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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第八章 終焉の胎動と侵食される聖域

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第87話 女神からの祝福を思い出す

 自爆の閃光に飲み込まれたはずの俺の意識は、熱くも痛くもない、柔らかな光の海に漂っていた。


 そこは、無機質なコアルームでも、魔王に蹂躙され崩壊する迷宮の最深部でもない。どこまでも白く、静謐で、時間の概念さえ存在しないような不思議な場所。


 (ここは……。そうか、俺は死んだのか……)


 そう思った瞬間、目の前の光が収束し、一人の女性の姿を形作った。


 透き通るような長い髪と、すべてを包み込むような深い慈愛を湛えた瞳。かつて俺をこの世界へと送り出した、あの転生の女神だった。


 「またお会いしましたね。……いえ、あなたの魂の奥底でお会いするのは、これが初めてではありませんが」


 女神は、以前と変わらぬ穏やかな微笑みを俺に向けていた。その姿を見た瞬間、俺の意識の中に、転生の直前に行われた「あの時のやり取り」が、鮮烈な色彩を持って蘇ってきた。


 「これからあなたが行く世界は、過酷ですが美しい場所です。私はあなたに、二つのギフトを授けましょう」


 真っ白な空間で、女神は二つの光り輝く宝珠を俺に提示した。


 一つは、青く静かに澄み渡った知性の光。運営のギフト。


 もう一つは、赤く激しく燃え上がるような情熱の光。冒険のギフト。


 「どちらか一つを選んでください。それが、あなたの新しい人生の形となります」


 前世の俺は、疲れ果てていた。満員電車に揺られ、数字と納期に追われ、人間関係の軋轢に磨り減る毎日。だからこそ、俺は迷わず、静かな光を放つ運営のギフトを指差したのだ。


 「……俺は、穏やかに過ごしたい。誰にも邪魔されず、自分のペースで、静かな日常を管理して生きていきたいんだ」


 その選択の結果が、迷宮を統べるダンジョンコアとしての人生だった。


 俺は女神から授かった運営の力を使い、効率的なシステムを築き、平和なFランクダンジョンの日常を謳歌してきた。……だが、それは俺が勝手に「これが幸せだ」と思い込んでいた、限定的な平穏に過ぎなかったのだ。


 女神は、悲しげな、それでいてどこか見守るような眼差しで俺を見つめる。


 「あなたは運営を選び、管理者として立派に務めを果たしました。ですが……それゆえに、あなたはご自身をシステムの一部として閉じ込めてしまった。……いいえ、閉じ込めていたのは、もう一つのあなたの可能性です」


 女神がそっと手をかざすと、俺の魂の奥底で、一度も使われることのなかった赤い光が激しく脈動し始めた。


 冒険のギフト。


 それは、管理される側でも管理する側でもなく、自らの足で大地を踏みしめ、未知なる理不尽へと立ち向かう者の証。


 「忘れないでください。私が最後に贈った言葉を」


 記憶の中の女神が、転生する俺の背中に優しく声をかける。


 ――この世界を楽しんでください。


 それは、モニター越しに数字や光景を眺めることではない。一人の人間として、泣き、笑い、傷つきながらも、大切なもののためにこの手で道を切り拓くこと。……それこそが、女神が俺に託した、真の意味での「人生」だったのだ。


 「……女神様。俺は、間違っていた」


 俺は、光の中で己の過ちを認めた。


 平和を願うあまり、俺は戦うことを放棄していた。管理という檻の中に逃げ込み、最強の力を持ちながら、部下たちに守られるだけの石に成り下がっていた。効率を求め、情に流されない運営を目指した結果、俺は大切な仲間たちが流す血の一滴すら、この手で拭ってやることができなかった。


 「俺はもう、モニター越しに絶望を眺めるだけの観測者じゃない。……俺は、あいつらを助けたい。俺を信じてくれたリナを、テオを、ザックを、そしてアムネを……もう一度笑顔にしたいんだ。魔王をこの手でぶん殴って、あの当たり前だった日々を、俺の力で奪い返したいんだ!」


 俺が叫ぶと同時に、周囲の白い世界に激しい亀裂が入り、そこから黄金の光が溢れ出した。


 女神は、満足げに深く頷いた。


 「よろしい。……ギフトの封印を解きます。あなたが転生前に、本当は指定されていたはずの真の職業。……目覚めなさい、勇者よ」


 俺の魂が、かつてないほどの熱量で燃え上がる。


 運営の権限が剥がれ落ち、代わりに破壊と創造を司る、圧倒的な冒険の力が全身を駆け巡る。これまで俺を縛り付けていたシステム上の制約、地脈との接続、それらすべてが一度解体され、新たな形へと再構築されていく。


 俺は、今度こそ自分の意志で、その光の渦へと飛び込んだ。


 死を待つ自爆の爆鳴は、今や、新たなる英雄の誕生を祝う産声へと変わり果てていた。俺の意識は、砕け散ったクリスタルを超え、真実の姿へと加速していく。失われた「日常」を取り戻すための、最初で最後の冒険が、今まさに幕を開けようとしていたのである。



 ご拝読ありがとうございます。二つのギフトを選択させたのは慈悲だったのかな。冒険のギフトは勇者……、安易かもしれませんが、魔王と渡り合うにはもってこいのギフトではありますね。そして、いよいよ反撃開始です!

 さて次回は、第88話【『冒険』を選択し直したコア、勇者として立つ】をお送りいたします。お楽しみに!!

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