表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第二部】 第一章 新しい名前と賑やかな開拓の始まり。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/133

第92話 新しい名前で再出発

 更地になった拠点に、焚き火の爆ぜる音だけが響く。


 俺と眷属たちは、丸太を椅子代わりにして円を描くように座っていた。話題は、これからの生活において最も重要でありながら、今まで後回しにされてきた俺の名前についてだ。


 「主様、やはりこれからの人間としての生活には、相応の御名が必要かと存じます。そこで、私が古文書を紐解き、不眠不休で紡ぎ出した究極の案がございます。……お聞きください。エターナル・ヴォイド・ディザスター・アルティメット・ノヴァ。いかがでしょうか」


 テオ(26歳)が、眼鏡をキランと光らせながら自信満々に言い放った。あまりにも禍々しく、そして無駄に長い響きが荒野の風に乗って虚しく消えていく。


 「……おいテオ、それは名前じゃなくて攻撃呪文か何かか? 名乗るたびに敵が絶命しそうだし、そもそも長すぎて自分でも覚えられん。却下だ」

 「ええっ!? 破壊と再生を司る完璧なネーミングだと思ったのですが……」


 絶望に打ちひしがれるテオを横目に、リナ(20歳)が不敵に笑って腕を組んだ。彼女と出会った時はまだ16歳の少女だったが、今では大人の女性のしなやかさを備えている。


 「もっとこう、強そうなのがいいわよ。アレスとか。魔王を一撃でぶっ飛ばした勇者なんだからさ、それくらい派手でいいじゃない」

 「いや、このくたびれた顔でアレスは無理があるだろう。看板負けもいいところだ」


 俺がため息をつくと、次はザック(32歳)が太い腕を組んで提案してきた。


 「それなら、大吟醸なんてのはどうです? 熟成された、深みのある男って感じで」

 「それ、ただの酒の名前だろうが。俺を酔っ払いの隠居にするつもりか」


 次々と出される極端な名前に俺が閉口していると、アムネが「ハルはどうですか?」と可愛らしい案を出してくれた。暖かい太陽のイメージらしいが、39歳のおっさんがハルと名乗るのは、精神的なハードルが高い。イグニスの出したギガフレアに至っては、もはや技名だ。


 そんな賑やかなやり取りの最中、リナが不意に足元を見つめてニヤリと笑った。


 「ちょっと、主様。キュイにも聞いてあげなさいよ。さっきから混ぜてほしそうに火を吹いてるわよ」


 リナのツッコミに、俺はハッとして視線を下げた。そこには、案を出し合う俺たちを羨ましそうに見つめ、自分だけが会話の輪に入れていないことに、目に見えてしょんぼりしているキュイがいた。


 「……ああ、悪いなキュイ。お前なら、どんな名前がいいと思う?」


 俺が問いかけると、イグニスとアムネが「ほら、言ってみるのです」「頑張って」と、俺を見上げて拗ねているキュイを優しくなだめた。キュイは少しだけ照れたように身悶えした後、意を決したように大きく胸を張り、小さな口からポッと可愛らしい火の粉を吐き出しながら鳴いた。


 「じゅー……ごぉぉー! じゅごぉぉぉ!」


 一生懸命なその鳴き声に、その場の空気がふわりと和んだ。


 俺はキュイの鳴き声を頭の中で反芻し、ふと、ある一つの言葉を思い浮かべた。


 「……じゅーご、か。よし、決めたぞ。俺の名前は、今日からジューゴにする」


 俺がそう宣言すると、場は一瞬の静寂に包まれた。


 「ジューゴ、ですか? かなり独特な響きですが……」


 テオが不思議そうに首を傾げ、ザックが大きな手で顎を撫でながら問いかけてきた。


 「主様、それは一体どんな意味があるんで? キュイの鳴き声から取った、というだけじゃねぇんでしょう?」


 俺は焚き火の向こう側に見える、かつて迷宮があった広大な大地を見つめた。


 前世でエリート社員としてがむしゃらに働き、24歳で過労死した俺。そして、この世界に転生してからの月日。


 「俺がこの世界に来て、ダンジョンコアとして迷宮を運営してきた年月だ。……俺にとっては、何物にも代えがたい大切な15年間だったからな。お前たちと過ごした時間も、全部含めた俺の歴史だ」


 俺の言葉に、眷属たちが息を呑むのが分かった。


 モニター越しに、あるいは壁越しに彼らと過ごしてきた日々。管理という孤独な作業の中でも、俺が確かにこの世界で15年間生きてきた証。その重みを名前に刻みたい。それは、管理者としての過去を捨てるのではなく、その経験を糧にして新しい一歩を踏み出すという俺なりの決意だった。


 「……ジューゴ。……いいわね、主様らしい地味さだけど、すごく温かいわ」


 リナが優しく微笑み、キュイは「じゅーごぉぉー!」と誇らしげに再び小さな火を吹いた。テオは感動したように眼鏡を拭き直し、深々と頭を下げた。


 「承知いたしました、ジューゴ様。今日からはその御名を、私たちの心に刻ませていただきます」

 「ああ、よろしくな、テオ。……ただ、様はやめてくれ。これからは一人の人間、ジューゴとしてやっていくんだ。ジューゴさんとか、ただのジューゴで構わない」

 「それは……善処いたします」


 テオの苦笑いに、全員がどっと沸いた。

 39歳、おっさん勇者ジューゴ。

 新しい名前を手に入れた俺の胸には、かつてのシステムログよりもずっと確かな、未来への熱い想いが宿っていた。


 「よし、名前も決まったことだし、本格的に作業に入るぞ。まずは、アムネとイグニス。ユグドラシルからもらったあの種子、そろそろ出番だと思わないか?」


 俺が呼びかけると、二人は顔を見合わせて力強く頷いた。

 新しい名前で、新しい森を作り、新しい宿を建てる。更地からの再建は、今、最高に賑やかな仲間たちと共に、希望に満ちた第二のスタートを切ったのである。


 ご拝読ありがとうございます。15年、ダンジョンコアとして運営をしてきた時間を名前にする。『ジューゴ』案外呼びやすい名前かもしれない。

 さて次回は、第93話『ユグドラシルの種子、急速に芽吹くおもてなしの森』をお送りいたします。お楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ