表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愚かな人

SF要素が皆無。読書に限らずこういう人って多いですよね

 図書館で好きな小説家の新書を読んでいたら、突然ある女に話しかけられた。

「珍しいですね、未だに紙媒体で読書してるなんて」

 不躾なことを言う奴だと思った。確かに、電子書籍が主流になってもう十数年だ。今時紙をペラペラめくって本を読む奴なんて、読書家気取りのにわかくさい若造か、時代に追いつけない老人くらいのものだ。喫茶店で紙媒体の本を読むのが一時期ブームになったが、そんなもの外面の問題だ。長くは続かなかった。

「図書館で電子マルチツール広げて本読む奴なんかいませんよ」

 ぶすっとした調子で答えると、女は俺の向こう側を指差した。つられてそっちを見てみると、ブックリーダーを片手にコーヒーを飲みながら何かしらの本を読んでいる集団が目に入った。ブックリーダーは、最近販売された本の形をした読書用特殊型ディスプレイである。本の形をしているから閉じたり開いたり出来るのだが、今までのっぺりとしたデザインだった電子マルチツールよりも、『流行に敏感な人』にとっては芸術的に見えたらしい。今じゃ結構見るようになった代物だ。

「ああいうのは、カッコだけのバカって言うんですよ」

「でも、紙で読むあなたもカッコだけじゃないですか?」

 こいつ、失礼にもほどがある。ダウンロードするだけで読める奇天烈な形をしたものと、図書館内を回らなきゃ手にすることの出来ないものを比べてること自体がありえない。こういう奴が、アナログなものを下に見て、デジタルなものを高尚にしてしまうんだ。わかっちゃいない。わかっちゃいないぞ。

「俺は、紙をめくる感触と、紙独特のにおいが好きなんですよ。ああいうのは無機質で、ただ本を読んでるだけって感じがしてイヤなんです。それだけですよ」

 きわめて冷静に答えたが、しかめっ面はしていたかもしれない。女はあわてたように、

「あ、気分悪くしちゃいました? ごめんなさい! ちょっと不思議だなあって思っただけなんです」

「不思議って、人の好き好きでしょう。別に紙で読んだって、悪いことしてるわけじゃない…」

 ん? 俺は何を言っているんだ……

「……」

 女は神妙な顔をしたかと思うと、ハッと納得したような顔になった。

 俺はなんだか、自分が何を言っているのかわからなくなってしまった。

「あの、本は読むものなんですよね」

「え、そ、そうですね」

「だから、スタイルは紙でも電子ツールでもどちらでも良いと思います。その価値は物語にあって、それが何に印刷されてるとか、電子データだからとか、それはどうでもいいことなんじゃないかなって。あれ? 私何が言いたいのかな?」

「いや、わかるよ……わかる……」

 なんとなく、気付いたことがある。俺はどうやら真っ白なページしか、めくってなかったようだ。すぐに本を元あった場所に戻して、図書館を出た。そこにいた人全員が、ブックリーダーで得意げに読んでいた奴らでさえも、俺を笑っている気がした。

 女の言おうとしたことには続きがあるはずだ。いやもうそれは俺の中でわかってることなんだ。わかってるけど、情けなくて認められそうにもない。ああ、俺は馬鹿野郎だ……


言いたいことはあえて明らかにしてませんが、まあ分かりやすいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ