表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/41

閑話―少年たちの学び舎②



 卵は夕焼けに似た美しい朱色をしていて、上部には白い斑点が散らばっていた。殻はいかにも堅そうで、ためしに持ち上げようとすると足元がふらついた。

 ロッソ少年はしきりに首を傾げる。


「おかしい、こんな卵は初めて見るぞ」

「魔法鳥の卵じゃないんだ?」

「いや、こんな色をしているんだ、魔法鳥の卵、もしくは他の魔法生物の卵だろう。だが、教授は卵を全て保管庫の中におさめているはず。こんなところに無造作に放っておくことなんてありえない」

「教授だって見逃すことはあるんじゃないか?」

「……そうかもしれないな。この空間には魔法鳥以外の野鳥もいるから、突然変異だってありうるか。だが、それにしても」


 ロッソはやわらかな草と苔に包まれている赤い卵をコツコツと軽く叩いた。扉をノックして、部屋の中を確認するような調子だった。


「ボクの見立てが正しければ、この卵、そう待たずして孵化するぞ」

「本当に?」

「嘘を吐いてどうする」

「それもそうだね。正確な時期は分かるの?」

「二週間は待たなくてすむ、ということぐらいは」

「そっか……」


 黙り込んだ黒髪の少年は、ひときわ熱心に眼下の卵を観察し始めた。といっても、赤い殻の中身が透けて見えるわけではない。ただ、手のひらで卵に触れると、ほんのりと温かく、小さな心臓の鼓動が聞こえそうな気さえする。卵の中で生き物が育っているのだ。

 不意にロッソ少年の中に思いつきが生まれた。よくよく吟味せずとも、これが妙案と呼ばれるべきものだとロッソは直感する。


「なあ、キミ。よければ、ボクと一緒にこの卵の世話をしないか」

「え?」

「先ほど言った通り、この卵はあと二週間もしないうちに孵るだろう。キミがまだどの学科にもピンと来ていないのだったら、せっかくの機会だ、この卵の孵化を見守ることで魔法生物科の活動の一端を体験してみてはどうだ?」

「申し出はありがたいけど、教授に相談しなくちゃいけないだろう?」

「それは勿論だが、その前にキミの返事が聞きたい」


 ロッソはじっと返事を待った。内心では、これ以上いい案はない、この少年の好奇心をかきたてる絶好のチャンスだと考えていた。幸い、彼は生物科に全く興味がないわけではないのだ。ロッソは、黒髪の少年と共に学びたいという強い思いに駆られて、期待を込めて黒曜の瞳を見つめた。

 ついに、ロッソのクラスメイトは頷いた。一度だけ、しかしはっきりと、首を縦に振る。


「ぜひ頼むよ。魔法生物の孵化の瞬間なんて、なかなか見れるものじゃないしね」


 ロッソは力強く頷き返した。


「それじゃあ決まりだな。教授にはボクから伝えておく、明日からしばらくよろしくな」


 ロッソは立ち上がって左手を差し出した。一瞬きょとんとした後、うっすらと笑みを浮かべた黒髪の少年もまた立ち上がり、その手を握り返す。

 握手を交わす二人の後ろで、新たにピンク色のくちばしを手に入れたハヤブサが、枝を揺らして、果ての見えない天井へと飛び立っていった。





 クラスメイトというのも中々いいものだ、とロッソ少年は口の中で呟いた。

 何せ全ての授業を一緒に受ける上に、同じ教室内にいるのだ。赤い卵の世話に当たるに際して、これ以上便利なことはなかった。

 卵の発見から今日で四日が経つ。正午ピッタリに授業が終わると、ロッソは教科書をまとめて机の上でそろえ、教室の後ろにある個人ロッカーの中にしまいに向かった。几帳面に教科書の背の高さを揃える。ロッソ少年がすばやく正確にその作業を済ませたところで、横から彼の名が呼ばれた。ここ数日の間に、すっかり聞きなれてしまった声に、ロッソはいつも通りのそっけのない返事をした。


「キミか。昼食だろう?」

「うん、誘いにきたんだ。一緒にどうかな」


 黒髪の少年は弁当の小包を紐でぶら下げながらそう言った。彼が一日一回のお昼の誘い文句を口にするのは、これで四回目だ。愛想のいい笑みを浮かべているクラスメイトの前で、ロッソ少年は瞬き一つ分の間答えを逡巡した。一回目から三回目は、迷うことなく誘いに乗っていたのだが、今日は少し違う事情がある。


「すまない」結局少年は正直にうちあけることにした。「実は昼食を持参するのを忘れてしまったんだ。寝坊して寮の食堂に行きそびれた」

「それじゃあ朝食も食べてないんじゃないか。寮の食堂は閉まっているけど、中央棟の食堂は開いてるだろう?混む前にさっさと買いに行こう」


 残念ながら、とロッソは首を振った。


「今月分の食費を昨日本の購入費にあててしまってな……」


 いくら鈍いロッソと言えど、その時のクラスメイトが口にはしなくとも呆れていることは察っせられた。黒髪の少年がまじまじとロッソの眼鏡の奥を見つめる。


「ロッソって……いや、何でもない。昼食代くらい貸すから、とりあえず食堂に行こうよ」

「いや、それはいけない。それほど空腹でもないし、ボクは先に実験室に向かっているよ」

「何?僕からお金を借りるのは嫌?」

「金の貸し借りはなるべく行わないべきだ。相手がキミでなくても断っている」

「そういうものなのかな……」


 黒髪の少年は納得のいかぬ表情をしていたが、ロッソにはどうしようもなかった。この点については主張を変えるつもりはない。生家があまり裕福でなかったせいか、ロッソ少年はお金の関わることがあまり好きではない。

 ロッカーの扉をぱたんと閉め、ロッソはすぐ横の入り口をくぐって教室から廊下へと出た。足は実験棟の方角へと向いていた。そこに待ったをかけたのは、後ろをついてきていた黒髪の少年だった。


「金銭の貸し借りが駄目なら、これでどう?」


 そう言った彼の手には、パンとフルーツが詰まったバスケットがぶら下がっていた。いつのまに手に入れたのだろうかと、ロッソは目を丸くする。黒髪の少年は先手を打ってきた。


「言っておくけど、強奪したわけじゃないよ。そこの彼が……」少年は振り向いて、その「彼」というクラスメイトに薄っぺらな笑みを投げかけた。「どうぞってさ、くれたんだ。せっかくだからいただいておこうよ」

「ただで?」

「そう、これなら貸し借りなくていいだろう?さ、昼ごはんにしよう。校庭でいいよね」


 古びた木の廊下(軋み音がそこいらじゅうで鳴っていて、半年に一回は板が抜けてしまう)の端にある階段を下り、中央棟の正面玄関から校庭に出た。学院の建物に囲まれた庭はサークル状で、真ん中には三つの塔と同じくらいの高さがある巨木が一本植わっていた。巨木は太い枝を蜘蛛の巣のように広げて地面に50メートルはある影を落としていた。日陰には昼休みを迎えた生徒たちのグループが弁当を広げている。二人の少年も影の中へと入っていって、その仲間入りをした。

 バスケットのクリーム色の布を外すと、ぎっしり詰まった中身があらわれた。ライ麦パンが二つと小粒のスモモが四つ。ご丁寧にもパンに塗るバターまで小皿に入れてあった。

 むき出しの地べたに胡坐をかき、バスケットに手を突っ込んでパンを掴む。黒髪の少年はバターを塗らずにそのままバクバクと食べだしていた。バターをたっぷり塗り終えたロッソも、少し遅れて食事をはじめる。焼いて間もないのか、茶色の皮はパリッと香ばしく、中の白い部分は鼻を埋めたくなるような柔らかさで、雲を食べているみたいだった。

 黙々と食事を進め、二人同時に熟れたスモモに手を伸ばしたところで、ロッソ少年が口を開いた。


「君は友人が多いんだな。昼食をタダでくれるなんて、いい友人じゃないか」

「うらやましいと思う?」

 見ると、予想に反して黒髪の少年はあまり嬉しそうな顔をしていなかった。「キミがそんな顔をするくらいだから、あまりうらやましいものでもないのだろう」

「人の背後ばかり見て媚びを売ってくるような奴を友人とは呼ばないよ。自分からくれるっていうんだから、貰えるものは貰っておくけど、適当にあしらうのが一番さ」

「確かに、貰えるものは貰っておいたほうが得だ」と言ったロッソだが、「しかし、隠れてこそこそと人を馬鹿にするのはよくない。さっきの男にも、気に入らないならばそうと伝えればよかったんだ」と付け加えた。

「ロッソってすごく正直に物事を言うよね、尊敬するよ」


 ロッソ少年は気づかなかったが、黒髪の少年は暗にうわっ面をかぶり続ける宣言をしていた。


「大体、口で言って理解してくれる奴なら、僕だって邪険には思わないさ。言っても理解しないような馬鹿が世の中多くて困るんだ。馬鹿は嫌いだね。話が通じないし、面倒だから。考えもしないで動く奴なんて最悪な部類だ」

「ずいぶん辛辣にものを言うな」

「猫かぶりも見抜けない奴らに気遣いする必要なんてないからね」


 猫かぶり、とロッソは頭の中で繰り返した。ロッソ少年にとっては、宇宙の果てほど隔たった場所にある言葉だ。遠慮やお世辞など、生まれてこの方使おうと思ったことすらない。


「キミは、今も猫を被っているのか」

「さあ、どっちだと思う?」


 謎めいた微笑みを浮かべるクラスメイトの真意は、到底察することができなかった。


「分からない、正直に話さなければ他人の本心なんて分からないものだ。とはいっても、ボクは行き過ぎだとよく言われるんだが」


 すると黒髪の少年の秀麗な顔から謎めいた微笑みが消え去り、かわりにおかしくて堪らないと言いたげな笑顔が現れた。


「悪かったな、実は僕もよくわかってないんだよ。今の自分が素なのかそうじゃないのか」


 何がそんなにツボにはまったのか笑い転げた少年は、そのあと苦しそうに咳き込む込んだため、周りの生徒たちから奇異の目で見られることとなってしまった。そして二人が実験室に行こうと立ち上がったのは、結局小一時間も昼食を楽しんだあとになってしまった。





 あの男の笑顔には内包するものが多すぎてボクには理解できない。それが最近のロッソ少年の悩みだ。

 笑いすぎて苦しそうにするクラスメイトの前でどうすればいいのかわからず立ち往生した苦い記憶がよみがえる。三日前のことだった。


「笑顔というのは嬉しいときにだけ現れる表情だと思っていたが、どうやら違うようだな……」


 世界にはロッソの知らないことが山ほどある。目の前の朱色の卵もその一つだった。

 一週間前に発見された卵は、ロッソによってビルド教授に報告された。麦わら帽子に麻のシャツという農夫のような出で立ちの教授は、太い眉毛を跳ね上げ黒いつぶらな瞳を輝かせた。『すばらしい!ありがとうロッソ!!ぜひ私の卵保護室の中に……ん?どうした……なるほど、そういうわけか。生徒獲得の機会を逃すわけにはいかんな。残念だが、きちんと記録をとってくれるというのなら君と友人に世話を任せよう。分からないことがあれば聞いてほしい。ああ勿論、孵化の瞬間には立ち会わせてもらうからな!』とロッソの肩を強烈な力で叩いたあと(これは多分激励のあかしだったのだろう)、教授は野鳥の観察へと繰り出していった。


――魔法生物に接するときは、第一に愛情をもって、第二に慎重さと繊細さをもって、第三に好奇心をもってするべし――


 魔法生物学科に所属する者全員が知っている心得を暗唱して、ロッソは白い斑点の一つにそっと指先を触れた。卵の保管場所は教授の研究室から歩いて三十歩のところにあり、この赤い卵もその棚の一画を借りて置かせてもらっている。保管庫は特別製の部屋で、研究者たちごと収納してしまう縦に長いクローゼットのような箱形をしていた。横幅は両手を広げた大人二人分ほどだったが、奥行きは数十メートルもある。そこに同じくらい長い棚が置いてあって、卵は一定の間隔をあけて大きさごとに違う段に分けられていた。赤い卵は、一番上の段に藁に包まれて固定してある。ここならば、外敵にさらされることなく魔法生物たちは卵から孵ることができる。


「きちんと成長して生まれるんだぞ、ボクも精一杯世話をするから」


 教授たちが魔法生物にこうやって言葉をかける姿を目撃してからは、たびたびロッソも見習うようになった。こうすることで、第一の心得にある”愛情”というものが注がれるのかもしれない。

 ところで黒髪の少年はどこにいるのかといえば、寮に荷物を置きに行っている所だった。積み上げられた本が、ついにロッカーに収まりきらなくなったらしい、仕方なしに何冊かの本を寮の自室に持ち帰っていた。


「すぐに来ると思っていたが、手間取っているのか。……まあいい。先にほかのことをやっておこう」


 教授に教えられたとおり、棚のほこりを清潔な布でふき取り、卵の下に敷かれた藁を増やしておく。床に散らばった藁のくずをほうきで履き、卵の固定呪文を確かめ――――そうこうしているうちに、ロッソは周りの一切を忘れて作業に夢中になった。






 ところがちょうどその時刻、ロッソのいる卵保管室から一キロ近く離れた場所では、とんでもない事態が起ころうとしていた。

 禿げ上がった頭の初老の男を先頭に、数名のグループがジャングルの中へと足を踏み入れる。しかし彼らが十歩も進まないうちに、「ビー!」という音が突如全員の耳をつんざいたのだ。

 その場で固まった男たちの頭上でけたたましく警報が鳴り響き、金属をこすったような声が実験室の天井から叫んでいた。こんなふうにだ。「警告!警告!危険区域から脱走生物確認!……繰り返す。警告!警告……」

 たちまち顔色を変えた彼らは、慌てふためき押し合いへし合い部屋の入口へと駆け戻った。そこへ、別々の方向から三グループがジャングルを逃げ出してきた。禿げ頭の男が走ってきた男の一人に唾を飛ばしながら何が起こったか尋ねた。尋ねられた方は。青い顔のまま首を横に振る。その場にいる誰もが、緊急事態だという以外のことを把握していなかった。とにかく今は逃げなければ、と狭い入口から次々と部屋を脱出する。


「中に残っているやつはいないな」

「うちの研究班は全員いる」


「うちも」「私のところもだ」他の教授たちの返事を確認して、禿げ頭の男はひとまず部屋の扉に鍵をかけようとした。これから別室に集まり、魔法生物の捕獲作戦を立てなければならない。


「だがとにかく、鍵をかけてしまえば一安心だ……」


 手のひらサイズの銀の鍵が、少し手間取りながらもカギ穴に差し込まれた。左に九十度、人間たちの焦る気持ちを汲むように滑らかに回ろうとした鍵は、しかし四十五度の所でぴたりと銀の体を止めてしまった。


「待ってください!」


 禿げ上がった頭と同じくテカテカ光る両手をおさえられ、教授は一瞬パニックに陥りそうになったが、すぐに自分を止めた人物が百三十センチ程度の高さしか持っていないことに気が付いた。焦りと恐怖心のあまり、教授は激昂する。


「なんだね君は!今は緊急事態だ、さっさと離れなさい!!」


 すさまじい剣幕で怒鳴られても、背丈百三十センチの人物は教授の手をつかんだままだった。むしろつかむ力は強まるばかりで、絶対に離さないという気迫を感じさせる。

 教授以上に鬼気迫った顔で大人たちを見上げて、その人物は――――黒髪の少年は叫んだ。


「俺の友人がまだ部屋の中にいるはずだ!ロッソ=ヴィノーチェを助けないと!!」





 大人たちが事態を理解するそのわずかな時間さえ惜しくて、黒髪の少年は彼らの脇をすり抜けて扉を押し開け、ジャングルの中へと躊躇なく入っていった。背後で何か叫び声が聞こえた気がしたが、振り向くことなく走る。ロッソがいる場所は分かっていたが、少年の運動不足の体では、目的地までの半分の距離もいかないうちに息が切れ始めてしまった。はっはっと痛む横腹をおさえながら、懸命に卵保管室を目指す。広がるばかりの部屋が彼を嘲笑っているようだった。ジャングルは先程までのうるさいほどのざわめきが嘘のように静まり返っていて、鳥も獣も、植物までもがじっと息を潜めて敵をやり過ごそうとしている。その静寂を、少年の足音が不規則なリズムで切り裂いていく。

 前方に木のトンネルが見えてきた。ここを抜けて少し行けば切り株の休憩所、その先にビルド教授の研究室と卵保管室がある。黒髪の少年の心に一点の光がともった。ロッソの痛ましい叫び声はまだ聞こえてこない。

――きっと魔法生物はまだジャングルを徘徊していてロッソのもとにはたどり着いていないのだ――

 再び体が力を取り戻す。トンネルに向かって力強く一歩を踏み出した時だった。ズルッ、と足元が滑る。ツルツルした落ち葉の絨毯の上で、少年はしたたかに尻を打ち付けてしまった。骨に響くほどの衝撃に、唇の間からうめき声が漏れる。両手で尻を抑えて悶絶し、しばらく立ち上がることもままならなかった。

 早くロッソを助けに行かなければならないのに……。

 そう思いながらも、尻の痛みがなかなか引かない。再び苦痛をにじませた声を漏らす少年。


「うっ……」


 尻をさすりながらなんとか立ち上がった少年は、三歩進んで立ち止まった。ふとおかしな現象に気付いたのだ。よくよく耳を澄ましてみる。

 う……お…………えっ……。

 最初は自分のうめき声の残響音かと思ったが、それにしてははっきりとしているし、音が聞こえてくる場所は頭よりももっと上の方である気がする。

 ……け、うえ……。

――――上?

 トンネルを抜けた少年は、その場で天井を見上げてぐるりと一周見渡した。


「助けてくれ!!」


 今度ははっきりと分かった。樹上に探し求めていた友人の姿を見つけた少年はパッと顔を輝かせ、しかしロッソの置かれている状況を認識した途端、表情を凍りつかせた。


「卵を助けてくれ!」


 黒髪の少年に先んじてクラスメイトの姿を見つけていたロッソは、目の前の危険から逃れようとさらに一段上の枝に上りながら叫んだ。


「卵が狙われている。今から投げるから、持ったまま逃げてくれ!」

「馬鹿言え!」激しい語気に、ロッソは少し驚いた。「俺は自慢じゃないが身体を動かすことは苦手なんだ。速攻捕まって卵もろともやられるに決まってる!」


 ロッソを助けようと木の下をうろついていた黒髪の少年は、樹上の敵と一瞬目があったような気がして、ゴクリとつばを飲み込んだ。

 黄色い目玉がロッソの腕の中に狙いを定めている。

 ゆうに三メートルはある大蛇が、その巨大な体躯を木に巻き付けながら、頂上のロッソへとスルスルと近づいて行っていた。青緑の鱗は一枚一枚がいかにも頑丈そうで、爬虫類特有の目は見つめられると否応なしに恐怖を感じさせる、二本の牙の間からチロチロと覗く細長い舌は二又に分かれていて、ヘビの獲物たちの末路を思わせる血の色をしていた。

 ロッソは見た目に似合わず軽い身のこなしで木のてっぺんにまで上っていたが、ヘビの頭は今にも彼のつま先に届きそうだった。そうなればロッソ少年は、ヘビの長い体で絞め殺されるか、それとも大きな口で丸呑みにされるか、どちらにしても最悪な結末を迎えることになるのは間違えない。


「せめて卵を受け取ることだけでもできないか」

「受け取り損ねて割ってもいいならな!」


 木を蹴りつけながら、黒髪の少年がやけくそ気味に答えた。


「そうか、白状してくれてありがとう。正直なことは……」

「そんなこと言ってる場合か!何とかするから、それまで持ちこたえろ」


 こんな時にまで、よくいえば冷静な、悪くいうならば危機感のまるでない態度を崩さないロッソ少年。彼は右手で赤い卵を抱え、左手と両足で細い枝と幹を掴んで何とかバランスを保っていた。十メートル以上はある場所から地上を見下ろすと、緑の断崖絶壁に立っているような気分に陥る。その緑の壁を這い上って、大蛇が刻々とロッソと卵に迫ってきていた。枝葉の隙間から覗く冷酷な目玉が赤い卵を見定めて舌なめずりしている。ロッソは無意識に卵を抱く力を強めた。


(持ちこたえろと言われてもな)とひとりごちる。


 最優先は卵の保護だ。隣には別の木があるが、残念ながら数メートルの距離を飛び移れるような運動能力は備えていない。ロッソ少年にできる精一杯と言ったら、せいぜい両足を十センチほど上に引きあげ、上半身を伸ばして数秒でもヘビの来襲を遅らせることくらい。

 巨大なヘビを視界から外して、さらに下を伺うと、黒髪の少年が木の根元で腕を組み考え込んでいた。どうするんだろう、と思っていると、彼はいきなり上を――――つまりロッソを仰ぎ見た。


「ここでは魔法は使えないんだよな?」とロッソに尋ねる。前にも言ったことを聞くなんて珍しいと思いつつ、ロッソは以前と同じ答えを返した。

「唱えた時点で呪いが発動するようになっている」


 その答えを聞いた瞬間、黒髪の少年は片方の口角を上げてニッと笑った。勝利の笑みだった。そして彼は、ロッソ少年が今しがた発したばかりの忠告をあろうことか即座に破った。


「アルボルッ!!」


 ロッソの赤茶色の瞳が見開かれて真ん丸になる。黒髪の少年が呪文を唱えおわるか終わらないかというすばやさで、ロッソがいる木の枝葉がざわざわと揺れ始めた。「わっ」と慌てて枝に強くしがみつく。しかし、敵の方はそんな揺れはもろともしないようだった。

 今や大蛇はロッソの爪先を舐められる距離まで迫っていた。光を照り返す青緑の鎌首がもたげられ、顎がパカリと開いた。鮮やかなピンク色の肉に囲まれている、ロッソの首など簡単に貫いてしまいそうな大きく鋭い紫の牙、その間から二又の舌が伸びてきて、ロッソのくたびれた革靴に触れた。


(失敗したのか……?)と呟いた。


 そもそも、呪文は利かないとはずなのに、どうして黒髪の少年はそれを無視したのか。偶然魔法が発動する幸運を狙ったのだろうか。


「もうダメだな」


 わざわざ覗き込まなくとも、ロッソの下に待ち構えているのが緑の断崖ではなく、ピンク色をした死への入り口だということは分かっていた。さすがのロッソも迫りくる死の予感に身を震わせた。

 せめて卵だけでも助けよう、そう思ったロッソは、僅かばかりの確率に賭けて、卵を地上に投げ落とそうとした。振りかぶったと同時に、むき出しの足首にヌメリとした感触が生まれ、思わず鳥肌が立つ。

 その時だ、木全体が折れるんじゃないかと心配になるほど大きく揺れた。ロッソもヘビもピタリと動きを止める。揺れ幅はだんだん小さくなったが、揺れる速度は速くなる一方で、まるで何か巨大な化け物に怯えて震えているみたいだった。

 数秒もしないうちに、木の真ん中辺りから生えていた枝の先っぽが、スルスルと細く伸びはじめた。ロッソとヘビが呆気にとられている間に、枝は鞭のようなしなやかさで、ロッソたちのいるてっぺんまで伸びてきたかと思うと、ヘビの尻尾に巻きついた。ヘビはようやく身の危険を悟り、巻きついてくる枝から逃れようとしたが、暴れれば暴れるほど締め付ける力は強くなる一方だ。ロッソの目の前で、あっという間に大蛇は全身をぐるぐる巻きにされてしまった。残っているのは頭だけで、その頭もすぐに器用な枝によって覆い隠されてしまう。まるで一本の長い杖だ。

 それでは飽き足りないのか、今度は枝と葉っぱが一緒になって球体型の編みかごを作り始めた。九割方出来上がったところで、枝の一本が哀れなヘビの体をひょいっと投げ入れて、最後の仕上げにかかる。完璧に編み上げられた籠には、ヘビの抜け出る隙間はもうなかった。

 言葉も出ないと言った様子のロッソ少年に向かって、地上から彼を呼ぶ声が聞こえる。


「おーい、大丈夫か」

「……ああ、心配ない」


 それを証明するために、ロッソ少年は行きより見通しのよくなった木を躊躇うことなく降りていく。最後の数メートルを一気に飛び降りると、ほんの十数分のことなのに、地面の感触が懐かしく感じた。枯葉と苔に覆われた地面に靴底が埋まる。緑のトカゲが葉っぱを持ち上げてカソコソと足元を通り過ぎた。

 無事でよかったと言う黒髪の少年に、ロッソは詰め寄った。なんでどうして、という疑問が頭の中をいっぱいに占めている。知的欲求が沸き上がって来ていた。


「どうして魔法を使えたんだ?それになぜ喋れている?呪いが上手く発動しなかったのか」

「まあ落ち着け。とりあえず卵を保管室に置きに戻ろう。道ながら話すから」

「そうか。ついでにキミの口調がすっかり変わっていることについては触れたほうがいいんだろうか」

「……気づいたか?」



 黒髪の少年は一瞬ごまかそうとして諦めた。「こっちが素なんだ」と白状すると、ロッソはあっさり納得した。その方が合っているよ、とまで言った。理由は分からなかったがロッソの本心はそう告げていたからだ。

 二人は並んで歩きだす。ジャングルの中はまだヒッソリとしていて、いつものように動き出すまでには多少の時間がかかりそうだった。


「ではさっそく説明してもらおうか。まずは魔法が行使できたことについてだ」


 両手で卵を抱え込んだロッソが質問した。待ちきれないと顔に書いてある。


「あんまり大きい声では言えないが、この手の魔法には大体抜け道がある。高度なものだとほんの僅かな魔力でも感知されるようになっているから無理な場合もあるけど、この部屋にかかっている中級程度の魔法なら、一定以上まで魔力が高まらないと感知されない。つまり、時間との勝負――――魔法陣を使用したりして一瞬で魔法を発動させてしまえば、魔力感知された時にはこっちは魔法を使い終わっているって言う算段だ」

「なるほど。キミの魔法を発動するまでの時間が極端に短かったために、呪いの発動が間に合わなかったと、そういうことか……だが、遅れたといえど呪いは発動したんだろう?なぜキミの口はふさがっていないんだ」


 黒髪の少年は無言で胸元のポケットから紙切れを取り出した。それを受け取ってロッソは首を傾げる。二重の正円に三角形、直線に沿うようにしてスペルが書かれている。


「古代の魔法陣だ。これで大体の中級までの魔法陣やスペルは解除できるが、くれぐれも言いふらすなよ。実は実家の書庫から無断で持ち出した書物に書いてあったんだ。ばれたらただじゃすまない」


 黒髪の少年は声を潜めて真剣な顔つきでささやいた。誰にも聞かせたくない話だったらしい。用紙片をもっと見ていたい欲求を押さえつけて、ロッソはそれを持ち主に返そうとした。すると、黒髪の少年は受け取ろうとしない。


「それはロッソにやる。俺は形を覚えているし、また何かあった時に使えよ」

「いいのか」

「ああ、いろいろ世話になってるしな」

「それじゃあありがたくいただいておこう」


 言葉と表情には表れないが、思いもかけない幸運にロッソの心はうきうきと弾んだ。

 木のトンネルからだいぶ進んで、ビルド教授の研究室が近づいてきた。ジャングルを住居としている動物たちも、ようやく心の安息を取り戻したようだ。静寂を打ち破って、やかましい鳥の鳴き声が聞こえる。そう長く待たずして、いつものジャングルの喧騒が戻ってくるだろう。

 ロッソは歩きながら先程の黒髪の少年が使った魔法を思い出していた。初級の呪文だったからロッソも同じ魔法を使えるけれど、あんなふうにはいかない。発動時間も、魔法の効力もロッソよりはるかに優れていた。

 二人は、目の前に垂れている柳によく似た木の枝を払いのけながら前進する。ツララ型の葉っぱがちくちくと肌を刺した。


「それにしても、すごいなキミは」とロッソが感嘆を交えて言った。

「何がだ?」と黒髪の少年。何故か険のある言い方だった。

「さっきは簡単に言っていたけれど、呪いより早く魔法を発動させるなんて至難の業だろう。ボクは呪文学が不得手だから、魔力を練って呪文を唱えるまでに時間がかかってしまう」

「そうか?呪文は便利だからよく使うが、俺も特別得意ってわけじゃない。上級魔法だと不発になることもあるしな」


 さらりと答えるクラスメイトの少年に、ロッソはつくづく感心させられた。


「その年で上級まで手を出しているのはキミくらいだろう。さぞ努力したんだろうな――尊敬するよ」


 今度のテスト前にはボクにも教えてほしいものだ、と呟きながら歩く。数歩進んだところで、隣を歩いていたはずの少年が後ろで立ち止まっていることに気が付いた。

 振り向くと彼は、黒曜の瞳でロッソをじっと見つめていた。


「何かあったか?」

「……いや、なんでも」


 黒髪の少年はうつむいて首を振ると、「行こう」と足早にロッソを追い越して行った。



 ビルド教授の研究室を通り抜けた二人は、無事に卵保管室までたどり着くことができた。あれから警報が鳴る様子はなく、本当に危険は去ったようだ。

 黒髪の少年は保管室の中を見回し、その他たくさんの卵がきちんと陳列されているのを目にして尋ねた。


「それにしても、どうしてロッソと赤い卵が狙われていたんだ?見たところ卵保管室が敵の来襲をうけたわけじゃないだろう」

「それはだな、この卵が逃げたからだ」

 未だロッソの両手に抱えられたままの赤い卵を、黒い二つの目がぱちくりと見つめた。「逃げた?卵が?どうやって」

「もちろん自分で動いて逃げたんだ」


 なぜそんなにも怪訝な表情をしているのか不思議に思ってから、ロッソは魔法生物以外の卵は動いたりなんてしないのだと思いだした。なるほど、この少年が不思議がるわけだ。ロッソはずっしりと重い卵をクラスメイトにゆっくりと手渡した。


「どうだい?分かるだろう」


 黒髪の少年は無言で卵を抱えていた。しかし、大きく見開かれた目が彼の驚きと興奮を十分に伝えてくれる。彼は今、卵の中で魔法生物が元気に暴れまわっている振動を感じ取っているはずだ。ドクドクというすばやい心臓の鼓動、トントンとまだやわらかなくちばしが殻をつつく音――――ロッソはにこりとした。


「その卵はやはり魔法鳥だ。ボクが保管室から出ようとした時を見計らうようにして、飛んで(、、、)逃げて行ったからね」

「まだ卵なのに?」

「魔法生物は総じて成長が早いんだよ。生まれた瞬間から、成鳥と同じ行動ができる。卵の中で幼少期を終えるんだ」

「不思議だな……」

「楽しいだろう?」


 黒髪の少年はこっくりと頷いて、ロッソ少年に卵を差し出した。受け取ろうとしたロッソは、片方の手のひらを卵の丸い表面に当てたところで、その手を引っ込める。


「もう少し持っているといい」


 ロッソにしては楽しそうにそう言って、それ以上の言葉は口にしなかった。再び黒髪の少年の腕の中に戻った赤い卵を二人でじっと見守る。二人の胸中を期待と不安が席巻し、無意識のうちに息を詰めていた。

 何秒間呼吸を止めていたのか分からない。何一つ見逃すまいとする四つの目玉の下で、赤い卵の殻に小さな黒い線が生まれた。黒い線は最初一直線に伸びたかと思うと、今度はジグザグに走りだし、ついには分厚く頑丈だった赤い殻を真二つに割るような亀裂となった。

 深い谷底のように暗いひび割れから、クリーム色の円錐が飛び出してくる。くちばしだ。中の生き物が上の殻を押し上げようと奮闘しており、濡れた羽毛が隙間から飛び出していた。

 そして、とうとう魔法鳥は卵の殻を押しのけて、その全貌を二人の少年の眼前にさらしたのだ。

 卵と同じ夕焼け色の羽毛に包まれたその鳥は、頭の上に王冠にも見える黄金のとさかを持っていた。オナガドリのように長い尾も、とさかと同じ金色をしている。瞳の色は、殻の中の暗闇を持ってきたような漆黒だった。

――――言葉もないとは、こういう時のことを言うのか。

 二人は同時に感嘆の息を漏らす。どうやって言い表せばいいのだろう、この感動を。このうつくしさを自分だけのものにしておきたい、永遠の秘密にしておきたいと思うのだ……。

 ロッソ少年の言った通りに、魔法鳥は身体は小さいながらもその姿は成長と大差なく、卵の殻を身軽に飛び出すと、保管棚の上で優雅に毛づくろいをはじめた。

 彼――もしくは彼女を煩わせないように、二人の少年はそっと棚からはなれて、入り口の扉の隣から魔法鳥の様子を見守る。


(ボクらだけで孵化に立ち会ってしまって、あとで教授には謝っておかないと。だけれど、これは……)


 もうしばらく自分だけの胸にとどめておきたいと、ロッソは思った。

 隣の黒髪の少年も、感動に言葉を忘れているらしい。瞬きもせずに離れてしまった魔法鳥を凝視している。もう一度触れたい、近くで見たい、と思っているのがありありと分かる態度だった。


 唐突に、「俺、決めたよ」と黒髪の少年が言った。


 並んで魔法鳥を観察していたロッソは、前方から視線を外してクラスメイトを見上げた。


「魔法生物科に入る」と彼は宣言した。


 ロッソは目を見張った。その決心は自分にとっても喜ばしいものだ。黒髪の少年と共に学びたいという自分の願い事は叶うということだろうか。真剣な顔つきに、冗談ではないのだとロッソは確信した。


「そうか……キミが入ってくれれば学校からの予算も増えそうだ」

「嬉しいか?」

「とても」

「自分で言うだけあって、ロッソは正直だ」


 黒髪の少年はおかしそうに言った。

 おかしいことなんてないはずなのに、ロッソまで愉快な気分になる。不思議だ、もしかしたら魔法生物に劣らないくらい奇妙な心地だ。心を操作されるような事態に陥っているというのに、不快だと感じない自分がさらに不思議だった。


「キミといると面白いな。ボクはどうやら他人に好かれない性格らしくて、長い付き合いというものを経験したためしがない。だが、キミとは長い付き合いになればいいと思うよ」

「……そうだな」


 否定の返事をされなかったので、ロッソは表情を緩めた。クラスメイトとの付き合いというものについては、今度もう少し研究しておこう。そういうことに関してはてんで疎いロッソ少年だったけれど、一つだけ知っていることがあったので、彼はきちんとそれを実行することにした。


「さしあたってだな、キミの名前を教えてほしい」


 黒髪の少年は虚を突かれたようだった。あんぐりと口を開けて、なんどか開け閉めしたあと、驚きもあらわにこう言った。


「知らなかったのか?」

「だってキミ、一度も名乗らなかったじゃないか」

「それは、俺の名前を知らない奴に会ったことがなかったから……」


 そう呟いて、黒髪の少年はしばし俯いた。長い前髪が彼の表情を隠している。次に彼が顔を上げた時、その顔には年相応の少年っぽい笑みが浮かんでいた。

 その笑顔が彼にあまりにも似合っていたものだから、ロッソはようやく気付かされた。黒髪の少年が今まで浮かべていた笑顔の中で、本物なんてものはほとんどなかったという事実に。


「俺の名前はユンスティッド=シルバート。ユンスって呼んでくれ」

「よろしくユンス」


 ロッソが握手のための手を差し出して、ユンスがそれに答える。


「見ろユンス、魔法鳥が……」


 ロッソの声に従って、振り向くまでもなかった。二人の前方から一直線に赤い鳥が低空飛行してくる。ロッソがすばやい動作で入り口の扉を開けた。翼を一度はばたかせて、魔法鳥が外へ飛び出していく。二人の少年はその後を追いかけた。

 外に出ると、天井からの光が目を突き刺す。瞼をも貫通しそうな程強烈な太陽光線だ。二人が目を開けて天井を見上げた時には、魔法でつくられた青空に向かって大きな赤い鳥が上昇しているところだった。

 高く、どこまでも高く飛ぶ姿には、ここが本当のジャングルだと錯覚させられる。

 その瞬間、二人の少年は確かに熱く湿ったジャングルの中に佇んでいた。少なくとも、彼らの心は。


「あ」とユンスが、ため息とも驚きの声ともつかない声を漏らした。


 夕焼け色をしていた魔法鳥のからだが、まばたき一回分のうちに青い炎につつまれたのだ。ロッソは悟った――――そうか、あの鳥は炎の魔法をもつ鳥だったのだ。青い炎に包まれて飛び去っていくその姿は、夜の空を颯爽と駆けて行く彗星のようにも見える。金の尾が、彗星の尻尾にそっくりだ。

 どこへ行くのだろう。もしかしたら、あの力強い羽ばたきで宇宙まで飛んで行ってしまうのではないだろうか。

 二枚の青い翼が、だんだんと小さくなっていく。その姿が親指と人差し指で挟めるくらいの大きさになって、やがて消えてしまっても、二人は青空を見つめつづけていた。

 あの青くうつくしいものを、もう一瞬だけでも見れやしないかと。

 だけれど、少年たちがうつくしい鳥に再会できたかどうかの結末は、二人の胸の内に仕舞われてしまっている。

 卵が孵ったあの時の、夕焼け色の光景と隣り合うようにして……。





第四章完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ