78話 植神プラーター(1)
風洞を進み続けると、さらに洞窟が広くなる。周囲が緑色の苔で覆われた菜園洞の本道へと入ったのだった。これが本来、人が通る道なのだ。
天井には光苔を集めた箱が置かれていて、仄かに明るくなっていた。
他にも崩れそうな場所は木板などで補強してあったり、足場を平らにするなどの処置が施されている。
色が黒ずんだ縄や腐食した板をみる限り、かなりの月日の間、誰も立ち入ったことがないのが解る。
本道を進み、栽培室と思わしき広間に出てから、セリクたちとフェーナたちはようやく合流する。
セリクは足を捻挫していたが、フェーナは有無を言わせずにさっさと治療してしまった。
栽培室は、石を切り出して作られた細長いレーンが幾つも並ぶ。
中は清らかな水が緩やかに流れていた。どうにも自然に循環する仕組みのようだ。
これらの水の供給源は、さっきの風洞に差し込んだ雨水などであろう。銅製のタンクやパイプが所狭しと敷き詰められ、それはセリクたちがやって来た風洞の方へと続いていたのだった。
いまは植物は一切ないが、それが置かれていたであろう台座だけが中に残っていた。
「水耕栽培というやつか。原始的なプラントのようだが」
「オウ。なんか、まだまだ使えんじゃねぇか? もったいねぇよな」
『液体肥料』と書かれた容器の汚れをはたいてブロウが言う。
「風の力で薬草を乾燥させることもしていたようだな。礎気工学も使わずに良くできているものだ…」
ヘジルは興味深そうに、風洞から流れ込む風が上手いように吹き付けるラックを見やる。
乾燥させる薬草が飛んでしまわぬように、風除板で当たる風力を調整しているらしい。古人の工夫の高さが見て取れる。
「なんか使う人がもう居ないのに動いてるって不思議よね」
「うん。そうだね」
きっとこの設備を作った人は当の昔に死んでしまっているのだろう。それにも関わらず、施設が誰にも知られずに機能しているのを、セリクには物悲しいことのように感じた。
「ここが菜園洞で間違いないよね?」
「ああ。レマに聞いていた話と一致する。レマの祖父もかつてここを利用していたんだろう。
祭壇と思わしきものがあるのは、もっと奥の方だな。それに、そろそろ魔物などがでてきておかしくない。気を引き締めるぞ」
このさらに奥の方は、貴重な薬草が自生しているらしい。
栽培工場として使われているのはほんの入口だけで、その先は殆ど手つかずの聖域なのだとレマは言っていた。
手をつけなかったのは植神がいる聖域を荒らすことを畏れてか、はたまた途中で魔物どもが入り込んできたせいなのか…。
「オウ! なら、ちゃっちゃと行こうぜ!」
ブロウは拳をバキバキと鳴らして、我先にと歩き出す。
「…馬鹿か。そっちは入口側だ」
「んあ?」
「ちょっとぉ、しっかりしてよ。お兄ちゃん!」
「わ、わりぃ。いやー、なんかあっちこっち走り回ったから解らなくなっちまったぜ!」
「あっちこっちって…ここまで一本道だったじゃんか」
セリクに呆れたようにそう言われ、ブロウは気まずそうに鼻の下を擦った。
栽培室を抜けると、さっきと同じような長い通路が続く。
進み続けると、人工の形跡も少なくなっていき、手摺りもない崖や、所構わず流れる水が行く手を阻む。
洞窟内にちょっとした滝などもあり、植物が生きるための水も豊富なのだということが解る。ここが菜園洞と呼ばれる所以だろう。
奥に入るにつれ、ヘジルの言った通り魔物などが時たまに姿を現す。
ドブネズミが人間サイズになった『スラングマウス』や、ラムの森にいたブラッドバッドなどだ。
ノコノコと入ってきた久しぶりの獲物に、ヨダレを滴らせて襲いかかってくるが、残念ながら相手が悪かった。
村人には脅威と思わしき魔物でも、セリクたちからすれば大したことのない敵である。
セリクに斬られ、ブロウに殴られ、ヘジルのボウガンで貫かれ、フェーナのキックで次々と撃退されていく…。
歩き始めて一時間半は経っただろうか。かなり奥まで来たところで、ヘジルが何かに気づいて立ち止まる。
「…これは」
「なに?」
「オウ! 食い物か?」
「…ホント、お兄ちゃんの頭って、戦うこととゴハンのことしかないの?」
「あ? 闘うことと食べることができるのが人生の楽しみだろ!」
兄妹による漫才のようなやり取りは無視して、ヘジルは壁のツタを小さなナイフで切り始める。
何をしているのかは解らなかったが、セリクも剣を抜いてそれを手伝った。
「…石碑だ。それもかなり古いものだな」
ツタが無くなった場所には、ツルリとした黒い石板があった。それは壁に埋め込まれていた。
表面は文字が掘られていたが、見たこともない言語にセリクは首を傾げる。
「これが神々や龍族などが使っていたという“古代クリバス言語”だ」
ヘジルは懐から手帳を取り出し、文字を一つ一つ追っていく。
「ラ・ア・テス・プラーター・チース…」
「え? 読めるの?」
フェーナが驚いた声をだすのに、邪魔されたと感じたのかヘジルは眉を寄せる。
「…多少はな。というか、いつも召還する時に僕がクリバス言語を使っているじゃないか」
ユニコーンやペガサスを呼び出すときに、確かにヘジルはいつも長い呪文のようなものを詠唱していた。
「そういえば。あれって気合いを入れるためとかじゃないの!?」
「なんだ、気合いとは…。ただ無意味に言っているわけじゃない。
“ラタレダ・パドラ・ロウス。テス・トロイ・ストレオ。クハレシ。エ・ユマレス”。…直訳すれば、『偉大なる裁定神パドラ・ロウスよ。我の支配下に強き者を。理よ、真に集まれ。求めし座に顕現せしめ給え』という意味だ」
「裁定神…」
セリクは神告間で見た、毛むくじゃらで目玉の沢山ついた異形の姿を思い浮かべる。
「ああ。神界セインラナスにいる裁定神の神力を借り受け、召還は発動する。そのための合言葉と言えば解りやすいか」
ヘジルの説明に、フェーナもブロウも同じような顔して何度も頷く。が、その意味をちゃんと解っているのか解っていないのか、ただ頷いているだけのようにも見えた。
「この石碑の意味は?」
「…フン。だから、それを今調べている。
チースは…“地上の盤”か? いや、違うな。アクセントが前に来てるってことは……そうか。“地上の容器”…つまり、“祭壇”のことか」
ブツブツと独り言を呟き、手帳と石碑を交互に見やる。
セリクがそっと手帳の中を覗き見ると、びっしりと黒い文字が書き記されていた。
「…発音のちょっとした違いで、一つの言葉が幾つもの意味に変わるんだ。似たような表現方法が多いし、文節の切り方、前後の文脈の置き方で全く違う単語になったりする。その法則性を理解するだけでも何十年とかかる」
それを聞いて、とても無理だという感じにセリクは両手を上げた。
ヘジルが翻訳している間、セリクたちは特にやることもないので、その場に座ってしばしの休息を取る。
少々肌寒くはあったが、喉が渇けば綺麗な水が幾らでも流れているし、魔物も警戒するほど出ては来ない。ちょうど休むには良い場所だった。
「……よし。解ったぞ」
ブロウが空腹に腹を鳴らせ始めた頃、ようやくヘジルは手帳を閉じる。
「なんて書いてあったの?」
「『これより植神プラーターの祭壇。不敬者は裁かれ、植物の心を識る者のみがその御心に辿り着く』…だな」
「オウ! ってことは、やっぱりここに神がいるってのか!?」
「やったー! 苦労して来てよかったね!」
嬉しそうにブロウとフェーナは手を叩き合う。
「…でも、植物の心を識るって…どういう意味だろう?」
セリクが不安そうに尋ねるのに、ヘジルは眼鏡のツルをさすって少し考える。
「フン。むやみに人を立ち入らせぬようにするための警告だろう。
それにこれが無ければ意味がないしな」
そう言って、ヘジルはストス村で手に入れた植神の契約書を取り出す。
「本当に、ただの警告…なのかな?」
何か引っかかるものを感じ、セリクは用心した方がいいのではないかと考えたのだが、気がはやったのか三人は先に進んで行ってしまう。
セリクはチラッと石碑を見やって、それから皆の後に続いた。
いままでとはガラリと雰囲気が変わって、大きく開けた場所に出る。天井の一部が吹き抜けていて、青空と太陽が隙間から見えた。
水辺に生えた草や苔は今までもあったが、ここにはもっとさらに多くの植物が生えており、中には花を咲かせているものもあった。栄養豊かな土壌なのだろう。まさに菜園洞という名に相応しい場所だ。
貴重な薬草なども生えているのだろうが、残念ながらそういった知識がないので、ただ綺麗だとしかセリクたちは思わなかった。
色彩豊かな植物に囲われた中心に、直径三メートル近くはあるだろう大きな円形の台座が置かれている。
さっきの石碑にあったような言語が、螺旋状に彫られており、その中心には大きな紅い石が埋め込まれていた。
「これが祭壇なのか?」
「間違いないだろう。以前にこれと同じ物を見たことがある」
「見たことがある?」
「ああ。聖獣を得るために…ちょっとあってな」
「オウ。でも、肝心の神サンはどこにいんだよ?」
「フン。神告の話では、器と契約書と祭壇の三つが揃わなきゃならないらしい」
「えっと、器ってのはヘジルだよね? 契約書は持ってるし。祭壇もある。全部揃ってるけど、それでどうするの?」
「…神を喚び出す」
「喚び出すって…方法は解っているのか?」
「さあな。だが、僕も何も考えずにここまで来たわけじゃない…。ちょっと離れていてくれ」
ヘジルに言われるがまま、セリクたちは離れる。ヘジルだけが祭壇を前に残る形となった。
契約書を手にしたまま、ヘジルは手首の紅玉石をかざす。それを祭壇に付いている石に向けた。
「……ターダス・レラス・サス・ラータレーダ。
我が神、偉大なる神よ。我、汝が名を喚び求めて此処に来たり」
眼を閉じてヘジルが呟くと、紅玉石が光り輝き出す。それと同時に、契約書も金色のエネルギーを迸らさせた。
そして、それら光のうねりに呼応するかのように、祭壇の石も輝きだし、彫られた文字にも光が流れて灯り出す。
「この感じは…神告の時みたいだ」
「おお! なんだ!? これ揺れてねぇか!?」
「それに、何か音がどこからか聞こえてこない!?」
地響きと共に、菜園洞が細かく振動する!
そして、神告の時に聞こえたようなゴーンという鐘の音のような物が響き渡った!
「…やはり、神官に伝わる賛歌がキーワードになっているのか」
三人は驚いた顔をしていたが、ヘジルは一人納得したように頷いた。
やがてすべての光が裁断の上に収束して、何かの形となって姿を現す。
「え…。なにこれ? 大きな木?」
それは今まで見たこともない、ピンク色の花を咲かせた大樹であった。
まるでそれは祭壇から生えているように見える。その大きさたるや、天井を越えて吹き抜けにまで達する程だ。
「オイ、これが神サンだってのか?」
「植物の神様なら、確かに納得できないわけじゃないけれど…」
裁定神パドラ・ロウスも異形だったのだ。もしかしたら、樹木が神ってこともあるのかもとセリクは考える。
「でも、木じゃ話なんてできないんじゃ…」
フェーナの指摘に、ヘジルも困惑した表情を浮かべる。会話が成り立たないとすれば、どうやって契約を結べばいいのか検討もつかなかったからだ。
「とりあえず、やるしかないだろう。契約書を通して交渉を……」
そう言って大樹に向き直った瞬間だった。
太い幹がモゾモゾと動き、ギョロッと黒い瞳を覗かせる。
「え!? 動いた!?」
「これは…」
幹の一部がせり出して、花の下に隠れていた緑の枝葉を巻き込み、繭のような形に膨らんでいく。
その繭は徐々に形を変え、枝の部分が手足に、幹本体がほっそりとした胴体となり、葉がそれを覆う被服、花が髪に…つまり人型を成していく。それはまるでサナギから孵る蝶を思わせた。
数分も経たずに、それはピンク色の髪をした人間の少女になったのだ。
ツインテールを模した髪には緑の髪留め、釣り上がったドングリのような黒目。幾重にも連なった薄柳色の葉で作られた長いローブを羽織っている。
パッと見た感じでは、十二歳ぐらいに見える美少女だ。
ただやはり、肌には樹肌の名残があるし、手足は本体であろう大樹と何本ものツルで結び繋がり、半ば宙吊りのようになっていた。
「……ラ・アハ?」
良く通る高い声で、樹の少女が声を発した。
「え? 何か言ってるよ!」
「…ネィア! ラ・アハ!?」
四人が戸惑っていると、少女は訝しげな顔をして、さっきよりも強い口調を放つ。
「そうか! まさか、クソ…。僕としたことが迂闊だった。古の神々ならば、当然と交渉もクリバス言語になるのか…。ちょっと考えれば当たり前のことじゃないかッ」
ヘジルは慌てて、手帳を取り出してページを送る。
「エシュア・オッス・エルネル!!」
「な、なんだか怒っているみたいだけれど!」
「そんなのは見れば解る!
ええっと、この場合のエルネルは…クソッ、否定系だな。
今のオッスの発音だと…『私は力づくで問いただす』って言いたいのか」
ヘジルが焦りながら、樹の少女の言葉を訳し始める。知っているといっても、それで日常会話が普通にできるというレベルではないのだ。
「よし。これなら…通じるか。
エ・ヨニマ・サス・ラス・ナセシウ(我々は人間です。神座に真に座られる方よ。何とぞ寛大なる慈悲を)」
必死に話した言葉が通じたのか、樹の少女はコクッと小さく頷く。
「…ナナ。ヨニマ・エシュア・ユ・ネア・ラ・アハ?(解った。人間よ。もう一度、尋ねよう。お前たちは何者だ?)」
「エエ・ダノス・メゴーン(我々は、龍王を滅ぼす者です)」
「ダノス? メゴ? アヨ?(龍王? 滅ぼす? お前たちが?)」
樹の少女は呆気にとられたようだった。そして、四人の顔をそれぞれじっくりと見回す。
「……アヨ・ヨニマ・ババーロ(お前たち、人間の言葉で会話しろ)」
樹の少女は手をヒラヒラと振って促すような仕草をした。
「なんだ?」
「…僕たちだけで、何か喋れと言っているようだが」
「オウ? 喋れ? 何をだ?」
「知るか。とりあえず言われたとおりだ…」
「え。でも、喋れって急に言われても」
「この際、なんでもいいんだ。
…セリク、最近は剣の調子はどうだ?」
急に話題を振られ、セリクは眼を白黒させる。
「え? 剣?」
「そうだ。剣の状態を聞いている」
ヘジルも自分で変な質問だとは思ったのか、決まりが悪い顔をした。
「あ…うん。ちゃんと研いでるから、調子いいよ。斬れるよ」
「そうか。ブロウ。次はお前だ。お前は昨日は何を食べたんだ?」
「お、オウ? なんだ、急に言われてもよ…。えーっと、あれ。俺様、何を食ったっけか? うーん、あー??」
「おバカ! 真剣に思い出さなくても適当でいいのよ!
ヘジル! あれ、それ、んーと、うん。今日もお肌が綺麗ね!」
「な、なんだそれは…。
ゴホン。ともかく、あ、ありがとう。君こそ、髪が今日は艶やかでいつもよりも映えている」
「え?! いやだ、ヘジルったら…」
「…いや、これは演技だと。まあ、いい」
演技だと解っていても、フェーナとヘジルはちょっとだけ赤くなっていた。
珍妙な会話を、樹の少女はジッと見ている。
なんだか見られているというだけでも落ち着かないので、余計にぎこちない会話になってしまった。
「……なるほどな。理解した」
「え!?」
「一〇〇〇年も経つと、人間の言葉というのも随分と変わるものだな」
セリクたちは驚いて眼を見開く。クリバス言語で喋っていた少女が、いきなり自分たちの言葉で話し出したのだから当然だ。
「え? ど、どういうこと? 最初から喋れた…?」
「簡単な話だ。お前たちの言葉を見て学んだだけのことだ」
「学んだって…」
たった今の会話だけで喋れるようになったとは、セリクにはとても思えなかった。
「以前、人間たちが喋っていた言葉に近いものであれば妾の記憶にある。それに似ていたから、文法だけ把握すれば雑作もないことだ」
「さ、さすが神様…。見た目はフツーの女の子みたいだけど、スゴいのね」
フェーナの台詞に、樹の少女…植神であるらしき樹木の少女は、気分を害したのか顎をわずかにしゃくる。
「…さて、龍王を滅ぼすという人間たちよ。これで存分に話ができるであろう」
プラーターは自身に絡まったツタを弛め、少しばかりセリクたちに近づく。
「妾は第四級神にして八番目の神柱。すべての草木花を統べる植神プラーターである」
プラーターが両手を広げると、その言葉が真実であると言わんばかりに、周囲の草木たちが揺れ動く。
「我が名は、時代の証人である召喚師ヘジル・トレディ。
先ほど述べましたが、我らは龍王を滅ぼすべく立ち上がった者の集まりです。
植神プラーター。何卒、人間の脅威を討ち滅ぼすために貴神の力をお貸し願いたい!」
ヘジルは契約書と紅玉石を見せて、軽く頭を下げて見せた。
それを見ていたセリクたちも慌てて同じようにする。
「……時代の証人だと?」
プラーターは軽蔑でもするかのような視線をヘジルに注ぐ。
「ラクナめ。何を考えているのか…」
「それは……どういう意味でしょうか?」
ヘジルはわずかに眉を寄せる。
自分より立場が上である神王を、まるで蔑ろにするような態度に疑問を覚えたのだった。
「そのままの意味だ。ラクナ、パドラ、マリン…これらは人間の最も崇める神であろう。だが、妾は別に人間の味方というわけではない」
意外な発言だったが、植物の神ならばそれが当然のことなのかも知れないとセリクは思う。
「召還神は……神告で、人間に与えられた物と聞き及んでおります。まさか、それをご存じない?」
創母神を偽ったレマのような例があったので、ヘジルはつい疑いの眼を向けてしまう。
「妾はここで眠っていたからな。外界の情報には疎いし、興味もない」
「神々同士で情報共有されていない、と?」
「いや。知らぬと言ったのは神告のことだ。召還神のことは予め聞いてはいる。だが、妾が聞いていた予定とは変わってきているようだな…」
「予定が変わった?」
セリクは魔王トトの来襲を思い起こす。あれは裁定神にとっても想定外だったはずだ。それが何か不測の事態を起こしたのではと思ったのだ。
「ふむ。“"破滅なる紅レイド”はどうしたのか? 本来ならば、ヤツが龍王アーダンを仕止める手筈だったであろう?」
「破滅なる紅は、神告にあった言葉ですが…。レイドとは?」
ヘジルは困惑した顔で問い返す。フェーナもブロウも同じような顔をしていた。ブロウに至っては最初から話の意味そのものが解っていない様子だったが…。
ただ一人、セリクだけがレイドという名前が出たことに驚く。
「? やはり話が見えぬな…。
妾たちの力を温存して神界凍結したのは、レイドの体勢を立て直すためではなかったのか?
にもけかわらず、レイドの存在なしで召還神を用いる気なのかと聞いておる」
「お言葉ですが…。訳が分からないのは僕たちの方です。
つい最近の神告で、七柱の神の力…召還神を得るようダフネス・フガールに指示が与えられました。
それが神界凍結を解き、龍王を打ち砕く方法だと…」
「……ならば、先に神界凍結を解除するつもりなのか?
となると、最高三大神どもが自ら龍王アーダンを討つつもりか?
ふーむ? それができぬからこそレイドを用いたのに、な」
そんなことを聞かれても、セリクやヘジルにそれが解るはずもない。自分たちが聞きたいぐらいのことだったのだ。
答えがでないと見るや、プラーターは独りで納得したように大きく頷いた。
「まあよい。妾は、妾にあてがわれた役目を全うするのみだ。
召還師だけが妾のもとを訪れたのも、何かしらの運命なのだろう」
「なら、召還神として僕に力を貸して頂けると?」
「構わぬ…と言いたいところだが、仮にも妾は神格を持つ者。ましてや、人間ではなく植物界の神だ。人間如きに使われるというのは、な」
再び話の内容に暗雲が立ちこめてきたのに、ヘジルは苦々しい顔をする。
どうにもすんなりと力を貸してもらうわけにはいかない感じだ。
「ならば、どうしろと? こうして器なる者である僕がここにいて、契約書もすでに用意してあります。必要なものはこれですべてのはず! これ以上に何を望むのです!?」
神である存在を相手に、詰問するようにヘジルが投げかける。
それが面白いのか、プラーターは口の端をニヤッと歪めた。
「…そうだな。器なる者の深さを教えてもらおう。そう。資格があるのかを、だ」
「深さ? 資格?」
「まだ解らんのか…。時代の証人など数多に及ぶであろう。その中でも、果たして神を喚べるほどまでに秀でているのか。妾を用いる資格があるのか、貴様を試してくれようと言っているのだ」
「試すということはつまり…」
「妾と戦えということだ!」
プラーターが大きく手を広げると、ツルの先が一斉に蛇の頭のように持ち上がる!
セリクたちを取り囲むように、周囲の植物が敵意を持って動き出した!!
「さあ、妾を喚び出す力があるのか、見せてみるがいい!」
ようやく神の一柱である植神と出会えたのにもかかわらず、突如としてその力を試されることとなる。
はたして、セリクたちは植神を認めさせ、ヘジルは神々の召還師となることができるのであろうか…………。




