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ノスタルジア~白猫に惑う律動、紅薔薇に捧ぐ輪舞曲~(旧版)  作者: 藤咲紫亜


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第二十五章 戦乙女と月桂樹

 シルキーは、怒りのままに無我夢中で馬を操り、皇都中を飛び回っていた。

 夫のバイエルは、皇都を出る直前に軍にも帝国軍総帥補佐として指示を与えていた。


 バイエルの兵の配置は、無駄が無い。

 占拠されると面倒な場所。皇宮へ攻めていきやすい通り。

 固めるべき所はしっかり固めてある。


 皇都の門前で取りこぼされた敵兵達が皇都内部に侵入し、バイエルの配置した兵士達と大きな衝突が起きていたが、帝国軍側に死角は無い。


 だが、その帝国軍の兵士たちの注意を逸らす為にか、兵が配置されていない所で無意味に暴れている者たちが居る。

 先ほど自分を襲ってきたのも、そういう連中だ。


 群れていて面倒ではあるが、一人ひとりの実力は大したものではない。

 帝国軍の兵士のように、鍛錬され教育されてきた者達には見えなかった。


 いかにシルキーが日頃からストレス発散のために武術に打ち込んでいるとは言え、帝国軍の、特に一個中隊を任されるような人間には苦戦を強いられる。


 速さや柔軟性ではシルキーに圧倒的に分があるが、腕力や防御力、実践経験は相手のほうがずっと上で、手合わせで勝つのは難しいのだ。

 皇都で暴れている者達の実力なら、シルキーでも十分対応できる。


 夫の布陣を脅かす者を討つのは、妻の役目のような気がした。

「居た!」

 街道の家々に火をつけて回っている貴族の私兵らしき男達。


 シルキーは視界の端に捉えた男達の方に器用に馬首を巡らすと、躊躇うことなく突撃を開始した。


 ところでシルキーは、皇都内の私兵達を片付けて回る内に何度も奇妙な呼び方をされた。

 恐らく、男運が無いという意味だと解釈して間違いないと思うが……。


 街道脇の家の中に、今まさに火薬の入った瓶を投げ込もうとしていた男がシルキーの接近に気付き、一瞬呆けた後に叫んだ。

「者ども構えろ! 『外れくじを引いたほうの』妃殿下だー!!」


「……普段貴方達がどんな風に私を呼んでるのか、よく分かったわ」

 眉間に刻んだ数本の縦じわを隠そうともせず、うなるように低くシルキーは呟いた。


「『外れくじ』だ! 『外れくじ』のほうの妃殿下が来たぞぉぉ!」

「『外れくじ』妃殿下だって!?」

「外れくじ外れくじとうるさいのよ!!」


 馬上から飛んだ扇子が、男達の顔や頭を次々と撃って地面に落ちた。

 見事な手綱裁きで馬を止めると、シルキーはふわりと地面に降りたった。

 風に踊る白い髪が光を受けて輝いた。


「覚えておきなさい。私の異名は『白の姫』。第二皇子バイエルの妃で……」

 首元に咲く赤い花がきらめく。

「この世で最強の男運を持つ女」


 この花を貰った時、覚悟を決めて信じることにしたのだ。

 彼はこの地上で最高の夫だと。



   ☆☆☆



 少しの休憩を挟みながら、元老院の定例議会は進められていた。

 何度目かの休憩中、ソリストの隣の小机に白い花をつけた月桂樹が飾られた。


「先にも言った通り」

 ソリストの冷静な声が、元老院の議場に響き渡る。

「女帝・女系皇族については、慎重を期すべきだ。骨組みを作るための議論の時間はいとわない。だが、今すぐに認めることはできない」


 モロウ侯爵は苛立ったようにソリストをねめつけた。

「殿下、それは慎重ではございません。楽観的と言うのです。申し上げるのもはばかられますが、今上帝のご一家に万一の事が無いとも限らないのでございますぞ!」


 ソリストはモロウを観察するように眺め、口を開いた。

「―――モロウ侯爵」

 断罪するような厳しい声音に、モロウのしわだらけの顔がぴくりと震えた。


「アデルもフィーネも、もう『使えない』と考えたほうがいい。バイエルが5日前にフローレに向かった」

 モロウの顔が引きつり、口が何か言葉を発しようとするかのように開いては閉じた。


 事態を把握していない貴族達が、何のことかとざわめいた。

 ソリストは5日前、急使が届けにきたバイエルの手紙を思いだした。


 バイエルの情報を合わせて考えると、アデルはロンド家の叔父の息子の可能性がある。

 となればアデルもまた、ソリストやバイエルと同じソルフェージュ家の男系男子。

 皇位継承順位は第五位で、ロンド家の叔父に次ぐ。


 アデルの血の正統性が認められた場合は、現行の皇位継承法で十分、皇帝にもなりうるのだ。

 モロウにとってアデルは、皇位継承法が原因でフィーネを女帝として立てることができなかった場合の切り札。


 だが、フィーネかアデルのどちらかを皇帝として据え、モロウが裏で皇帝を操るためには揃えなければいけない条件がいくつかある。


 ソリスト、バイエル、そして二人の父である今上皇帝、ロンド家の叔父、ソリストの息子のフーガ。

 少なくともこの五名をこの世から消すこと。

 フィーネを女帝に即位させるため、女帝を認めさせる法律を作ること。


「……ところで、この場を借りて、モロウ侯爵に伝えたいことがある」

 モロウの垂れ下がった白い眉が、怒りとも絶望ともとれるような奇妙な形になる。


「ロンド家夫人、第二皇子妃シルキーに毒を盛った罪、我が妹フィーネを拐かし、幽閉した罪、皇族達に刃を向けた罪、私腹を肥やすために皇位継承に不当な介入を図った罪で、追って沙汰する。独房で待て」


 モロウは唾を飛ばし、身をのけぞらせて笑った。

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