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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第一章 Fランクダンジョンの安寧

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第9話 リタイア騎士の健康維持と、ダンジョン特製フード。

 魔族の査察から数週間が経過した。


 ゼノンが頭を抱えて逃げ帰った一件は、魔王軍内部で「あの低級ダンジョンには、理性を破壊する強力な精神攻撃の罠がある」という誤った情報となって拡散され、結果的に誰も近づかなくなった。おかげで俺のダンジョンは、これまで以上に平和な日常を謳歌している。


 俺は今日も、意図的に溜まった経験値の一部を「新商品開発」に回した。昇格ラインの回避と、顧客満足度の向上を両立させる、平和的な投資である。


 今日のダンジョンには、いつも決まった曜日に訪れる常連客がいた。


 元王国騎士団所属のベテラン、バルカス爺さんだ。彼は既に現役を引退しているが、健康維持のため、週に二度はこのダンジョンにやってくる。そして、彼の目的は討伐ではなく、「適度な運動」だ。


 バルカス爺さんは、孫娘を連れてやってきた。孫娘の目的は、ダンジョン奥の泉で提供されている『星屑の癒やしジェラート』を食べる、ただそれだけだ。


 「お爺ちゃん。今日はどこまで行くの?」孫娘が尋ねる。


 「ふむ、今日は第三セクションまで行ってみよう。あの『弱体化スライム』を相手に、剣の素振りをするにはちょうどいい」


 バルカス爺さんが相対するスライムは、俺が特別に調整したものだ。通常の低級スライムは倒されると消滅するが、この『弱体化スライム』は、剣を受けても分裂するだけで、討伐報酬は一切出ない。討伐数を気にせず、ただ運動の相手をするための、「ダンジョン製サンドバッグ」である。


 俺は、バルカス爺さんの心拍数や疲労度をモニターしながら、運動量が最大になるよう、スライムの動きをわずかに調整してやる。


 「キーン!」


 爺さんの剣が、スライムを斬る。分裂したスライムは、すぐに元に戻り、またゆっくりと爺さんに向かってくる。孫娘は、爺さんの訓練を眺めながら、ベンチで持参した絵本を読んでいる。二人の間に、殺伐とした空気は一切ない。


 運動を終えたバルカス爺さんは、孫娘と共に「生命の泉」の休憩エリアへと向かう。


 「ふう、ちょうどいい疲労感だ。ララ、ジェラートを頼むぞ」


 「はーーい」


 孫娘がジェラートを注文するのを聞き、俺は、爺さん専用の新商品を生成した。


 新たな合成: 『弱体化スライム(増殖性)+ 地上野菜の種(低級ドロップ品)+ 治癒魔力(微量)』

 結果:『低カロリー・高栄養スライムスープ』


 見た目はただの野菜スープだが、具材にスライムの増殖成分を安定させたものが入っているため、胃腸に優しく、リタイア後の冒険者には不足しがちな「活力」だけを効率よく補給できる。もちろん、報酬はゼロ。純粋なサービス品だ。


 泉のほとりの石台に、温かいスープが置かれる。


 「おや、これは新しいな」爺さんは目を丸くする。

 「爺さんの健康維持にぴったりだよ。いつも感謝してるからって、きっとダンジョンコアからのサービスだよ」孫娘がそう言って、バルカス爺さんにスープを勧める。


 バルカス爺さんは一口飲むと、その優しい滋味に目を見開き、「うむ!これは美味い!老いた体に染みわたるようだ!」と、満足そうに完食した。


 バルカスの滞在時間が延び、泉の魔力調整によって、彼の疲労回復が深まるほど、俺のコアには安定したEXPが流入してくる。バルカスの健康維持と、俺の育成生活。双方にとってWin-Winの関係がそこにはあった。


 ダンジョンコアは、今日も、戦闘の場ではなく、地域住民の「フィットネスクラブ」と「甘味処食堂」として機能している。


 この平和で穏やかな日常こそが、俺の求めている低級ダンジョンライフそのものだ。

 ご拝読ありがとうございます。経験値が対価になる甘味処食堂まで始めちゃいましたね。それとフィットネスクラブ的な存在にもなったので、地熱を調べて、あれが出ないか試したいところ…。いよいよ、ダンジョンらしくなくなってきましたが、とは言っても、ここはダンジョンなので踏破したいものが来ますよね。ええ、きっと来ますとも!それでは、次回もこうご期待!!

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