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RUIN【破滅】  作者: シギ
二章 魔界の統治者トルデエルト
205/213

202話 天地開闢

体調を崩し更新が遅れました…。

今回はそれもあって少し長めです。

「コナクソがッ! アンタら、龍族の誇りはどこへやった!?」


 傷だらけのギィグスが、次々と放たれる波動タオを避けつつ喚く。


「生憎ト、何モ感ジヌデナァ!」


 クァクァリは辺りを砂地へと変え、ギィグスが着地できぬようにしてしまう!


「コレハ解放! マサニ龍族カラ…イヤ、生物トシテノ限界カラノ解放!」


 ラヌゥードは執拗にヒットアンドアウェイで攻め立て続けた!


「オ腹スイタァー! ケド、前ホド苦シクナァーイ!!」


 ポルレスはクァクァリが崩しきれなかった建物を強酸で消し去り、窪地に酸の池のトラップを敷く!


「ギィグスチャーン! アンタモサ、受ケ容レタラ? 思ッタヨリ楽ナノヨー! “人間”ニ初メテ化ケタ時ミタイナァ?」


 ラヌゥードが引くと入れ代わるように、接近攻撃をジアッカは繰り出す!

 だが彼らの攻撃は連携とまでいかないので、何とかギィグスも攻防を続けられていた。


「フザケるな! そういうアンタらは本来の姿のままじゃないか! ジアッカ! アンタがもっとも強くて美しい姿だって、人間の姿を褒め称えてたんじゃないかよ!」


 四匹の龍を相手に、ギィグスは人間形態のままで戦い続けていた。それは一時とはいえ、彼らと同じ人間への憧れを共有したことを思い起こして欲しかったからに他ならない。

 龍族は家族に対して、人間ほどの情愛を抱いたりはしない。血や種としての繋がりの結びつきは大事にするが、個々の想いはそれほど強くないと言えよう。

 しかし、彼らは暴龍ツァーリドムの息子から選ばれた七首頭だった。彼らは互いに強くなるために競争しつつ努力した。人間の真似事を父に黙ってするようになったのも、より高み(ツァーリドム)を目指すために他ならない。そこに少なくともギィグスは連帯感のような繋がりを感じていたのである。


「何がシメオン大流砂の龍だ! 何が暴龍ツァーリドムの息子だ! 敗けた上、首に鎖をかけられて、それを恥とすらも思わないのかッ!」


 同情というよりは情けなさや惨めさでギィグスは目尻に涙をためる。悲しい時に涙が出るのは人間と同じであった。

 そして、そんな気持ちを察せない死者どもが、ここぞとばかりにギィグスに攻めかかる。そんな少しの油断をしたばかりに、ジアッカの尾による直撃を受けてしまった。


「ウゲッ!」


 深く鈍い痛みと共に、圧迫された胃から強い吐き気を覚える。酸っぱさが血の味と共に口腔内に満ちた。

 全身からダラリと力が抜けてしまい、ギィグスは宙に放り出されて真っ逆さまに落ちていく。

 下ではクァクァリとポルレスが待ち構えている。決して抜け出すことのできない酸の沼による蟻地獄が待っていることが予想できた。


(私はここまでか…。エーディン。私にもアンタみたいな“強さ”があれば……)


 なぜか最期に打ちのめされても諦めることなく、ツァーリドムと戦い続けたエーディンの姿が彼女の脳裏に浮かんだ。


「ぬおおおおッ!!!!」


 突如、聞こえてきたのは雄叫びであった。

 それも大きな図体をした龍でも驚くだろうと思われるほどの声量だ。

 落ちていたはずのギィグスの身体がフワリと浮かぶ。いや、浮かんだというのは不適切であろう。途中から何かによって抱き止められたのだ。


「な、なんだこれ?」


 自身の身体を支えてくれた物を見てギィグスは目を丸くする。それはそうだ。金属の塊のような拳だけ(・・)が自分を掴んで飛んでいるのだからして。

 鉄拳はギィグスを掴んだまま、器用に宙返りしてみせると、砂漠化していない所まで運んで地面にと下ろす。

 ギィグスが顔を上げると、咆哮を上げたらしい甲冑に身を包んだ老人が、その金属の拳を嵌め直し、両拳を思いっきり叩き合わせた!


「粉骨砕身!」


「だ、誰だ…? 人間??」


「ワシの名はロダム・スカルネ! この帝国の将軍だ!」


 将軍という言葉に聞き覚えはなかったが、ギィグスは七首頭のような立場なのだろうと理解した。


「なんで私を助けて? …ってか、アンタ、血だらけじゃんか」


 ロダムは顔面から血を垂れ流し、それでも悪しき龍族から血走った眼を背けないでいた。


「ヤツらにやられたんでな! 借りを返しに戻ってきたのだ!」


 遠くから「閣下!」と叫ぶ者たちの声が響いてくる。


「そ、そうか。だけど、たぶんアンタ…年寄り…だよね? かなりの…。大丈夫なのか?」


 人間の年齢はギィグスにはよく解らなかっが、それでも引退間近の老龍たちに似た雰囲気からそう感じ取る。


「女子供に心配されるまでもないわ!」


「女子供って…たぶん、アンタよりずっと年上だよ。年寄り…ではないけどね」


 人間と話馴れていないギィグスは少し戸惑う。こうやって面と向かって話すのは初めての経験であった。


「だけどさ、言っておくけど…私はここを襲ったあの龍族の仲間なんだぞ! そんな私なんかを助けて…」


「今更そんなこと関係あるか! 共に戦う可能性のある者を助けるのも戦術の一つだ!」


 向かい来る四匹の龍を前に、ロダムはギィグスを庇うようにして進み出る。


「おう。オメェさんら、隠居したジジイまで駆り出されてんだ。あっしより後ろにあったとあっちゃ、剣士の名折れじゃぜ?」


 ロダムにも勝るとも劣らない体格をした和装の老人が、霜雪のような頭を振りながら刀を抜く。

 その背後には各道場の名うての剣士たちが集まっており、ビビリつつも逃げる素振りは見せなかった。


「さすがだな。ファバード師範が上手くまとめてくれて助かる」


 目線だけ向けてロダムは言う。


「“元”じゃな。こんな老いぼれじゃ、どこまでお役に立つか解りゃしませんぜ。閣下」


「ワシも復帰したとはいえ、“元”のようなもんだ。…だが、若者より後に死ぬわけにはいかんからな」


 ロダムと和装の老人はシワだらけの口をニヤリとさせた。


「…“元”将軍。“元”師範。ついでに“元”戦場医もご相伴させてもらおうかのぉ」


 いつの間にか側にやって来ていた一際小柄な老人が、長い白眉を動かして笑う。


「フォン老? まだ生きておったのか」


「こっちの台詞ぢゃよ。ファバードの。たまにゃ健診くらい顔を出さんかい」


「現役の時に散々薬漬にされたからな。もう勘弁願いたいわ。

 …閣下。民間医だが腕は立つ医者だ。東方のあやかしで死人すらも生き返せる」


 フォンは「言い過ぎぢゃ」と答えたが、満更でもなさそうに笑う。


「向こうのようなゾンビでなければありがたい話だ。今は猫の手も借りたい」


 まだ不足しているとばかりに、ロダムは自分の部下を見やる。信頼はしていたが、それでも龍相手には心許なく感じるのは仕方ないことだろう。


「…だからこそだ。それは女子供でも、だ」


 三人の眼がギィグスへと向けられる。


「…たぶん勝てない。それでもやんの? 自殺みたいなもんだけど」


 人間の中でどれほどの強者かは知らなかったが、少なくともギィグス一体でも簡単に倒せてしまいそうな老人たちだ。


「バッカモーン!」


 眼の前で一喝され、ギィグスはビクッと耳を抑える。


「誰が負けると思って戦うものかァ! ワシはそんなことは許さん!」


 激怒するロダムを前に呆気にとられていたギィグスであったが、やがてはプッと吹き出す。

 そして気を取り直したかのように立ち上がり、全身に波動を纏わせて戦闘態勢となる!


「前もって言っておくけど、私は人間に礼も言わないし謝らないからね!」


「構わん! 貴様にワシが礼儀作法を叩き込むのは、これを生き延びてからだ!」


「上等! この七首頭ギィグス相手にやれるもんならやってみろ!」




ーーー

 


 ブロウは勢いよく地上にと叩きつけられる!

 奇妙な球体に覆われていたため、それがクッションとなり怪我こそしなかったが、数千メートル以上の高さから急降下するのは恐怖以外のなにものでもなかった。


「チキショウめがッ! あの野郎! 次あったら絶対に一発ブン殴ってやる!」


 天空神の顔を思い浮かべ、ブロウは頭を振りながら悪態をつく。


「しっかし、ここは…」


「退け! 邪魔をするなッ!!」


「フンッ!!」


 ゾンビとなった魔物を紙切れのように引き千切りながら、ギラが何者かとぶつかり合っているのがブロウの眼に映る。


「トト様ッ! いまお側に! ッ…グゥ! またかッ! おのれぇッ!」


 魔王の元へ飛び立とうとするのを、四本ある脚のどれかを掴んで引きずり倒す。

 獣脚龍グランドは元々飛行を不得手としていた。ツァーリドムもそうだが、波動タオを浮かべてぶらさがるが、または四脚それぞれで均等に波動を放出してジェットエンジンの如く飛び上がるかの二択しかない。そして、その巨体故にバランスを取るのが難しかった。

 ましてや寄生しているギラの上半身が大きすぎるせいもあって、余計に飛び立つのが難儀となっていたのだ。


「ええい! 離せ! 自分の邪魔をするなッ!」


「それは拙者も同じ! 貴様をエーディン様の元へは行かせはせぬ!」


 ガルは持ち前の怪力で自分よりも大きなギラをその場に抑えつけていた。


「ガルのオッサン!」


「ムウ? ブロウ・ランドルか!」


 注意がそれたところに、ギラのハルバードが振り下ろされて、ガルは闘気を纏った太い腕で弾く。


「そいつは強いぜ! 苦戦してんのか! 手を貸すぜッ!」


「無用だ! …と、言いたいところだが、どうにも拙者の手にも余る! その助太刀、感謝しよう!」


「オウ! さっさと倒して、セリクとヘジルんとこ戻らねぇとなんねぇからな!」


 妹もきっと自分と同じ状況であり、恐らくは同じことを考えているだろうとブロウは思う。


「女一人に、大の男が二人がかりか! なかなか貴公らの騎士道精神は大層なものだな! 正々堂々と戦えぬ臆病者めが!」


「んだと!?」


 ギラが皮肉たっぷりに嘲笑うと、ブロウは憤って拳同士を打ち付け合う。


「オウ! いいぜ! ならタイマンだ! 俺様がやる! オッサンは手を出さないでくれ!」


「つまらん安い挑発に乗るな。ああいう輩は目的のためには弱味に平気で付け込む」


 ガルが止めると、ギラはチッと舌打ちする。その視線は空へと向けられていた。


「武人としての誇りなど、主君の忠義に勝るものではない!」


 かつて颯風団首領エンロパに言われた台詞を思いだし、ガルはニヤリと笑ってみせた。


「…そうだよな。オウ。オッサンの言う通りだ。俺様がアイツらの盾になってやらなきゃなんねぇんだ。そのためには…」


 深い決意を抱いているブロウを見て、ガルは何か感ずるものがあったのか頷く。


「そうか。ならば、この戦いは我が君への忠誠心の高い方が勝つということだな!」


 ギラはここで初めてブロウとガルに眼を向けた。単なる障害物から敵と見なしたのである。


「だが、いち早く魔王様の元へと馳せ参じねばならぬのはこちらの方! 生憎とこんな所で足止めされるつもりはない!!」


「あ!? ヤベェ! あの構えは!」


 グライドとリグルスでも受け止め切れず、かつ自分たちが一気に吹き飛ばされた大技を放つ気だと悟りブロウは慌てる。


「『魔波激流鳴渦まはげきりゅうめいか』!!!!!』」


「…ブロウ・ランドル。覚えておくがいい。勝つだけが闘いではないということを!」


「は?」


 ガルはそう言うと、両手を大きく開いて前に進み出た!


「ヌゥウウウウンッ!!!!」


 魔気と波動の激しくぶつかり合うエネルギーの大渦が襲いかかるのに、ガルは全身から膨大な闘気を放ちつつ全身で抑え込む!


「そ、そんな馬鹿なことが…」


「マジかよ!?」


 やがて大渦を抱き潰したガルは、ゴキリと首を回す。さすがに無傷とまではいかなかったが、放たれている闘気の量は少しも減少していなかった。


「エーディン殿下に放たれる攻撃を全てを拙者が盾となり受け止める! 一切全てを、だ!! それが拙者にとっての真の勝利なのだ!」


「お、おおお…」


 両手両足を大きく開き、わずかも蹌踉めくことなくガルは屹立する。

 ブロウは自分の理想とする姿をそこに見て強く感銘を受けた。


「そうかッ! 勘違いしてたぜ! 俺様はただ敵を倒せばいいと…それで、側でアイツらを守ってやれりゃあいいとばかり思い込んでたぜ!」


「エーディン殿下を信じるからこそ、拙者はここで役目を果たすのだ! そういう闘い方もある!」


 ガルはエーディンを信頼していた。必ず、魔王を倒すのだと。だからこそ、ギラを完璧に食い止めることこそが彼の勝利なのであった。


「そうだ…。その通りだ! 俺様がセリクたちを信じてやらねぇでどうする! いま俺様ができることをやり遂げる! そうじゃなきゃ、肝心なところで役立たねぇ漢になっちまう! ダセェ! そいつはすこぶるダセェぞ!」


 ブロウは己の両頬をバチッと強く叩くと、ギラに向かって構え直す。


「そこまで言うのであれば相手をしてやる! 自分も貴公らの首を抱えてトト様の元へと戻るとしよう! それが自分の忠誠の証だ!」


「オウ! 望むところだ! 簡単にこの首取れっと思ってんじゃねぇぞ! かかってこいや!」



ーーー



「あー、次から次へと鬱陶しいのよ!」


 ベロリカは右に持った槍で突き崩し、中空に浮かぶ聖剣セラフムを飛ばしてゴーレムたちを蹴散らす!


「高見の見物なんて、アタシのような“格上”がやることよ。さっさと降りてきなさいな」


「ダーレがオりてイくものか! ネネのアヤつるニンギョウに、オしツブされてペチャンコになぁれ! ハヤくシんでシマえばいいのに!」


 夢導師ネネはケタケタと笑い、ひときわ大きなゴーレムの上で、次から次へと敵勢を生み出しては攻撃を仕掛ける。


(ツヨいカオり…。ネネのゲンジュツがツウヨウしない…)


 ネネはずっとベロリカを操ろうと試みているのだが、強い香水の薫りが邪魔をしているせいで上手くいっていなかった。


(フン! アタシを幻惑しようだなんて百年早いわ! オ・バ・カ・サ・ン!)


 ゴーレムへの攻撃がズレたと感じた度、ベロリカは自分の袖に鼻を近づける。そこには気付け薬が入っており、彼女の正気を保つのに役立っていた。


(しかし、厄介だわね。こんな土ダルマを幾らぶっ壊しても、術者本体を叩けなきゃどうしようもないじゃないのさ!)


 ゴーレムの間から突っ込んできた魔物をハイヒールで蹴り付け、その反動を利用して跳び上がる!


「ザンネン! アマい、アマい!」


 ネネは巨大ゴーレムに指示を出し、大きく仰け反らせた。そのせいでベロリカの攻撃はいま一歩届かない。


「チィッ! 正攻法は無理だって解ってはいるんだけどね! …って、邪魔すんじゃないわよ!」


 ベロリカの隙を狙って飛び掛かってきた鬼たちを、聖剣の放つ神気が迎撃する!


「多対一は苦手じゃないけどさぁ〜、いくら何でもこれはキツイわー」


 見渡す限りの敵勢を見て、ベロリカはフンと鼻を鳴らす。

 そして遥か上空で激しく交戦を繰り広げているエーディンの姿を見やり、頬についた泥を拭い落とした。まるで彼にみっともない姿を見られまいとしてかのような振る舞いである。


「アキラめるといいのー。マオウサマのアクムはケッしてオワらないー」


「ハン! その派手で悪趣味な見た目の通り、頭の中もおめでたいみたいだねぇ!」


「…オマエにイわれたくなーい!!」


 昂ぶったネネが左右に分かれそうになりつつも、魔力を集中させて巨大ゴーレムを変形させていく!


「何よ。今度はどんな手品だってぇのさ」


 ベロリカの頬に冷汗が流れる。

 ゴーレムは大きく形状を変えていき、みるみるうちに無数のトゲと車輪がついた装甲車のような形状となった。


「…いきなりファンキーすぎんじゃね?」


「こっちのホウがコノみだろ? ハデハデ女ァ!」


 車輪が高速回転を開始する! ネネはベロリカが車輪に挟まれ、トゲに串刺され、ボロ人形のようになる様を思い浮かべて残忍に笑った。


「…アンタと心中なんてまっぴらゴメンなんだけどね。ま、潮時ってやつだわね」


 ベロリカは周囲を見回す。敵は充分に引き付けた。本当ならばもっと誘き寄せておきたいところだが、ゴーレムの巨体が幅を取りすぎていて思ったほどではないのが悔やまれた。

 あえて仲間ガルからは充分に距離をとってある。敵の将と部下を“巻き添え”にできれば、まあ自分にしては及第点と言える成果だろうとベロリカは心の中で自分を褒める。


「アーッハッハ! ルゲイト。アンタだけに手柄は独り占めにさせないんだからね! もっともエーディン様のお役に立てるのは、このベロリカ・アンニスなのよぉ!!」


 ベロリカは聖剣に溜め込んでいた力を解放するよう指示を出す。

 車輪が迫る! ギリギリまで引き付け、『グランセイントバーン』をブチかましてやるのだとベロリカは笑う!


「今だわ…ッ?!」


「キャアアアッ!」


 力を放とうとした瞬間、何かが上空から勢い良く落ちてきて、ベロリカとネネの間に落ちた!

 思わずベロリカは力の発現を抑え、ネネも困惑して巨大ゴーレムを急停止させた。


「アイタタッ! ホントは痛くはないけど、それでも精神的にはキズついたんだから!!」


 落ちてきた者は無傷のようで、半透明な膜が消えると、空に向かって拳を振り回して悪態をつく。


「アンタ…。何やってんのよ」


 ベロリカは腰に手を当てて呆れたように鼻を鳴らす。


「え? あ! あなたは確かエーディンの…!」


 名前がすぐに出てこないのか、フェーナは「えーと」と困ったようにする。


「ベロリカよ。初対面じゃないでしょーが。…ま、まともに話したこともなかったけどさ」


「ラーム島で酷い目に遭わされたのは覚えてるわ!」


「ハン! そんなのお互い様でしょ」


 ベロリカはフェーナを見て、彼女が状況を覆す存在になり得ないことに軽く落胆した。

 ベロリカの知る限りでは、フェーナは攻撃力を持たない治癒師だ。治癒師の紅玉石を埋め込んだベロリカからすれば、治癒の力はこの場で特に必要とするものではなかったのである。


「な〜んだ! タダのニンゲンか! トめてソンした〜!」


 状況を把握したネネは再び車輪を回転させる!


「ええッ!? なにこのデカイの!? 魔物!?」


「ったくもう! 世話の焼けるわね!」


 ベロリカは巨体の力点を見定め槍を突く! そしてそのまま柄を、倒れている硬そうなゴーレムの一体にあてがった。長槍がつっかえ棒の役割をはたし、ほんの一瞬だけ巨大ゴーレムは前後に揺れる。


「そんなのカンタンにヘしオっちゃうよーだ!」


 ネネがさらに出力を上げようと魔力を集中させるのを見計らい、ベロリカは聖剣を近づけて力を小さく炸裂させる!


「ギャッ!」


 聖なる閃光をモロに浴びて、ネネは身を捩らせ怯む。その影響なのか、ゴーレムたちも一時停止していた。


「やっぱそうなるわよね」


「スゴイ…」


「ただ目を眩ませただけよ。次に同じ手は通用しないわ」


 ベロリカはフェーナの襟首を掴むと、うず高く積み上がったゴーレムの残骸の影に身を隠す。

 鬼たちはゴーレムの巨体のせいで視界が悪くなっており、知性のない魔物たちはベロリカたちの姿が見えなくなると再び帝都への行進を開始し始めた。


「クソッ! どこだぁ! どこにイったぁ?!」


 痛む眼を抑え、怒り狂ったネネは辺りを見回す。


「眼ん玉は一つしかないってわけね。ま、ああいう能力のありきたりな弱点だわ」


「ちょっと! 私、ネコじゃない!」


「それは失礼」


 掴んだままなのを忘れていたのを、パッと手を離すとフェーナは尻餅をつく。悲鳴を上げて睨んでくるが、ベロリカはネネや鬼たちの動向を見やっていた。


「さ、お姉さんは見ての通り忙しいのよ」


「…助けてくれたのよね。なんで?」


「さてね。なんでかしらね。アタシ自身が不思議よ」


 見捨てても良かったはずだ。助ける義理なんてない…そんなことを今になって思い、ベロリカは自嘲気味に笑う。


「……ありがと」


「言いたくもない礼なんかいらないわよ。さっさと逃げたきゃ逃げなさい。次は助けないからね」


 犬猫を追い払うかのように、ベロリカは「しっしっ!」と手で仕草した。


「…一人で勝てるの?」


「あーもう。うるさいだわね。少しは黙ってられないものなの?」


「私も戦う」


 ベロリカは露骨に嫌そうな顔をして、初めてフェーナを見やった。


「足手まといだわ。アンタなんていらないから」


「そんなことないもん! 私が囮になれば、あなたが攻撃できるじゃない!」


 面倒なことになったと、今になって助けたことをベロリカは後悔する。この場にルゲイトやガルがいれば押し付けられたのに…そう思って、初めて仲間が側にいないことを彼女は悔やんだ。


「ハァ…。倒す方法はあるわよ。でも、アンタがいちゃ邪魔だって言ってんの。さっさとセリクちゃんの元へ帰んなさいな」


 ベロリカはフェーナがずっとセリクの側にいたことを思い出して言う。

 それこそ女の勘の為せる技だが、フェーナにとってセリクが特別な存在なのだろうということは雰囲気から察していた。

 そしてそれが図星であったことは、彼女の解りやすい表情からも読み取れる。


「こんなとこでノンビリなんてしてたら、あのユーウ(アバズレ)に寝取られちゃうわよ」 


 青臭い恋愛だと鼻で笑い飛ばすが、フェーナは深刻そうな顔で俯く。


「なによ。冗談なんだから真に受け…」


「失敗したの…」


「は?」


「フラれちゃったも同じなの!」


 こんな状況にもかかわらず、フェーナは声を殺して泣く。


「いまの私、ホントはずっとセリクと一緒にいるの苦しいの! ヤバイくらいキツイの! しばらく独りで泣きたかったの!

 それなのに行きたくもないドライブに連れてかれたかと思ったら、こうやって敵がまたやって来て、お兄ちゃんは相変わらずバカだし! ヘジルとも気まずいけど仲直りのチャンスだと思ったんだけどゆっくり話す間もないし、天空神様を味方につけなきゃいけなくて、エーディンとも仲良くならなきゃいけないし、お兄ちゃんやっぱりバカだし! そうかと思ったらその天空神様にこんな戦場のド真ん中に放り出されて、もうメチャクチャのハチャメチャなの! だからメチャクチャ頭にきてんの!! それがあなたに解る!?」


 怒涛のように早口で言いまくられ、さしものベロリカでも途中で何かを言うことはできなかった。


「…何か知らないけど、溜まってるのだけはよく解ったわ」


「ユーウには負けないと思ったのにッ! …あーもう! こんな自分にもイライラする!」


「…そうね。イライラするのだけは同意見だわ」


 エーディンに擦り寄る女、ユーウとバーナルのことを思い浮かべてベロリカは軽く舌打ちした。


「だから、今はスゴク暴れたい気分なの!」


「男を手に入れられない腹いせに? ハン。ま、そういう動機はキライじゃないわね」


 少しだけ境遇が似ていると思ったベロリカは、フェーナに親近感に似たものを覚える。


「……私もそれぐらい女らしかったら」

 

 フェーナが羨ましそうに自分をみていることに気づいたベロリカは、わざとらしくしなを作る。


「ま、そんなチンチクリンじゃ、セリクちゃんみたいなお子様でも誘惑するのは大変でしょーね!」


「な! 誰かチンチクリンよ!」


「そこか! ミつけたぞ!!」


 ゴーレムの残骸が吹き飛び、血走った眼をしたネネが特攻してくる!


「チッ! 大声だすから見つかったじゃないのさ!」


「誰のせいだと思ってんのよ!」


「あー、もう言い合いはたくさん! チンチクリンは一匹で充分よ!」

 

 一瞬だけ怪訝そうな顔をしたネネが、自分の身体に眼をやる。そこには確かにピアーやギラに対するコンプレックスが存在した。


「「ダァレがチンチクリンだ!」」


 フェーナとネネの台詞が被る!


「コローす! クソオンナはアトでじっくりイタぶって、イノチゴイさせてからコローす!

 だーかーら! まずはヨワそうなオマエからだァッ!!」


 激高したネネが、フェーナに体当たりをブチかまそうと大きく旋回する!


「どいつもこいつも! あまり私をナメないでッ!!!」


 フェーナは『イバンの聖盾』を思いっきりネネへと叩きつける!


「ッ! だが、こんなもの…?! プアッ!?」


 続け様に作られた『イバンの聖盾』に横面を叩かれ、ネネは大きく仰け反る!


「盾でもそれで殴りゃ武器になるか…。ホントにメチャクチャったらありゃしないわね」


「私も戦うの! 足手まといだなんてならない!」


「解ったわよ。ま、せいぜい死なないでちょうだいよ。大切な“彼氏”が悲しむといけないからね」


 ベロリカにからかわれ、フェーナは何とも言えない顔をする。


「…あなたも死のうだなんて考えないで。エーディン、そういうの好きそうに見えないし」


 呆気にとられた顔をしたベロリカだったが、髪をかきあげて艷やかな唇を吊り上げた。


「ナマ言ってんじゃないの。エーディン様の事を語るだなんて百年早いわよ」


 そう言いつつも、ベロリカは聖剣に力を蓄えていたのを解除する。

 そして考え直す。敵を道連れにする方法ではなく、“二人で生き残る”道はないものかと。


「アタシたちは勝つよ」


「とーぜんだから!」




ーーー


 

「どぅわぁ!」


「くそったれ!」


 ギャンとベンが揃って見えない力に弾き飛ばされる。


「こっちですわよ! ッ?! きゃあ!」


「サラ! うあー! なんすかぁ!?」


 別方向から仕掛けていたサラとミシールも同じようにして地面にひっくり返される。


「クッ! 異端者の力が使えないのは不利です! ファテニズム将軍!」


 マトリックスを庇いつつ、スベアが言う。

 彼が守られているのは、異端者の力がまるで使えず殆ど一般人の戦闘力まで落ちているからであった。


「しかも強い。私や召喚師であっても近づくことすらできないとは…」


 シャインは刀を支えにヨロヨロと立ち上がる。


「コフコフ。不毛デスよ。もう、そろそろ諦めても良いのでは?」


 魔力の宿った単眼を輝かせ、死霊僧ピアーは咳き込みながら笑う。


「…あなたが我々の力を封じているのですか?」


 マトリックスが問いかけると、ピアーは軽く首を傾げる。ナイフを片手に飛び掛かってきたベンを軽く抓むようにして放り投げた。


「封じる? これは異なことを…。本来、“魔導士”は上位種たる拙僧ら魔族に逆らえぬようになっているのデスよ」


「さっきから言ってる、その“魔導士”ってなんやねん!」


「自分の存在すら認識していないとは哀れデスね。そら!」


 ピアーが長い人差し指をクイッと動かすと、それに合わせるかのようにギャンは上を見やった。


「な、なんや?!」


「サア、“魔術”を使いなサイ!」


 ピアーがそう指示を出すと、ギャンは空を目掛けて炎を噴き出す!


「おおお?! うおあっちゃあッ!!!」


 自分がその出した炎をまともに浴び、ギャンは慌てふためいて走り回る!


「…そんなことが」


 サラは青い顔をしてギャンを見やる。


「魔玉石とは、魔王トト様が紅玉石を元に生み出されたモノ。それらを人間に分け与え、キードニアの強力な魔導士軍団は作られたのデス」


「まさか…それが…」


「長い月日を経て、ガーネットにも流れた者たちが“異端者”と呼ばれるようになったのでショウ。当時の強さは見る影もないようデスが…コホコホ」


 マトリックスを見やり、ピアーはニコリと笑う。


「符術などもそうデスよ。元々はトト様が編み出したもの…いつの間にやら道領国発祥とされ、随分と劣化させられたものデスがね」


 ピアーは人間すべてを嘲笑う。それは魔族こそが最も最上の生物と信じるがゆえの不遜さであった。


「…繰り返し言いまショウ。降伏なサイ。もはや趨勢は決しまシタ。

 帝都はおろか、この戦場に置いて貴方たちに勝ち目は万が一もありまセン」


 ピアーは戦場すべてを“見通し”ていた。

 飛雷艦の三分の一はまだ残っており、その状態でも龍族を容易に抑え込んでいられた。魔物の群れは最初から頭数には入れてはいないのだが、確実に人間の数を減らすことに役立っている。鬼たちはそこそこ強力な手駒であるし、魔力強化されている三魔臣はほぼ無傷と言って良かった。

 魔王トトの周囲は気にはなっていたが、未熟なエーディンやセリク、そして目覚めたばかりの天空神に自ら主人が遅れを取るはずがないと信じて疑わない。

 いま現状最大の驚異はツァーリドムだろうが、それら統治者と同格と言われる閻王が相手をしている。


(すべては魔王様のお考えの通り。後はトト様の命令にあった大総統の娘を…)


 空から何かがやって来るのを見て、ピアーは眼を細める。


「あなたは…」


「ここは私が応じます。あなたがたは帝都へ救援を…」


 バーナルは何の抑揚もなくそう支持を出す。


「状況が見えてないのデスか?」


 眼の前の女が人間かどうか疑わしかったが、ピアーにはどうでもよかった。今頃にノコノコ出てきて何ができるわけでもないと考えたのだ。


「見えていますとも。一見、劣勢のようですが…」


 バーナルは空を指差す。そこには飛雷艦と戦い続ける老龍たちがいた。


「そちらの損害に対し、こちらの数は少しも減っていません」


 ちょうど飛雷鑑の一隻が落ちる。“魔力切れ”ではない。撃沈されたのだ。


「対龍族の兵器。しかし、アレでは頑丈なハリボテに過ぎません。時間はかかりますが、やがて全てを破壊し尽くすでしょう」


 ピアーは押し黙る。それは当たっていたからだ。

 すべての艦に操縦者を乗せられたら違っていただろう。しかし、いま操るというより、側で護衛の任に当たらせているのは信用ならなきい下級魔族グレムリンどもだ。高級な玩具を与えたからといって、それで老練な龍相手に勝てる道理などなかった。


「帝都攻略を見届けることもなく、各将が“魔王に拮抗する勢力”の排除に乗り出したことから見て…むしろ、追い詰められているのはそちらでは?」


 空で閃光が輝く。人間たちには遠くて見えなかったが、ピアーの眼には天空神に弾かれた魔王の姿が見えた。


「トト様ッ!」


 主を助けに飛び出したいのを、眼の前に敵がいるせいで堪える。


「なりふり構わぬこの有様…とても行き当たりばったりにしか見えませんね」


「黙りなサイ! お喋りはここまで!」


「…そうですね。私もグズグズしてはいられませんから。エーディン様が魔王トルデエルトを討ち滅ぼす様を間近で見させていただかねば」


 これがピアーの逆鱗にと触れた。ありったけの魔力を集中させ、バーナルへと向けて放つ!


「人間ごときでは無事で…」


「生憎と人間ではありませんので」


 バーナルは魔力弾を垂れ布で絡め取って放り捨てる。それは進行していた魔物の群れに当たり盛大に吹き飛んだ。


「そんな、波動タオ? …しかも、強力な…」


 バーナルの全身から波動が放たれているのを見て、ピアーは激しく動揺する。

 龍族ならば、擬態していてもピアーの眼を持ってすれば解る。しかし、まるでそんな気配は感じられなかったのだ。


「龍王様ほどとは言いません。ですが、僭越ながら、その末席に名を汚す者の力をお見せ致しましょう!」




ーーー




 天空神エアズ・ノストは腕を組み、地上の交戦状態を見やっていた。

 すぐ側では暴走したセリクが拒滅ルンをのべつくまなく放ってくるが、自分のところに来た攻撃は避けるか叩き落とすかしていた。


「手前! 何をボーッとしてやがる!」


「ハッ! 目障りであります!」


 エーディンが仕掛けてくるのに、エアズ・ノストは不快そうに距離を取る。


り合う気がないのなら、さっさと去るがいいさね!」


 トトが火炎魔術を放ってくるのに、エアズ・ノストは羽ばたき一つで消し飛ばす。


「統治者を騙る小物が。貴君など端から眼中にないであります!」


「クハハ! 解っておらんようだね、天空神。その小事を軽んじる態度がこの災いを招いたということに!」


 魔王は長い指先を揃えて、左右に手を開いて周囲を示してみせる。


「…なんだと」


「教えてやろう。ラクナ・クラナは“この事態”を怖れていた。見てみるがいい。この人間たちの絶望した美しく愛らしいかおを!」


 人々は確かに絶望していた。度重なる襲撃、そして今度こそ確実に追い込まれており、逃げ道を塞がれ、怯え憔悴しきり、蓄積した疲労が精神までを蝕みつつあった。

 トトは快感に頬を緩ませ、全てを拒絶する力を身に纏い絶叫し続けるセリクを見やった。


「なんと美しい! まさに炎が燃え尽きる瞬間に一際激しく輝いているのではないかえ! クキキキッ! 愉悦よなぁ〜!」


「悶てんじゃねぇ! 気持ち悪ぃんだよ、クソババアッ!!」


「それが解らんから、そちは女の悦ばせ方が下手くそなんだよ」


「ぐおッ!」


 斬りかかろうとしたところを、魔術の爆破をカウンターで浴びせられエーディンは落ちて行く。


「…天空神、聴こえないかえ? セリクの叫びが、人々の叫びが?」


 もったいぶって、トトは挑発して笑う。


「遥か天空では聴こえぬかね? 彼らはこう言っているのだよ。“なんで神様は助けくれないの?”、とな」


 トトの台詞に、セリクの叫び声が合わさった。それは不思議と泣き叫んでいるように見える。

 そして飛んで来る『衝遠斬』を天空神と魔王は避けた。

 地上に眼を向ければ、もはや誰も神には祈っていなかった。己にできることを全てやろうと懸命に戦場に立つ者、隠れている者たちは互いに寄り添い合い、戦ってくれている者たちの勝利を願う。そこに神が入る余地はなかった。

 天空神は不愉快そうにキリリッと歯軋りする。レイドの揺れる紅い瞳、そして神を糾弾することも辞さない意思をもった男の姿を思い起こしたからだ。彼らは不遜にも神に問うた。“なぜ、神々は人をおもんばかれないのか?”、と。

 それは愚直なまでに、神王ラクナ・クラナの意思を尊重し、神を至高最上とする天空神からすれば耐え難いものだった。召還神に反対したのもその理由からだ。なぜ、万物の造物主が被造物にそこまで配慮しなければならないのか彼には理解できなかったのである。


「…イバン・カリズム。貴君は過ちであります。人は神を軽んずるのが常」


 エアズ・ノストは小さな声でそう断じる。いまさら言っても仕方がない。しかし、人の過ちを正すのは神の責務だと彼は信じて疑わない。


「……神を侮るか?」


 地上を見下ろし、天空神は問う。それは全人類に対しての問いかけであった。


「知らしめねばならんであります。神の威光を愚か者どもに!!」


 天空神エアズ・ノストは両手を開く。そして、神翼島に倒れていたヘジルを見えない力で宙吊りにして引き寄せる。


「余計なことはさせぬ!」


「痴れ者が!!」


 トトが放つ魔術を潰し、衝撃波で遠のかせる!


「さあ、神々の召還師!! “己の命”を“生贄”に役目を果たすであります!!」


 天空神の背に複雑な多重光輪が拡がり、猛烈な勢いで回転を始める!!


「神聖能力発動!!! 『天覧八紘一宇てんらんはっこういちう』」


 エアズ・ノストの衣装が金と白による豪華な物へと変貌し、仮面が割れて黄金の羽毛を思わせるかのような長い髪が棚引く!


「ぎゃああああッ!!」


 気絶していたヘジルが、全身に走る余りの痛みに目を覚まし、大きく痙攣して血泡を口から滴らせた。

 そして、強制的に神宿石から神々が召還される!


「ヘジル殿!」


「オラたち全員を召還!? ま、マズイよ!」


「天空神! ちょっと待ちなさいってば!」


「召還師の身が持たないなり!」


 口々に神々が抗議の声を上げるが、天空神は聞こえぬ振りをした。


「兄神様! お止め下さいませ! そんなことは最高三大神のご意思ではありませんこと!!」


 涙を流してカイオ・ロドムが嘆願する。


「大地神。貴君の神聖能力『地告欣求浄土ちこくごんぐじょうど』であれば、ガーネットの防衛は充分に成った!! あれらつまらぬ魔物どもは一掃できたであります!!」


 指摘された通りであったので、大地神は口を噤む。


「人の世に最早未来なし!! 天空神の権限に置いて、ここに神界解放を宣言するであります!!」


「そ、そんな! 神への階段もなしに無茶ですの!」


「ハッ!! 小神の持つ神気シンを忘れたでありますか!!」


 天空神に巨大な力が集まる! それは他の五神とは別格と言っても過言ではなく、地上に残った神々の中でも最強と呼ばれるのは伊達ではなかった。

 ツァーリドムが、閻王が、そして魔王が、さらにセリクまでもが本能的に、“これ不味い!”と、一斉に神々へ向かって攻撃を仕掛ける!!


「無駄であります!! 一度動き出した小神を止めることなど不可能!!」


 どれもが並々ならぬ大技であったのに、天空神はそれらを受けても物ともしなかった。不可思議な膜のようなものが彼らを守っていたのだ。


「神法『神威至上命令しんいしじょうめいれい』!!」


 天空神が下位の神々を指差す。それだけで彼らは“己の意思”を失い、虚ろな眼をして表情を無くした。

 そして、天空神が命じるままに天空神とヘジルを中心とした規則正しい配列に付く。


「神聖能力発動! 『神剛力招来しんごうりきしょうらい』」


「神聖能力発動! 『神装剣兜鎧しんそうけんとうがい』」


 拳神と剣神が神聖能力を発動させ、その姿を大きく変貌させる。

 そして、天空神の光臨に歯車が合わさるかのようにしてその回転の端にと加わる。


「神聖能力発動!! 『神樹操装曲しんじゅそうそうきょく』」


「神聖能力発動!! 『神狼月光舞しんろうげっこうぶ』」


 周囲の環境を大きく変化させつつ、植神と獣神が神聖能力を発動させる。

 そして同じようにして、天空神の光輪へと合わさった。多重光輪はより大きく複雑なものへと変わり、ジキル平原の上空全体を覆い尽くすまでになっていた。


「…対神までは操れないであります。小神は貴神が最良を選択するものと信じている」


 決して他には向けることのない、穏やかな表情と口調でエアズ・ノストは手を差し伸べる。


「…兄神様。神々(シスム)人間ヨニマに慈悲を垂れますの?」


「忘るるな。万象憐れみるからこその、神界凍結であります。神意、疑うべきもなし!!」


 神は迷わない…大地神は信じる道をただひたすらに変わらず進み続ける対神を尊敬していた。これが神として正しい在り方なのであると。

 

「…神聖能力発動!!! 『地告欣求浄土ちこくごんぐじょうど』」


 大地神カイオ・ロドムが手を合わせる。瞬間、彼女の衣類が本来、神界で存在するきらびやかな祭儀ローブへと変化した。合わせて多重光輪もより大きな物となる。

 そして上級神の力は地表を大きく揺らし、悪しき者共の足を止めさせた。魔物や鬼たちのいくらかは隆起した地面に突き上げられ、または陥没した割れ目へと呑み込まれて行く。

 最後に大地神の光輪は、天空神の下にと重なる!!!




──天地開闢てんちかいびゃく──




 その日、およそ一〇〇〇年振りにフォリッツアの“空”が消えた…………

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