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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第二部】 第一章 新しい名前と賑やかな開拓の始まり。

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第95話 極上の湯船と、ポリッシュ流「磨き」の採用試験。

 「――よぉし、そこだ。空間を少し歪めて、地熱を直接引き込む。温度は……四十二度。江戸っ子ならぬ、おっさん好みの少し熱めに設定だ」


 ジューゴの呟きと共に、新築中の宿の裏手で地面がボコりと窪んだ。


 そこにはザックがどこからか仕入れてきた巨大な岩石が組み上げられ、見る間に立派な露天風呂の枠組みが出来上がっていく。ジューゴが空間干渉(整備)のスキルを応用し、配管もなしに温泉を湧き出させたのだ。


 「うわぁ……! ジューゴさん、すごいです! お花の良い香りがします!」


 アムネが湯気に鼻をくすぐられ、嬉しそうに飛び跳ねる。ユグドラシルの魔力が溶け込んだ湯は、ただ温かいだけでなく、浸かるだけで疲労を癒やす極上の「ととのい湯」となっていた。


 「ふむ、構造は完璧です。ですが主様……いやジューゴ様。このままでは湯船に『魂』が宿っておりません」


 背後から現れたマスターポリッシュが、鋭い視線で岩肌を見つめた。


 「魂? 石に魂なんてあるのか?」

 「ございますとも! 岩の隙間に潜む微細な汚れ、湯垢、そして水滴が乾いた跡……。これらを徹底的に排除し、鏡のように磨き上げてこそ、お客様は真に心を預けられるのです」


 ポリッシュはそう言うと、傍らに控える三人の弟子に合図を送った。


 セリーヌ、マルタ、フィニの三人が、一糸乱れぬ動作で湯船の四方に散る。


 「セリーヌ、マルタ、フィニ! 今日は皆に、新しい仲間の選別を手伝ってもらう。……来なさい!」


 ポリッシュの呼び声に応じて、森の奥から一人の男が恐る恐る姿を現した。


 ギルドの噂を聞きつけてやってきた、元Cランク冒険者の大男だ。現在は食い詰め、この「新設される宿」の求人に応募してきたのだという。


 「お、俺が……風呂掃除の担当候補か?」

 「左様。我がポリッシュ直伝の採用試験を受けていただく。……セリーヌ!」


 ポリッシュの指示で、セリーヌがすっと大男の前に立った。彼女の手には、純白のシルクの布が握られている。


 「試験内容は単純です。あなたが磨き上げた後の岩肌を、私がこの布で拭います。もし、布に一点の曇りでも残れば……即、不採用です」

 「はぁ!? そんなの、外の露天風呂でできるわけ――」

 「黙って磨け。……開始!」


 ポリッシュの号令で、男は必死にブラシを動かし始めた。だが、セリーヌたちの目は厳しい。マルタが「そこ、角度が甘いっす!」と指摘し、フィニが「水気が残ってると跡になります……」と小声でプレッシャーをかける。


 「……なぁ、テオ。あいつ、大丈夫だと思うか?」


 ジューゴが隣のテオに耳打ちすると、テオは眼鏡を指で押し上げ、冷静に分析した。


 「厳しいでしょうね。セリーヌさんの視線は、魔法の解析陣よりも緻密です。……おや、やはり」


 セリーヌが男の磨いた岩をそっと布で撫でる。


 そこには、肉眼では見えないほどの微かな煤がついていた。


 「不採用です。お引き取りを」

 「そんな殺生な! 頼む、ここで働かせてくれ! 何でもするから!」


 男の悲鳴が森に響くが、ポリッシュは冷徹に首を振った。


 おもてなしの森において、妥協は最大の悪。その光景を眺めながら、ジューゴは内心で冷や汗を流していた。


 (……これ、俺もいつかポリッシュに『磨き直し』を命じられるんじゃないか?)


 賑やかな……いや、少々厳しすぎるほどの採用試験。


 しかし、その徹底したこだわりこそが、この「おもてなしの宿」を支える大黒柱になることを、ジューゴは確信していた。


 「ごほぉぉー!」


 キュイが熱心な試験の様子に興奮したのか、空中に向かって小さな火を吹く。

 宿の完成まであと少し。おっさん勇者の新しい拠点は、職人たちの情熱によって、想像以上の高みへと「磨き上げられ」ようとしていた。


 ご拝読ありがとうございます。妥協を許さない採用試験。めちゃくちゃ大事ですね。ただ合格者が出るのか、少し不安です(汗)

 さて次回は、第96話『結実する理想、新たなる「宿」の全貌』をお送りいたします。お楽しみに!!


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