表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUIN【破滅】  作者: シギ
二章 魔界の統治者トルデエルト
55/213

53話 それぞれの思惑

 魔界ラゴレーム。

 この世界は全体的に薄暗く、重く立ちこめる魔気マガによって上空が常に覆われている。

 地表には平坦な場所はなく、殆どが起伏の激しい山脈だらけだ。草木は生えず、石灰か溶岩ばかりの不毛の地帯。海に当たる部分には熱く煮えたぎったマグマがおどろおどろしく流れ、太陽の代わりに魔界を赤く照らしていた。

 フォリッツアと比べれば地獄と呼ばれても仕方のない苛酷な死の世界。普通の生物が決して生きていくことはできぬ暗黒の地。それが魔族たちが住まう魔界の正体である。


 鋸刃のような山脈を幾つも越えたところに、ポカンと大きな窪みがある。

 螺旋状の大穴であり、周囲の山々がまるまる入ってしまうほどの深さだ。まるですり鉢のような形状であり、その底にはマグマが流れ込んで集まっていた。

 荒く抉られた外壁には、岩を四角く切り出した無骨な建築物がいくつもぶら下がっている。ちょっとした振動で落ちてしまいそうなほど不安定だが、これがここに生きる者たちの住居なのだ。

 これが魔界唯一の国とも言うべき、『魔都まとガルガンチュラ』である。


 魔都の中心、マグマの中に岩によって作られた炎の城がある。見たままの名前だが、『炎魔城えんまじょう』と呼ばれる魔王の根城だ。

 城といっても、玄武岩を無造作に積み重ねただけの簡素なものだ。オブジェといえば、時折に立ち上る火柱ぐらいなものである。

 外敵はマグマの熱によって遮られるが、内部は魔力によって防壁が張られているので熱さを感じることはない。炎柱が目の前で噴出しているが、まったくもって危険はないのである。


 王座…といっても、それも形のいい岩を重ねただけの簡素ものなのだが…それにあぐらをかいて座り、魔王トトは暇そうにあくびをした。


「…魔力が足りんな」


 細長い指先に集中する魔気が少ないのを見て目を細める。


「お食事の時間でス!」


 二匹のグレムリンが入ってきて敬礼をした。

 そして、鎖に繋がれ、目隠しをされた人間の男を引きずってくる。傷だらけで、おびただしい出血が衣服を赤く染めていた。


「生き残った“カーン国”の戦士でス。捕まえた奴隷の中では、一番に若く上質にございまス」


「ふぅむ」


 トトが指先を動かして指示を出すと、グレムリンたちは慌てて男の目隠しと猿ぐつわを解く。


「…ぷはッ。ゼェゼェ」


 男は大きく息を吐き出し、眼の前にいるトトを見て一瞬だけ驚いた顔をするが、すぐに憎悪と敵意をむき出しに睨みつけた。


「貴様が悪魔の王かッ!

 大事な友を……仲間同士で殺し合いなどさせやがって! クソが! 殺してやるッ!!」


 憤って男が暴れるが、グレムリンが鎖を引いたせいでその場に尻餅をつく。それでも、視線だけで射殺さんという感じであった。


「コラ! 無礼な口を利くナ!」


「よい」


 トトがグレムリンたちを制し、立ち上がって男に近づく。


「そうさの。余は邪悪だ。だが、手を下したのは余ではない。仲間を殺し……その頂点に立ったのはそちさね」


「そ、それは!! 戦わねば、村を焼き払うと貴様たちが言ったからだろう!!」


 男は罪悪感と共に湧きあがる無念さに唇を強く噛みしめた。


 魔物たちがこの男の村を襲い、老いも若きも関係なく戦士一〇〇名ばかりを拐ったのである。

 そして、魔都にあるコロシアムに連れて来て殺し合わさせたのだった。

 無論、仲間同士で本気で戦えるわけがない。殺し合いなんてできるはずがなかった。

 そこでグレムリンたちは、狡猾にも“村に残した女子供を助けたくば戦え”と男たちを脅して強要させたのである。

 最初は、戦士たちも反抗しようと考えた。だが、強化された魔物に、戦士たちは手も足も出なかったのだ。半端に逆らえば逆らうだけ、人質にされた村人たちが危険になるだけだろう。それ故、命を徒して戦うという選択すらできなかったのである。

 そして、魔界には魔族の眷属たち。さらにその上にもっと力のある魔王が控えている。そんな者たちにまともに戦ったとして、ただ国が滅ぼされるだけだ…と、そう戦士長は考えた。

 ならば、わずかな可能性だったとしても、自国の女子供たちが生き延びることができるかも知れない選択をしようと戦士長は苦し気に語ったのだった。


 涙を流しながら、戦士たちは望まぬ死闘を行った。

 魔族たちの野次を浴びせられながら、自らの手で仲間を死に追いやらねばならぬ新荘は筆舌にしがたい。

 嘔吐しながらも、この地獄が早く終わるよう祈り、感情を押し殺し、ただ剣を振ることだけに男は没頭したのだ。

 男の脳裏に、戦士長であった父親を殺すその様がリアルに思い出される。斬りつけた感触が未だ指に残っている。

 父親は恨むでも怒るでもなかった。ただ息子がとりあえずは生き残った…それを喜び、わずかに微笑んで事切れたのだ。その表情が、この男には忘れることができなかった。

 たった一人だけ生き残った…だが、そこに喜びなどあろうはずもない。そこはただの地獄の入口でしかないのだから……。


「クハハ、良いな。実に良い顔だねぇ。死線をくぐり抜けた人間は本当に良い顔をしおる。それが見たかったのよ」


 トトは妖しく笑い、男の顎に手をやる。


「見たかった? それだけ、か? たったそれだけのために……俺たちは殺し合ったのか?」


「うん? それ以上の理由が必要かえ?」


 男の顔が鬼のようになる。それを見て、トトは悶えてホウッと息を吐いた。


「ああ、愛おしくてたまらんよ…。

 よし。もうよい。鎖も外せ」


「ハ? し、しかシ……」


 命令を聞き間違えたのではないかとグレムリンが聞き直す。


「意見などするな」


 叱責を受け、グレムリンは慌てて頭を下げ、言われるままに拘束していた手足の鎖を外す。

 ガチャリと音がした瞬間だった。男がいきなりトトに襲いかかる!

 

 憤怒、怨恨、悲壮……そんな感情が入れ混じった顔をしていた。

 男には、もはや自分の命や祖国のことなど頭にない。命を弄ぶ、目の前の悪魔を自分の手で叩き潰すことしかなかったのである。

 筋肉隆々とした二本の腕が迫り、トトの細い首をガシッと掴む。そして、満身の力を込めて握り込む!

 その気になれば、岩をも粉々に砕けるほどに握力には自信があった。男はアームレスリングでも誰にも負けたことがないのだ。


「…なんだね? その程度か?」


 トトは涼しげな顔で嘲笑う。男の眼に動揺が走った。

 いくら人外の者とはいえ、自分の体躯の半分もない女を殺せないわけがないのだ。

 焦りを感じつつ、男はさらに力を込める…が、結果は変わらない。トトはつまらなそうに肩をすくめてみせる余裕すらあった。


「平和な時代が長すぎたようだねぇ…。ガーネットの将軍もいまいちだったしの。まあ、育つまでしばし待つしかないかな」


 トトは落胆したように呟く。


「うう…うぉおおおッ!!」


 首を締めて殺せないと判断した男は、手を離して拳を振りあげた!

 トトはそれをチラッと見やり、片手をおもむろに突き出す。


「潰れろ」


 そう言い、突き出した手で、ギュッと何かを握りしめる動作を行う。

 次の瞬間、拳を繰り出そうとした男の身体に異変が起きた。

 メキメキッという音がしたかと思いきや、腕と足があらぬ方向に曲がってひしゃげたのだ。


「ぐあッ! な、なんだとッ…」


 そして、まるで紙をクシャクシャに丸めるでもするかのように男の胴体がゆっくりと潰れていく。


「うぎゅッ!!」


 奇妙な悲鳴を上げたかと思いきや、男は球体状に丸められてしまった。それは徐々に圧縮されて小さくなり、赤いピンポン球ぐらいのサイズになってしまった。


「ふむ。やはり質は悪いようだな」


 トトはそう言い、その中空に浮かんだ球をつまんだかと思いきや、自分の口の中にカランと放り込む。

 そしてしばらく口の中で味わった後に一呑みにした。細い喉を通るときに、その部分が膨らんだので、呑み込まれる様子が外からでもよく解った。


「……いかがですカ?」


 グレムリンが恐る恐る尋ねると、トトは面白くなさそうな顔をする。


「美味くはないな。魔力もたいして回復せん……。

 クハハ。こうなれば、そちらもやがては喰らう羽目になるやもな」


 トトがニヤリと笑うと、グレムリンは青ざめる……もともと表情が青いのでよく分かりにくいのだが、少なくとも怯えた顔であるのに違いない。


「す、すぐにもっと優れた男を捜して参りまス!!」


「も、もうしばらくお待ちヲ!!」


 そう言って、慌てて部屋を飛び出していった。


「……はあ。つまらん」


 さきほどの暇そうな表情に戻り、玉座にドサッと再び座り込む。


 と、またグレムリンが入ってきた。

 何か忘れたことでもあったのかと思ったが、どうやらさっきの二匹とは別の奴のようだ。

 トトは下級魔族の顔をいちいち覚えていないので、なんとなしにそう思っただけなのだが……。


「ギラ様! 帰還されましたでス!」


 それを聞いて、ギラに与えたグレムリンの一体であったかとトトは納得する。


「ほう。ガーネットは落ちたのか?」


 トトが身を乗り出して聞くと、グレムリンは少し逡巡する。しばらくして、思い切ったように口を開く。


「い、いエ。行軍半ばにて、軍団は無念にも、ぜ…全滅!

 ギラ様も深傷を負われましタ!

 魔王トト様の御命令にて、ギラ様の御身を優先シ、撤退した次第デス!」


 “魔王トト様の御命令にて”という部分を特に強調して言う。つまり撤退の責任は自分にはない……そうグレムリンは言いたいわけだが、そんなことはトトには最初から興味のないことだった。


「……そうか。まとまりはなかったとはいえ、あの大群を退けたか。なるほどなるほど」


 面白そうにトトは笑う。

 次の瞬間、ズタボロになったギラが身を引きずるようにして現れた。

 側にいたグレムリンたちがなんとかそれを止めようとするのだが、ギラはそれを無造作に振り払う。無理してやってきたようだ。

 報告していたグレムリンがひどく動揺する。


「と、トト様! このようなお見苦しい姿で申し訳ございませぬ!!」


「ギラか。うむ。大義であったの」


「いいえ。大義などではございませぬ!

 自分が至らぬばかりに……。お借りした貴重な軍をむざむざ殺され、自分もこのように敗北するなどとは恥辱の極み!

 こうなれば死してお詫びを!」


 トトは面倒くさそうな顔をした。

 ギラの真面目すぎる性格は苦手としていた。どうにも任務に忠実し過ぎて、トトの感覚とは合わなかったのだ。


「よい。それを言うなれば、敵の戦力を見誤った余に非があろう」


「何を仰せられますか! トト様に非などございませぬ!」


「まあ、聞け。手加減したわけでもないのに敗北した……ということは、それだけ敵が強大であったということさね。それは余にとっては喜ばしいことよ」


 トトからすれば、自身による突入や、ピアーによる双頭魔龍ハウェ・バゼムの攻撃、魔物の軍勢による侵略……これだけで神々の加護に護られたガーネットを倒せるとは考えていなかった。

 もし倒せたら倒せたでいいが、倒せなかったら倒せなかったで、それまで人間の成長を愉しめれば良いと考えていたのである。

 

「しかし……」


 それでも敗北に負い目を感じているギラは納得していない顔をした。


「簡単に死んでもらっては困るさ。もう“魔族は増やせぬ”しな。

 ただでさえ少ない余の軍勢。そちの戦力の穴埋めを誰がするのかね?」


「か、返す言葉もありませぬ…」


「ギラよ。もし、死して詫びるというならば…戦場にて、余のために見事に果てよ。あのような戦いで散るでない」


「……トト様の仰せの通りに」


 ギラは悔しそうにしながらも頭を深々と垂れる。


「これで余の策は取り敢えずは尽きたのう。あとは魔界の魔力が地上に蔓延し、魔物どもが強化されるのを待ち……しかとした軍勢とする以外に手はあるまい」


 トトは顎に手をやり、足を組み直す。


「余たちの準備が整うのが先か、それとも人間共が余の首を獲るのが先か。はたまた龍王めが何か仕出かすか……クハハッ!」


 魔王はニタリと笑い、足先をピクピクッと痙攣させた。


「…ああ、甘美たる愉悦よのぉ」


 魔王トトにとって、すべては興に過ぎなかったのである……。




---




 ファルドニア砂漠地帯。

 ビッグワームの集団が黄砂から飛び上がる。そして何かを畏れるかのように、一斉に一つの方向に向かって逃げ出して行く。

 逃げ出していく反対方向には、青白い波動を全身から放ちながら構えるエーディンがいた。


「『龍王波動集束大砲タオ・ウェイブ!!!!!!!!』」


 青白い波動が一挙に放たれる!!

 それは砂を高く巻き上げ、逃げ惑うビッグワームたちに追いつき、哀れにもその身を一瞬にして蒸発させてしまった。

 後には、砂が雨のように降り注ぎ、魔物がいた窪みを覆っていく。そして何事もなかったかのように砂漠は元の姿へと戻っていた。

 エーディンは眉間にシワを寄せて、自身の放った力の具合を確かめていた。


「凄まじき破壊力ですわ! グレート! ビューティーフル! ワンダホー!」


 エーディンからかなり離れた後ろで、賞賛の言葉を大声で連呼するのはベロリカだ。


「エーディン様、前よりも波動タオの総量があがっているんではなくて?」


 いつもであれば、『タオ・ウェイブ』の一発でエーディンは倒れていた。しかし、今は平然とした様子で立っているのだ。それをベロリカは、エーディンの波動が増したものと考えたのである。


「……いえ。総量自体は以前のまま変わらないはずです。

 波動を圧縮する質が上がり、エネルギー消費量を抑えたことによる結果です」


 淡々と答えるバーナル。ベロリカは「ふーん」と素っ気ない態度をとった。

 自分がエーディンについて解らないことを、バーナルが当たり前のように答えたのが気に入らなかったのだ。


「……アンタが修行につき合えばいいじゃないの? 波動が使えるアンタなら、エーディン様と撃ち合いができんでしょ?」


 そして何かの間違いが起きて、バーナルがそのまま消されてしまえば……そんな悪意を抱きながら、ベロリカは口の端を笑わせる。


「私には『タオ・ウェイブ』は使えませんから……無理ですね」


 その皮肉を知ってか知らずか、バーナルはエーディンの背を見たまま素直に答えた。


「メッチャ頑張れば、エシュロンもエーディン様と同じのを撃てるようになりますですか?」


 人型になった白龍エシュロンが、エーディンの姿勢を真似る。その眼は憧れに満ちていた。


「いいえ。エシュロン。龍族と、龍王様は生物として根本的に違いますから……努力で補える部分ではないのですよ。

 “波動を練る”という事はできても、我々では“波動を圧縮”するまでには至らないのです。同じ波動を操ることでも、その威力には天と地ほどの差があります」


 丁寧な説明であったが、エシュロンは解ったような解らないような変な顔をして頷く。心なしか寂しげだ。


「イッーヒッヒッヒ。ま、それでもあの程度の威力じゃ、あの魔王ババアには通じねぇだろうがな」


 いつの間にか引き返して来ていたエーディンがそう言った。

 ベロリカ、バーナル、エシュロンが慌てて持っていたタオルを差し出す。三人同時だったので、妙な感じになった。

 エーディンは片眉を上げ、三人の顔を見る。そして、一番に近い位置にいたエシュロンの持つタオルをひょいと取った。

 エシュロンはパアッと嬉しそうな顔をする。ベロリカは憎々しげな顔でそれを睨み、バーナルは表情を変えぬままタオルをしまった。


魔王ババアの動向は?」


 エーディンが汗を拭きながら問うと、バーナルが口を開こうとしたが、それを邪魔するかのようにベロリカがズイッと前に進み出た。


「ルゲイトが偵察龍スカウタの範囲を広げて放ってますわ。それによると小諸国から人間狩りを行っているみたいですけれど、大した規模じゃないみたいですわよ」


「人間狩り? ああ、そういや魔族は人間を喰うんだったな」


「人間を食べるですか? あんまり美味しそうには見えないですぅ」


 エシュロンは舌を出して苦々しい顔をする。


「そうだな。好みの問題だ。龍族も魔族も敢えて人間を喰う理由はねぇが、頭からバリバリ喰ってやることでビビらせんのさ」


 エーディンが歯を剥き出しにして食べる真似をすると、エシュロンは怯えてバーナルの後ろに隠れる。


「アーッハハッ! アンタみたいなチビは簡単に、魔族にパクッて食べられちゃうんじゃなぁーい?」


 ベロリカが冷やかすように笑う。怒ったエシュロンは頬を膨らませた。


「び、ビビっなんかいないですぅ! エシュロンは美味しくないですぅ! ……だ、大丈夫です…よね?」


「ええ。この地に龍王様がおられる以上、魔族たちがファルドニアに入ることはありえませんから……」


 バーナルが優しくエシュロンの頭を撫でる。ベロリカはフンと鼻を鳴らした。


「ン? ルゲイトとガルが見えねぇが、もう動いているのか?」


「ええ。確か、“神を先に抑える”とかなんとかよく解らないことを言ってましたわよ」


「ああ? ったく。何かやるなら俺にも一言かけていけばいいのによ」


 ベロリカは、”作戦の全容を話したら、エーディンは自ら参加しようとするだろう”と言って、ルゲイトがあえて情報を伏せていたことを思い出した。


「まあ、エーディン様にはアタシと二人っきりで、じっくり、ゆっくり、ねっぷりと修練をして頂いてぇ~」


 抱きつこうとしたベロリカを、エーディンは軽く避けてみせる。


「エーディン様が、魔王トルデエルトを倒す力を得るまでの時間は我々が作ります。ルゲイト様の策はすべてそのためのもの…」


「わーってるさ。信用してねぇわけじゃねえよ」


 エーディンは頷く。バーナルもそれは承知していたようで「失礼を致しました」と頭を下げる。


「ルゲイトの野郎、魔王すらも手玉にとるつもりか。イッヒッヒ」


 自分の参謀ながら、頼もしいながらも恐ろしいヤツだとエーディンは思う。


「なら、俺もさっさと強くならねぇといけねぇよな!

 バーナル、ベロリカ! 二人で俺の相手をしやがれ!」


 エーディンは拳を作り、ニヤリと笑う。確実に強くなりつつあるのを実感していた。そしてそれが楽しいとすら感じている自分に驚く。

 今回、セリクや魔王といった強者の存在は、エーディンには良い刺激となった。

 力には絶対の自信を持っていた。だからこそ敢えて己を鍛えるような真似を、“弱い人間のやることだ”と軽視していたし、口には出さなかったにしても時間の無駄だとすら考えていたのだ。それを思うと、最初から修練の大事さを語っていたルゲイトに申し訳ない気持ちを抱く。

 セリクやトトは、龍王としての矜持をズタズタにしてくれたが、己の強さを一から見直し、慢心に陥らぬことを教えてくれた。それは成長と進化を促す、若き龍王に苦くも良い薬となっていたのだ。

 まだおぼろげにも見えて来ない、更なる高みを目指し、エーディンはますます己を鍛えることに励むのであった…………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ