表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第八章 終焉の胎動と侵食される聖域

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/135

第90話 決戦の果て、失われた日常の欠片。

 第一部ここに完結!魔王との最終決戦をお見逃しなく!

 「ありえん……! 万能の権能を捨てた貴様が、なぜこれほどの……ッ!」


 魔王の叫びと共に、どす黒い波動が荒野を奔った。それは世界そのものを腐食させる、終焉の理を形にした一撃。だが、俺はそれを回避しなかった。ただ、一歩。重力に身を任せるような、おっさん特有の脱力した動作で、その懐へと踏み込む。


 かつて俺は、迷宮内の不確定要素を排除するために、全演算リソースを投じていた。今はそのすべてが、眼前の「敵」という一点に集約されている。魔王が次にどの筋肉を動かし、どのタイミングで魔力を爆発させるか。その数理的予測は、もはや予知の域に達していた。


 「管理不足だ、魔王。お前の力は確かに強大だが、その出力はあまりにも雑で、無駄が多すぎる」


 俺が振るった光の刃は、魔王の漆黒の鎧を、まるでお湯でバターを溶かすように易々と切り裂いた。


 「ぐ……あああああっ!」


 魔王の胸元から、これまで奪ってきた膨大な魔力が霧となって溢れ出す。俺は追撃の手を緩めない。ザックが硬い甲殻を持つ魔獣を捌く時に見せてくれた、最小の力で最大の結果を出す、あの流麗な刃筋をなぞる。一撃ごとに魔王の理不尽な防御壁が剥がれ落ち、彼の傲慢な瞳に、死という名の等身大な恐怖が宿り始めた。


 「終わりだ。……これは、俺が守りたかった、なんてことのない毎日のための清算だ」


 俺は剣を、魔王の核へと突き立てた。


 眩い黄金の光が魔王の体を内側から焼き、彼が構築した絶望のシステムが、ドミノが倒れるように瓦解していく。断末魔さえ上げる暇もなく、この世に災厄をもたらした存在は、一握の灰となって風に散った。


 ……静寂が訪れた。


 空を覆っていた赤黒い雲が晴れ、雲の間から柔らかな陽光が更地となった大地を照らし出す。


 俺は、熱を失い崩れ落ちた鉄の剣を放り投げた。


 全身を襲う、形容しがたい激痛と倦怠感。一人の人間に、ダンジョンコア並みの演算を強いた代償だ。膝をつき、荒い呼吸を繰り返す俺の視界に、こちらに向かって走ってくる数人の影が映る。


 「主様! 主様、無事なのですか!?」


 テオの声だ。その横には、瞳を潤ませたリナと、泣き腫らした顔のアムネ、そして腕を組んで鼻を啜るザックがいる。彼らの背後には、イグニスとキュイも寄り添っている。


 俺は立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。そして、ふと気づく。


 今の俺は、彼らが慕っていた、あのクリスタルのコアではない。目つきが悪く、くたびれた、冴えない中年のおっさんだ。


 「……よぉ」


 掠れた声で挨拶をすると、彼らは俺の数歩手前で足を止めた。


 そりゃそうだろうな。いきなり現れた知らないおっさんが、主様だなんて言われても困るはずだ。俺は少し自虐的な笑みを浮かべ、彼らに顔を向けた。


 「悪かったな、みんな。……かっこいい姿じゃなくて、こんな不健康そうなおっさんで」


 俺がそう口にした瞬間。


 リナが、躊躇いもなく俺の胸に飛び込んできた。


 「……バカっ! 遅いのよ! ……姿なんて、最初から見てなかったわよ、私たちは!」


 彼女の泣き声が、俺の汚れたシャツに吸い込まれていく。続いて、テオが静かに跪き、ザックが俺の肩を強く叩き、アムネが俺の手を握りしめた。


 「姿が変わろうと、主様の魂の色は変わりません。……おかえりなさいませ、私たちの主よ」


 テオの言葉に、俺の胸の奥が熱くなる。


 迷宮は消えた。俺が作り上げた、あの「平和な日常」を支えていたシステムは、もうどこにもない。俺もまた、二度とあの安全なコアルームに戻ることはできない。


 だが、目の前で俺を囲み、涙を流している彼らの温もりは本物だ。


 更地となったこの場所には、まだ何もない。


 けれど、ここからまた始めればいい。


 俺という名の一人の「冒険者」と、そして俺の誇りである、この愛すべき眷属たちと一緒に。


 俺は、差し込む陽光に目を細め、彼らの温かな手に支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。


 失われた日常の欠片は、今、新しい物語の種として、この大地に蒔かれたのである。


 ご拝読ありがとうございます。当初の予定では、90話をもって物語の終わりとするところでした。勇者になったことから始まる展開を、これまでの経験を元に、話を膨らませるのもアリなのではないかという考えに至り、続行することにしました。

 そして次回からは第二部としまして、第91話『更地からの再建、新しいおもてなしの形』をお送りいたします。新たなダンジョン生活をお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ