第17話 ギャル、王都に立つ
王都に着いたのは昼過ぎだった。
門をくぐった瞬間、体が先に感じた。
空気が重い。レオニスが言っていた通りだ。石の密度が高い。建物が詰まっていて、空が細くなっている。いつもの街より人の数が多いのに、声が遠い。石に吸われているみたいだ。匂いも違う。土や草の匂いがない。石と、人の密度の匂いだけがする。
アルノが先を歩いていた。宿まで案内するという。
「王都、初めてですか」とアルノが聞いた。歩きながらだ。
「そう」
「慣れるまで少し時間がかかるかもしれません。空気が違いますので」
レオニスも同じことを言っていた。居心地は良くなかった、と。体がここは知らない場所だ、と言っていた。知らない場所の感触だ。でも、怖い感触じゃない。ただ、重い。
「慣れる前に仕事が終わりそう」とアタシは言った。
アルノが少し間を置いた。「……そうかもしれません」
宿への道は石畳が続いた。
いつもの街の石畳より目が細かい。均一だ。整えられている。歩くたびに靴底に伝わる感触が、どこまでも同じだ。
路地に差し掛かったところで、2人の男が前に出てきた。
装備が良すぎる。冒険者じゃない。貴族の取り巻きだ。どちらも20代で、体格がいい。でも目が泳いでいる。
ギャルズアイを向けた。一瞬で読んだ。
緊張と、やらされている感触が混在している。自分の意志でここに立っているんじゃない。誰かに言われて来た人間の層だ。
「王都へようこそ」と1人が言った。愛想よく言ったが、声が少し上ずっていた。「少しお時間をいただけますか」
「アンタたち、上から言われて来ただけでしょ」
2人が固まった。
「用件、上の人間に直接言ってもらえる? そっちの方が早い」
2人が顔を見合わせた。そのまま、来た道を戻っていった。
アルノが「……ご存知でしたか」と言った。
「知らない。顔に出てた」
「あの2人は——」
「誰の取り巻きかは今は聞かなくていいです」とアタシは言った。「王都に着いたばかりだし」
アルノが少し間を置いた。「……賢明かと思います」
レオニスが横に来た。「どうやって分かった」
「目が泳いでた。自分で来た人間の目じゃない」
「……そうか」
アルノが「参りましょう」と言って歩き始めた。
宿は大通りから一本入った場所にあった。
建物が石造りで、天井が高い。窓から外を見ると、向かいの建物の壁が近い。空が細い帯になっている。王都の空だ。
部屋に荷物を置いた。
廊下でレオニスと別れる前に、アタシは「しんどかったら言って」と言った。
レオニスが少し止まった。何かを考えている間があった。
「……この場所の空気に慣れるまで、少し時間がかかるかもしれない」
珍しい言葉だった。いつもは「問題ない」か黙っているかだ。今日は違った。自分の状態を言葉にした。
「慣れなくていいよ、別に」とアタシは言った。「慣れなくても動けるでしょ」
レオニスが少し間を置いた。「……そうだな」
「明日、ガレードに会う前に街を見たい。一緒に来る?」
「問題ない」
「じゃあ明日」
レオニスが部屋に入った。廊下が静かになった。
アタシは窓の外を見た。向かいの建物の壁が近い。でも細い空がある。重い場所だけど、空はある。
それでいい、とアタシは思った。




