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RUIN【破滅】  作者: シギ
一章 紅い眼の少年
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11話 DB試験(3) 雷の執事

 美少女は腰に手をあて、胸を反らし、この場にいる一同をニヤリと不敵な笑みで見やる。


「……受験者の一人か?」


 シャインが尋ねると、美少女はコクリと頷く。


「ええ。受付には間に合いませんでしたけれども、これで問題はありませんわよね?」


 そう言って、配られた地図を突き出す。端に血痕らしきものがついていた。


「受験者から奪ったのか…。だが、それだけの実力があるということならば問題ない」


 そんなことを言うシャインに、セリクもギャンもあんぐりと口を開く。


「良かったですわ。ダメといわれたら、あなたを叩きのめしてでも認めさせるつもりでしたわ」


 物騒なことを口にするお嬢様に、シャインはフッと笑う。


「できるならばな……。いずれにせよ、私を叩きのめしてくれねば先に進めはしない試験だ。名は?」


「わたくしは、サラ・ミルキィですわ。どうぞ、お見知りおきを」


 サラはチラリとセリクとギャンに目をくれ、不遜にもシャインを指さしながら言う。言葉遣いなどは丁寧でも、態度は大きい。


「ミルキィ家? 確か、現大総統の母方の姓だな……。名家ではないか」


「元、ですわ。今は昔、過去の栄光ですわよ。家柄なんて言ったら、そちらこそ名だたる英雄の末裔じゃなくて? 副隊長さんの名前を聞いた時は驚きましたわ」


「腕前に家柄は関係ない。当人の実力こそがすべてだ」


 シャインは鼻で笑う。


「ちょ、ちょいタンマ! いったいなんなんや!」


 呆気にとられていたギャンが、ようやく反応をみせた。


「なんなんや……って。あなたこそ何なの? いかにもうさんくさい喋り方だし。その言葉、正しい用法で使ってますの?」


「はあ!? ワイの喋りのどこがうさんくさい……って、ちゃうわ! そないなことどうでもええ! これやこれ!」


 憤るギャンが、何度もガラスの破片を指差す。


「これ? 割れた窓がどうしたっていうんですの?」


「せやから、一階から来てないやん! 窓から入ってくるなんて反則やないのか!? そもそも受験者から地図を奪うやなんて……そんなことが認められてたまるかい!」


 ギャンはシャインの方に向かって抗議する。

 サラは小馬鹿にしたように、ギャンを見下すような視線を送った。


「あら。あなたお馬鹿さんですわね?」


「お馬鹿とはなんや!」


 ギャンは真っ赤になって更に怒る。


「試験内容はお忘れかしら? “隊長に会えれば合格”ってな条件だった…って、人から聞きましてよ。窓から入ってはいけない、地図を奪ってはいけない……なんてルールはないんじゃなくて?」


 人から聞いた…というのは、奪って聞き出したの間違いだろうとセリクは思う。

 シャインはしばらくサラを見やる。そして、小さく頷いた。


「その通りだ。合格条件は隊長に出会うこと。必ずしも迷路を通り抜けなければならないわけではないし、二階から飛び込んだとて不合格にはならん。地図に関しては、奪われた側に問題がある。そんな隙を持つ者など最初からDBにはいらん」


「な、なんやて!?」


 ギャンはギリギリと歯ぎしりする。それをセリクがなだめるかのように間に割って入った。


「……ということは、別にシャインさんを倒す必要もないということですか?」


 セリクの問いに、シャインがしたり顔で笑う。


「…そうだ。これは飽くまで、私が貴様らの資質を問うために独断で行っていること。隊長が提示したものではない」


「待てや! 隊長の指示やないってどういうこっちゃ! それじゃ戦う意味ないやんけ! まどろっこしいことやらされているだけやないか!」


「意味だと? 意味はあるさ。敵は強大な力を持つ龍王。常識が通用する相手ではない。だからこそ、いかような手段を用いてもいい。王道だろうか邪道だろうがな。我々は臨機応変に判断し、勝利を掴めるような人材を必要としている」


 セリクはシャインの後ろにある階段を見やる。シャインをうまくかわして抜けられればと考えたのだ。


「だが、このまま黙っては行かせないということも解っているだろう? この上に行くのは容易ではないと知れ!」


 階段を見ている視線に気づいたシャインは、全身から戦気を放つ。


「なるほど。苦戦しているわけですわね……。ふむ。いいでしょう。わたくしも力を貸してあげますわ。さっさと上にいるであろう隊長さんのところに行くとしましょう」


 サラはギャンの側に立って戦闘態勢をとる。ギャンは目を丸くした。


「はあ!? ワイはお前のことまだ認め……」


「あら。わたくしと共闘するのイヤ? 女の子一人を戦わせる気ですの?」


 潤んだ瞳で見上げられ、ギャンはウッと言葉に詰まる。


「あ、あんな……イヤってな訳じゃなくてな。可愛い子と一緒ってのは、ワイかて嬉しい……いやいや、そうやなくてな!」


 女を武器にしたのは、ギャンには効果あったようだ。


「ほら! ごちゃごちゃ言ってないで! 来ますわよ!!」


 ギャンの返答を待たず、戦いが始まった。

 三体一になっても、シャインは怯むことはない。


「あなたもボサッとしない!!」


「え!?」


 サラに押し出され、セリクは斜め横に倒れる。

 シャインの鋭い一撃が、さっきまでセリクがいたところに振り下ろされた。攻撃をもろに受けるところだった。


「クッ! さっきよりスピードがあがってる!?」


「当たり前だ。手の内はまだ見せきってはいないぞ!」


 辛うじてシャインの攻撃を受け止めるが、その衝撃だけで吹っ飛ばされそうになる!


「ちょっと! もう少しちゃんとやりなさい! 相手はあのファバード家よ!」


 サラがそう言うのに、ギャンは目を白黒させる。


「ファバード? ファバード!? なんやてぇッ!? ああ!! ファバードってあれか! なんてことや! なぜ今まで気づかなかったんや! えらいこっちゃ!!!」


 少し考え込んでいたギャンが、急に真っ青な顔になった。赤くなったり青くなったりと、この数分間で大忙しである。


「え? なに?」


「ファバードといえば、『ロギロス』と並ぶぐらいの剣豪の超名門や! そりゃ大の男でも逃げ出すわ! 怪物みたいに強いわけや!」 


 ギャンはわめくが、セリクにはさっぱり言っている意味が分からなかった。


「ロギロス……??」


「なんや! セリク、知らんのか!?」


「ロギロスといえば、かつてガーネット帝国を救った『老剣豪バージル・ロギロス』の事ですわ。歴史で習わなかったんですの?」


 学校なんて行ったことがなかったので、知らないのは仕方ないことだったのだが…。それでもセリクは自分の無知を恥じ入る。


「まあええわ! とりあえず、気合いをいれなおさにゃいかんということだけ解ればええ!」


「う、うん!」


 セリクが前面でシャインを抑えつけ、手数で負けるとギャンが脇から炎で牽制する。


「動きが単調すぎる!」


「グッ!」


「ギャッ!」


 シャインは力任せにセリクを吹き飛ばすと、すぐに切り返してギャンを打ち叩く!


「なにやってるんですの!? 同じ方向から攻撃していては、反撃されて当然ですわ!」


「なんやと! ってか、お前も戦わんかい! さっきから逃げてばかりやないか!!」


 痛みをこらえながらギャンが怒る。ギャンの言うとおり、サラはさっきからシャインの攻撃をかわすだけだ。


「解ってますわ! でも、わたくしの力を使うには時間がかかるんですの! うーんと、よーし! ちょうどいいですわ! 充電完了!」


 サラが何やら両手を擦り合わせる。そして、全身に力を入れたかと思うとバチバチと巻き毛に電流が走った!


「なんだと!? その電撃は…『雷の異端者』か!?」


「フフッ! そっちの炎くんとはちょっと違いますわよ! 来なさい!! 『エレキテル・バトラー!!』」


 巻き毛からバチバチと蒼い電流が流れ、それが少し離れた場所に集まったかと思うと人型のようになる。それは燕尾服を着た老人のような格好だ。電撃をまとった執事である。


「付き人もいないお嬢様なんていないことでしょう? これがわたくしの自慢の執事バトラーよ!!」


「まさか二人も異端者が公募で来るとはな! 隊長も驚かれることだろう!!」


 両手を出して突進してくるバトラーの攻撃を、シャインは大きく避ける。溢れ出している稲光から、触れれば大惨事になるのは見ただけで解る。


「わ、ワイ以外の異端者……初めてや。しかも、ワイの能力なんかよりスゴイやんけ! ってか、自分で勝手に動く技なんてありなんか!?」


「あら、わたくしだって他の異端者は初めて見ましたわ。でも、口から火を出すなんて下品きわまりないですけど」


「下品とはなんや!」


 ギャンとサラがいがみ合う中、シャインは冷静にバトラーの動きを見定めていた。


「確かに驚くべき能力だ。自律自動の攻撃とは厄介だな。……しかし、だ。ギャンの炎と五十歩百歩といったところだろう。学ぶがいい。能力だけに頼るとこうなる! 『回払かいはら!!』」

 

 水平に構えた刀の先に、戦気を集中して放つ! 見た瞬間、セリクには『衝遠斬』と同じ性質のものだと気づいた。

 リング状の衝撃波が、バトラーの身体を横に割る!


「えッ!? そんな! わたくしのバトラーが!? 剣で雷を斬るだなんて馬鹿なことが!」


 戦気に打ち砕かれ、『エレキテル・バトラー』は四散する。


「いまの技ならば、バトラーだけではなく、本人も同時に攻撃してくるべきだったな! ぜいあッ!!」


 シャインの刀が、無防備なサラを襲う!!


「やらせないッ!!!」


「来ると思っていたぞ!!」


 セリクとシャインが斬り合う!


「ギャン! サラさん! なんとかシャインさんの隙をついて!」


「隙ですって!?」


「解ったで!!」


 ギャンが二つ返事で承諾したのに、サラは驚いた顔をする。


「あの坊やが……。隙を作ったからといって、何ができるというんですの? 対人戦では負け知らずの『エレキテル・バトラー』ですら歯が立たなかったというのに」


 サラは爪をかじって悔しそうな顔をする。


「ワイはセリクを信じる。なんか知らんが、アイツは何かやってくれるヤツやで!」


「なんでそんなことが言えるんですの?」


「さあ。ワイにもよう解らんが……。でも、合格するにはもうセリクに賭けるしか手はないんやないか? もうワイらの手は出し尽くしたわけやしな」


 ギャンの言葉に、サラは大きく溜息をつく。シャインを相手に打つ手なしであることは否定できないのだ。


「ほな、行くで!」


「解ったわ! やればいいのでしょう!」


 ギャンが大きく息を吸い込み、サラが手を擦り合わせる。そして、二人が炎と雷の弾丸を一気に撃ち出す!


「まったく。学ばない奴らだ。そんなものが……ふんッ!」


 シャインはセリクを弾き飛ばし、弾丸を打ち落とそうと構える。


「いまだ! 『衝遠斬ッ!』」


 転びつつ、意識を集中していた剣先を振る! すると、真紅の三日月が剣から勢いよく飛び放たれた!

 最初に放った時とは違い、今回は自分が意図していた軌道で飛んでいく!


「くッ! これは戦技か!? こっちからもだと!?」


 二つの弾丸を打ち落とし、驚異的な反射速度で『衝遠斬』に刀を合わせる!


「おおおッ! な、なんて戦技だッ!!! こ、この私が圧され……ぐぐぐぐッ!!」


 両手で力を込めていたシャインだったが、抑えきれずにバチンッと刀が弾かれる! 刀は弧を描き、しばらくしてカランという乾いた音が響く。

 威力を殺された『衝遠斬』は、軌道を横に反れて、サラが破った窓から抜けてどこかに飛んで行ってしまった。


「ど、どうだ!」


「すごいで、セリク!!」


 ペタンと座り込んだセリクに、ギャンが大はしゃぎで駆け寄る。


「……まさか、あの坊やも異端者なの?」


 サラが眉を寄せる。手柄をもっていかれたせいか、なんだか素直には喜べない気分なのだ。


「……いや、違う。戦気や戦技は、異端者のような先天性のものではない。極稀に、戦闘に長けた者が身に付けることがある力なのだ。だが、あのような年端もいかぬ少年が、あそこまでの力を持っていたのには驚かされたがな」


 刀を拾い、それを鞘に収めながらシャインが答えた。


「これで文句ないやろ! 三階に行ってもええな? シャインの姐はん!」


 ギャンがガッツポーズをとりながら言うのに、シャインはコクリと頷く。


「ああ。だが、三階は今までのようには簡単にはいかんぞ。隊長を見つけるにはまだ……」


「いやー、お見事ですね」


 シャインが話している途中で、パチパチと拍手音と共に、上り階段から誰かの声がする。


「ッ!? マトリックス様!?」


 驚いてシャインが振り返る。階段を降りてきたのは、ニコニコとした笑顔を浮かべた人物だった。


「さっきから拝見していたのですが……。素晴らしかったですよ。なにやら若い方たちばかりのようですが、シャインさんを苦戦させるとはびっくりです」


 聖職者が羽織るゆったりとしたローブを着ていて、長い黒髪を後ろで束ねた男性である。

 達観したような落ち着いた雰囲気を持ち、口元は先程から微笑みを浮かべているのだが、どうしてか両目を瞑ったままだ。


「まだ試験内容はあったのに! 隊長が自ら降りてこられてどうするんですか!?」


 シャインが焦ったように言うのに、マトリックスは苦笑いして頭を掻く。


「まあまあ……。シャインさんの査定は厳しいですからね。普通にやっていたら皆、不合格になってしまいますよ。今では戦力は少しでも欲しいところです。彼らなら、期待に応えてくれるだろうと……今ここで私が判断しました。これ以上の試験は必要ないじゃないですか」


 やんわりと答えるマトリックスに、シャインはまだ何かを言いたそうにしていたが、やがて諦めたように肩を落とす。


「マトリックスって……確か、教会の神父さんの名前? 神父さんが……隊長?」


 セリクが尋ねると、マトリックスは大きく頷く。


「そうです。聖イバン教会、ガーネット支部の神父を務めています。マトリックス・ファテニズムといいます。どうぞ、よろしく」


「コホン。そして、DBの隊長でもあらせられる」


 シャインが付け加えて言う。

 ニコニコと笑っている表情から、これが龍王と戦おうとしている人のようには到底みえなかった。


「……ええっと。それで、わたくしたちは合格ということでよろしくて?」


「はい。そうです」


「おお! やったで!」


「ええ。私も隊員ができて嬉しいですよ」


「隊員ができて? …つかぬことをお聞きしますけれど。マトリックス神父が隊長。シャインさんが副隊長。で、……他の隊員たちはどちらにおられますの?」


 サラの問いに、シャインが苦い顔をする。


「えーっと、ここにいるだけです。これで全部です」


 両手を広げ、マトリックスはさらっと言う。


「へ? えっと、ワイとセリクとサラ……隊員は三人しかおらへんちゅうことか!?」


「逃げ出すような軟弱者ばかりでな…」


 フンと鼻を鳴らすシャインを見て、マトリックスは困ったように笑う。

 シャインの審査にかかれば、ほとんどが振り落とされるであろうことがセリクにはよく分かった。いままさに体験したのであるから……。


「とにかく重要なのは人数ではありません。龍王の横暴を阻止しようとする正義の心なのです! それが我々、ドラゴン・バスターズ!」


 拳をギュッと握りしめ、口をキュッとすぼめて言うマトリックス。

 本人は格好いいことを言ったつもりなのだろうが、なんだかセリクたちは歯の裏がむずがゆくなる気がした。シャインの顔も少し赤らむ。


「……オッホン! マトリックス様。DBでお願いします」


「え? 帝国政府公認、龍王討伐自警団ドラゴン・バスターズが正式……」


「DBで!」


 これだけは譲らないとばかりに、シャインがグイッと詰め寄る。マトリックスはキョトンとした顔をした。


「……はあ? ま、えー、これからドラ……いえ、DBについて隊員となられる皆さんには色々と説明しなければなりませんね。三階の方にあがりましょうか。私の執務室がありますので、そこで話しましょう」


 セリクたちは案内されるまま、マトリックスの後に続いたのであった……。




 シャインを打ち破り、ついにDBへの入隊の道が拓かれたセリク。

 炎の異端者ギャンや、雷の異端者サラなどといった仲間を得て、これから龍王エーディンとの戦いが本当に始まるのであった…………。

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