64話 颯風団再び
ストス村の宿、食堂テラスにて。
セリクたちが食事をしているのを、遠目にジッと見ている三人組の姿があった。
「なんで、アイツがこんなところにいるんでヤンスか…ついてないでゲス」
唯一、顔の割れているラウカンは盆で顔を隠しながらポツリと愚痴る。
「別に隠さなくても平気だよ。どうせ、ウチらには気づかないさ」
エンロパは、クリームソーダーにささったストローをクイクイと動かしながら気怠げに言う。
「左様。かえって、身を隠そうとすれば余計に怪しまれますぞ。殺気さえ放たねば気づかれる由も無し。殺気を消すのは我らにとっては容易きこと」
ドルドグが頷いた。声がするのにも関わらず、骸骨のような顎はわずかも動かないので不気味だ。
颯風団、首領と二大幹部……偶然にも、セリクたちとこの村で出くわしたのであった。
「なんだろうね。あっちの小さいの二人はDBってヤツだろ、後は…帝国軍の若造部隊かい?」
「ですな。ブラッセル子飼いの隊長クラスかと。以前、演習を行っている際に確認した覚えがありますぞ」
偵察諜報に長けているドルドグが言う。
「なんでこんな何もない村に来たんでヤンしょ? まさかアッシらを始末しに?」
「それはないであろう。追っ手として差し向けたならば、こんなところで呑気に食事などしているはずもありますまい」
追っ手なら、追っていることに気づかぬよう慎重に行動するものだ。
そんなことは常識だという感じに言われ、ラウカンは縮こまる。
「しっかし、あんなガキ二人に負かせられるとはねー。ラウカン、アンタも修行が足んないじゃないかい?」
ラウカンの皿にのっていた肉を奪い、エンロパが口に頬張る。ラウカンは「あ!」と言った後、悲し気にうつむいた。
「アッシは圧倒してたでヤンスよぉ。それをヘンテコな龍と、大ミミズどもの邪魔が入ったんでゲス」
「……黒髪の少年。その黄龍と翠龍をも討ち滅ぼしたと聞きますぞ。
それにかつて我らの邪魔をした、マトリックス・ファテニズム。シャイン・ファバード。かの二者との関わり合いもあります。
どうにも油断ならぬ相手で間違いないでしょう」
ドルドグが続けるのにも、エンロパはつまらなそうに頷く。
「なんだい。勝てないとでも言いたいのかい?」
小馬鹿にしたように言うと、ラウカンとドルドグは顔を見合わせ、ゆっくりと首を横に振る。
身には纏っていないが、眼の奥に殺気が生じたのをエンロパは見逃さなかった。アサシンとしての矜持は未だ健在なのだと知って笑う。
「…やられっぱなしってのは性に合わないんだ。ここいらで、お返しといこうじゃないか」
「で、でも…、お嬢」
「お嬢はやめろって言っただろ!」
エンロパがフォークをラウカンの額に突き付ける。
「へ、へい…。首領。ですけど、ゲナ副総統との約束はどうするんでゲスか?」
ラウカンがおずおずと尋ねると、エンロパはハンと鼻を鳴らす。
ゲナからキードニアに戻るよう命じられていたのだ。今はこのストス村で、帰還のための準備と言いつつ保養しているのが実状だった。
帝都からは近く、食料などの物資は豊かで、旅人は多いために新参者でも目立つことがない。
周囲が草原地帯であるが故、敵がやってきたら気づきやすいのもメリットだ。
そういう意味で、この村は隠れるのにもってこいの場所だったのだ。
「どうせ今すぐに戻ったって、この時期の向こう側は“凍土壁”に阻まれてハド坑道を通れないんだ。行きようがないじゃないか」
ガーネットとキードニアでは気候がまったく違う。
年中、寒冷気候であるキードニアではあるが、特にここ三ヶ月は最も厳しい冬の時期なのだ。
食べ物がない魔物たちの気性は荒く、降り積もった雪はまるで石のように硬化する。事実、ガーネットと結ぶ通路があるハド坑道も、キードニア側の出入り口は完全に凍り付いていて通れなくなっているのである。
「…そりゃそうでゲスが。アッシらだったら、ラミティオン山脈を越えることもできるんでヤンス」
普通の者には無理だが、鍛えられたアサシンたちであれば山越えという強行軍も不可能ではなかった。ましてや彼らは元は雪国からやってきたのである。雪山については誰よりも詳しかった。
「そこまでする必要があるかい? せっかく拾った命をドブに捨てるようなもんだね。
命令を確実に守るならば、ハド坑道を通った方が安全さ。たった数ヶ月だ。ゲナ様もそれぐらい待ってくれるよ」
緑の髪をかき上げ、エンロパは口の端をニヤリとさせた。
「アイツらの目的を徹底的に洗いな。何しにこの村に来たかを調べるんだ」
「御意」「ヘイ」
命令を受け、二人は素直に頷く。
「恩は返す。受けた仇は…倍にして返してやんよ」
グサッ! っと、エンロパは肉にフォークを突き立てる。それはまるで、後ろのセリクたちが次だと言わんばかりにであった……。




