9話 DB試験(1) 炎の異端者ギャン
聖イバン教会。通称、『聖教会』。
中央大陸南東側にある『デイルダ』。そこに存在する『大教会レ・アーム』本部から、フォリッツア各所に神父が派遣されて教会が設立されている。
神国ガーネット帝国では、D地区こと居住区にその教会は位置していた。
名刺に書かれていた住所を頼りに向かうと、ある小さな寂れたビルに行き着く。
聖教会という看板と、その下には剣が刺さった龍を描いたタペストリーが貼り付けてあった。
怖々と扉を開いて入ると、そこはロビーであり、入ってすぐ前に長机の置かれた受付がある。
「……入隊希望ならここで待て。礼拝希望ならば礼拝堂は奥だ」
入ってきた者の姿も確認せず、そうぶっきらぼうに言ったのはシャインだった。
何やら名簿に眼を通していて忙しそうにしている。
「あ、あの。俺です。こんにちは」
セリクが頭を下げて言うと、シャインは名簿から目を離した。
「ん? ああ。昨日の少年じゃないか!」
ちょっと嬉しそうにシャインは立ち上がる。そして受付からわざわざ出てきて、セリクの肩を叩いた。
「何か困り事か? それならば、マトリックス神父に……」
「いえ。実はシャインさんに用があって……来たんです」
「私に?」
シャインは意外そうな顔をする。しかし、頼られて悪い気はしてないといった風だ。
「はい。あの……その、ドラゴン・バスターズのことで……」
今まで機嫌が良さそうだったのに、途端にシャインは口をへの字にさせた。
「DB」
「はい?」
「ゴホン! DB……と呼ぶように」
「あ。はい……。DB、ですか」
それで良いとコクリと頷く。
「それで、DBに何の用があるのだ? お前に龍王関係の悩みがあるようには……」
「違います! あの、シャインさんは……いや、DBは、龍王と戦うつもりなんですよね?」
その問いに、少し悩んだあとシャインは頷く。セリクはパァッと笑顔になった。
「その、俺もDBに入りたいんです!」
拳を握りしめて言うセリクに、シャインは呆気にとられた。
「ギャハハハハハッ!」
いきなり響く下品な笑い声に、セリクは目を丸くした。
「ほんまウケるでー!」
今になって、ロビーに何人かが集まっていることに気づいた。ずっとセリクとシャインのやり取りを見ていたのだ。皆一様にして、小馬鹿にしたようなニヤニヤした笑みを浮かべている。
「なんや、こんな子供もバスターズに入りたいなんてな。よっぽど人手不足なんやなぁ、この隊は!」
一番大きな声で笑っていたのは、トサカのような髪型、オレンジ色の髪色をした若者だった。服装はダウンベストにデニムといった、街ではごく普通のファッションだ。
「黙れ。審査前に落とすぞ」
シャインが凄んで言うと、トサカ男は両手をブンブンと横に振る。
「いやいや、冗談やってー。そんな怒らんといてぇな、姐さん。これに受からんと、おかんにどつきまわされてまうからな!」
ずっとゲラゲラ笑っている様子からして、かなり軽薄な人物のようにセリクには思えた。
「よ♪ ボウズ。ワイも試験うけるつもりや。ま、仲良うしてな♪」
「試験?」
首を傾げるセリクを見て、シャインもトサカ男も目を瞬く。
「広告を見てきたんではないのか?」
「え? いえ……」
セリクがそう答えると、シャインは受付からチラシを持ってくる。
それはDB団員募集の告知であった。しかも、試験日が今日の日付になっていることにセリクは驚く。
「もしかして……」
チラシから顔を上げ、ロビーにいる人たちが教会に来るようなタイプでないことに気づいた。
どの人物も、教会に縁がありそうには見えない。物騒というか、腕に覚えがありそうな連中ばかりだ。中には、トサカ男のような普通の若者もいたが……。いずれも、セリクよりもかなり年上ばかりだった。
「DBは最近になって創設された組織だ。だから、人手には困っていることは困っているのだがな。しかし、かといって誰でも入れるというわけではない」
それはセリクだけではなく、ロビーにいる全員に言い聞かせるようにしてシャインは言った。
「でも、試験に受かればOKなんやろ? 広告には年齢制限とかなかったしな。このボウズかて参加資格はあるやろ?」
トサカ男の質問に、シャインは不承不承といった感じに頷く。
「ボウズ。名前なんて言うん?」
「セリク・ジュランドです」
「そうか♪ セリクか。よろしゅうな♪ ワイはギャン・G・クックルや!」
トサカ男、ギャンは下品に笑いながらセリクの肩をバンバンと遠慮無しに叩く。
「……フウ。まあ、お前のような子供が来るとは思っていなかったがな。年齢制限がないのは本当だ。本当に受けるのか?」
「はい!」
「ならば仕方あるまい。だが、子供だからと言って試験内容を優しくするようなことはない。それだけは覚悟しろ。セリク・ジュランド」
厳しく言うシャインに対し、セリクはコクリと頷く。
まだ何か言いたそうにシャインは眉を寄せたが、結局それ以上のことは口にはしなかった。
「……ちょうどいいか。そろそろ時間だな。では、これから試験を開始するとしよう。集まってくれた諸君。これを受け取れ」
シャインが時計を確認し、ロビーにいる全員にそれぞれ紙を配る。
「なんやこれ??」
紙をクルクルと回して、ギャンが首を傾げた。
セリクも受け取った紙をよく見るが、単なる白紙にしか見えない。何も書かれていないのだ。
「その紙に書かれた場所にたどり着き、見事、隊長に出会えれば合格だ」
「ちょ、ちょい待ちいや! なんも書かれてへんやないか!」
ペシペシと紙を叩き、ギャンが猛烈に抗議する。
シャインはうるさそうに顔をしかめた。
「何を言っている? ちゃんと“書かれている”じゃないか。これ以上、説明することはない」
そうとだけ言ってシャインは受付に戻ってしまう。
「な、なにを……」
セリクとギャンが戸惑っている間、紙を受け取った人たちはゾロゾロと教会を出て行った。誰に何も言わないことからして、どこに行くべきなのかすでに解っているようだった。
「……ううむ。ワイとセリクだけか」
「あ、はい」
口を尖らしてそう呟くギャンに、セリクはコクリと頷く。
結局ロビーには二人しか残らなかったのだ。
「ま、ここで会ったのも何かの縁やしな。よし。二人でお互いに協力しようや!」
「え?」
「イヤとは言わせへんでぇー!」
ガシッと肩を掴むギャンの目は真剣そのものだった。どうやら、一人で何とかする自信がないようだ。
「あの、ギャンさん…?」
「ギャンさん、やてぇ? なーにを他人行儀な。ギャンでええわ。敬語とかいらへん。タメ口でOKやで♪」
「で、でも……年上だし……」
「なんや。ワイかてまだピッチピッチの十代やで~。華の十八歳や。そう変わらないやろ? ええって。なんか敬語つかわれるの苦手なんや」
初めて接するタイプの人間に、セリクは目を白黒とさせる。
「で、弱ったなぁ。ここに“書いてある”らしい内容がわからへんと、どこ行ったらええか解らへぇんのぅ」
紙をいじくりまわし、ギャンは文句ばかりを口にする。まったく考える素振りもなかった。
セリクは表や裏を確認したが、やはり何か書かれている様子はない。試しに電灯に透かしてみても変わりなかった。
「どういうことなんだろう?」
チラッとシャインの方を見やる。
さっきからセリクを見ていたらしいシャインは、ハッと気まずそうに目を逸らした。
「ったく! こんなヒントも何もない紙いらへんわな!」
癇癪を起こしたギャンが紙を破こうとする。その時、「オッホン!」という咳払いが聞こえた。
セリクとギャンが顔をあげる。それはシャインがしたものだった。
「……今日は寒いな。火を焚いて暖をとりたいぐらいだ」
「はあ? 寒いって。なに言うとんのや。今日は暖かいぐらい……」
ギャンが呆れたようにそう言う。だが、セリクは「あっ!」と叫んだ。
「な、なんや?」
「火、か。もしかして…」
セリクは紙に鼻を近づけた。
「いったい何しとんねん、自分?」
妙なことをするセリクに、ギャンは怪訝そうな顔をする。
「やっぱり!! ギャン、火もっている?」
いきなりセリクが問うのに、ギャンは目をグルリと回した。
「な、なんや?? 火がどないしたっちゅうねん??」
「いま必要なんだよ」
自信をもってセリクが言うのに、ギャンは肩を竦める。
「……火、か。あるにはあるんやが。セリク。驚かん?」
「え?? 驚く…って?」
何を言っているのだろうと、今度はセリクが怪訝にした。
「せや。火なら簡単に起こせるんやけどな。スーッ!」
ギャンは大きく息を吸う。そして、口をすぼめて吹き出した。
その吹き出した息が、ゴーッと唸り声をあげた炎となる! まるで小さな火炎放射器のようだった。
セリクも、奥にいたシャインですら唖然とする。
「…これは驚いたな。『炎の異端者』、か」
シャインがポツリともらす。
セリクは吐き出された炎に目が釘付けになっていた。
「…ぜぇぜぇ。って、なんや! せっかく火だしたやろ! 何かするんとちゃうんやったんか!?」
肩で息をつきながら、ギャンが怒る。
「あ、ごめん…。その、もう一度……お願いします」
ギャンは舌打ちをすると、再び大きく息を吸い、口を尖らせた。そして、すぐに先ほどのように炎を吹き出す。
セリクは驚きつつも、その炎の側ギリギリに紙を寄せた。あやうく燃え移るんじゃないかという寸前ですぐに引っ込める。
「……ぜーぜー。ふー、で、なんなんや?」
「ほら。やっぱり…。これで場所が解ったよ」
セリクは紙を掲げた。
そこには、茶色く変色した模様が浮かび上がっており、よく見ると地図らしき形になっている。
「おお! なんや、こういう仕掛けか! こいつは解らへんわ! よう気づいたな、セリク!」
「うん。炙り絵だよ。俺の友達がよくやっていたのを思い出したんだ」
セリクの脳裏に、唯一の楽しかった思い出が浮かび上がる。
「ありがとうございます。シャインさん」
セリクがそう言って頭を下げるのに、やりとりを見ていたシャインはフンと鼻を鳴らした。
「なんのことだ? 知らんな」
「ったく、素直やない人やなー。とりあえず、行こか。絶対、試験受かったるでー!」
「うん!」
セリクはギャンと共に、意気揚々と教会を出て行った…。
それを見送ったシャインは、口元だけをニヤリと笑わせて名簿をバタンと閉じる。
「……では、私も準備するとするか。根性あるところをみせてくれよ、セリク」
―――
街を出て、付近の森の中を迷うこと二時間弱。ようやく地図にあった場所に辿り着く。
「…ほー。こんなところに、でかい建物やな」
ギャンが腰に手をあて、木々の間から見える大きな屋敷を指さした。
「位置から言っても、たぶん…あそこで間違いないと思うけれど」
「あそこに隊長さんがいるってわけやな。なんや、思ったより楽勝やないか」
大笑いしながら、ズンズンと大股で歩いていく。
「そんなに簡単にいけばいいけど…」
「なんや。セリクは心配性やな♪ ワイがおるんや。大丈夫、大丈夫。いざとなりゃ、障害物はみんな燃やしたるわい!」
ギャンは自分の胸を叩き、ボッと小さく炎を吐いてみせた。
あまり調子に乗ってるのを見ると、建物まで燃やしてしまうんじゃないかと不安になる。
「……あの、聞いてもいい?」
「ん? なんや?」
「あの…なんで口から火がでるの?」
言い辛そうにセリクは口にする。さっきからずっと気になっていたのだ。
「なんでって……でるからでるんやろ?」
ギャンは頭をポリポリと掻きながら言う。
セリクは首を傾げた。当たり前といえば当たり前の答えだが、だからといって腑に落ちるものでもない。
明らかに納得してない様子のセリクを見て、ギャンは少し考え込む。
「んーとな。さっきシャインのオバハンが言ってたやろ? 周りはワイみたいなのを“異端者”って呼んどる。時たま、ワイみたいな特異体質が突然に生まれるんやと。おとんもおかんも火ださんしな。なんでかも、どうしてかも、誰も知らん」
「へ、へえ。じゃあ、俺の紅い眼も……」
「ん? 紅い眼? あー、そうかもな。お前も異端者なのかも知れんわな。そんな宝石みたいな眼も珍しいしな」
ギャンが眼を覗き込んでくるようにしたので、セリクは気まずそうに顔を逸らした。
「……気持ち悪い?」
「へ?」
セリクが陰鬱そうな顔をするのに、ギャンはキョトンとした。
「その……。俺の眼、普通と違うし。気持ち悪いとかって……思わないの?」
自分で言っていて悲しくなり、セリクは拳を握りしめた。
「なんやそりゃ。目ん玉が紅いぐらいで気持ち悪かったら、火吹き出すワイはどうなるんや? 気持ち悪いどころか、ただの危険な人物やないか。何度も放火魔だと疑われたしな。ギャハハハ!」
ペチンと額を叩いて大笑いするギャンに、セリクはちょっと驚いた顔をする。
「あ。あれか♪ わーったで! お前、田舎者やろー。服装もダサイし、やっぱそうやと思ってたんや。ほんま田舎者は、やれ迷信がどうだのって気にするけどな。ワイみたいな超都会人はそんなみみっちぃこと気にせえへん!」
あっけらかんとそんな風にいわれ、セリクはなんだか肩すかしを食らったような気分だった。
そういえば、帝国に来てからは、紅い眼の事を指摘されなかったのだ。火を吹くギャンのような人間もいる。そんな色んな人がいるのに、眼が紅いぐらいでは動じてなんていられないのかも知れないと思った。
辿り着いたところは、大きな灰色の三角屋根。木目調のタイルを使った外壁。大きな丸窓の数からして、三階建ての大屋敷だった。
そんな人工物が森の中にポツンとあるのはかなり不思議な光景だった。周囲を見渡すが、人の気配はない。
出入口は正面にある大きな玄関だけのようだった。勝手口らしきものは裏にもあったが、なにやら木の板が打ち付けてあって入れないようになっている。
「ごめんくだはーーーい! だぁーれーか! おーらーれーまーすーやーろーかー!?」
ギャンが口元に手を当てて大声を出すが、屋敷の中からはまるで反応がない。
「……どうするの?」
「どうするって、入るしかないやろ~」
フンと鼻を鳴らし、ギャンが玄関のノブに手をかける。回そうとするが、鍵がかかっているようで動かない。
「なんやぁ? ワイらが最初なんかな? どうやって入れっちゅうねん! 扉ぶっ壊していいちゅうことかいな!?」
腕まくりするギャンは、扉を壊す気満々だった。
セリクはチラッと扉の周囲を見回す。
「ギャン」
「ん? なんや?」
「……たぶん、引き戸だと思う」
セリクに言われ、ギャンは扉を横に引く。案の定というべきか、扉はギィーッと横にスライドした。
「ま、まぎらわしい作りやな!」
真っ赤になりながらも、ギャンは照れ隠しに大笑いする……。
二人して中に入ると、辺りは真っ暗で周囲の状況が全く掴めない。
「…おー。なんも見えへん。うわおッ!」
「え?」
振り返ったギャンが驚いた声をあげる。
「……おー。ビックリさせんなやー。しっかし、その紅い眼。サーチライトになるやんか。便利やなぁ!」
暗闇の中、セリクの眼だけ明るく輝いていたのだ。
「いや、俺自身が辺りを見えるわけじゃないし……。意味がないよ。ギャン、火を出してよ」
言われるままに、ギャンはボッと炎を吹く。
セリクはナップザックから松明を取り出して、その炎を受け取った。
「おー。冒険者の必需品やな…。って、なんやこれ!?」
仄かな光に照らされた周囲を見て、セリクもギャンも飛びあがらんばかりに驚く。
「……壁? なんで?」
玄関から入ってすぐ、数歩先が煉瓦の壁だったのだ。
こういった屋敷ならば、玄関から入った場所は広間か何かだろうと思っていたので驚くのも無理はなかった。
その壁はずっと続き、松明に照らされる範囲より先に続いていた。所々、分岐があるところからかなり複雑な迷路のようになっているのだろうということが窺える。
「うへー。この中を進まないとあかんのか。しんどい! しんどいわ! やめやめ! こんなんやってられへんわ! ……よし、帰ろ。帰って寝よ」
がっくりと肩を落とし、ギャンは回れ右をする。そして一歩進み出そうとした瞬間、さっきの引き戸の扉がギィーッと自動的に閉まってしまう。
「ちょ! 待てや! おーいおい!!」
慌てて扉にしがみつくが、今度は引っ張ってみてもウンともスンともいわない。
「……先に進むしかないみたいだね」
セリクがそう言うのに、ギャンは頭をガリガリと掻いて、扉を思いっきり蹴り飛ばした。
「ワイ。こういうダンジョンとか苦手やわー」
ブツブツとぼやくギャンをなだめながらも、迷路の奥へと進んでいく。
外観の見た目とは比べものにならないぐらい複雑な作りで、しかもどこも同じような通路なので余計に迷うようになっている。
右へ左へ行くうちに、とうとう今自分たちがどこまで来たのかも解らなくなってきてしまった。
「あー! イライラするわ! なんなんやこれ! どこやここは!? 出口は!? 出口はどっちやねん!! ワイ、暗いところあかんのや! 日光浴びさせてくれんと死ぬ!! そういう体質なんや!!」
ギャンが吠える。口からボッボッボと火の玉を飛び散らした。
「やっぱり変だよ。結構歩いているのに……ぜんぜん進んだ気がしない」
「せやな。外から見たのより広く感じるわ」
「ううん。たぶん、同じ所をグルグル回っているだけなんだ」
「なんやて!? そんなん冗談やないで! それじゃ意味ないやん! ちゅうか、他の連中はどうしたんや!?」
ひどく慌てだすギャンだったが、セリクは冷静に周囲を見回す。
誰も疑問を口にしなかったことからして、受験者は皆この屋敷を見つけたはずだ。通路で全く出会さなかったということは、もっと先に進んでいるのだろうと思われた。ということは、ただ進むだけではダメで、何かしかの攻略方法があるはずではないだろうかとセリクは考えていた。
少し考えた末、セリクはおもむろに布を被して松明の火を消してしまった。周囲が暗闇に包まれ、セリクの目だけが紅く光る。
「な、なんや! 火、消したら何もみえへんやんか!」
「見えなくても進めるよ。ギャン、壁に左手を当てて進むんだ」
「は? な、何を言っているんや?」
「いいから言うとおりにして」
しばらくブツブツと言っていたギャンだったが、セリクが歩き出す雰囲気を感じとると渋々とついて来る。
暗闇の中で、二人の足音だけが響いた。
「ほら、やっぱりあったよ」
セリクが立ち止まってそう言う。
ギャンは暗闇の中で目をこらした。通路の先に、ぼんやりと蒼く輝くところがみえる。
「なんやあれは? あんなんあったか?」
「ギャン。悪いけど、また火を出して」
「お、おう?」
ギャンが火を吹き出すと、通路がパアッと明るくなる。
すると、さっき蒼く光っていたところは全く見えなくなり、ただの一面の壁に囲まれた通路だけが照らし出された。
「光に頼っていたら見えない仕掛けなんだよ。炙り絵と同じ…。普通にしてたら解らないようになっているんだ。きっとあの壁の中に先に通じる道があるよ」
セリクは蒼く輝く壁を手で探る。
ガタンと小さい音がしたかと思うと、ゴオオオッ! という音を響かせ壁がせり上がっていった。
その先は明るく照らされていて、二階へと通じる階段が出現した。
「お、おお! すごいやっちゃな。セリク! よくこんなん気づいたな!」
少し興奮した様子でギャンは言う。
炙り絵のヒントもあったし、誰でも少し考えれば解ることだとセリクは思ったが、思考そのものが苦手なギャンには凄いことのように思えたのだろう。
「うん。以前にこういうのを見たことがあるから……」
そう言って、セリクはハッと気づく。自分はどこでこんな仕掛けを見たことがあるというのか? レノバ村? 龍王城? いや、迷路を歩くなんて初めての経験のはずだ。そのことを考えると、ズキリと頭の奥が痛くなった。
「ど、どないした?」
「う、ううん。なんでもない。さあ、先に行こうよ」
考えるのを止めると痛みは止まる。
セリクはわざと笑みを作って階段を昇っていった…………。




