第15話 ギャル、上げる言葉を知る
街に戻った翌朝、ギルドに行った。
朝のギルドは昼と匂いが違う。昨日の依頼の残り香と、今日の依頼を探す人間の緊張が混ざっている。掲示板の前に人が集まっていて、その人間たちの体温が空気に少し混じっていた。
掲示板を一通り見た。今日受けたい依頼はなかった。
ふと、隅の方が目に入った。
3人が座っていた。新人らしい装備だ。20代前半。3人とも床を見ている。ギャルズアイを向けた。重い。3人とも同じ重さを持っている。昨日何かがあった後の重さだ。体に残っている種類の重さ。
アタシは3人に近づいた。
「何があったの」
3人が顔を上げた。知らない人間に声をかけられた顔だ。
「カイです」と一番手前の男が言った。素直な顔をしている。「昨日、依頼で失敗して」
「どんな失敗」
「護衛依頼で、荷物を一部破損させてしまって。依頼主に怒られました。報酬も減額で」
隣の女が何も言わなかった。ナオ、と後で知った。無口だが聞いている目をしている。体が少し前に傾いていた。聞く気がある時の座り方だ。
一番体の大きい男——ブロス——が「俺が足を滑らせたせいで」と言った。声が小さかった。体の大きさと声の小ささが合っていない。肩が落ちていた。
「滑った後、荷物押さえようとしたんでしょ。間に合わなかっただけで」とアタシは言った。
ブロスが止まった。
「やろうとしなかったのと、間に合わなかったのは別の話じゃん」
ブロスが何も言わなかった。でも肩の位置が少し変わった。
ナオが「……次、受けていいんですかね」と言った。声が静かだった。「報酬が減額になったから、しばらく依頼を受けにくくて」
「受けていいじゃん」とアタシは言った。「減額になったのは昨日の話で、今日の話じゃない」
ナオが少し間を置いた。「……そうですね」
その瞬間、体の中で何かが動いた。
押し出した感触じゃない。体の底から何かが上がってきて、3人の方に向かって出た。止める間もなかった。出てから気づいた。
3人の体が、同時に少し変わった。
ブロスの肩が上がった。カイが「あれ」と言った。「なんか体が軽い」。ナオが自分の手を見た。「……力が入る」。
「アタシが何かしたかもしれない」とアタシは言った。
「何をしたんですか」とカイが聞いた。
「分からない。でも、スキルが動いた感触がある」
「すごい」とカイが言った。ブロスが「なんかめちゃくちゃ元気です」と言った。さっきより声が大きかった。ナオが「……不思議な感触」と言った。静かな声だったが、顔が変わっていた。
「食堂、行こう」とアタシは言った。「飯食いながら話聞く」
カイが「いいんですか」と言った。「行きたかったら来て」とアタシは言った。
3人がついてきた。ギルドを出た時、3人の歩き方がさっきと全然違った。
食堂は昼前で空いていた。
5人で席を取った。レオニスが少し遅れて来た。窓から昼前の光が入っていて、テーブルの上に斜めに落ちていた。
カイが話した。昨日の護衛依頼の経緯を最初から話した。ナオがたまに補足した。ブロスが食べながら聞いた。食べ方が大きい。体に合った食べ方だ。レオニスは最初、静かに座っていた。
途中、カイが「レオニスさんは、失敗した時どうするんですか」と聞いた。
レオニスが少し考えた。「記録する」
「記録?」
「何が原因で失敗したか。次に同じ状況が来た時に同じ失敗をしないために」
カイが「かっこいい」と言った。レオニスが少し困った顔をした。慣れていない顔だ。アタシは少し笑った。
3人が帰った後、テーブルに2人分の食器が残った。外の音が戻ってきた感じがした。
「何をした」とレオニスが聞いた。
「何かが動いた。3人に向けて」
「体が軽くなった、と言っていた」
「見てたの」
「見ていた」とレオニスが言った。「ギルドを出た時点ですでに動きが違った。スキルか」
「テンアゲだと思う」とアタシは言った。「テンション上げる、のやつ。全ステータスアップ効果」
「落ち込んでいる人間に使ったら、元気になった」
「落ち込んでるのも、ステータスが下がってる状態なのかもしれない。だから上がった」
レオニスが少し考えた。「……意図して使ったか」
「意図してない。出てから気づいた」
「制御できるか」
「分からない。でも出たなら、次は選んで出せる気がする」
レオニスが「……そういう理屈か」と言った。呆れているが否定していない言い方だ。
「そういう理屈」
レオニスが少し黙った。窓の光が動いていた。昼になってきている。
「明日、掲示板に王都方面の護衛依頼が出るかもしれない。支部長から聞いた」
「王都?」
「ガレードからの要請らしい。詳細は明日分かる」
「面白そう」とアタシは言った。
「……お前にとっての面白そうは信用できない」
「なんで」
「面白そうと言った依頼で、普通に終わったことがない気がする」
「まだ2回しか受けてないじゃん」
「……すでに2回そうだった」
アタシは少し笑った。レオニスが「笑うな」と言った。でも怒っていなかった。
窓の外で、昼の光が石畳に落ちていた。




