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RUIN【破滅】  作者: シギ
二章 魔界の統治者トルデエルト
211/213

208話 深き闇夜のエィルート(1)

 コンクリを打ちっぱなしの殺風景でひらけた練兵場。

 それぞれ二人一組で向かい合い、それぞれ得手とする武器を持ち構える。


「常に実戦と思え! 常に死線を意識しろ! 常に気を張れ!」


 真ん中を歩き、男が声を張り上げると呼応するように訓練兵が揃って同じ言葉を繰り返す。


「訓練を命懸けで行え!! そうすれば戦場で生き残れる!!」


 鞘に入ったままの双剣をドンと突き立てると、それを合図にして壮絶な打ち合いが一斉に始まった。


「A6とB4、攻めばかりに気を取られ守りが疎かだぞ! E1、突く時にもう半歩前に踏み出せ! D3、戦技アーツに頼り過ぎだ!」


 AからFまでの列に分かれており、さらに組で1か2の番号のついたゼッケンをつけていた。

 男は視線を向けることもなく、戦いの音だけで細かい指導を行う。それが的確なのは、戦っている本人がよく解っていた。


「F2…」


 一番奥の列の剣戟の音を聞いて、男は眉を寄せる。最初聞き違いかと思ったのだ。


「……ハァ」


 しかし、それが間違いでないと確認できると大きく溜息を吐いて双剣を腰に戻す。

 歩き出した男を気にして、訓練兵が好奇の視線を向けて来るが、睨み返すと慌てて目の前に意識を戻した。訓練とはいえ、舐めている者や、やる気のない者には非常に厳しい指導が入るからである。


「…勝手をされると困りますね」


 素知らぬ顔をして訓練兵に混じっている“Fー2”のゼッケンをつけた少年に声をかける。相手になっている男は何とも気まずそうだ。


「レイド様」


 非難を込めて名を呼ぶと、ようやく少年が振り返った。真紅をした瞳がイタズラめいた笑みを魅せる。

 ちょうど相手の剣が振り下ろされた直後であったが、レイドは器用にそれを手を掴んで外させる。

 相対者はレイドの頭を殴ることにならなかったことの安堵で盛大に息を吐いた。


「いいじゃないか。僕が参加したって何の問題があるんだい? バージル」


 黒髪を後ろで一つに束ねた青年…バージルは頬をひくつかせて眉を寄せる。それは彼が怒った時の癖であった。


「…天空神様にお叱りを受けるのは自分です。なにとぞご自重を」


 レイドは気を利かせた訓練兵が持ってきたタオルを笑顔で受け取る。汗などかかないが、その気持ちを汲んで額に当てた。


「そういうつもりではなかった」


「…理解しております。しかし、お立場をお考え下さい」


 レイドは頷くと、剣を鞘に納めて近くにいた者に手渡す。


「チッ! 貴様ら何をサボっている! 続行! 私がいなくても手を抜くな! 死は待ってはくれない!」


 バージルが一喝すると、今までそのやり取りを見ていた訓練兵が慌てて打ち合いを再開する。


「…厳しいね」


「当然です。龍族の顎に挟まれてから怒鳴っても遅いですから」


「剣士としては真面目だね」


 レイドが含みある言い方をしたので、バージルは再び頬をひくつかせる。

 レイドが歩き出すと、バージルは無言のままそれに続いた。

 歩いている最中に、訓練兵と同じ粗末な鉄の胸当てだったのが、いつの間にか朱色をした立派な鎧とマントにと変わる。


「…せめて宮殿外を歩かれる時は護衛をお付け下さい」


「僕だけのために護衛を頼むなんて無駄なことだよ」


「アラーニェもいるでしょう」


「彼女は番人だよ。…そもそもこの神翼島で僕の命を狙う者がいるとは思えないさ」

 

 確かに言う通りだとバージルも思う。しかし、“神王の子供”たる存在が一人で出歩く…それも下々の者たちの前で平気でというのが不味いのだ。


「…訓練時間外であれば、私かスメラギが随伴致します」


「なんだって。“四軍士しぐんし”が? それはなんとも贅沢な話だね」


「冗談で言っているわけではありません」


「ハハ、軍人としても真面目なことだね」


 バージルはまたもや頬をひくつかせる。それを見てレイドは笑う。子供に笑われたような不愉快さはあったが、幼い見た目であってもバージルよりもずっと年上なのだ。


 居住区の中を進む。市民の皆がレイドとバージルの姿を見るやいなや端によけて頭を深々と下げる。

 バージルにとってはごく当たり前のことに見えたが、レイドはそうされる度に悲しそうに笑って手を振った。

 バージルが行き先を尋ねなかったのは、レイドがどこへ向かおうとしているかすでに察していたからだ。

 案の定、バーの看板が下がる建屋にと入って行く。


「これはレイド様にバージル様」


 昼間だというのにバーの主人がカウンターに立っていた。彼は二人の姿を見るやいなや、熊のように大きな肩を縮めて平身低頭になった。

 店内はガランとしていて、三人組の客が何やら話し込んでいるだけだ。

 この店は夕方以降は酒を出すが、日中帯はカフェとして営んでいる。しかし、客足が少ないのは評判が悪いからではなく、単に神翼島では茶を愉しむような習慣がないからである。  

 

「いつものお席で?」


「うん。悪いね。お邪魔するよ」


「いえいえ、レイド様に使って頂けるなら幸いですとも」

 

 外階段に回り、二階屋根部分に回る。夜になれば盛況で、兵士たちで埋め尽くさんばかりになるが、今は一匹の猫が植え込みで寝ているだけだった。

 レイドがお気に入りの、端の競り出た部分(一階入口で看板が出ているところに当たる)に座る。ここからだと大通りの人々の往来が見渡せるだけでなく、顔を上げれば採光窓から空の一部が見えるのだ。下の通りからだと光は入ってくるが、角度の関係で外界までは見えないのである。

 

「風が吹いてくれればもっと最高なんだけど…まあ、それを差し引いてもベストプレイスだね」


 従神位である彼の立場であれば、天網宮殿内部を自由に行き来するだけでなく、外周庭園をも自由に散策できるはずだ。そうしないのは、自由に外界を行き来できない天界人ヨニマに配慮してのことである。

 主人が飲み物を持ってくる。それはただのグラスに入った水であったが、それに手を付けない二人には単なる置物でしかなかった。

 

「遠慮することはない。頼めばいいのに」


「訓練している者たちに示しがつきませんからな」


 レイドに言われ、バージルは苦笑いする。

 言えば主人がアルコールも提供してくれるだろうが、いくら酒豪のバージルとはいえ、目上の者がいる前で飲む気にはなれない。


「…龍族に接触した者がいる」


 主人が離れたのを見て、レイドが唐突に言い放つ。

 一瞬、バージルはいつもの癖で会敵したという意味かと思ったが、すぐにそんな話ではないと理解する。


「寝返ろうとして?」


「…そこがハッキリしない。ただ地上人ヨニマを装って……良くない言い回しかい?」


「神々からすれば、どちらも人間ヨニマでしょう。住む地が違うだけで、中には差別と捉える者もいるようですが…」


「コルゴラは地上人ヨニマと呼ばれるのを嫌がっているようだけど…」


「神々を信奉しない異分子をレイド様が気遣う必要はありません。

 それで、その接触した者は何を?」


「…幾つかの戦略ルートをバラしたみたいだね。待ち伏せにあった」


「天空神様には?」


「まだ知られていない。幸いにも勝ったからね。彼は過程より結果にしか興味ないよ」

 

 レイドが浮かない顔をしているのは、もし知られたら大変なことになると解っているからだ。


「…炙り出しますか?」


「大事にしたくない」


「内通者がいる時点で大事では?」


「連帯責任だとして、ここにいる全員を処断する可能性だってある」


 否定しようとしたが、あの苛烈な天空神であればそうしてもおかしくないとバージルは考えを改める。


「スパイみたいな真似はさせたくないけど…」


「いえ、私の部隊で怪しい動きをする者がいたらすぐにご報告します」


 全て言わずとも察してくれたことに、レイドは悲しそうに笑って頷く。


「「バージル様ぁ!」」


 大通りの方から黄色い声援が響く。

 レイドが声の方をした方を見やると、頬を赤く染めた三人の若い女性が手を振っていた。


「訓練は終わりなんですかぁ? ならアタシと遊びましょーよ!」


「ずるーい! アンタは一昨日遊んでもらったばかりでしょ!」


「何言ってんのよ。私なんて今月は一回もお話すらできてないんだからね!」


「解った解った! 三人まとめてだな! もう少しで用も終わるから、下でお茶でもして待っててくれ」


 バージルが笑ってウインクしてみせると、再び嬌声が上がる。


「…ホントに真面目だね」


 レイドが皮肉って笑うと、バージルは何とも気まずそうに肩を竦めて見せる。


「…英気を養うのも訓練の一つです」


 自分で言ってて開き直りだと思ったのか、バージルの頬は痙攣していた。


「責めているわけじゃないさ。ただ…」


 レイドは一瞬間を置いて、少し悩んでから続ける。


「そろそろ一人の女性に決めてもいい頃じゃない?」


「身を固めろ、と?」


「人間の寿命は短い。余計なお世話だろうけど、僕は君のことを気にしているんだ」


「短いからこそ、縁は幾つあってもいいんです。ご心配無用。そのうち決めますとも」


「……真剣なもいるだろうに」


 礼儀正しく振る舞っていたバージルが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。これが彼の素顔なのだと知るレイドは特に何も思わなかったが、バージルは気まずそうに咳払いした。


「……あんな気持ちの悪いネクラ女。いくらレイド様に勧められようとも願い下げです」


「…そう」


 バージルは立ち上がって深々と頭を下げる。

 そして階下へ降りると、待っていた三人の女性と仲良く娯楽街の方へと向かって行った。


「……本当に真面目な男なんだけどね」




ーーー




 茶色く染まった白衣が床を右へ左へと滑る。その度に埃がモワッと巻き上がった。

 右の台に並ぶ試験管を棚から取り出して眺め、ブツブツと呟き頷き、今度は左の台に無造作に散らかしてあるノートへ細かく記入していく。


「…失敗。原因は溶液の濃度が足りないから? 足りないだけ? 違う違う。素材の選択も間違えた。前の結果ではアルミの方が反応が早く進むことは解ってた。なら伝導率が高い素材の方がいいはず。次回、改める」


 ノートを試験官の側に持って行って記入すれば早いだろうが、この右から左へ行ったり来たりをする間に思考を巡らせるのだ。

 長い髪は垢にまみれ、ボサボサに前に垂らし、頭をかくとベタつき、チーズのような臭いがした。

 コンコンとノックがすると、ビクッと猫背が震えた。来訪者などまずない。口を半開きにして、返事もできず、ただノックされた扉を凝視する。

 再度ノックされる。少し躊躇いがちだったが、さっきのが聞こえないと思ったのか今度は強めにだった。

 しばしの沈黙。扉の向こうで相手が首を傾げているのが感じられる。そして、扉が開いた。錠をかけてないのは、錆び付いて壊れているのを放置しているせいだ。


「エィルート。いる?」


 薄暗い部屋に紅い光が揺れる。

 目の前に女が立っているのを見て少し驚いた様だったが、「なんだ」と笑う。


「いるなら返事くらいしてよ。エィルート」


 彫像のように、口を半開きにしたまま動かないエィルートを見て、レイドは眼をクルリと回す。


「エィルート?」


 再び呼び掛けるが、魂が抜け出てしまったかのように反応がない。

 しばし思案していたレイドだったが、やがて「ははーん」と笑う。


「そうか。今は違ったね。“エィルート・トゥルーデ”」


 そう呼ぶと、エィルートは黄ばんだ歯でニイッと笑う。


「ご、ご名答です。レイド様。ち、地上人は名前と名字を名乗ります。名字には住んでいる場所や土地柄を表すのが一般的で…」


「君の場合は“深き闇夜(トゥルーデ)”なのかい?」


 エィルートは嬉しそうに頷き、部屋を見てくれとばかりに手を広げる。彼女は日中でも窓を開けずに生活している。


「お、乙女チック過ぎます…か? わ、私には相応しくないでしょうか…」


 自信なさそうに猫背がさらに丸まる。


「いや、そんなことはないよ。ただ上級神には余り言わない方がいい。彼らの名前が二つに別れてるのは、神威の格付けとしての意味があるからね。良くは思われない」


「も、もちろん、レイド様だけにしかお教えしてませんとも! く、クヘヘ…」


 エィルートはニタニタと笑う。周囲には気持ち悪がられる独特の笑い方であったが、レイドだけは嫌がる素振りを見せなかったので、彼女が笑うのは気を許したそんな相手の前だけだった。


「で、でも余りに長いんで省略も考えたんです!!」


 聞いてもいないのに、資料の束の中から一枚の髪を引っ張り出して説明しだす。そこには試行錯誤したでろう文字列が沢山並んでいたが、彼女は普段から暗号文を使っていたのでレイドにも何が書かれているか解らなかった。


「ち、地上では地方ごとに微妙に言語に食い違いが生じていて、な、中には頭文字と語尾を拾って呼ぶ独自の例も…」


 レイドが片手を上げると、彼女は何か言いたげにしながらも口を閉ざす。

 放っておけば、それこそ夜中まで話し続けるであろうことをレイドはよく知っていたのだ。


「…そ、そういえば、レイド様が研究所ではく、わ、私の家に…来られる…のは…ど、どういったご用件、で?」


 さっきとは異なり、小さな声でボソボソとエィルートが尋ねる。

 レイドはなぜかエィルートに目を掛けていたが、それでも用件がある時には仕事場に赴く事が多かったのだ。今更になってエィルートはそのことに疑問を覚えたのである。


「君にしか頼めないことがあってね」


 レイドが片手に持っていた細長い木箱を持ち上げる。


「そ、それは?」


「創生の器から創られた物でね。秘密に処分して欲しい」


 エィルートはしげしげと箱を見つめる。


「せ、生物ですか?」


「何とも言えない」


 レイドは少し困ったような顔で肩をすくめる。


「ただ自己再生能力を持っている。僕の力で抑えているけど、完全破壊となると…僕より君の出番かと思ってね」


 レイドの力であればそんなことは容易いだろうにとエィルートは思った。そんな疑いの視線に気づいたのか、レイドは小さく咳払いをする。


「余り強い力は使いたくない。敵に居場所を知られるのは好ましくないから。それに…」


 レイドは少し悩む素振りを見せ、エィルートを見つめて言う。


「…君の研究は素晴らしい。それこそタリムに並んでもおかしくはない。ローウヨード神気シン魔気マガについて解き明かしたのは君だろう」


 そう褒められるが、エィルートは嬉しそうにはしなかった。唇を微かに震わせる。


「ナザレフに手柄を奪われていることは…」


「ち、違います」


 否定するエィルートに、レイドは眉を寄せる。


「わ、私の研究は私だけのものではありません。皆の…その、多くの努力の結実です」


「しかし…」


「な、ナザレフ主任は私を拾って下さった恩人です」


 レイドは不満そうな顔をしたままだったが、それでも頷く。


「…解ったよ。それで処分は頼めるかい?」


「…え、ええ。もちろん」


「くれぐれも破壊を躊躇わないで。これは“失敗作”だそうだから…」


「…失敗作…」


 受け取った木箱をエィルートは見つめて呟く。


「…そういえば“聖典祭せいてんさい”には?」


「…あ、その前に報告会がありまして。そ、それを無事に終えて…時間があったら…」


「誰か誘ったのかい?」


 エィルートは首を大きく横に振る。


「…僕がバージルに声を掛けてみようか?」


「い、いえ! とんでもない!」


 真っ赤な顔をしてエィルートは再度首を横に振る。


「気になっているんだろ?」


「……あ、わ、私がき、気持ちの…悪いこと…した、した…から」


 レイドは以前にバージルが憤っていた姿を思い出す。彼にしては珍しく感情を剥き出しにして憤っていたのだ。


「…ああ。君が軍の検診を担当したんだっけ」


 エィルートは気まずそうに頷く。


「いくら気になっている相手でも、その体液を個人的に保管して置くのは…」


「し、趣味です!!」


 レイドは何とも言えない顔をする。

 決して悪い人物ではないし、悪気があってそんなことをしたわけではなく、ただ単に愛情表現が独特なのだ。それをどう本人が理解するか、もしくは周囲に理解してもらうか…レイドはずっと考えていたのだ。


「…な、なんで私なんか、暗くて、つまらない女…レイド様は…き、気にかけて…下さる…のか」


 レイドはしばらく黙って彼女が書き殴った書類の束を見やる。


「…君が目指すところが、きっと僕と同じところだから、かな」


「め、目指すところ?」


「…気にしないで。ただ期待しているって話だよ」


 レイドはそう言って手を振り、家から出て行く。


「……私なんかに期待されても」




ーーー




 神翼島に駐在している天界軍は軍士バージルなどを筆頭とした戦闘局と、後方にてサポートを行う支援局の大きく二つに分けられる。

 支援局は索敵班、情報班、医療班などにさらに細分化され、研究班もまたそこに含まれていた。

 研究班の目的は、より優れた兵器や戦法を見出すことである。しかし、そんな曖昧な目標のせいで、その作業は具体性に欠け、研究内容が多岐に渡りすぎて分類が困難となり、ひどく乱雑なものとなっていたが、神々に益となり、神敵に害するものであれば何でも取り入れるべきであるという天空神の命令により、比較的自由な活動を容認されている。

 研究班自体はタリムという男が形式上の長としてまとめていたが、彼自身が自分の研究にのみ没頭するような根っからの研究者であり、その弊害からか統率能力が著しく欠如していたため、次席に位置する主任クラスが好き勝手をし、研究者を取り合うせいで、班内で幾つかの派閥ができ上がってしまっていた。

 その中でナザレフは最大派閥の主任である。主な研究は生物に関するもので、兵器班などとも深い繋がりを持ち、実戦投入された物も数多くあり、周囲からも一目置かれる男であった。そして次期局長になることはほぼ間違いないだろうと囁かれていた。


 ナザレフ班、ナザレフを含む一五名もの白衣に身を包んだ研究員が議場に上がる。

 議場の半分以上が研究員であり、発表に興味を持った者が席に大枚をはたいて座していた。

 一番高い三つの席には、天空神によく似た装いの少年たちが座っている。彼らはエアズ・ノストの代理である従神であり、この三者が同時に決定した事項は、天空神自身の決定と見なされる。


「厳粛を心掛けよ!」


 向かって右側に座るモズをモチーフとした仮面をした少年が声を張り上げる。


「明瞭を心掛けよ!」


 左側に座るフクロウの仮面をした少年が続ける。


「公義を心掛けよ!」


 真ん中に座るコンドルの仮面をした少年が手に持つベルをハンマーで叩く。


「「「発言することを許可する!」」」


 三者が揃って言うと、ナザレフはやや緊張した面持ちで前に進み出た。

 これが初めてではないが、この発言の機会を与えられる度にまるで裁判でも受けているような気分となる。どんな気の利いたことを言おうとも、決して表情を崩すことのない従神を前にしては誰でもそんな風に思うに違いないとナザレフはいつも思う。


「本日、我々が提唱させて頂きますのは、魔物を利用した新たな軍力の創設でございます!」

 

 予想していたように、従神たちに何の反応もない。

 研究者たちの何人かがヒソヒソと話合うのが見えた。きっといい話ではないだろう。


「…サンプルを」


 後方に待機している仲間に声を掛けると、檻に入ったファントムウルフを前に進ませる。下に車輪を付けて移動できるようにしてあるのだ。

 唸り声を上げる邪悪な存在を前に、ほんの一瞬であったが従神たちが怒りを眼の奥に浮かべた。この聖地に魔物を連れて来ることに対してのものだ。


「…ご存知の通り、このフォントムウルフは肉体チリルを持たず、霊体マハスのみで構成されており、そしてその性質は魔気マガに傾倒しています」


 長い灰色のウェーブがかった髪をかき上げ、ナザレフはニタリと笑う。


「私どもが長年研究しておりますのは、“浄化”について。かの魔物たちの魔気マガを消し去り、如何に理性をもたらせるか。それを可能とするのが、我々が開発したこの浄化剤“エル・デトックス”であります」


 研究員が試験管から薬液をファントムウルフめがけて垂らす。瞬間、身体を覆っていた魔気マガが薄れて苦しみ出す。


「研究は大詰めを迎えております。これらの最終段階では、魔物を我らの下僕として率いれ、即座な天界軍の戦力増強に繋がるものと考えます」


 ドヤ顔をして言うナザレフは、類似の研究をしている者たちからの羨望と嫉妬の視線を浴びてより気分の高揚を覚える。


「分別なき者に理性を与えるというのか?」


 フクロウの面が尋ねる。


「はい。左様にございます」


「神の名に置いての聖戦。その戦列に魔物を加えると?」


 モズの面が尋ねる。


「いいえ、我々こと天界軍は神々の剣にございます。なれば、魔物は神々の盾として使い捨てにすることが正当かと。正式な戦列に加える必要はございません」


 ナザレフは従神たちが思案しているのを見てさらに続ける。


「無為なる憐れな存在に、神の徒を守る役割を与える。この栄誉こそ最大の慈悲であると私たちは考えます」


 神に栄光を帰す…ナザレフはこの台詞を前もって考えていた。天空神に望まれるに相応しいセリフだと。

 従神たちはそれぞれ目配せし合い、メリットとデメリットを短い時間で考察する。


「…神の座を瀆すことがないのであれば容認しよう」


 三仮面が揃って頷く。


「心から感謝いたします」


 ナザレフが深々とお辞儀をすると、研究員は白い布を檻へと被せて引き下がる。それに合わせ、他の研究員たちもその場を後にした。


「次の班、中に!」




ーーー




 退室したナザレフは一息吐く。顔では平静を装っていたが、手の平は汗で濡れそぼっていた。

 足早に人気のない場所へと移動する。


「最新薬でも一〇分…か。ギリギリだったな」


 ナザレフがそう呟くと、研究員は檻にかかっている白布の覆いをそっと捲った。

 そこには形状を維持できなくなり、半ゲル状態となった憐れなファントムウルフの姿があった。弱々しく前脚を伸ばすが、それは途中で粘つく糸を引いて落ちる。歪んだ双眼だけが、ナザレフを恨みがましそうに睨んでいた。

 ナザレフが「もういい」と手を横に振ると、再び覆いが被せられる。


「理論上は、魔気マガの代わりに神気シンを投入すれば…聖獣に近しい存在になるはずですが」


「現状、比較的小型の魔物ならば三割弱は成功しています。ですから…」


「いや、それは知性を持たない植物系の魔物であればだろう? 動物型で知性を持つ魔物は精神構造がより複雑になる。そこを加味して考えねばならん」


 研究員たちが議論しだすのを、ナザレフは手刀を降ろして止める。


「…エィルート。君の考えは?」


「…あ、え? は、は!」


 今まで黙して一番後列にいたエィルートは、いきなり名前を呼ばれて素っ頓狂な声を上げた。

 ナザレフは真剣な面持ちであったが、その側にいた女研究者はチッと誰にも解らないくらい小さな舌打ちをした。


魔気マガについては君の専門分野だ。意見を聞きたい」


「あ…は、はい。魔気マガは侵食性が高く、そのまま生物に与えても死に至らしめます」


「そんなのは常識だ。だが、それを維持できているのが魔物という存在で…」


 茶々を入れた男研究員をナザレフが睨みつけると、慌てて口を閉じる。


「…エィルート。続けて」


「ま、魔物はゆっくりと魔気マガに晒されることで体内に特殊な構造を持つに至り、その生命維持に転用しているものと思われます。で、ですから、急激に神気シンを含む物質を投与すると…逆効果…なのでは、ないか、と」


 後半をボソボソと呟くように言う。

 研究員たちはカッと目を見開いた。そこには強い怒りが宿っていた。


「私のエル・デトックスはその課題点を攻略している!」


 禿頭の一番年配である研究員が唾を飛ばして怒鳴る。彼が浄化剤を作る際の配合などを決めているのだ。


「い、いえ、浄化剤そのものの問題ではなく…魔気マガの除去、神気シンの投与を別工程にすればあるいは…」


「なんですって? それならなんでそれを早く言わないのよ! 実験は何度も繰り返していたでしょ! あなたは失敗していたのを知って黙っていたの?!」


「あ、は、ご、ご、めん、ごめんなさい…」


 皆に責められ、エィルートはオタオタと狼狽する。


「もういい。エドナ」


 怒る女研究者を遮り、ナザレフが前に進み出る。エドナはギリッと悔しそうに歯軋りをした。


「エィルート。ならば、そのやり方でやれば成功すると?」


「…あ、でも、その…」


「なによ! ハッキリ言いなさいよ!」


「た、たぶん…すべての工程を終えるには、半年から一年は…かかる、かと」


 エィルート以外の全員が溜息をつく。


「そんなには待てない。天空神様へは報告をしてしまった。今更、研究は失敗しましたなどとは言えん」


「ナザレフ主任。報告はもう少し成果がでるまで待ってもよかったのでは…」


 研究員の一人がそう遠慮がちに言う。


「グラードンが『タオ・ウェイブ』に匹敵する長距離兵器を開発中らしい。それよりも先に手を打たねばならん」


 グラードンとはナザレフに次ぐ兵器関係の主任だ。

 ナザレフが今日発表したのは、その前に研究成果を見せなければ次期局長の座を得られないと危惧してのことである。


「…一ヶ月だ。一ヶ月以内に解決策を見出す。そして実用化に向けて全てをそれに注ぎ込む」


「え…? な、なら聖典祭は…?」


 エドナが愕然とした顔で、ナザレフを見やる。


「聖典祭? …研究成果を出すのとどちらが大事か考えるまでもない」


「…そんな…」


「何か不服か?」


「い、いえ…」


「各自全力で取り組め。せめて龍族と戦えるよう仕向けられればいい。私が局長になった暁には…君たちのさらなる地位と報酬の向上は約束しよう」


 ナザレフの誘惑に、ほとんどの研究員はやる気となる。


「特に…エィルート君」


「は…はい」


「君には期待している」


 ナザレフから肩に手を置かれ、エィルートは眼を白黒とさせる。その時にはハッキリと、彼女の耳にも聞こえるくらいギリッという歯軋りの音が聞こえたのであった……。




ーーー




 聖典祭。それは神翼島で行われる年に一度だけ行われる大きな祭りであった。主としては天空神を讃える宴であったが、実のところ羽目を外して飲み食いできる無礼講としての側面が強かった。

 龍族との戦争の只中にあって不謹慎との声もあったが、神翼島は前線から大きく離れており、この島から飛び立つ者たちは死を覚悟して戦いに赴くのであるからして、せめてそれまでは神界で暮らしていた時のような愉しみを享受させてあげたいという思いやりから、神々からも容認されているのであった。この日ばかりは島の隅々にまで眼を光らせている天空神も、比喩ではなく眼を閉じることとなる。

 そしてただ無礼講でどんちゃん騒ぎをするわけだけではない。祭りの最中に若い男女が酒の力を借りた告白で結ばれたり、または隠れて付き合っていた者たちが正式に婚約を発表したりする良い場ともなっていた。

 中には聖典祭を心から神聖視し、この時に結ばれ産まれる子供には天空神の加護を得られると本気で信じる女性もいた。



「バージル様、どうか聖典祭は私をご一緒させて下さいませ」 


「ひどい抜け駆けよ! バージル様をお誘いする女はくじで選ぶってのが例年の決まりじゃないの!」


「あら、でもバージル様ご自身が選ばれたなら話は別でしょ」


「解った解った。よし、それなら皆で過ごすとしよう。君たちの店で一晩中飲み明かそうじゃないか」


「あ! またそうやって! バージル様ったら本当にイジワルなんですから!」


 両側から女性に腕を絡め取られ、歩き辛そうにしながらもバージルは嬉しそうにする。訓練の最中ではまず見せない表情だ。


「しかし、聖典祭も罪作りなイベントだ。こうやって私を巡る女性の争いが熾烈になるんだからね。君たちは龍王アーダンよりも手強いやも知れないな」


 不満そうな女性にウインクしてみせると、みるみるうちに顔が赤くなって破顔する。


「もうそんなんじなごまかされ…キャ!」


 バージルはニヤッと笑うと、腕を大きく上げて女性を浮かす。女性たちは驚きながらもバージルの腕に掴まり、そのまま担いで歩き始める。このパフォーマンスに周囲にもどよめきが起こった。

 バージルは決して筋骨隆々としているわけではなく、背も平均的な中肉中背だ。それなのに片腕で軽々と女性を持ち上げて運ぶ筋力があるのである。


「ハハハ! 軽い軽い!」


 意気揚々と進む。注目の的になっていたが、元から目立ちたがりの女性たちはそんな特別扱いされてることに逆に恍惚となった。英雄と呼ばれる男と共にいるのもそういった羨望で見られることが気持ちいいからという向きもあったのである。


「…ん?」


 途中、バージルは何かに気を取られ、女性たちをゆっくりと降ろす。


「バージル様? どうされたんですの?」


「…あ、いや」


 女性が尋ねると、バージルは何とも気まずそうに口籠る。明朗快活な彼にしては珍しいことだ。


「あのベンチ?」


 もう一人の女性が、バージルの視線の先に気付いて言う。

 視線の先には、パン屋の向かいに三人掛けの木製ベンチがポツンとあった。ここで買ったパンを食べれるようにと設置したのであろうが、ここで座って食べている者を見たことがない。軍部の男であれば立ち食いをして終わらせるだろうし、女であれば外で食べるのは下品と考え持ち帰ることだろう。


「…あ。そういえばいつものあの子がいないわ」


「あの子?」


 バージルは頬をピクッと引き吊らせる。


「ほら、いつも暗い感じの…地味な髪の長い女の子」


 指でウェーブを書き、前髪を垂らした状態のジェスチャーをする。


「ああ、なんかいつもこっち見てる…。不気味な女よね」


 二人の女はそう言ってバージルの顔を覗き込む。


「…あ、ああ。そういえば、そうだな! 何かおかしいと思ったんだ。そっか。言われてみれば、あのネクラがいないからいつもと風景が違って見えたのか!」


 バージルが早口にそんな事を言う。


「さすがバージル様。そういう細かいところにもよくお気づきになられるんですね」


「まったくですわ。あんなみすぼらしい女のことも覚えておいでなんて」


 何かを勘違いしたのか、二人は好意的に捉えてバージルをべた褒めする。

 二人に手を引かれつつ、バージルはもう一度だけベンチの方を見やって目を細めた。


(……今年も誘わない気かよ)




ーーー



 エィルートは部屋を行ったり来たりする。何かを思いつく度に立ち止まり、やがて首を横に振り、また歩き出し、そしてまた立ち止まり、今度は頷いてその辺に転がしてあった紙片に猛烈なスピードで書き殴る。

 そして書いてる途中でピタリと止まり、頭を掻きむしり、指についた十数本の毛も気にとめることなく紙片をグシャグシャに丸めて放り投げる。そんなことを不眠不休でここ数日間ずっと行っているのだ。


「……ムリ。どうやっても時間を短縮なんてできっこない」


 実験を行う前からエィルートはずっとナザレフたちに進言してきた。いや、そのつもりであったと言った方が正確だろう。彼らは結果を出すことに忙しくてまともに取り合わなかったのだからして。

 彼女からすれば神気シン魔気マガを浄化するという考え自体が無謀な話であった。相反する性質のエネルギーであり、直接ぶつかり合えば相殺される可能性もあるが、それは特殊な条件下に置いての事であり、絶妙なバランスをとっている生物の体内でそれを行うのはそれこそ神業に等しいぐらいに高難度なことだ。

 なぜ研究者たる者がこんな失敗をおかすのかと言えば、それは彼らの無知さが原因に他ならない。身近にある神気シンのデータを元に類推しているだけであり、エィルートのように地上に降りて実験することはまずない。


神界セインラナスに最も近い神翼島…この島に来た時点で、魔物の魔気マガは著しく不可逆的な変質を起こす。もし人格がローウに根ざすとしたら、当然、悪影響を受けるはず。そこに神気シンを流し込んで正常化するはずもない」


 聖獣とは別次元の存在なのだ。魔気マガの代わりに神気シンを宿せば聖なる存在となるだなんて、実に馬鹿げた妄想だとエィルートは思う。


「……でも、やらなきゃ」


 ナザレフの期待が重い。彼は恩人であった。コミニュケーション能力が高いとは言えない彼女が研究者として神翼島に来れたのは、ナザレフが埋もれていた彼女の才覚に気づいたからに他ならない。

 なぜ彼女は危険な神翼島に来たがったのか。タリムのように神界にいても研究はできたはずだし、いくら最前線ではないとはいえ、いつ龍族に攻め込まれてもおかしくない場所だ。

 エィルートはふと視線を上げる。そして机の端に立て掛けられていた鏡台を見やった。彼女がそれに触れ、縁を何度か軽く叩く。すると、鏡面がズレ、その裏側に隠れていた精巧な絵が表れた。

 そこには双剣を腰に帯びた壮健な剣士の姿が活き活きと描かれていた。ざわざ絵画の専門家に大金を支払って描き上げてもらったものだ。

 エィルートは高鳴る胸元を抑え、長い髪の下で頬を染めてはにかむ。そして引き出しから小箱を取り出した。

 箱の中にはベージュ色をしたバレッタがあった。決して高価な物ではない。子供の玩具のような粗悪な造りだ。だが、これをくれた少年はお小遣い全部を使って、選びに選んでくれたであろうことがエィルートにはよく解っていた。


「…クヘヘ」


 当時を思い出して笑いつつ、バレッタを髪につけようとして思いとどまる。垢に塗れてベトベトになった髪に付けるのは相応しくないと思われたのだ。

 絵を鏡に戻すと、エィルートは深く溜息をつく。そこには見すぼらしい不潔な醜女が映っていた。それを見る度に悲しく、そして残酷な現実にと戻される。

 このバレッタを付けて笑っていた少女はもういないのだ。一流の剣士になると宣言する少年に、それを側で支える研究者となると微笑んだ健気な彼女は遠い昔の思い出の残照に過ぎない。

 思い出を穢さぬようにそっとバレッタを木箱へ戻し、元あった場所にと戻す。


「…え?」


 最初空耳かと思った。引き出しを閉じる音に重なって聞こえたので、何かを落とした音かと思ったのだ。

 しかし、そうではない。何か呻くような音が聞こえてくる。それも部屋の中からだ。

 気味の悪さを感じながら、恐る恐るエィルートは音の発生源を突き止めるべく耳を澄ます。


「……ス」


「声?」


「ケ…テ…」


 それは余りにも微かであったが、間違いなく言葉に聞こえるものであった。


「…“助けて”? そう言ってるの?」


 声の主に呼びかけるが返答はない。エィルートは途切れ途切れに聞こえる音を追う。

 そして、ようやくその元へと辿り着く。それを見た時、思わず「あ」と後悔の声を漏らした。

 不用品を積んだ山の中の一角に立て掛けてあったそれは、レイドから処分を依頼された物だった。研究の忙しさもあり、色々あってすっかり忘れてしまっていたのだ。


「…どうしよう」


 明らかに中から声が漏れている。恐らくはレイドの力が薄れてきたことによるものだろう。

 開けずにオードを消失させる薬品を使うか、もしくは最近地上の民から教わった符術を試してみようと考えていたのだ。そうすれば正体を知ることなく消滅させられる。レイドもそれが可能だと知っていたからこそ、エィルートに任せたのである。


「自己再生能力があるって言ってた…。ということは元の姿に戻ろうとしている」


 エィルートの脳裏に、凶悪な魔物が這い出てくる姿が思い浮かぶ。レイドが抑えつけたということは、それなりに凶悪な存在だ。もし力を取り戻したとしたら彼女にはどうすることもできなくなる。


「ど、どうしたら…。レイド様に正直に…ああ、ダメだよ。そんなことをしたら使えない女だって…嫌われてしまう」


 彼女はレイドが“失敗作”と言ったことを思い出す。下手をしたら、エィルート自身ごと消されてしまうのではと考えて身震いした。


「…とりあえず、中を確認しないと」


 この行為が彼女の後の運命を大きく狂わせることとなるのであった……

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