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壊れた宝物

作者: ごり

原稿用紙10枚以内という規定で書いたものですので、かなりの駄作です。もう少し短くまとめられる技術があればいいんですが・・・。

「んあ?」

 青年は瞳を下に向ける。

「やべっ」

 そう言ったときには既に遅い。

 陶器が割れるような音が鳴る。

「あーまじかよ。めんどくせぇ。誰だよこんなところにこれ置いたやつ」

 無論自分しかいないのだが、人間とは責任転換をしたがる動物である。

 青年はゆったりとした動きで台所に足を運ぶ。戻ってくるときには手に台拭きが握られていた。

 卓上には割れた筒状アクアリウム。

 中の液体が漏れていた。液体は卓上を外へと伝い、そして下に滴る。

 フローリングを傷つけないために敷かれた絨毯の上には、小さな水溜りができていた。

 卓上から液体が滴る度に、水溜りの水面が揺らぐ。しかしそれは均等間隔だ。

 だがその法則を突如破るものがある。

 台拭きだ。

 青年は台拭きを乱暴に水溜りへ落とすと、今度は乱雑に吹き始める。苛立っているらしい。

「うし」

 青年は絨毯から台拭きを離す。まだ湿り気が残るものの、気にするほどのものでもない。

 青年はステンレスの流しに台拭きを投げ込むと、足早にベッドに潜り込む。

 寝息はすぐに聞こえてきた。時計の針は2時40分を指している。

 部屋は暗い。音もない。

 だがひとつだけ異常と言えるもの、見開かれた光る双眸が卓上から青年を見下ろしていた。


「えーあれ壊しちゃったのぉ?」

 少女は頬を膨らませる。

「結構お気に入りだったのに」

 膨れっ面を向ける先は隣の青年。

「仕方ねぇだろ。トイレ行くだけだったから電気付けてなかったんだよ。それにあんな簡単に壊れるあのおもちゃが悪いんだっつーの」

 青年は弁解に励もうとするが、

「それは言い訳」

 とのことらしい。

「第一、おもちゃじゃなくて宝物でしょ?秀くんちっちゃいころから大事そうにしてたじゃん」

「昔と今じゃ物の見方が違ぇ。“ころから”じゃなくて“は”だ。今更惜しくもねぇよ」

 青年は前を向いたまま言う。

「今失くして惜しいのはお前と金だ、ばーか」

 少女はため息を吐いた。

「そこにお金が無ければ感動できたのに。まぁいいや、それより今日も泊まりに行っていい?」

「んあ?あぁ、いいぜ。このまま来るか?」

 うーん、と少女は悩み、

「着替えだけ。寄ってくれるよね?」

 言いながら少女が指で指し示しているのは、おそらく少女の自宅のある方向だろう。

 仕方ねぇな、と少年は足先の向きを変え、示された方向へと歩き始めた。


「毎回思うんだけどよ、ここの臭いおかしくねぇ?」

 青年は道の左側、貯水槽を見ながら言う。

「なんかこう、ただ臭いんじゃなくて吐き気がしてくるっていうか」

 少女は前を向いたまま、

「臭いところなんて全部一緒だよ。共通してるのは近くにいたくないってことだけ。でも秀くんがあのアクアリウム拾ったのってここなんでしょ?」

「昔は大して臭くなかったんだよここ。だからたまに遊びに来てたんだけどよ。そういやここで落ちて死んじまったガキがいたらしいな。俺も危うくその仲間入りするところだったぜ」

「亡くなった人に対してそういうこと言わないの。それに随分昔の話だよ、それ」

 少女は青年を見るが、青年は未だに貯水槽に目を向けたままである。何がそんなに気になるのか。

 少女はむっとし、青年に荷物を押し付けると、

「後に家に着いた方が晩御飯とか買いに行くこと」

 そう言って走り出した。

「いや、待て、おい、ふざけんな」

 青年も慌てて走り出す。

 誰もいなくなった貯水槽付近。

 しかし知らぬ間に、

「………」

 そのまだ新しい柵の内側に男の子が一人立っていた。

 全身を水に濡らした男の子が。

 そこには誰もいない。


「あれ?何の音だろ」

 青年が近くのコンビニに行っている間、少女は部屋で一人だ。

 その部屋の中に音が響く。

「水漏れ?」

 少女は音の出所を確かめようと、腰掛けていたベッドから降りようとした。

 だが床に足を付けた瞬間。

「きゃっ……!」

 そこは床では無かった。

 少女の体が床だった場所に沈む。

「え?……え?」

 水に浮かぶ少女は状況が理解できない。

「う……」

 少女は今頃その臭いに気付く。

 貯水池の臭いだ。

 だが少女はその香りを嗅いでなお状況が理解できない。

「どういうこと?」

 必死で浮かぼうとする少女は周囲を確認する。

 家具類は沈んでいない。

「あ……」

 だが少女はテーブルの上に一つの異常を確認する。

 壊れたアクアリウム。

 突如そのアクアリウムに手が伸びた。

 誰?と思い少女が顔を上げると、

「だ、だがだ……ぼど」

 手の持ち主の口から出るのは水と声。

「ひっ……!」

 少女の顔が固まる。

「ごばじ…ごばじだ」

 少女の首に手が伸びる。

 部屋は狭く、少女にそれを避ける方法はない。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 次の瞬間、

「がっ……」

 鈍い音と共に少女の意識は消えた。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 青年はアパートの階段を上りながら声を聞く。

 手にはコンビニ袋をぶら下げている。

「………!」

 只ならぬ少女の叫び声に、青年は手に持つコンビニ袋を投げ捨て走り出した。

 部屋の扉を開ける。

 だがそこに少女の姿は無い。

「聡美!いるのか!」

 青年は靴のまま中に上がる。

 突然後ろから肩を叩かれた。

「聡美!」

 青年は勢いよく振り返る。

 だがそこにいたのは少女では無く、

「ぼぐど…だが、だがだぼど」

 口から水と声を発する男の子。

 だがその視線はこちらを見下げている。

「なっ……!」

 青年はいつの間にか沈んでいた。

 床であったはずの場所に沈む。その疑問に当惑する前に青年は視線をテーブルに送り、そしてひとつの異常を見つけた。

「なんで……」

 昨日片付けたはずの壊れたアクアリウム。

「ごば、ごばじた…」

 今、当惑する青年の首に手が伸びる。

「がっ……」

 結局どの疑問の答えも出せぬまま、鈍いうめき声と共に青年は意識を失った。


 誰もいない貯水槽付近。

 しかしそのフェンスの内側に男の子が立っている。

 片手に壊れたアクアリウム、もう片方の手に長さの違う2種類の髪の毛を握り、全身を水で濡らした男の子が。

「だがだ……ぼど」

 男の子は口から水と声を発すると、その身を貯水槽へと投じた。

 水しぶきは上がらない。

 水面にはアクアリウムが浮かんでいる。

 そして沈んだ。

 もちろんそこには誰もいない。

貯水槽も大きな水溜りです。男の子が現れた理由は二つの水溜りが空間を繋いだからでしょうか。

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