【2】
小説を書いているとたまに変に感じます。なぜでしょう?
「水紀のISO初心者講座~。ドンドン、パフパフ」
「どしたの、水紀」
いきなり変なことを始めたので、ついに頭がおかしくなったのかと心配した。まあ、水紀は普段から残念な行動をとるゲーマーなので仕方ないと思う。
「いや~、盛り上げようと思って。今、お兄ちゃん失礼なこと考えたでしょ?」
「いや」
心を読むなよ。エスパーかっての。
俺はポーカーフェイスを崩さずに嘘をつく。内心はびっくりだ。
「フーン。まあいいや。それじゃあISOついて説明するね」
「ああ、頼むよ」
「うん。任された。まずはISOはレベル無しの完全スキル制なの」
「スキル制か」
つまりあれか、スキル制ということはあまりHPなどのステータスは上がらず、プレイヤーの能力に依存しているのか?
「そう、スキル制。でも、そのスキルの数が膨大なんだよ。ほぼ全ての行動にスキルが関係しているんだよ」
「ほぼ全ての行動に?」
「うん。たとえば戦闘で言えば剣を振るとか、行動で言えば走るとか」
「日常の行動もスキルに関係するんだ」
これは驚いた。そこまで、スキルを作るのは大変じゃないだろうか?
「スキルの数こそが今回のポイントなんだよ」
「ポイント?」
「そう、ポイント。どのスキルを選ぶかによってプレイスタイルに違いが出てくるからね。これだけ、スキルがあるならプレイスタイルはまさに十人十色だよ。さらに、ここからスキルは派生したり進化したりするから、成長するにつれてさらにいろんなプレイスタイルが出てくると思うよ」
「ふーん。それで水紀はどんなスキルを選んだんだ?」
水紀がどんなスキルを選んだのかを参考にしようと思う。
「あたし? あたしは【剣】【鎧】【盾】【攻撃力アップⅠ】【防御力アップⅠ】【魔法才能】【魔力】【魔力回復Ⅰ】【回復魔法Ⅰ】【光魔法Ⅰ】だよ」
「はい、質問」
「どうぞ」
「スキルってどんだけ選べるの?」
「えっと、最初に選べるのは十個だよ。でも後からも選べるんけど、セットできるのは十個のみだよ」
「じゃあ次、このⅠとか何?」
「うーんとスキルのレベルというか強さのこと。この数字が大きくなるほど効果が強くなるしね。あ、スキルにはレベルが存在しているからね」
「スキルレベルか。じゃあ、派生や進化はスキルレベルが上がってから?」
「そうだよ。じゃあ次は【ギフト】のことを説明するね」
「ギフト?」
「そうギフト。これはプレイヤー一人一人に与えられる能力なんだ。それも一人一人別のギフトが贈られるんだ」
「一人一人別? 確か今回の初回ロットは二万本だったよな?」
「そうだよ。ギフト自体はランダムに選ばれるんだけど、二万人全員違うギフトがもらえるの」
「そりゃすごいな。それじゃあ水紀は何のギフトをもらったんだ?」
「あたしは【抱擁障壁】。これはパーティーやレイドの人数が多いほど防御力を増加できるギフトなの」
「パーティとレイドの上限は?」
「パーティは八人。レイドは八パーティの六十四人まで」
「結構多いんだ。じゃあ次をお願いするよ」
「はいは~い。次は装備品だね。まずは武器から武器は【剣】【刀】【槍】【斧】【鎚】【鎌】【鞭】【弓】【杖】のどれかの系統から選ぶの。それから武器はメインとサブがあるよ。防具は身体に着ける十一種類とアクセサリーが三つだよ」
「結構あるんだな」
「そんなんだよ! 武具の種類もたくさんあって、いろんな恰好が出来るのも魅力の一つなんだよ。それじゃあ、最後の魔法と世界観を簡単に説明するね」
「ああ、頼む」
魔法はファンタジーゲームだったらかなりのウエイトを占めるからしっかり聞かないとな。それに世界観は結構重要だったりする。世界観を知っていると攻略のときに役立つ情報があるかもしれないからだ。
「ISOの魔法は八属性に分かれているよ。八属性は【火】【水】【風】【地】【氷】【雷】【光】【闇】で後【回復魔法】があって、それぞれランクがあるから気を付けてね。それからISOの世界は無限に広がる空の中に浮かぶ幾つもの巨大な島を舞台としているの」
「島?」
「そう島。この島の数はアップデートのたびに増えるとも言われているの。プレイヤーはこの島で冒険はもちろん生活さえしてもいいの」
「へえー。生活もできるのか」
「そうなんだよ。で、これだけ」
「は? これだけ?」
「そう。世界観はこれだけ。公式サイトでも全然載ってないの」
「それまた、なんでだ?」
「うーん。自分たちで見つけろってことかな?」
「そりゃまた、なんというか」
「まあ、楽しければいいじゃん。これであたしからの説明は終了。あとは攻略サイトなんかを見てね」
「ありがとう。じゃあ、さっそく見るか。あ、そういえば、公式サービスはいつからなんだ?」
「夏休み始まってすぐの七月二十二日の午後一時からだよ」
「あ、そうなんだ」
今日は夏休み前の七月十八日。始まるまで四日ほどある。それだけ、あればある程度は情報も集められるだろう。
「じゃあ、俺は行くぞ」
「あ、待って」
水紀は俺に声をかけるとISOの入っていた袋からちょっと大きな箱を出した。
「はい、これお兄ちゃんへ」
「なに、これ?」
「新しい、VRハード」
「なんで、俺にくれるんだ? 俺VRハ―ドなら持っているけど?」
「あ、言ってなかったね。ISOはこの最新の【パンタシア】でしか動かないから」
「え? マジで?」
「うん。マジ」
「でも、いいのか? 最新ってことは結構な値段するんだろ? なんだったらお金払うぞ」
「お金なんていらないよ。これはお兄ちゃんにプレゼントするために買ったの。いつも、お世話してもらっているお礼だよ」
「そういうことか。水紀は家事とか料理がてんでだめだもんな」
水紀は洗濯をさせると服が破け、料理をさせると何か得体のしれないものを作る。だから、水紀の世話は俺がすることになっている。
「うー。それは言わないで。それよりもはい」
水紀はVRハード【パンタシア】を俺に押し付けてきた。早く受け取ってほしいようだ。
「わかったって。受け取るから。ありがとな」
俺は水紀からパンタシアを受け取ると水紀の頭をなでながら、お礼を言った。
「うにゅ~」
なでられるのが気持ちいいのか水紀は目を細めながら、されるがままになっていた。
「じゃあ、俺は部屋でスキャンをやってくるから」
「あ、うん」
水紀のさらさらヘアを存分に撫でてから俺はパンタシアの初期設定をするために自室へと戻った。
「よし、さっさとやるか」
俺はなぜか気合を入れてパンタシアを箱から出した。そこにはバイクのヘルメットみたいなものが置いてある。これがパンタシアらしい。フルフェイスに近いが口元まではバイザーが下りない。これなら、呼吸が楽にできる。
「えっと、まずはこれをパソコンにつないでっと」
一緒に入っていた説明書を見ながらセッティングをしていく。最後のセッティングを終えた俺はパンタシアを頭にかぶって、ベッドへ寝っころがる。同時にこめかみのところに指をあてて、指紋認証の準備をする。
「スキャン、開始」
『指紋認証、網膜認証、声帯コマンドを受け付けました。スキャンを開始します』
この時代のVR機器は指紋認証などのロックに加え、脳じたいを軽くスキャンして登録者以外に使えなくしてしまうのが基本だ。これによって、犯罪を防いでいるとかなんとか。
スキャン自体は五分程度で終わった。ついでにISOもインストールしておく。
インストールを終えた俺はパソコンを使ってISOの情報を集めていく。
なんでもISOでは自分の写真をパンタシアに入れて、その写真を基本にランダムに容姿が選ばれるらしい。俺もちょっとかっこいい容姿が選ばれるといいな。っとそこに姉さんからメールが。
『パンタシアにいるれる写真はこれを使って』
メールにはそう書いてあって、添付されていた画像を出したら、思いっきり顔が引きつった。なんでかというと、写真には俺の黒歴史の女装した俺が写っていたからである。さすがにこれは使えないと思って削除しようとしたら、追伸の文字が見えた。
『もしこの写真を使わなかったら、黒歴史がどうなるかわからないわよ』
俺はもうこの写真を使うしかないようだ。どうか、男でありますように。俺は渾身の願いを込めながらパンタシアに写真データを入れた。
それからは、攻略サイトなどでスキルなどを見ながら過ごした。もちろん、人気上位スキルも下位スキルもまんべんなく見た。見るだけで半日かかるってどんだけ、スキルがあるんだよ。
そんなこんなで、日にちはどんどん過ぎ、学校も終業式も終わり、悪友のISO参加も知り、宿題をやりとかいろんなことをやっていたら、アッというまにISO正式サービス初日を迎えた。
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