20話 最高三大神信仰
聖イバン教会では週二回、午前中に礼拝が行われる。その間、マトリックスは教会から離れられないので、基本的に命令がない限り、セリクたちは待機する事となる。
フェーナはイバン信者だったため、教会活動にもかなり積極的に手伝いを行っている。そして、なぜかセリクもそれに巻き込まれる羽目となった。
同じく信者でないギャンやサラも、待合室でただ座っていても暇だから、まだ動いていたほうがいい……そんな程度の理由で協力する。
シャインはいつも礼拝に参加しているが、それは個人的にマトリックスに心酔しているからであり、別に信者として動いているわけではなかった。
こんな風に動機は人それぞれなのだが、それでもマトリックスは隊員たちの参加を歓迎していた。
「へー、ようこんなに集まるもんやなぁ」
礼拝時間になり、ゾロゾロと列を作って入ってくる礼拝者たち。労働者から貴族階級まで、老若男女様々だ。ギャンはジロジロと遠慮もなしに見やる。
いつも準備は手伝ったとしても、「長話はあかん! ただの待機よりも退屈や!」と、説教のある礼拝そのものはサボっていた。その間だけは、セリクの部屋を強引に借りて昼寝をしているのがいつものことだ。
今回は、たんなる気まぐれか、熱意あるフェーナの説得に応じたのか、はたまたシャインに睨まれたせいか……いずれかの理由かは解らないことだったが、ギャンも普通に礼拝に参加していた。
「しっかし、イバン教徒ってかなりいるんやなぁ。知らんかったわ」
「そうですね。ですが、実はこれでも少ない方なんですよ。国教は『最高三大神信仰』……略して、『三神教』ですから」
「さんしん…きょう?」
セリクが首を傾げる。
「ええ。基本的に帝国関係者や貴族に信徒が多いのですからね。セリクくんが知らないのも無理はないことです」
「村とかじゃ、最高三大神のことはあんまり聞かないですよね」
フェーナは知った顔で付け加える。
「はい。三神教は教義が難解だったりしますから……。農村部では、聖イバン信仰の方がもっとも身近でしょうね。
地方に信者も多いのも、審判の書などが伝承の形でも拡がったという背景があります」
審判の書は、物語形式のものや、子供にも読める絵本まで出ている。だからこそ、一般人にも理解しやすいのだった。
「うん。私の村でも教会に行かなかった人はいないですし……」
そこまで言って、フェーナはセリクをチラッと見やる。
セリクは村では教会にすら行かせてもらえなかったのだ。だが、セリクは別に気にしていないと首を横に振る。
「聖イバン教会の本部レ・アームから、神父が世界各地に派遣されています。信者の総数でいえば、国教よりも多いかも知れません」
「三神教ってのは金持ちの宗教で、イバン教ってのは貧乏人の宗教ってなことはよう解ったで」
極端な解釈をしたギャンに、マトリックスは難色を示した。
「その、イバン教と三神教じゃ…何が違うんですか? 同じ神様を信じてるんですよね?」
帝国は神々を信奉しているし、イバンも神々のことを布教している。同じ神々が信仰対象ならば、本質的に同じではないかとセリクは疑問に思ったのだった。
「なかなか鋭い質問ですね。…これを説明するにはまず神々のことを知ってもらわねばなりません。
まず、神々は全部で十柱おられます。それを『十神』と言います。
その中で、最上位にいるのが、『神王ラクナ・クラナ』、『裁定神パドラ・ロウス』、『創母神マリン・ホロス』の『最高三大神』なのです。
それら三神を人間の神として主として奉っているのが、国教である最高三大神信仰なのですよ」
そんなことは知ってるとばかりに、ギャンもサラもあまり興味がなさそうだった。帝都に住んでいれば嫌でも学ぶことなのだ。
セリクだけがコクリと頷く。
「聖イバン教も、全ての神々の頂点である神王…聖教会では『統括神』と呼んでいますが、神々の頂点であるラクナ・クラナを信仰対象にしていることに違いはありません。
けれども、我々は聖イバンを仲介することで、初めて統括神に祈りが通じると考えているのです」
「三神教は違うんですか?」
「はい。イバン・カリズムはあくまで布教の第一人者であり、信仰対象ではないと明言していますね。最高三大神を直接信奉し、神々の大水晶柱から『神告』を得られる帝王の至言こそ唯一守るべき指針であるという考えなのです」
「かなり前に歴史で習ったけど、改めて聞いてもややこしい話やな。せやけど、そない教えのちゃう宗教同士でケンカとかならへんの? 『イバン教は間違っとる! ぶっつぶせー!』とか言うて、帝国軍が教会に乗り込んできてもおかしくないやん」
ギャンがそう言うと、サラは小馬鹿にした顔つきになる。
「ダフネス・フガール大総統とモーチス・レイドン大司教が、神隠歴九七二年に結んだ『ラミティオン自由教義協定』を知らないんですの?」
「ら、らみてぃ……。なんやそれ?」
「簡単に言って、神国ガーネット帝国と、聖イバン教会レ・アーム大教会の双方が合議した“互いの教義を尊重し、干渉し合わない”という約束事ですよ。ガーネット領とレ・アームのあるデイルダ領、その境にあるラミティオン山脈で結ばれた協定なので、その名がついています」
「ほんの三〇年ほど前まで、聖イバン教は帝国政府の眼の届かぬ僻地でしか活動できなかったのだ。帝国内に入れば、イバン信者は即断罪とされ、有無を言わさず牢獄行きだったと聞く。血で血を洗うような抗争にまでなったらしい……と、帝都民ならば一般常識だがな」
シャインにまでそう言われて、ギャンはセリクの後ろに隠れてから、「へぇー」と呟く。
「……さて、では今日のお勉強はここまで。そろそろ時間ですね。礼拝を始めたいと思いますので、皆さんも席についてください」
審判の書を開き、マトリックスが祈りの言葉を述べはじめた…………。
イバンへの賛歌、マトリックスの説教、そして小一時間にも及ぶ長いお祈り……。
午前中をまるまる使った礼拝が終わり、信者たちが談笑をしながら教会を出て行く。
信者たちが帰るのを見送り、寝ているギャンを起こし、皆で礼拝堂の掃除をする。
セリクが長椅子を雑巾で拭いていると、まだ帰らずに一人の男性が残っているのに気づいた。
「あの、もう終わりみたいですけど……」
「…………あ。そうっすか」
ボーッとしていたのか、セリクが声をかけて返事がくるまでやけに時間がかかった。
紫色をした背広、中には濃い赤色をした薄手のセーター。目元を隠すボザボサした灰色の髪。見た感じ、三十代前半といった感じの細身の男性だった。
「…あーー。あの、ドラゴン・バスターズってここっすかね?」
頭をガリガリとかいて、ニイッと口元を笑わせる。不気味な感じだったが、セリクは素直にコクリと頷いた。
「んあ? もしかして、隊員さんっすかねぇ? どもども。あー、アタシはここの隊長さんに用があって来たんすけど~」
握手を求められたが、何か不穏なものを感じとり、セリクはそれには応じなかった。
「えっと……」
セリクは困ったような顔をして、講壇の方を見やる。
視線に気づき、マトリックスが顔を上げた。
「……どうしました?」
マトリックスが問うと、男が立ち上がった。その時、ヨタタッとよろめいたので、慌ててセリクがその身を支える。
「ありゃりゃ。すんませんー。夜勤明けなんで、ちょいと眠くて」
男はニヘラと笑うと、セリクの肩をポンポンと叩いた。
背はシャインぐらいに高いのに、やけに不格好な猫背だ。よろめきつつも、マトリックスの方に向かう。
その男の姿を見て、マトリックスはわずかに眉間にシワをよせた。いつもニコニコしているイメージなので、怪訝な表情をあからさまにするのは珍しい。
「……帝国の方ですね」
マトリックスの言葉に、皆がハッとして警戒する。
帝国の遣いだとすれば、マトリックスがあまりいい顔しないのも解る。
「ええ。そうっす。イクセス……と、呼んでもらえりゃあ、と。第二将軍下、第二十六部隊連絡官を勤めているっす」
ペコリと頭を下げるイクセス。シャインはわざとらしく大きく肩をすくめてみせた。
「第二十六部隊ならば、北西辺境に駐屯している部隊だろう。その連絡官殿がわざわざDBに何の用だと言うのだ? 依頼ならば、いつものように警備兵を通して渡しにくればいいだろうに」
「いえ、もちろん……あー、そのですねぇ。依頼じゃなくて、別件でありやしてぇ。アタシも上からの命令できてるんすから、そんな怖い顔しないでくださいよぉ。邪険にせんもいいじゃないすかー」
ヘコヘコ頭を下げて言うイクセス。
こういう顔色を窺うようなハッキリしない男は嫌いなのだろう。シャインはフンと鼻を鳴らす。
「別件とは?」
「実は『ロダム・スカルネ』からの礼状を預かって来たわけでしてぇ。DBのセリク・ジュランド氏宛なんですが……」
イクセスの言葉に、皆がセリクに注目する。
「ロダムですって? スカルネ家の前当主ですね。隠居したと聞いてましたのに。まだ軍を動かす力があるんですわね」
サラが険しい顔でそう言う。
「あー、いえいえ、そういう大層なことではないっすよ。アタシが特別にスカルネ家との親交が深くて……今回のは私事によるご挨拶っす。軍の意志ってわけでもないっすね。ま、だったら私兵でもいいじゃないかと思われるでしょうが、スカルネ家は軍系貴族なんで……そこは、汲んで下さいよ」
ヘラヘラと笑いながらイクセスは説明する。その軽薄な態度からしても、人選を間違えてるのではないかと疑いたくなる。
「でも、なんや。そな偉い人が、どないしてセリクに礼状なんて……」
セリクも心当たりがなく、小首を傾げる。
「あ! もしかして…。ほら、あのハゲ頭のおじいちゃん! 一週間くらい前に助けた人!」
堂々とハゲと言ってしまう怖いもの知らずのフェーナであったが、その言葉でセリクは「ああ」と思い出す。
A地区商店街の裏、颯風団に襲われた貴族風の老人だ。そういえば、帝国軍と関わり合いがありそうだった。
しかし、ハゲという単語で思い出したので、セリクは少し気まずくなる。
「そうか、あの老人か……。まさか元“ガーネット三将軍”の一人だったとはな。どうりで見た覚えがあると思った気がした。確か現役時代は髪があったからな。気づかないものだ」
シャインが腕を組んだまま唸る。かなり失礼なことを言っているのだが、本人はそんなことお構いなしだ。
「でも、別に俺が助けたってわけじゃ……」
実際に助けたのはシャインだ。そう思って眼を向けるが、シャインは興味なさそうにしていた。あんなものでは助けたうちにも入らないとでも考えているのだろう。
「まあ、詳しいことは知りませんけどねぇ……。助けて頂いてからというもの、えらくDBの存在を買っていましてねぇ。なにせ、帝国軍ですら手に余している颯風団を完膚なきまでに退けた、とか。半ば死にかけの従者をパワーアップさせて蘇生した、とか」
なんだかロダムの話にかなりの誇張があるようで、喋っている本人も半信半疑そうだったのだが、イクセスは構わずに続ける。
「そんなこんなで、DBに興味を覚えたわけでして。あ、もちろんロダム閣下が、ですがね。アタシも命じられるままに、そちらの今までの活躍もお調べしたわけでありやして……。ま、んで調べた内容が、帝国からの依頼ばかりだったんですが、それも誰にでもできるようなお使いもどきの雑務ばかりだったというわけでして。それをありのままにご報告したところ、『民間とはいえ、優秀な部隊をないがしろにするのはけしからーん!』と、ロダム閣下はご立腹になられたわけっすよ」
連絡官の割には要領を得ない話し方であったが、セリクにもフェーナにも、怒って机をドンと叩いているロダムの姿がありありと想像できた。
「つまり、ロダム・スカルネがDBの帝国軍による扱いを憂いてくれているということか」
「あー、まあそうっすね」
「一言で済む話だろうが!」
激昂するシャインに、イクセスはペコペコと頭を下げる。
「ともかくや! 見てる人は見てるってことやなぁー! しかも帝国のお偉いさんが! 感激やで!!」
ギャンがウルウルと瞳を潤ませ、ズビビーッと鼻をすする。今までの苦労が報われたといった心境だったのだ。
「あー、はいはい。そうなんすけど、で、まあ、帝国としても、本当に優秀だというならば、宝の持ち腐れになるのはもったいない、と。上層部で話し合いになった結果、ちょいと審査してみようってな話になったわけっすね」
イクセスは、“本当に優秀だというならば”……と言うところを強調する。
「……それで、あなたが審査員としてここに赴いたわけですか。礼状を届けに来たというわりには、随分と上からの物言いですね」
「帝国もそんな人員に余裕があるわけじゃねぇんで……。手間を省いてのことだ、ってな話にはいきませんかねぇ? そちらとしても、何度も帝国の人間が顔だすってのも鬱陶しいものがあるでしょ?」
いつまでも適当に見えるイクセスに対し、マトリックスはずっと不満な顔を浮かべていた。
「でも、アタシの審査としての立場は中立っす。実力は見合わないっていう場合は……申し訳ねぇーんですけど、アタシの報告次第でDB即時解散もあり、ってことは承知してほしいっすかね」
「なんやて!?」「なんですって!?」「なんだと!?」
いきりたったギャン、サラ、シャインが凄む。
「帝国としても、使えない組織を置いて置きたくはないってのもあるわけっすよ」
「でも、あのおじいちゃん…ロダムさんは、セリクとDBのことを認めてくれたんでしょ?」
「ええ。しかし、いくら有力者と言えど、たった一人の意見で認めるわけにはいかねぇもんすよ。軍の体面ってのもあるわけでねぇ」
軍のパワーバランスや、組織内の駆け引きなど、フェーナには到底理解できないことだった。
「…要はちゃんと実力を見せてくれればいいわけっす。龍王とちゃんと戦える、抑止力として意味がある…って、お偉いさん方に見せてほしいんすよ。颯風団を撃退する組織だったら…楽勝のはずしょ? 評価が高ければ、依頼の見直しと共に報酬にも大きく影響してきやす。そちらにとっても決して損とは言えない条件っすよ」
イクセスの話に、皆が考え込む。
「確かに…ワイの炎の力もかなりレベルアップしとる。アピールするにはいい機会やな。名も売れ、夢のモテモテ街道に一歩近づける絶好の機会や」
「あのスカルネ家に、ミルキィ家の意地を見せつける舞台としては申し分ありませんわ。賃金も働きに見合ってもらえるようになるに越したことはないですしね」
「……フム。現段階でどれくらい戦えるかを知っておく必要はある、か」
セリクとフェーナは何と言えばいいのか解らず、悩む三人とイクセスを交互に見やる。
「……それで、肝心の審査とやらはどうやるというのですか?」
今までずっと黙っていたマトリックスが問う。
「そりゃ簡単っす。龍王を倒す部隊として組織されたんすから、龍王本人と戦ってもらえればいいっす」
イクセスがあっけらかんとそんなことを言ってのけたので、セリクたちはひどく驚く。
「え? 龍王って……龍王エーディンってことか!?」
「そうっす。それ以外に誰がいるっていうんすか? …龍王アーダンは一向に姿を見せる気配もないっすし、さすがに敵の本拠地まで乗り込めとまでは言いやせんよ」
「でも、龍王の動きは今のところないんではなくて? 敵が何処にいるのか解らないのでは……」
無謀と言わんばかりに、サラが肩をすくめる。
「そこは安心して欲しいっす。龍王エーディンの動きはある程度は把握してやすし……。ちょうど、いまエーディン本人がガーネット領に入ってきてるんすよ」
「エーディンくんが!?」
マトリックスは衝撃を受けた顔をする。
「なんですって? まさか単独でガーネットを陥落させようとでも?」
「向こうには、知略知謀のルゲイト・ガルバンがいやすからねぇ。さすがに、軍力を集結させている帝国軍と真っ正面から戦う…なんて、そんな無茶な作戦たてたりはせんでしょう。が、別な何かを狙ってこっそり侵入してきた……とは、考えられるっすよねぇ」
ペラペラとそんなことを喋るイクセスに、皆が信用ならないという眼で見やる。本来こんな大事なことを話していいはずもないと誰もが思ったのだ。
「……こっそりってことは、相手は少数なんか?」
「ええ。おそらくは手下の龍族は連れて来てねぇです。連れてたら目立ちますしね」
「なら、他のドラゴンはおらへんってことでええんやな?」
「仮に連れてきてても二、三匹ってとこじゃねぇですかね。……そっちは帝国軍でなんとかしますわ」
「……うーむ。せやったら、龍王エーディン一匹ならワイらでもなんとかなるんちゃうか?」
ギャンがポツリと言う。
「何を言ってるんですか……ギャンくん」
「ほな聞くけど、ワイとサラの……異端者二人やろ。それにえらい強いシャインの姐はん。仮にワイらがケガしたとしても、フェーナまでおるんや。さらには、切り札のセリクや。これで負ける要素あると思いまっか?」
マトリックスは絶句する。隊員全員の表情が、ギャンの意見に賛成のようだったからだ。
セリクも、皆がいれば、なんとかなってしまうかもという期待を隠せなかった。
勝てるかもと思うのは、それだけ仲間の強さに信頼を得ているからでもある。数週間、共に過ごした基礎訓練が彼らに自信を与えていた。
「龍王エーディンが単独で行動しているというのならば好機でしょう。確かにまだ未熟ではありますが……。仮に最悪の状態に陥ったとしても、私とマトリックス様がいれば……」
「シャインさんまで……。皆さん、もしかして龍王を侮りすぎていませんか?」
怒っているというよりは、不安気な表情でマトリックスは全員の顔を順繰りに見やる。
「お言葉かもしんねぇですけどね、マトリックス神父。敵を全く知らねぇで、敵と戦おうっていう方が無謀ってもんすよ」
イクセスが両手を開いてみせる。まるで隊員のことを隊長よりも知ってると言いたげなその仕草に、マトリックスはグッと言葉を詰まらせる。
「しかし……」
「マトリックスさん! やらせて下さい!」
セリクが意を決したようにそう言う。
「セリクくん…」
「倒せるかどうかは解らないです。でも、俺は……本当に自分が龍王と戦えるかを知りたいです!」
この中でも一番大人しいはずのセリクがそう言ったことにマトリックスは驚く。しかし、すぐに自分がDBで戦う許可を与えていたのだということも思い出す。
ここで下手に彼らの決意に水をさせば、隊は瓦解するだろう。この厄介ごとを持ち込んだイクセスに対し、マトリックスは憤懣やる方ない気持ちとなる。
「仕方ありませんね。……解りました。そこまで言うのであれば許可しましょう」
皆が嬉しそうな顔をするのに、マトリックスは首を横に振る。
「ただし! 深追いはしないことを約束してください。そして何よりも危なかったら逃げること。これだけは守って下さい…」
念を押して言うと、皆が返事をして大きく頷いた。しかし、このときマトリックスが抱いていた懸念を本当の意味で理解している者はいなかったのであった…………。




