは――。


投稿完了ー!

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